「領域展開―――誅伏賜死」
戦闘開始と同時に、日車は呪術戦の極致、領域展開を初手から繰り出した。これによって劇場の開場の空間が代わろうとしている。
(領域⁉術式が発動する前に・・・)
(領域が完成する前に・・・)
((倒す!!))
空間が作り終わる前に日車を倒そうと試みる悠仁とポニィは同時に駆けだし、ポニィは警棒を振るい、悠仁は拳を放って攻撃を仕掛けた。しかし、予想より速く領域の構築は完了しており、辺りの空間はギロチンが取り囲んだ裁判場と化した。この領域の効果によって・・・ポニィの振るう警棒と悠仁の拳は日車に当たることなく、何かの力によって止められてしまう。
「ここではあらゆる暴力行為は禁止されている。お互いにな」
「お互い?」
攻撃を止められた悠仁とポニィはスポットライトの明かりが灯ったと同時に、一瞬で証言台の前まで瞬間移動されてしまう。
「ああ、すまない。言葉の暴力は別だ」
日車は自分の言った一部分を厳密に訂正する。すると日車の背後より天秤を掲げた瞳が縫われている巨大な影・・・日車の式神が現れる。
「くっ・・・間に合わなかった・・・!」
最も危惧していた一手を出されたポニィは苦渋の表情を浮かべる。彼女の表情を見て悠仁はいったい何が始まるのだろうと冷や汗をかいていた。
「ジャッジマン。始めてくれ」
日車が式神・・・ジャッジマンに指示を出すと、ジャッジマンの閉ざされた口が開き、悠仁が過去に犯した罪を告発する。そしてその告発は・・・完全に拍子抜けするほどの微罪だった。
【虎杖悠仁は18歳未満にも関わらず、2017年7月16日、宮城県仙台市のパチンコ店マジベガスに客として入店した疑いがある】
「・・・・・・は?」
ジャッジマンが口にした悠仁の予想を遥かに裏切った罪の告発にポニィは唖然となる。
「・・・あ」
対して悠仁はその当時のことを思い出し、焦ったようなしぐさを見せている。この反応だけで悠仁は18歳未満でパチンコ店で客として入店したのだとわかる。
「・・・虎杖?」
「いやー・・・あのー・・・えっと・・・」
ポニィの刺すような視線に対して、悠仁は何かしらの言い訳を考えている。その間にも日車は初見である悠仁にこの領域内でのルールを説明する。
「ジャッジマンは領域内の者の全てを知ってる。だが心配するな。俺にその情報は共有されない。判決はあくまで俺と虎杖の2人の主張を基に下される。・・・この証拠を除いてな」
「えっ⁉いつの間に⁉」
日車の手元に一瞬にして現れたのは今回の告発に対する証拠品が入っている封筒であった。
「これはジャッジマンから提出された本件の証拠。これは必ずしも君の疑いを確定するものではない。内容を君に教える気はない。その上でこれから君は言い分を述べ、疑いを晴らし、ジャッジマンから無罪を勝ち取らねばならない」
(・・・裁判の術式・・・)
日車の術式が現代の裁判を基にしているものであると考察する悠仁は彼が着こなしているスーツの襟元に1つのバッジが付いていることに気付いた。そのバッジには十六弁のひまわりと秤の意匠が施されていた。このバッジはその者が弁護士であると証明するためのものである。
(あのバッジ・・・弁護士ってマジだったのか?やってること検察っぽくねぇか?日車は現代人だけど・・・この領域は天元様の言っていた・・・)
悠仁は行動を開始する前に天元から領域展開の1つの補足について聞かされており、それを思い出す。
『領域は昔の術師にとって今よりもずっとスタンダードな技術だったんだ。その理由として、現在の領域に多い『必中必殺』の『必殺』の部分が省いていたからだ。領域内の対象に自身の術式を必中させる。これが昔の一般的な領域の性能だ。必殺に拘るあまり領域を構築する条件のハードルが上がり、領域はより高度な技術に。そして使い手が減少した』
(つまりこの領域は『必殺でない』ことや、俺に『物理的に危害を加えない』こと、さらに『ある程度ルールを説明する』という縛りで成り立っている!)
