呪術廻戦ー呪いを斬るー   作:先導

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東京第1結界①

巽(たつみ)との合流を果たした悠仁たちは彼の応急処置を済ませ、ある程度回復したところを見計らってコロニー突入に向けて歩を進めていた。そんな中で唯一コガネが憑いている悠仁は天使と来栖蘭(らん)の名前を探している。しかし、来栖蘭(らん)の名前は見つかったが、天使の名はどこを探しても見つからなかった。

 

「う~ん・・・来栖蘭(らん)の名前はあんだけど、天使いねぇなぁ~」

 

「本名じゃないんだろ。お前の宿儺みたいな」

 

「むむむ・・・」

 

来栖蘭(らん)はともかく、天使は過去の術師だ。天使が宿儺と似たパターンであるならば、表示されているのは受肉体の名前である可能性が高い。正直名前と停滞コロニーを見ることができるルールは助かったが、姿までは参照はできないため、本人たちを探すのはやはりコロニーに入ってからでないとダメらしい。

 

「天元様は2人とも東京の東側、第2コロニーにいるって言ってたよな?」

 

「姿(なり)はわかってんの?」

 

「天元様曰く、2人は似てるから見ればわかるって」

 

「大丈夫なん、それ?」

 

天元から与えられた情報はかなりあやふやで質問したレオーネはその答えに先行きが不安になってくる。

 

「まぁいい。俺とパンダとレオーネが第2、伏黒きゅんと虎杖と和倉が第1、綺羅羅は外で待機、でいいな」

 

「えぇ~?」

 

秤が割り振った役割分担に綺羅羅は不満気な反応を見せる。

 

「根拠は?」

 

「得点だけ見れば1番強い鹿紫雲と俺がやんのが順当だろ」

 

「私仲間外れ~?」

 

「パンダとレオーネは鼻が利くから天使、来栖蘭(らん)探しに注力しろ。乙骨やアカ先から連絡ねぇってことは、結界の中じゃ携帯は使えねぇ。外の状況を把握できる奴がいた方がいい」

 

「はぁ~い・・・」

 

秤が決めた役割分担はしっかりと考えられたものだった。さすがファイトクラブの胴元というべきか、こういうことは得意分野かもしれない。

 

「待って。俺と伏黒は別の方がいいかも。宿儺がま・・・」

 

「うるせぇ」

 

「うるせぇ⁉」

 

悠仁がこの役割分担に異を唱えようとしたが、恵の一声で止められる。

 

「先輩たち4人の役割は動かせない。わがまま言うな」

 

「わがまま⁉こっちは心配して言ってんだろ⁉」

 

「お前それ毎回言うつもりか?めんどくせぇ。時間の無駄だ」

 

「あ"あ"ん⁉」

 

「だー!お前ら喧嘩すんなよ!」

 

お互いの主張の食い違いにメンチを切り合う悠仁と恵は睨みあう。そんな険悪な空気を巽(たつみ)が割って入って止めるのであった。

 

●

 

その後、東京第1コロニーを担当することになった悠仁、巽(たつみ)、恵の3人は秤、パンダ、レオーネ、綺羅羅と別れて東京第1コロニーを目指して歩を進める。

 

「警戒すべきは過去の術師だ」

 

「俺もそう思った。説明してくれだぜ、伏黒君」

 

「お前わかってないのに何でカッコつけてんの?」

 

何故かカッコつけて説明を求める悠仁に巽(たつみ)はツッコミを入れ、恵は呆れている。

 

「・・・1000年前の連中もいる。100年や200年でも命の価値がまるで違う。しかも術師だぞ。戦って死ぬのは当たり前。戦って死にたい。なんならそのために羂索と契約したのかもな」

 

羂索と契約した1000年前の術師たちは皆、呪術全盛期や戦国時代などの戦に溢れた時代の人間だ。その時代の人間の命の価値観は現代と比べてもまるで違う。もしも戦いのためだけに死滅回游に参加しているのならば、まともな交渉はまずできないだろう。

 

「鹿紫雲と日車は過去の術師の可能性が高い。まともな交渉は期待するな」

 

「後好戦的なのは呪霊だな」

 

「特に夜はな。津美紀と同じ巻き込まれた現代の術師ならむしろ積極的に情報交換できると思う」

 

3人が話している間にも目的である東京第1コロニーの帳の前まで辿り着いた。中に入る前に恵はコンコンと帳を叩く。

 

ポンッ!

 

すると軽快な音と共にコガネが現れる。

 

「よお!俺はコガネ!この結界の中では死滅回游って殺し合いのゲームが開催中だ!一度足を踏み入れたらお前も泳者(プレイヤー)!それでもオマエは結界(なか)に入るのかい⁉」

 

「おう!」

 

「ああ。問題ない」

 

巽(たつみ)と恵はコガネに向けて死滅回游の参加を宣誓した。

 

「伏黒恵が死滅回游へと参加しました。ルールを参照しますか?」

 

「いい。必要ない」

 

「ちぇっ」

 

恵が死滅回游の泳者(プレイヤー)と認定され、ルールを参照するか尋ねるコガネに彼はいらないと一蹴する。これにはコガネはつまらなさそうにあからさまな舌打ちをする。

 

「・・・あ、あれ?俺へのアナウンスは?」

 

と、ここで巽(たつみ)は自身へのアナウンスがないことに気付き、どういうことかと思いコガネに尋ねる。

 

「・・・エラーが発生しました。もう1度宣誓を行ってください」

 

「はあ⁉」

 

コガネから返ってきた返答は死滅回游からのエラー通知だった。

 

「もう1度だって」

 

「わかってるって!くそ!死滅回游に参加する!」

 

「・・・エラーが発生しました。もう1度宣誓を行ってください」

 

「なんでだよ⁉」

 

巽(たつみ)がもう1回宣誓を行っても返ってきたのはエラー通知。何故巽(たつみ)が泳者(プレイヤー)として認定されないのか。意味が分からず本人は頭を抱える。

 

「・・・もしかしたら、泳者(プレイヤー)と認定されるのは少しでも呪力を持った奴だけなのかもな。呪力がない奴はコガネに認知すらされないのかもしれない」

 

「あ、なるほど」

 

と、ここで恵は呪力を持たない者は泳者(プレイヤー)として登録できないのではと推測する。その推測に悠仁はポンと手を叩いて納得する。確かに巽(たつみ)はフィジカルギフテッドによって呪力が0。だからいくらコガネに宣誓を行ってもエラーが出てしまうのだ。

 

「てことは何か⁉俺は泳者(プレイヤー)として認められないってことなのかよ⁉ショックなんだけど・・・」

 

「いや、考えようによっては和倉の性質はむしろ利点になる」

 

自分だけハブられる事態に巽(たつみ)は地味にショックを受けていたが、恵は逆に便利であると考えている。

 

「コガネが和倉を認知できないということは、結界術にも認識されないはず。それはつまり、和倉はコロニーを自由に出入りできることを意味する」

 

「!そうか!一度中に入ったらルール追加するまでコロニーから出られないかもしれない。その中で俺だけがコロニーから出て、伊地知さんや綺羅羅先輩に連絡が取れるかもしれない!」

 

「なる・・・ほど・・・?」

 

結界術は基本的に呪力を含まない無生物には閉じ込める対象として認識されない。それは呪力0のフィジカルギフテッドにも適用される。結界術に認識されない以上、その者は泳者(プレイヤー)として認定されない代わりに自由に結界を出入りすることが可能だ。その点に気付いた巽(たつみ)は自分のフィジカルギフテッドが意外な点で役に立つことで希望を見出した。隣にいる悠仁は理解していないのか首を俯かせている。

 

「ルール追加後のポイントの譲渡は俺か虎杖を使え。仮に人を殺してもお前じゃポイント得られないからな」

 

「おう、わかったぜ」

 

「いいか、中に入ったらまずは日車の情報収集だ。いくぞ」

 

「応!」

 

中に入ってまずやるべきことを話し合った3人はいよいよ東京第1コロニーに突入する。3人がコロニーの中に足を踏み入れると・・・何の前触れもなく巽(たつみ)の隣にいた悠仁と恵の姿が消えた。

 

「⁉悠仁⁉伏黒⁉どこに行った⁉」

 

自分の目の前で突然仲間が消えた現象に巽(たつみ)は戸惑いを隠せず、消えてしまった2人を探し出すためにコロニーの奥へと向かっていった。

 

●

 

巽(たつみ)の前から消えた悠仁たちがどこに行ってしまったのか。その答えは、東京第1コロニーの上空だった。

 

「げぇ⁉」

 

コロニーに足を踏み入れた瞬間に上空に放り出され、重力の勢いに乗って落下していく悠仁は状況把握する暇も与えられずに驚愕する。そして自分の隣にいたはずの巽(たつみ)と恵がいないことに気付く。

 

(巽(たつみ)と伏黒がいねぇ!)

 

死滅回游の結界は侵入した泳者(プレイヤー)を設定された9つの地点にランダムで転送する。死滅回游のルールにはない結界のルール。9つの地点には奴らがいる。

 

ルールにない現象に動揺した泳者(プレイヤー)を狙う、初心者(ビギナー)狩り。

 

●

 

9つの転送地点の1つの真下にあるビルの屋上。そこにはスカジャンを着込んだ金髪の少年がいた。その少年は空を見上げ、コロニーに侵入してきた者が現れないか見張っている。すると、彼の持っていたトランシーバーから女性の声が聞こえてきた。

 

『ちょっと甘井~?ず~っと合図待ってんだけど?』

 

「ああ、いや・・・そう言われましても・・・誰か来ないことには、俺にはどうしようも・・・」

 

『はあ?何あんた?口答えすんの?』

 

「ち、違・・・!あの・・・すんません!勘弁してください!」

 

意見を述べた少年・・・甘井凛はトランシーバーから聞こえてきた女性の不機嫌な声に委縮し、慌てて謝罪する。

 

『あんま舐めてって・・・轢き殺すわよ』

 

甘井の役割・・・それとはマーシャラー。簡単に言えば、コロニーに侵入してきて落ちてきた泳者(プレイヤー)を誘導する、言うなれば生贄を捧げる嫌な仕事だ。うまく役割をこなしていれば命の保証は約束される。だが役に立たないと判断されれば、殺されるかもしれない。強くない自分がこの殺し合いの場で生き残るためには、実力のある者の上に隠れて、こき使われることを従事しなくてはならない。だからこそ甘井は必死なのだ。必死だからこそ、早く新しい泳者(プレイヤー)が現れることを切に願っている。

 

甘井が焦燥に駆られていると、待ち望んでいた新たな泳者(プレイヤー)が落下していく姿を目撃した。

 

(来たっ!)

 

甘井は持っていた誘導棒のスイッチを入れて光を照らし、今自分が従っている泳者(プレイヤー)に向けて誘導合図を行う。甘井の合図に合わせ、彼を従えている初心者(ビギナー)狩りの泳者(プレイヤー)が落下する泳者(プレイヤー)に向かって猛突進するのであった。

 

●

 

落下する悠仁は慌てることなく冷静にどこに着地するのかの最適解を考えていると、突如としてジェットエンジンの爆音が聞こえてきた。

 

 

ドゴォ!!

 

 

悠仁がそれに気づく頃には背中まで伸ばしている髪の毛を戦闘機の主翼に変えた女泳者(プレイヤー)と衝突した。音速に近いスピードの突撃だったため、凄まじい衝撃音が鳴り、悠仁は東京の空中で吹っ飛ばされ、次々とビルに衝突する。普通の人間ならこれをくらっただけでもひとたまりもないだろうが、これくらいの攻撃ならば、修羅場を潜ってきた悠仁にとって、どうということはない。

 

(こいつ・・・固いな・・・!大抵の奴はこれでミンチになるのに、ピンピンしてる!只者じゃないな!)