日車の領域は昔に使われていたスタンダードな必中のみに特化した領域であると理解する。そこまで考察している間にも、日車は領域の縛りであるルールの説明を続ける。
「陳述のチャンスは1度だ。これもお互いにな。君の後に俺も1度だけこの証拠を踏まえ、反論させてもらい、最後にジャッジマンが六法に基づき判決を下す」
「・・・有罪になったらどうなんだ?」
「残念ながら、その質問に説明責任はない。代わりと言ってはなんだが、これだけは教えておこう。君の選択肢は3つ。『黙秘』、『自白』、『否認』。否認には虚偽陳述も含まれる」
「嘘でもいいってこと?裁判なのに?」
「・・・皆真実を述べるなら、裁判など必要ない」
日車は弁護士として裁判の中に潜んでいる闇を幾度も見てきている。その闇を繰り返し繰り返し・・・まるで歯車のように見続けてきたがために、日車の精神は摩耗し、絶望した。この誅伏賜死はそんな日車の心象風景を映し出した映し鏡・・・歪みそのものだ。
「待った。これって、第三者の私にも陳述する権利はあるの?」
すると今回の裁判で罪に問われていないポニィが挙手して質問をする。その問いに対して日車は答える。
「ジャッジマンが君の陳述を断ることはない。君が望むのであれば、1度だけ陳述のチャンスが与えられる。だが、この陳述には刑法103条、犯人隠避罪に適応される。罰金以上の刑に当たる罪を犯した者を蔵匿い、あるいは隠避させた者は3年以下の懲役、または30万円以下の罰金に処する。法律上の『隠避』とは、虚偽の主張を以て司法の審理を妨害する一切の行為を含んでいる。後のことは・・・説明せずともわかるだろう?1度裁判に負けている君ならば」
「うっ・・・」
ポニィは日車と戦う前にこの誅伏賜死の裁判に挑み、敗れている。ゆえに裁判で負けた後の待っている結末を身を持って知っている。下手な発言は自分の首を締め上げる行為であることも。
「君に与えられた選択肢は2つ。黙ってこの裁判を見届けるか。有罪のリスクを背負って虎杖を庇うかだ。さあ、言い訳しろ。ジャッジマンの気は長くないぞ」
事を有利に運ぶためには、この裁判で罪に問われている悠仁の無罪を勝ち取ることは絶対の条件だ。だが、ポニィと悠仁は今日が初めて会う初対面同士である。お互いのことなど知る由もない。ましてやポニィは呪術師を辞めた身だ。彼が宿儺の器であることも当然知っているわけがない。情に任せて下手に発言すれば自分にも罰が飛んでくる可能性が高い。ならば悠仁の陳述に期待するしかないのだ。
それに対して悠仁は自分が無罪になるための主張を真剣に考えている。
(俺は実際そのパチ屋に行ってるし、しっかり遊んで、なんなら勝った気もする。無罪を主張するには嘘をつくことは避けられない。そうなると考えなければならないのは当然・・・あの証拠の中身!)
日車が出した証拠品の中身がなんなのかは日車以外はわからない。だが日車はこうも言っていた。
『これは必ずしも君の疑いを確定するものではない』
悠仁はあの証拠品の中身がなんであるかを予想を立てながら、自分が今やるべき行動の選択肢を考える。
(1、もし証拠がパチ屋への入店を裏付けられないスカなら、黙秘か否認でいいわけだ。
2、証拠が入店のみの裏付けるものなら、酌量の余地のある言い訳に賭ける。でも証拠が1のスカなら入店を認めることになるから墓穴を掘ることになるかも・・・。
3、証拠が入店だけでなく、遊戯も裏付けるものだった場合、ほぼ詰み・・・自白して罪が軽くなることに賭ける?そもそもこの裁判に重い軽いがあんのか?)