 

初心者(ビギナー)狩りの泳者(プレイヤー)、羽生はぶっ飛ばした相手の身体が残っていることに驚きを隠せないでいる。一方の悠仁は近くの建築途中の高層ビルの工事現場に滑り込むように着地する。その様子を見た羽生はこのままでは分が悪いと判断し、トランシーバーを取り出し、相方と通信する。

 

「ダーリン、合流しましょ・・・」

 

ブンッ!ドガッ!!

 

「ぐっ⁉」

 

その隙を見逃さなかった悠仁は現場にあった鉄パイプをブーメランのように投げ飛ばす。隙だらけであった羽生は回転する鉄パイプに腹部から直撃し、気を失って落ちていき、ビルに張ってあった青い膜に包まれ、滑り落ちていった。

 

「?簡単に落ちたな・・・」

 

鉄パイプくらいなら術師は呪力で身体を強化することで耐えられるはずなのだが、羽生は一撃を受けただけで気を失って墜落した。そのことに悠仁は疑問符を浮かべる。

 

「日車のこと聞かねぇと・・・。そしたら2人を探さないと・・・」

 

せっかく会えた人間なのだから日車の情報を聞きださないと思い、悠仁が下に降りようとすると、上空に頭がプロペラになっている髭の男がいた。

 

「っんじゃああ、ワレェ!!!人の女に何しとんのじゃあ!!!」

 

どうやら先ほどの羽生はこのプロペラ男、羽場の彼女だったようで、その彼女を墜落させた悠仁に対し、羽場は手に持ったトランシーバーを握りつぶして激昂している。

 

「・・・こっちに聞けばいいか」

 

対して悠仁は怯んだ様子もなく、標的を羽場に変更する。

 

●

 

戦いに巻き込まれないようにビルの屋上で待機していた甘井は戦いの様子をここから見ていた。

 

「羽場さんが出てきた・・・羽生さんはやられたのか?」

 

羽場まで出てきたことに甘井は驚いているが、それよりも気になっていることがある。侵入してきた泳者(プレイヤー)の姿だ。

 

(あいつ・・・どこかで・・・?)

 

初めて見たとは思えないほどの既視感。そこに違和感を覚える甘井の脳裏に浮かんだのは、地元にいた時に会った

宍色のツーブロックの短髪の少年の姿。落ちてきた泳者(プレイヤー)はその彼と瓜二つだった。

 

「・・・虎杖⁉」

 

●

 

一方その頃、同じく転送によって悠仁と巽(たつみ)と離れてしまった恵も初心者(ビギナー)狩りの襲撃にあっていたが、返り討ちにした。

 

「いたぁ~い。痛いよ~。どうしてこんなことするのぉ~?」

 

「そっちが襲ってきたんだろう」

 

恵を襲った初心者(ビギナー)狩りである女性はかわい子ぶっている。襲ってきたのは女性の方なのだからとやかく言われる筋合いがない恵は彼女の態度に苛立つ。

 

(くそ・・・想定外なはぐれ方をした・・・)

 

苛立っている恵の元に空から索敵範囲内で偵察していた鵺が戻ってきた。

 

「どうだ?」

 

恵の問いに鵺は首を横に振る。索敵範囲内に2人はいなかったのだろう。

 

(鵺でも見つけられない・・・このコロニーは渋谷よりずっと広い。多分2キロ以上離れているな。でも目指す場所は決まってる)

 

自分たちの目的は日車。日車がいる場所に向かえば、きっと2人とも合流できると考えた恵は自分を襲ってきたサソリの尾のような髪をした女性に日車の居場所を問いだそうとする。

 

「日車という術師を知っているか?」

 

恵の素っ気ない質問に、女性の態度はガラリと変わる。

 

「・・・男って女を殴れば何でもいうことを聞くと思ってるよね」

 

「答えろ」

 

「はい、すみません」

 

恵の苛立つ声に負け、女性はブスッと表情をしながら謝罪しする。

 

「日車ってあいつでしょ?100点取ってる」

 

「どこにいるかわかるか?」

 

「・・・んん?」

 

日車の居場所を問いかける恵に女性は彼に振り向き、顔を見上げる。

 

「・・・なるほど、そういうことね」

 

何かの意図を察した女性は怪しげな笑みを浮かべた。

 

●

 

狙いを羽場に変えた悠仁はドアノブを彼に向けて放り投げる。放たれたドアノブは回転するプロペラによって真っ二つに折れる。さらに悠仁は外に出て高層ビルを登り切り、そこから高く飛んで羽場に近づき、彼の足を掴む。

 

「ぬおっ⁉」

 

足を掴まれて重力が増したことにより、羽場は重力に従って落ちていく。その最中、プロペラは回り続けていたため、落下と同時に高層マンションの外壁を抉っていった。下層まで落ちた悠仁は屋内に入り、羽場から距離を取る。

 

(このガキ・・・なんて身体能力じゃ!)

 

悠仁の身体能力に驚きつつ、羽場は再び頭のプロペラを回転させる。悠仁はプロペラの回転をスライディングで掻い潜り、羽場の足元をすり抜けて背後に回り込む。対して羽場はプロペラの回転を利用して、背後に突風を放つ。放たれた突風を前に、悠仁は後退して再び外に出て近くの建物に飛び移る。

 

(上を常にとられるのは厄介だと思ったけど、あっちの攻撃手段はプロペラだけ!)

 

羽場はプロペラの回転を反転させて突風を起こし、その反動で後退して悠仁に突っ込む。悠仁は羽場の突進を躱し、建物を飛び移りながら移動する。しかしその先で羽場に先回りされ、彼が突っ込んできた。空中に放り出された悠仁は羽場と取っ組み合いになる。

 

「ふんっ!」

 

ドカァ!

 

「ぐお!!」

 

悠仁は羽場に蹴りを入れて悶着状態を解いて落下し、下層マンションの屋上に着地する。

 

(俺を殺すために近づいてくる!屋内で迎え撃つ!)

 

悠仁は近くの建物に飛び移り、中に入って羽場が突撃してくるタイミングを静かに待つ。しばらく構えて待っていると、悠仁の読み通り、プロペラを頭上にして羽場が突っ込んできた。

 

「スムージーにしたらぁ!!!」

 

(こっちに向けたな、てっぺん!)

 

悠仁はプロペラのど真ん中を狙って、拳を叩き込む。回転するプロペラに拳を入れるなど危険な行為だが、それは同時に羽場の弱点でもある。

 

(さっきの飛行機女、俺ごとビルをぶち抜く強度がありながら、あの程度の投擲で落ちた。お前ら、術式の基軸の頭髪から離れるほど強度が落ちるんだろ?縛りか?だがどんなに固かろうが、頭は頭!攻撃さえ届けば、かち割れる!!)

 

悠仁の叩き込んだ拳により、プロペラは羽場の頭にめり込んだ。これによってプロペラの回転は羽場を巻き込み、さらに床や壁に突き刺さった羽が折れ、羽場はその反動で壁や天井に突っ込んで、地面に打ち付けられる。

 

ブシュッ!

 

しかし悠仁の拳も回転するプロペラに突っ込んだために血が噴き出す。それを見た羽場はよろよろと立ち上がりながら、勝ち誇った笑いをあげる。

 

「ぐっ・・・くくく・・・はははは!拳が砕けたけぇ!!この勝負・・・オドレの負けじゃ・・・」

 

キーーンッ!!

 

「うっ!!?」

 

羽場が勝利を確信するや否や、悠仁は彼の『男の急所』を蹴り上げた。男の急所をもろに直撃した羽場は悶絶した表情を浮かべて気絶した。

 

「別に砕けちゃいねぇよ。ってぇなぁ・・・」

 

負傷した悠仁の手は本当に大したことないようで彼は手を軽く振っている。

 

●

 

一方、日車の居場所を問いかける恵に対し、サソリの尾のような髪をした女性は彼に条件を入れようとしている。

 

「教えてあげてもいいけど、私のお願いも聞いてほしいなー?」

 

「・・・言ってみろ」

 

正直、聞いてやる義理はないのだが、それで日車の居場所を知ることができるならと思い、まずは彼女の条件を聞こうとする。

 

「言って・・・くだ~?教えて・・・くだ~?」

 

「言え」

 

「はい・・・」

 

明らかに調子に乗っている女性だが、冗談が通じない恵の凄みに負け、素直に条件を伝える。

 

「私の騎士(ナイト)になって?」キラキラ♡

 

「わかった、それでいい」

 

かわいこぶる女性の条件に恵は何の反応も見せずに即答で了承した。

 

「・・・私ってそんなにいじりしろない?」

 

「時間がないんだ。早くしろ。前歩け」

 

「わかってんの⁉騎士(ナイト)って、命懸けで私を守んのよ?」

 

「お前の言ってることが本当ならな。・・・嘘だったら・・・わかるな?」

 

恵は警戒の意味も込めて彼女を前に歩かせ、睨みを利かせて忠告する。

 

(俺は虎杖と和倉とは違う。自分で100点を取ったっていいんだ)

 

恵は悠仁たちと違って助ける人間を選ぶ。だからこそこの死滅回游で助ける気のない人間の命を奪うことだって躊躇はしないのだ。

 

「お前はやめて。麗美って呼んで」

 

先導して案内をする女性、麗美は恵の呼び方の訂正を促し、妖しく笑う。

 

●

 

一方、唯一転送されなかった巽(たつみ)は初心者(ビギナー)狩りの襲撃にはあわなかったものの、悠仁たちを探している道中で泳者(プレイヤー)が少女泳者(プレイヤー)を襲っていたのを見かけたため、撃退した。

 

「たくっ、弱い者いじめしてんじゃねぇーよ。えっと・・・大丈夫か」

 

「え、ええ・・・ありがとう・・・」

 

巽(たつみ)は腰を抜かしている少女の手を取って立たせ、さっそく日車の居所を尋ねようとする。

 

「えぇっと・・・恩着せがましいと思うんだけど・・・お前、日車って人を知ってるか?」

 

「?日車って100点保持者の人でしょ?」

 

「そう。俺その人に用があってさ。居場所知ってるなら教えてくれないか?」

 

巽(たつみ)が日車に会いに行くつもりであると理解すると、少女は心配そうな表情を浮かべる。

 

「でも・・・あの人は強いわよ?会ったら無事では済まないかも・・・」

 

「わかってる。でも俺の仲間がそこへ向かってるかもしれねぇんだ。なら急がねぇと」

 

巽(たつみ)の言葉を聞いて、彼には相当な覚悟を持ってると悟り、ある提案をする。

 

「・・・それなら、私が案内してあげるわ。私、日車の居場所知ってるの」

 

「!いいのか⁉」

 

「さっき助けてもらったし、恩返しがしたいの。ダメかしら?」

 

「いや!むしろ助かるよ!ありがとう!」

 

悠仁たちとまた離れて一時はどうしようかと思ったが、日車の居場所を知ってる人間と出会えて、巽(たつみ)は安心する。

 

「よかったぁ!私、アリアっていうの。よろしくね」

 

巽(たつみ)の了承を得て金髪の少女、アリアはにこやかな笑みを浮かべて自分の自己紹介をした。

 

●

 

一方、羽場を倒した悠仁は日車の居場所を聞き出そうと彼を起こそうとする。

 

「や・・・起きてー。日車って術師のこと聞きたいんだけど・・・」

 

悠仁がどうやって羽場を起こそうか考えてると、背後から足音が聞こえてきた。

 

「い・・・虎杖・・・俺、知ってるぜ。日車って奴のこと」

 

振り返ってみるとそこには羽場たちの下っ端である甘井凜が立っていた。

 

「久しぶりー。覚えてるか?」

 

「・・・誰だ?」

 

名前だけでなく、自分のことを知っている様子の甘井に悠仁は疑問符を浮かべている。

 

(なんで俺の名前知ってる?)