最低でも3つの選択肢が頭によぎった悠仁は真剣に悩み・・・そして、証言台を叩いて、自分で出した答えを日車に提出する。
「俺は!パチンコ店、マジベガスに入店したが、急な便意でやむを得ず、トイレを借りただけだ」
悠仁が選んだ選択肢とは、入店のみの裏付けが取れた証拠、2の情状酌量の余地を賭けたものだった。
(3は捨てる!情状酌量なんてものがこれにあんのかはわからんけど、これが1番印象がいい!・・・気がする・・・)
悠仁の陳述は終わった。次は日車の反論の番だ。悠仁とポニィは固唾を飲んで、日車の反論に耳を傾ける。
「・・・そうか。では、俺の番だな」
日車は手元にある証拠品の封筒の封を開け、中に入っている1枚の写真を取り出し、2人に見せる。
「これは本件当日、マジベガス付近の古物商・・・言ってしまえば、換金場の防犯カメラのキャプチャだ」
「あ・・・」
写真に写っていたのはパチンコ店の近くにある換金場で換金を行っている悠仁の姿であった。出されてしまった証拠に悠仁は大量の冷や汗をかき、今回味方であるポニィは彼に冷たい視線を送っている。
「人相、背格好・・・全て虎杖悠仁本人と見て、相違ないな?」
「・・・虎杖・・・」
「へ・・・へへへ・・・」
ポニィの刺す視線に悠仁は苦笑いしか浮かべなかった。
「入店を認めた今、このキャプチャを見る限り、トイレ云々は信じるに値しない。やはり虎杖は18歳未満でありながら、遊戯目的で入店したと思われる」
「・・・それは・・・何罪・・・?」
「店は明示的に18未満の入店を拒否しているから建造物侵入罪だ。刑法130条。運営法では未成年自身は処罰されないからな」
「・・・ズルだろそんなん・・・どう言い訳しても意味ねぇじゃんか・・・」
陳述の後に日車の証拠を踏まえた後出しの反論に対して悠仁は苦言を指している。同時に、3の自白で罪が軽くなることに賭けるのが正解だったのではと思い至る。悠仁の苦言に対して日車は表情を変えずに反論する。
「何を言っている。賭博を禁じられている日本では店と換金場は別の法人だ。複数店でシェアしている場合もある。そして問われているのはあくまでマジベガスに対する入店のみだ。君はただ、『そんな店知らない』と容疑を否認すればよかったのだ。・・・いや、判決がまだだったな」
カンッ!カンッ!
日車は右手で前髪をかきあげ、左手に持っているガベルで空気中を叩く。ガベルの音が鳴り響き、ジャッジマンは判決を下す。
【
【
ジャッジマンが有罪の判決を下すと、領域が解除され、元の劇場会場に戻った。
(元の空間に戻った⁉有罪になっちまったが、特に変化は・・・)
ドカァ!!
「ぐっ!」
自身の身に起きた変化を探っている間にも日車が投げたガベルが飛んできて、悠仁は咄嗟に腕を交差して防御したが、勢いに負けて体勢が崩れ、後退る。その隙を見逃さず、日車はまっすぐ悠仁に突っ込み、間合いに入り込む。間合いに入り、日車が構えると、宙に浮くガベルは一瞬で日車の手元に戻る。そして戻ったガベルを手に取った日車はガベルの大きさをハンマーのように巨大化させ、それを振るって悠仁に打撃を与えて吹っ飛ばす。
「虎杖!」
ポニィが悠仁に気を取られている間にも日車はガベルを元のサイズに戻し、ガベルを彼女に向けて投げ放つ。一瞬気を取られたポニィに避ける術はなく、ガベルは直撃し、彼女は後退る。すかさず日車は一瞬でガベルを手元に戻し、再度投擲してポニィに攻撃する。後退るポニィは投擲されたガベルに直撃し、観客席に向かって倒れる。
(この木槌・・・自在に出したり消したりできるうえ、大きさも変えられるのか。いや・・・それより・・・)
悠仁はダメージが入った左腕の袖を破り捨て、ゆっくりと起き上がる。同じく、ポニィも観客席に手を置いて、ゆっくりと起き上がる。
「丈夫だな、お互いに」
「それが取り柄なもんで」
「警察でも訓練はやってるもんでね」
起き上がる悠仁は日車の攻撃を受けた際、自身の身に起きている異変に気がいている。その異変とは・・・
(呪力が練れない・・・!)