 

「悪い・・・俺が一方的に知ってるだけだ。お前は有名人だから。西中の虎」

 

西中の虎。そのあだ名は悠仁が仙台に住んでた頃にいつの間にか広まっていた羞恥心の1つだ。それと知っているということは、甘井は仙台が地元なのだろう。

 

「同じ地元の人でしたか・・・」

 

思わぬところで自分のあだ名を聞いて悠仁はこっ恥ずかしくなって頭を抱えた。

 

●

 

同時刻、恵は麗美を先導させて日車がいるとされている場所に向かっている。その最中で、麗美が覚醒型の泳者(プレイヤー)であることを知る。

 

「なんだお前、過去の術師じゃなかったのか」

 

「はぁ~?私そんなに時代遅れに見える~?」

 

「積極的に戦う理由はなんだ?」

 

過去の術師でもないのになぜ戦うのかと尋ねる恵に、麗美はウンザリ気味に答える。

 

「あのねぇ。非泳者(プレイヤー)の一般人はコロニーから出してもらえたみたいだけど、初めからコロニーの中にいた泳者(プレイヤー)はね、死滅回游に参加して今日で12日目よ?私だってやりたくてやってんじゃないの!やらなきゃやられるの!戦う理由を探してる間に殺される。12日もいればそれくらいわかるわ。その過程で力に溺れてく奴も見たわ。過去のだの現代だので考えるのはやめることね」

 

戦わなければ殺される。そこに過去も現代もない。皆誰もが死にたくないから戦うのだ。だから戦う理由を探してる余裕などない。かといってその過程で力に溺れてしまえば過去の術師と何も変わらない。いずれにせよ、現代であろうが過去であろうが、殺意を持った泳者(プレイヤー)が危険であるのは変わりはない。

 

(過去の術師に触発されて現代の術師も戦闘モードってわけか。虎杖に余計なこと言っちまったな)

 

恵が考えている間にも麗美は曲がり角を曲がる。

 

「待て。いい加減どこに向かってるのか教えろ」

 

「だからぁ!言ったらその後あんたが私を殺さない保証がないでしょ⁉」

 

どこに向かっているのか恵が尋ねると、麗美は逆ギレする。

 

「着く前にお前が死んだらどうすんだ」

 

「だから!!あんたが!!守るんでしょうが!!後お前って呼ぶな!!」

 

「万が一があるだろ」

 

「・・・まぁいいわ。ざっくりとなら教えてあげる」

 

多少は納得したのか麗美は今向かっている場所を答える。

 

●

 

同時刻、悠仁は甘井の先導の下、日車の居場所に向かって歩いている。

 

「いいのか?仲間だったんだろ?あの2人」

 

「俺はただのパシリだよ。そのうち殺されてたさ」

 

「そうか。えぇっと・・・」

 

「甘井だ。甘井凜」

 

「甘井。日車はどこにいるんだ?」

 

「強い奴ほど栄えてたところに集まる。物資が豊富だからな」

 

甘井は悠仁に顔を向け、今向かっている場所を答える。

 

●

 

同時刻、巽(たつみ)もアリアの先導の下、日車の居場所に向かって歩いている。その道中で巽(たつみ)はアリアの境遇を知る。

 

「なんだって⁉アリアさんは非泳者(プレイヤー)の一般人なのか⁉」

 

「・・・私たち、家族旅行でこの東京まで来たの。それで・・・12日前に、夢に袈裟を着た人が出てきて、ここから出してあげるっていう提案をされたわ」

 

(袈裟の男・・・羂索か!)

 

アリアが見た夢に出てきた男が死滅回游を開催した黒幕、羂索であると巽(たつみ)は予想をする。

 

「これが夢なら、変に応じる必要はないって思って・・・」

 

「・・・断っちゃったのか?」

 

巽(たつみ)の問いかけに対し、アリアは首を縦に頷く。

 

「まさかこんなことになるなんて思わなかったの。この殺し合いの最中で、パパとママも殺されたわ。今の東京で、私と同じ境遇の人は、きっと何人もいるわ」

 

「・・・ごめん。嫌なこと思い出させちまったな・・・」

 

「ううん。こんな状況下でも、巽(たつみ)に会うことができた。それだけでもいいことだわ」

 

「アリアさん・・・」

 

死滅回游に巻き込まれて両親を失って辛い中で頑張って生きようとするアリアに巽(たつみ)は彼女は何としてもここから脱出させたいと考える。

 

(でも、断ったとしても、アリアさんにはここから出る権利は一応はあるはずだよな?日車と会ったら、何とか彼女はここから出してやらないと)

 

そう考えている間にも、先導するアリアは曲がり角を曲がる。

 

「なぁ、アリアさん。結構歩いたけど、今どこへ向かってるんだ?」

 

「気になる?」

 

「まぁ・・・うん」

 

「東京で有名な観光スポットよ。そういうところに物資はいっぱいあるもの」

 

アリアは巽(たつみ)に顔を向け、今向かっている場所を答える。

 

●

 

「「「日車は」」」

 

「池袋」

 

「新宿」

 

「皇居」

 

「「「にいる」」」

 

3人が目指す場所は同じ。だが案内人が提示する場所は全く違う場所で大きなすれ違いが起こってしまっている。

 

(池袋か!伏黒と巽(たつみ)もいるかな?)

 

(新宿・・・虎杖と和倉も向かってるといいが・・・)

 

(皇居か。悠仁と伏黒はもうそこにいるのかな?)