自身の身体に宿る呪力。それが何かに遮られているかのように自らの呪力が使えなくなってしまっているのだ。これこそが誅伏賜死の恐るべき能力・・・有罪になった者に六法に基づいたペナルティを与える能力だ。
●
一方その頃、アリアの案内の下、皇居にある江戸城跡に入った
「ここよ。この先に、日車がいる」
「・・・アリアさんは下がってくれ。俺が前に出る」
数多くの
「な・・・なんだこれ・・・⁉」
あまりにもひどく、惨たらしい遺体の山に
「・・・アリアさん、本当にここに日車がいるのか・・・?」
プシューッ!
「ぐぁ⁉」
アリアは取り出したスプレーを振り向いた
「目・・・目が・・・!!」
その隙を狙うかのように、物陰より片目が反転した金髪の青年が飛び出し、腰にかけてた剣を抜いて
ガキンッ!
「お・・・お前・・・日車か・・・?」
「誰が日車だ、雑魚が。俺はナハシュだ」
「がっ・・・!」
尻尾で
ボオオオオオオオ!!
吐かれる息と共に炎が噴き出し、炎が
「ケホッ・・・ずいぶん派手にやりましたねぇ」
炎の硝煙が立ち込める中で姿を現したのはターバンの褐色肌の男、ムディであった。
「ふ・・・ふふふふ・・・日車の居場所を知ってるなんて・・・あんなおっかない奴のとこなんて誰が行くかっての。そもそも、私が非
アリアは人が代わったかのように炎に包まれる
「・・・気を緩めるな、雑魚。コガネのアナウンスが鳴らない」
「は?」
コガネのアナウンスが鳴らないことを指摘されたアリアは炎に視線を向ける。
「インクルシオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!」
「ほう」
「ふざけた真似しやがって・・・お前ら、ただで済むと思うなよ!」
「ひっ⁉」
インクルシオを纏った
「いやはや、とんでもない大物が釣れたものですねぇ。しかも、先ほどのあなたの制服を見る限り、あなた高専の人間でしょう?こんなところで仇に巡り合うとは、私もツイてますねぇ。ただのカモなら普通に殺して終わりなんですがねぇ」
「仇?仇って何のことだ?」
「かつて、プトラという滅ぼされた土地がありましてね、私はそこの墓守唯一の生き残りなのですよ。12年前、私は任務で遠出していて・・・帰ってみたら故郷は滅ぼされていました。・・・あなたたち高専生の手によってね」
故郷を滅ぼされたと語るムディからは言葉で表現しきれないほどの凄まじい憎悪が宿っている。
「同胞を滅ぼしたあなたたち高専には必ず報復します。しかもただ殺すのではない・・・なるべく惨たらしく・・・それこそが墓守のルール」
ムディから滲み出る憎悪に
(高専のことを知ってる⁉エスデスの部隊以外でそれを知ってる奴はいねぇ!てことはこいつ・・・覚醒した現代の術師でも、過去の術師でもねぇ!死滅回游に紛れ込んだ・・・呪詛師!!)
少なくともムディが死滅回游に紛れ込んだ呪詛師であると見抜いた
●
同時刻、麗美の案内で新宿に来た恵は彼女の拠点としているマンションに辿り着く。とある部屋の前に、体に大量のレシートを身に纏い、顎髭を生やした金髪の男が姿を現す。
「日車ぁ~?あぁ~・・・」
恵に自分が日車であると問われたその男は理解したように笑みを浮かべる。
「残念ながら俺はレジィだ。君、騙されたの」
金髪のレシート男、レジィ・スターは麗美が恵を騙したことを伝える。騙された恵は騙した本人である麗美を冷たい視線で睨みつける。
「何その顔?全然怖くないんだけど。言っておくけどレジィさ・・・」
「しゃべるな」
恵を嘲笑する麗美は彼の威圧がある一声で押し黙り、恵は手影絵を作り、玉犬『渾』を召喚する。
「おほっ!」
「時間の無駄だ」
パチッパチッパチッパチッ・・・
玉犬『渾』を見たレジィは恵を称賛するように拍手を送る。
「いやぁ~、合格合格」
「あ?」
「もういいよ、わかったから。その式神、相当だ。君強いでしょう?弱けりゃカモって殺して終わりなんだけどねぇ。いいよ、君。仲間になろう」
カモとして連れてきたはずの恵を自分たちの仲間に引き入れようとするレジィの発言に何も聞かされていない麗美は困惑する。
(何それ⁉聞いてないんだけど⁉)
「・・・どういうつもりだ」
当然ながらレジィの仲間になる気がない恵は彼の意図を探ろうと問いかける。
「君は死滅回游についてどこまで知ってる?」
「・・・儀式だろ?結界内の
問いに答える前提のレジィの質問に恵は率直に答える。
(天元様のことは伏せておくか・・・)
この答えを教えてくれた天元のことは隠そうとする恵。すると恵の具体的な答えにレジィは驚き、とある人物の名を口にする。
「何、君?羂索と知り合い?」
「!!」
覚醒した
(いるとは思っていた・・・羂索と関りのある術師!)
つまりレジィは羂索と契約して呪物と化し、死滅回游開始と共に受肉を果たした過去の術師なのだ。恵が驚いている間にもレジィは羂索の狙いについて語る。
「今君が言った呪力を利用してってところ、おそらくブラフだ」
「何?」
「いやぁ、ブラフというより、2番手、3番手のプランだと思う。根拠は3つ。『
「早い段階で強者だけが残り、死滅回游が膠着すると?」
(確かに感じていた。結界内が静かすぎると)
「既にさ。少なくともここ、東京第1はね。加えて、コロニーに侵入した際の転送。人を散らす目的もあるんだろうが、1番は現代人術師の早期二次覚醒を促すためだろう。転送で死ぬ奴もいる。本当に
レジィの根拠はどれも的を射ている。
「ルールの永続のような建前は本当の計画の隠れ身。これは確信だ。強者だけが残った回游に羂索が爆弾を落とし、死滅回游は役目を終える」
●
修習59期、岩手弁護士会所属、日車寛見36歳。T大法学部受験。法科大学院導入前の旧司法試験などあらゆる難関をストレートで通過。日車にとってそれらは必要な知識を入力し、必要なだけ出力する簡単な作業だった。天才。日車を知った凡夫は囁く。だが、彼の中で最も光る原石は・・・呪術師としての才能だった。
日車は悠仁に接近し、ガベルを振るって連続攻撃を仕掛ける。悠仁は日車の振るうガベルを一撃一撃を受け流して防御し、隙を見て彼に拳を放つ。日車はもう片方の手で悠仁の拳を受け流しつつ、攻撃を繰り出し続け、ガベルを掴んで止められても槌に拳を叩き込むことで勢いを殺さずに悠仁に打撃を与えた。打撃を受けた悠仁は後退する。
パンッ!パンッ!パンッ!
観客席の後に隠れているポニィは顔を出し、日車に向けて術式で顕現した拳銃を3発発砲する。日車はその発砲音を聞き分け、ガベルの取っ手を伸ばして回転することで弾丸を弾く。その後、日車はガベルを元のサイズに落とし込み、ポニィに向けてガベルを投げ放つ。ポニィは観客席から飛び出して迫ってきたガベルを咄嗟に躱した。観客席貫き、破壊したガベルは一瞬で日車の手元に戻り、彼はポニィに向かってもう1度それを投げ放つ。迫るガベルをポニィは今度は片手で受け止め、日車に向けて投げ返す。だが、ガベルが日車に直撃する寸前でそれはすぐに消え、再び日車の手元に戻り、彼は再びガベルを投げる。ポニィは体を反らすことで何とか避けるが、ガベルは一瞬で日車の元に戻り、再び投擲して迫る。それを2回ほど繰り返し、避けられたタイミングでガベルを彼女の目の前まで瞬間移動させた。
ドカァ!!