 

それぞれ別々の場所にいる3人がすれ違いが起きてしまっているこの事態に気付く術はない。そして彼らの行く先にそれぞれの強者が待ち構えていることも知る由もない。

 

●

 

とある場所では1人の男が水が入った浴槽に服を着たまま入浴している。しわが少ないスーツをキッチリと着こなした黒髪の男だ。

 

「・・・誰だ?そこで何をしている?」

 

男の入浴中にこの場に現れたのは警察の制服を着込んだオレンジ髪のポニーテールの女性だった。

 

「・・・いや、あんたこそ何してんのよ?」

 

女性の当然ながらの疑問に対し、男は逆に質問をする。

 

「君は服を着て風呂に入ったことがあるか?」

 

「・・・あるわけないでしょ」

 

「・・・思っていたより、気持ちがいい」

 

倫理観が欠如してしまっているこの男は表情1つ変えることなく語る。

 

「・・・そうだ・・・俺は小学校の頃、着衣水泳の授業が好きだったんだ。最近、いろいろどうでもよくなってな。やってはいけないと思っていたことにチャレンジしているんだ。30半ばを越えてグレてしまったというわけだ。笑うか?」

 

「・・・ちょっとおもしろいわね」

 

反応に困る質問をされたが、警察の女性は咳払いをして本題に入る。

 

「そんなことより・・・日車寛見・・・で間違いないわね?」

 

「いかにも」

 

女性の問いかけに対し、男・・・日車寛見は肯定する。

 

「あんたには裁判官と検察を殺害した容疑が問われているわ。これに対して何か反論は?」

 

日車が犯したと思われる罪状に対して彼は目線を女性に向けた。

 

「・・・ああ、君は警察だったのか。なるほど、それで君は俺を逮捕しに来たわけか」

 

「・・・それは自白と見ていいのね?」

 

「否定はしない。俺が殺したのは事実だとも」

 

罪に問われている日車は特に否定する素振りはなく、あっさりと罪を認めた。

 

「あんた弁護士でしょ。何があったかは知らないけど、法の番人が人殺しをしていいとでも思ってんの?」

 

「では、逆に君にも問おう。弁護士が法の番人であるならば、警察は秩序の番人だ。死滅回游は殺し合いの舞台だ。その泳者(プレイヤー)となったということは、殺し合いを容認するということに他ならない。それこそ、秩序を乱しているのは君自身なのではないか?」

 

日車の問いかけに対し、女性は揺るがず、堂々と反論する。

 

「本当に秩序を乱すというのは、真犯人がわかっていながら、それを隠すことよ。私は・・・私の信じたもののために戦う。もう・・・目の前のことから目を逸らしたくない」

 

女性が自身の手に呪力を練り上げると、呪力は形作り、手錠へと形を成していく。

 

「日車寛見!あなたを、殺人の容疑で逮捕させてもらうわ!!」

 

死滅回游泳者(プレイヤー)  六道ポニィ

 

「・・・君は気に入らない奴をぶち殺したことがあるか?」

 

警察官の女性、六道ポニィの宣言に対し、日車は湯船から上がる。すると同時に湯船の中から天秤を掲げた瞳が縫われている巨大な影が出現し、日車は手に取ったガベルを振るう。

 

「思っていたより・・・気持ちがいいぞ」

 

死滅回游泳者(プレイヤー)  日車寛見

 

●

 

とある場所では2人の男が待ち人を待っている。1人はターバンを被り、髑髏を数個身に着けた民族衣装をまとった褐色肌の男だ。もう1人は黒服を着込んだ整った顔立ちの金髪の男性だ。金髪の男性の片眼は不自然にも黒く反転している。

 

「・・・そろそろ来る頃合いですかねぇ」

 

ターバンの褐色肌の男はお猪口に透き通るほどきれいな酒を注ぎ、それを飲み干す。

 

「次のターゲットは味方になってくれるのでしょうか?それとも、カモになってくれるのでしょうか?楽しみですねぇ」

 

死滅回游泳者(プレイヤー)  ムディ

 

「・・・どうした。今日はやけに落ち着きがないな」

 

ギョロリッ・・・

 

金髪の男性がそう呟くと、彼の頬からトカゲのような目が出現する。トカゲの目は落ち着きがないように左右に動いている。

 

「心配せずとも、降りかかる火の粉は払ってやる」

 

金髪の男性がそう言い切ると、トカゲの目は消え、代わりに口が出現し、愉快そうに舌を出している。

 

死滅回游泳者(プレイヤー)  六道ナハシュ

 

●

 

とある場所では1人の男が床に座り込んで待ち人を待っている。金髪で顎髭を生やしたパンツ1枚という際どい格好をした男だ。

 

「はぁ~、ちょっと遅くない?」

 

金髪の男はため息をこぼしながら数多くのレシートを並べていく。

 

「いつになったらあの子は次のカモを連れてきてくれるのかなぁ?」

 

死滅回游泳者(プレイヤー)  レジィ・スター

 

●

 

アリアの案内の下で歩みを進める巽(たつみ)は日車がいるとされている皇居まで辿り着いた。

 

「ここが皇居か・・・ここに日車がいるのか?」

 

巽(たつみ)の疑問に答えるようにアリアはそびえ立つ江戸城跡に指を指す。

 

「日車はあのお城の中にいるはずよ。行きましょう」

 

アリアは江戸城跡に向かって歩みを進め、巽(たつみ)はその後についていく。

 

「そういえば巽(たつみ)は六道っていう人も探しているのよね?」

 

「え?ああ・・・うん。でも最優先はやっぱり日車だから、その後でもいいんだけど・・・」

 

「・・・ふ~ん、そっか」

 

巽(たつみ)の言葉を聞いて、アリアは彼に見えないように意味ありげな笑みを浮かべる。

 

「アリアの勘って当たるんだけどね、きっと近いうちに六道って人も会えると思うよ」

 

アリアは巽(たつみ)に向かって顔を振り向き、満面な笑みを浮かべてそう言ってのけた。

 

「はは・・・そう言ってくれると嬉しいよ」

 

彼女の言葉に巽(たつみ)は少し嬉しそうに笑みを浮かべる。向かった先に果たして日車はいるのか・・・

 

●

 

同時刻、恵は麗美の案内の下、新宿へと向かっている。その道中で麗美は池袋を通ろうとしている。

 

「おい」

 

「何?」

 

「池袋を通って新宿に向かうつもりならやめろ。この辺は物資が豊富だ。泳者(プレイヤー)との遭遇率が上がる」

 

他の泳者(プレイヤー)と接触するのを避けたい恵はそう言って池袋を通ろうとする麗美を止める。それに対して彼女は彼の言い分に反論する。

 