「ああ!!」
ガベルの重い一撃をくらったポニィは後退り、観客席と衝突し、倒れる。その攻防の中で迫ってきた悠仁は日車になんの変哲もない拳を放つ。日車は彼の拳を受け流し、一瞬で手元に戻ったガベルで彼を叩きつけようとする。悠仁は軽く跳躍して後退し、攻撃を回避する。だが直後に日車が投げ放つガベルが迫り、悠仁は避けきれずガベルに直撃する。悠仁は転がりつつも体制を立て直し、続く日車の攻撃を躱し続ける。
日車は領域がデフォルトで備わった自らの術式を解明することで結界術の基層も同時に習得。結界術から逆算する形で呪力操作による強化術の勘を掴み、術式開花から12日間で1級術師と比べても遜色のないレベルまで成長。コロニー侵入前に数多くの呪霊を退け、20人以上の
ドカァ!
「ぐっ!」
日車の繰り出す攻撃を避け続ける悠仁は近接戦闘に持ち込んだ日車の回し蹴りをくらい、蹴とばされる。日車はそこからさらにガベルを投げ放ち、悠仁に接近して蹴りを放つ。悠仁は吹っ飛ばされた際にぶつかった椅子を利用してバク転してガベルを蹴とばし、日車を蹴りを椅子で防御する。だが蹴りの勢いに負け、悠仁は蹴とばされる。日車はそこからさらに悠仁を追撃する。
「はぁ!」
観客席から飛び出したポニィは手錠を具現化させ、日車に向けてそれをブーメランのように投げ放つ。
ガシャンッ!
手錠は見事に日車の右手に嵌まり、ポニィの呪力で手錠がロックされる。その瞬間、日車の呪力の流れが乱れ、ガベルへの呪力供給が途切れ、ガベルの一撃が落ちる。
「むっ」
呪力供給ができなくなった日車は狙いをポニィに変える。ポニィは観客席を足場にして駆け出し、日車に接近して呪力を纏った蹴りを放つ。日車は前方に転がって彼女の蹴りを躱し、即座にガベルを投げ放つ。着地するタイミングでポニィは投げ放たれたガベルに直撃し、態勢が崩れる。
「が・・・!」
その隙を逃さない日車は起き上がり、縦回転蹴りを放ち、彼女を地面に蹴落とす。
「がは・・・!」
一定のダメージを受けて手錠に送っていた呪力が途切れ、日車の手錠が外れる。その瞬間、日車の呪力の流れが正常になり、一瞬で手放したガベルを持ち、それを振るってポニィに攻撃を仕掛ける。
「くっ!」
ポニィは壊れた会場の設備を強く押してスライディングし、日車の足の合間を掻い潜って彼の攻撃を躱す。日車はガベルの取っ手を長く伸ばし、距離を取ろうとする彼女に向けてガベルを振り下ろした。その攻撃を移動して何とかギリギリ回避したポニィだったが、日車は伸縮する取っ手をうねうねと操ってガベルの木槌を彼女に当てようとする。ポニィは軽い身のこなしでバク転などを行って日車の攻撃を躱し、天井裏まで上がる。
「はぁ・・・はぁ・・・は!」
息を整えるポニィに日車はガベルを投げ放つ。ポニィは攻撃を躱したが、日車はガベルを一瞬で手元に戻し、再び投擲し、さらにまた手元に戻し投げるをマシンガンのような速さでこれらを繰り返した連続攻撃を放つ。ポニィはまっすぐ駆け出し、日車の攻撃を躱しきった。
「うおおおおおお!」
そこへ悠仁は椅子を手に持ち、日車に向けて力いっぱい放り投げる。気づいた日車は振り向き、一瞬でガベルを手元に戻して振るい、迫る椅子を破壊する。そこを突くように悠仁は日車に接近し、拳を叩き込むが、日車はこれを受け流し、逆に回し蹴りを放って悠仁を蹴とばす。
「ぐっ・・・!」
吹っ飛ばされる悠仁に日車は取っ手を伸ばし、木槌を彼の腹部に叩き込んだ。手痛い一撃を受けた悠仁は転がり、倒れる。ここまでの攻防で悠仁から感じ取っていた違和感を問いだす。
「呪力が練れなくなっているのか?」
「あんたがやったんだろ!」
「没収のペナルティは一時的に術式の使用を不可能にするものだ。察するにお前は術式を持っていなかった。だからペナルティが呪力の使用不可に変わったのだろう」
「あの人は術式バンバン使ってるだろ⁉」
「物事には優先順位というものがある。察するに彼女は術式とは別に呪具も所持していたのだろう。だから1度裁判に負けた彼女のペナルティが呪具の使用不可に変わったのだろう。ちなみに没収は本来付加刑でそれら単体で課されることはない」
悠仁の疑問に答えた日車は今陳述した事実に多少なりとも戦慄を覚えている。
(とはいえ、こんな事態は初めてのことだ。今までの奴らは呪具など所持していなかったからな。おそらく彼女の術式は警察装備の具現化、その装備に応じた抑止力を行使するものだろう。現に拡声器の発生で一時的にだが動きを止められ、手錠で俺の呪力の流れが乱れた。彼女が術式に慣れていれば、俺も危なかっただろうな)
ポニィの目覚めた術式、
(しかし、この場で最も警戒すべきは虎杖だ。六道の加勢もあるとはいえ、何故呪力なしで俺と対等に渡り合える?呪術師としてではなく、生来の肉体・・・生物としての強度が恐ろしく高いのか?術師は術式が使用できなくなると基礎的な呪力操作がグダグダになることが多い。長年の勘が鈍ることだろう。それより不利な完全な呪力の使用不可!その状態でここまで戦えている事実!並みの連中なら初めの一撃で勝負は決していた。油断すると足をすくわれる。全力で潰す)
油断は命取りと考え、日車は気を緩めずガベルの取っ手を伸ばして構える。
パンッ!パンッ!
天井裏に潜むポニィは日車に向かって拳銃の弾丸を発砲する。それを聞いた日車はガベルを槍のように振るい、弾丸を弾く。そして日車はガベルを伸ばし、彼女が潜んでいる天井裏の柵に引っかけ、力を込めて引っ張って引き寄せる。引きずり降ろされたポニィはジャンプして飛び出し、舞台に着地する。それを見た日車はガベルを床に固定させ、取っ手を伸ばしてポニィに向かって突進する。ポニィは日車の突進を転がって回避し、起き上がって日車に接近して具現化した警棒と蹴りを振るって連続攻撃を仕掛ける。彼女の連続攻撃を後退しながら躱す日車は最後の一撃を掻い潜り、蹴りを放つ。
「ぶっ・・・!」
蹴りを受けて後退するポニィに日車はガベルを巨大化させて、ハンマーのように振るい、彼女を観客席に吹っ飛ばす。そして隙を与えることなくガベルを持ち上げ、振り下ろして地面に叩きつけられる。
「カハッ!」
「ポニィ!!」
ガベルの重い一撃を腹部に直撃し、ポニィは血反吐を吐く。それを見た悠仁は日車が使用していた浴槽に目をつけて、つけて駆けだす。それに気づいて日車が振り返ったところで悠仁は浴槽に拳を叩き込み、それを日車の元まで吹っ飛ばす。日車はガベルを振るい、迫ってきた浴槽を破壊する。その瞬間、中に入っていた水が飛び散る。だが、飛び散った水では目くらましにも足止めにもならず、悠仁の目の前に日車が迫り、彼はガベルを振り下ろす。悠仁は腕を交差して迫るガベルを受け止める。
「ぐぅ・・・!」
「すごいな・・・!」
日車はこのまま悠仁を押しつぶそうとガベルに力を込める。
(壊れない人形を相手にしているようだ)
(ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい!!いつまで続くんだ⁉呪力・・・!早く呪力を・・・!!)
ガベルに押し潰されそうになっている悠仁は力を込めて踏ん張りをみせるが、呪力が練れない今、押し返すことができず、このままでは力負けしてしまう。次第に悠仁は焦りを見出してしまう。
「い・・・虎杖・・・!」
ガベルの重い一撃を受けて思うように動けないポニィはこの状況を打破するための一手が何かないか必死に考える。
(考えろ・・・考えろ、考えろ・・・!これだけの能力があるんだ!何か日車にとって、不利な要素がきっとあるはず・・・!日車の術式は現代の裁判を元にしてる!裁判・・・裁判・・・!)