「ここを通る理由は2つ。道がわかりやすい。近くに私の拠点がある。シャワーくらい浴びさせて。昨日からろくに休めてないの」

 

反発した態度を取って池袋を通ろうとする麗美に対し、疑心暗鬼になる恵は警戒しつつ、彼女の後をついていく。

 

●

 

同時刻、甘井の案内で悠仁は池袋にある大きな劇場の前まで辿り着いた。

 

「日車はここの劇場を拠点にしてる。移動してなければだけど・・・」

 

「おおー!マジで助かった!ありがとう!」

 

悠仁は笑みを浮かべて甘井に礼を述べて劇場の中へと入ろうとする。

 

「あ、お・・・おい、待てって!」

 

中に入ろうとする悠仁に甘井は呼び止める。

 

「何?」

 

「・・・マジで行くのか・・・?」

 

「仲間と合流したいところだけど、急ぎだからなぁ」

 

「俺は日車に会ったことはないけど・・・あの羽場さんが1度コテンパンにやられたんだ」

 

「じゃあ大丈夫!ヘリ頭に勝った俺も逃げることくらいはできるってことだろ?」

 

「う・・・そーかも・・・」

 

「そんじゃーなー!」

 

悠仁は甘井の止めの声をのらりくらりと受け流し、急ぎ劇場の中へと入っていく。そんな彼の姿を見て、甘井は葛藤している。

 

(言え・・・言うんだ俺・・・もうこんな事やめよう・・・)

 

そもそも甘井が悠仁を案内したのは一方的ではあるが、何も顔見知りのよしみというわけではない。ただ日車が劇場を離れ、自分との遭遇率を下げるためなのだ。悠仁はそのための、いわば生贄なのだ。そこに付け込んで悠仁を死地へと送った甘井はこのままでいいのかとひどく葛藤しているのだ。

 

「・・・ごめん・・・虎杖・・・」

 

だが人はそう簡単にはわかることはできない。甘井は自分の命惜しさに、悠仁を日車に差し出すことを決断した。

 

●

 

劇場の中に入った悠仁は日車がどこにいるのか、中を探し回る。すると・・・

 

ドォォン!

 

強い衝撃音が劇場内で鳴り響いた。

 

(!この感じ・・・誰かがこの中で戦っている。巽(たつみ)と伏黒か?)

 

衝撃音が聞こえてきたのは、劇場のメインステージの方からだ。悠仁は走ってメインステージの方へと向かっていく。

 

●

 

ポニィと日車との戦いはポニィの方が劣勢に陥っている。日車は彼女に向かって突っ込み、手に持っているガベルを振るって攻撃を仕掛ける。ポニィは後退して日車の攻撃を躱す。

 

「くっ・・・!」

 

ポニィは自身の目覚めた術式で警察が持つ拳銃を具現化させ、日車に向けて弾丸を発砲する。対して日車はガベルの取っ手を伸ばし、回転することで迫ってきた弾丸を全て弾く。そして彼女に向けてガベルを伸ばして攻撃する。ポニィは咄嗟に拳銃を消し、手錠を具現化させてそれを盾にして攻撃を防ぐ。

 

(お・・・重たい・・・!)

 

ドゴォン!

 

ガベルの打撃が強く、勢いを殺しきれなかったポニィは後ろにある座席と衝突する。そこを見逃さず日車はガベルを大きく振り上げ、巨大なハンマーのようにガベルを振り下ろす。ポニィは素早くかけ出して何とか攻撃を回避する。

 

(日車の奴・・・本当に術式目覚めて12日目なの⁉)

 

ポニィが劣勢に陥っている理由はいくつもある。戦いの経験上ではかつて呪術師だったポニィの方が断然に上であるのは明らか。だが彼女は呪術師を辞めて年月が長い。呪術師だった頃の感覚が衰えてしまって、戦いの勘が鈍ってしまっているのだ。加えて彼女は開花した自身の術式に慣れていない。術式の開花とは聞こえはいいが、使いこなせていなければただの宝の持ち腐れになってしまう。そして何より・・・彼女の持ち前である『スピードを生み出す物』。それが日車の手によって奪われてしまっているのだ。

 

対して日車は術式が目覚めて12日目だとは思えないほどに機敏に動き、攻撃も正確にとらえている。実力的に見ても、日車の力は間違いなく、1級相当のものだ。

 

(こんなところで、死ぬわけには・・・いかない!)

 

ポニィの脳裏に浮かんできたのは、呪術師だった頃、自分を救ってくれた金髪の少年の姿だ。それが浮かんだポニィは表情を引き締め、左手に拡声器を具現化させ、日車に向けてそれを使う。

 

「止まれ!!」

 

「!」

 

拡声器越しのポニィの声に日車はまるで呪言を受けたかのようにピタリと止まる。そこを突くようにポニィは拡声器を消し、警棒を具現化させて日車に近接戦闘に持ち込もうとする。対しすぐに言霊の効果が消えた日車はそれを迎え撃つようにガベルを振るおうとする。

 

バァン!!

 

「「!」」

 

すると会場の出入り口の扉が開く音が聞こえ、両者はその音に止まる。両者はお互いに距離を取り、開かれた扉に視線を向ける。この戦いに入ってきたのは、悠仁であった。

 

(巽(たつみ)でも伏黒でもねぇ!誰だ⁉もしかして・・・)

 

日車と戦っているポニィの姿を見て悠仁は疑問符を浮かべる。

 

「誰だ?君は彼女の仲間か?」

 

「下がってなさい!巻き込まれたら死ぬわよ!」

 

現れた悠仁に対し、日車は疑問符を浮かべ、ポニィは悠仁を下がらせるように声をあげる。

 

「待ってくれ!まずは俺の話を聞いてくれ!」

 

「話?」

 

悠仁は2人の間に入り、話に持ち込もうとする。

 

「えっと・・・まず確認なんだけど・・・男の方が日車で、女の方がポニィで間違いない?」

 

「いかにも」

 