日車の裁判の術式で何か不利になる要素をポニィは考え続ける。と、ここで裁判における1つの要素が頭によぎった。そして同時に、領域を展開した日車は彼女に対してこう発言していた。
『ジャッジマンが君の陳述を断ることはない。君が望むのであれば、1度だけ陳述のチャンスが与えられる』
「日車!!!」
2つの要素が頭によぎったその瞬間、ポニィは日車に向かって声を張り上げた。
「さっきの裁判結果に納得がいかない!!第二審・・・裁判のやり直しを要求するわ!!」
ポニィが第二審の裁判の開催を要求すると、空間は一瞬にして様変わりし、誅伏賜死の裁判場へと変わる。これによって3人は用意された証言台の前に一瞬で立たされる。
「・・・気付いたか」
「二審って奴よね。私でもそのことは理解しているわ」
ジャッジマンに有罪を言い渡され、ペナルティを課された対象は罪を認めない限り、2回まで裁判のやり直しを請求できる。そして日車は第三者の陳述をジャッジマンが断ることはないと言った。で、あるならばその場に居合わせた第三者がペナルティを課された対象の罪を認めなかった場合、同様に対象の裁判のやり直しを2回まで請求できる。だが、当然ながらその場合、第三者にもリスクが伴う。
「だが、これによって君はジャッジマンより、刑法103条、犯人隠避罪と認定され、虎杖の共犯者と見做された。この裁判が虎杖の罪の告発である以上、君に課されたペナルティは消えない上、有罪になれば虎杖が受けるペナルティを君自身も受けることなるぞ」
「警察の第一の役目は一市民を守ること。それは呪術師にだって含まれるはずよ。私は、私の信念に従って、一市民を守る!」
日車の言葉を前に、ポニィは有罪になった際のペナルティに臆さず、まっすぐに自分の意見をぶつけた。
「ポニィ・・・あんた・・・」
「ほら!もう1回よ!もう1回勝負よ、日車!」
ポニィは共犯者として意気揚々とこれから述べられる悠仁の罪に挑もうとする。しかし、この領域の最大の不安要素は、取り上げられる罪が完全にランダムであることだ。いくら裁判のやり直しを請求しても、同じ罪状が取り上げられるとは限らない。
ジャッジマンの口より悠仁の罪を告発する。その罪状は・・・予想を大きく上回るほどの内容であった。
【虎杖悠仁は2018年10月31日、渋谷にて大量殺人を犯した疑いがある】
「・・・・・・・・・・・・・・・は?」
最初の微罪などと比べ物にすらならないほどの大罪、渋谷事変での大量虐殺事件。ポニィはこの案件には関わってはいないものの、情報自体は知っている。警察ではそう言った被害の報告が多発するからだ。その渋谷事変の大量殺人の犯人が自分が守ろうとした悠仁だというのだ。驚愕するのも無理はない。ポニィはそんなバカなという思いで悠仁に視線を向ける。対する悠仁は何の迷いもない真っ直ぐな表情で口を開く。
「ああ。俺が殺した。これは嘘でも否定でもない」
悠仁の取った選択は迷う素振りも見せない自白だった。自分から罪を認めた悠仁に対して、ポニィは驚愕のあまり、唖然となる。対する日車自身も悠仁が罪を認めるとは思っていなかったため、驚愕に満ちた表情を浮かべている。そんな中でもジャッジマンは無情に、縫われて目を見開き、血涙を流して判決を下す。
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判決が下った瞬間、領域が解除されて元の空間に戻る。有罪に没収が下されたということは、悠仁には呪力使用不可が課され、裁判のやり直しを行ったポニィには呪具の使用不可が課される。それに加え、日車の持っていたガベルが形を変え、十字架が刻まれた光り輝く剣へと形を成す。
処刑人の剣
ジャッジマンから課される最も重い罰、