「・・・どうして私の名前を?」

 

悠仁の問いかけに対し、日車は肯定し、ポニィはなぜ自分の名前を知ってるのか疑問符を浮かべる。するとポニィは悠仁が着こんでいる制服に気が付いた。

 

(あの制服・・・この子、まさか・・・高専の人間⁉高専の人間がなんで死滅回游に⁉)

 

悠仁が高専の術師であると気づいたポニィは浮かび上がっていた疑問はさらに増していく。その間にも悠仁は2人に対し、交渉を始めようとする。

 

「あんたらと話がしたい。この勝負、いったん止まってくれないか?」

 

「待て。待て待て」

 

話を進めようとする悠仁に日車がストップをかける。

 

「俺は弁護士だ。俺と話すと30分5000円の相談料が発生するぞ」

 

「「えぇ・・・」」

 

先ほどまで殺伐としていた雰囲気だったのにし、急にフランクに冗談をこぼす日車に2人は戸惑っている。その反応を見て日車は満足そうにふっと笑みを浮かべる。

 

「ふっ、冗談だ。ちょっと嫌な弁護士を演じて見たくてな、ははは」

 

「・・・そっか・・・」

 

「・・・それで?話って?警察の時間をとるほどのものなの?」

 

先ほどの日車の冗談に加え、ポニィの警察服、そして弁護士と警察という単語を聞いて、悠仁は考える。

 

(この2人・・・受肉した過去の術師じゃない。術式が開花した現代の術師だ。話が通じる・・・交渉の余地がある!)

 

過去の術師ではないのなら、幾分かは話が通じると考え、悠仁はさっそく本題に入る。

 

「えぇっと・・・端的に・・・俺たちは、死滅回游を終わらせたい」

 

「!死滅回游を・・・終わらせる?」

 

死滅回游を終わらせる。その言葉を聞いてポニィがピクリと反応する。対して日車も反応を示し、目線をギョロリと悠仁に向ける。

 

「あ、タンマ。終わらせるってよりは、殺し合いの強制を無効にしたい」

 

「・・・それで?どうしろっていうのよ?」

 

「まず、日車。あんた100点持ってるよな?殺し合いの無効のルール追加のために、その100点を使わせてくれ」

 

悠仁からの要求に対し、日車は彼に身体を向ける。

 

「・・・俺も端的に言おう。断る」

 

日車からの返答は拒絶だ。それに対して悠仁は険しい表情を見せる。

 

「・・・それも冗談か?」

 

「いや?俺はただ、死滅回游に可能性を感じている」

 

日車は持っている100点を使わない・・・というより悠仁の協力に応じないその理由を答える。

 

「時に法は無力だ。だが、死滅回游のルールはどうだ?俺や彼女に与えられた力が本物なら、ルールも本物なんだろう。告訴も控訴も必要ない。審議を争うこともなく、ルールを犯した者が物理法則のように罰せられたら?素晴らしいことじゃないか。ルールに問題があることは認めるが、回游の土台のシステムは見守りたい。すぐに終わってしまっては困る。特にルール2と8の術式の剥奪は1度見届けたい」

 

日車が協力に応じない理由とは、死滅回游そのもののシステムを一部の歯車として見守りたいという道徳心が欠如したものだった。そんな日車に対し、悠仁は反論する。

 

「死滅回游はそれ自体が儀式だ。もたもたしてると、この国の人間全員死ぬぞ」

 

「ガセだな。死滅回游は永続を謳っている」

 

悠仁の反論に対し、日車は論破する。

 

(それは俺もわかってない!)

 

「つまり、あんたはそのシステムを見守るために、罪もない一般人を殺したのね。どうかしてるわ。やっぱり、あんたは1回逮捕しないとダメみたいね!」

 

日車にこれ以上の話は無駄であると悟ったポニィは手に持っていた警棒を構える。

 

「あなた、名前は?」

 

「!虎杖悠仁」

 

「虎杖、あなたの事情聴取はこいつを逮捕した後よ。それでいいわね?」

 

「!応!」

 

日車の方はダメではあったが、ポニィの方は死滅回游を終わらせることに積極的のようだ。しかし、彼女に話の続きを促すためにはまず日車を戦闘不能にすることが条件だ。それを悟った悠仁は彼女の言葉に首を縦に頷く。

 

「・・・言い方を変える。100点を使わせろ、日車!!」

 

悠仁は自身の拳に呪力を纏わせ、戦闘態勢に入る。

 

「君は気に入らない奴をぶち殺したことがあるか?」

 

日車はポニィにもした質問を悠仁に問いかけ、彼女にも見せた天秤を掲げた瞳が縫われている巨大な影が日車の影より出現する。

 

「思っていたより・・・気持ちがいいぞ」

 

(!式神⁉日車は100点持ち(ホルダー)だ。術師を20人殺してるかもしれねぇ。無闇に飛び込めない。後手に回るが、どんな攻撃でも対応する!)

 

これから来るであろう攻撃に備えて身構える。

 

バンッ!バンッ!バンッ!

 

それとは対照的にポニィは術式で拳銃を具現化させ、弾丸を発砲する。迫って来る弾を日車はガベルを振るって弾いた。

 

「ちょ・・・おい!」

 

「虎杖!日車を止めて!もし『あれ』をもう1回使えるんだとしたら、ヤバいことになる!」

 

「あれ⁉」

 

日車の一手を知っているポニィの言ってることに悠仁は困惑する。その困惑をよそに日車は彼女が危惧していた一手を繰り出す。それは悠仁にとって完全に予想外なものだ。

 

 

「領域展開―――誅伏賜死」

 

 

カンッ!カンッ!カンッ!

 

日車が繰り出した一手。それは呪術戦の極致、領域展開であった。日車が空気をガベルで物理的に叩くと、ガベルの音が鳴り響く。その瞬間、劇場の会場はガラリと変わる。地面から数多のギロチンが出現し、周りを取り囲み、悠仁、ポニィ、日車の前に証言台が出現する。

 

これより始まるは・・・生死を分けた死の裁判である。

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