私の作品を少しでも興味を持ってくださり、感謝しかありません。不定期更新ではありますが、これからも頑張って書いていきたいと思っておりますので、今後ともよろしくお願いいたします。
日車寛見という男はかつては正義感の持った弁護士の鑑と言える男であった。本人曰く、弱者救済など掲げていない。昔から自分がおかしいと感じたことを放っておけない性分でそれが直っていないだけらしい。正義の女神は法の下の平等のために目を塞ぎ、人々は保身のためならあらゆることに目を瞑るものだ。そんな中で日車は、縋りついてきた手を振り払わないように、自分だけは目を開けていたいと語るほどの精神の持ち主だった。それゆえに、関係者に口裏合わせで弁護に失敗したり、それで被告人に逆恨みされたりしても、己の信念と正義を貫いてきた。
そんな彼の価値観は、とある殺人事件の裁判により、崩れ落ちた。
その事件は岩手県盛岡市で発生した強盗殺人事件だ。その詳細は、2016年3月、女児とその母親、計2人の刺殺体で見つかった事件で、その犯人と疑われているのが、近くに住んでいた大江圭太だ。大江は2人に対する強盗殺人事件の容疑で起訴された。
経緯としてはこうだ。大江は巡回中の警官の職務質問中に逃亡し、自宅に駆け込んだところ、追いかけてきた警官が血の付いた刃物を発見、現行犯逮捕に至った。後のDNA鑑定で刃物の血痕と被害者のDNAが一致していた。大江は一貫して犯行を否認、証拠となった刃物に関しては、拾ったとのことだ。本人曰く、後で警察に届けるつもりだったらしい。
かなり無理のある言い分であるが、日車は大江がシロである可能性があると判断している。理由は大江の環境、住み込みで働いているNPO法人が大きなポイントになっている。
NPO法人とは、行き場のない高齢者に対するシェルター運営や自立支援が主の活動で大江はそこで仕事として彼らの世話をしていた。だが彼に給料は支払われていない。お小遣いと称してお年玉をもらったり、弁当や食材などの現物支給のみが与えられている。それにもかかわらず大江は家賃として月5万円を家賃として徴収されている。しかも入居者には前科者も少なくないそうで、しかもそのNPO法人にはパトカーや救急車を呼んではならないルールがあるらしい。そのおかげで凶器の提出が遅れてしまっているのだ。
これらの団体は限りなくクロに近いグレーだ。震災復興資金が流れ込んでから運営実態の怪しいNPO法人が増えていることから、凶器が落ちしていても意外じゃない。だから大江は殺人を犯してない可能性は十分にある。その観点から見て、日車は大江の弁護を引き受けた。
日車は彼の部下である清水と共に団体の活動実績と税務申告、全入居者の素性などを調査を進め、弁護人として裁判に挑んだ。
裁判の結果は無罪。だが無罪になったからと言ってこれで終わりというわけではない。判決に不服がある当事者がすぐに控訴してきて、第二審の裁判が開かれることとなる。だがそれでも大江は、自分のことを信じてくれた日車に対して、涙を流して深く感謝していた。
しかし・・・第二審の裁判の結果は・・・有罪。無期懲役の判決が大江に下った。
限られた予算と人数で動かなければならない弁護側に対し、検察側は税金とマンパワーを投入して証拠をあげる。そういう仕組みになっているのだからそれ自体に問題はない。問題は検察側にある。新規の証拠は提出されず、行方不明者の犯行を疑う理由はないという無茶な事実認定が下され、判決が覆った。三審の最高裁は狭きもの、上告はほぼ門前払いとなってしまっている。まともに審議することすら難しい。
つまりこの裁判は・・・初めからありきの裁判・・・大江を犯人仕立て上げるための出来レースのようなものだ。これが裁判の闇。これらの闇を弁護士として幾度も見続けてきた日車の精神は摩耗していくのだが、何より彼自身の精神を抉ったのは・・・日車に対して向けられた大江の目だ。
信じていたの裏切られた。嘘つき。
今の大江の目は、今まで見てきた有罪となった被告人と全く同じ目をしていた。
(何故私をその目で見る)
日車は被告人を守ることができなかったその無力感に苛まれ、さらに自身への保身に走る裁判に対し怒り、絶望が満ち満ちていく。それが今、爆発する。
カンッ!カンッ!カンカンカンカンカンカンカンカンカン!!!
「全員戻れ」
日車は感情を爆発させるかのようにガベルを振るって机を叩く。そして・・・日車の背後より、ジャッジマンが出現する。
「やり直しだ」
これが、日車が術式を開花させた経緯だ。
●
(人の心に寄り添う・・・それは人の弱さを理解するということだ。被害者の弱さ・・・加害者の弱さ・・・毎日毎日毎日・・・ずっと食傷だった。醜い・・・他人に歩み寄る度、そう思うようになってしまった)
誅伏賜死の二審の裁判によって
「君もだ・・・虎杖!人は皆!弱く醜い!!お前がどんなに高潔な魂を望もうとも、その先には何もない!!目の前の闇はただの闇だ!!明かりを灯したところで、また眩しい虚無が広がっている!!」
人の弱さに触れ続け、自身の精神が砕けた日車は悠仁に向かって叫ぶ。だがその姿は、自分に言い聞かせるているようにも見える。
「虎杖・・・あんた・・・」
第一審の判決に異議を唱え、第二審に持ち込んだ本人であるポニィは渋谷事変の大量殺人の罪を認めた悠仁に対し、信じがたいような表情をしている。
「ごめん・・・事情聴取は後で受けるよ」
悠仁はポニィに対し、堂々と告げた。罪を犯したとは思えないほどの真っ直ぐなその眼差しに、ポニィは一筋の輝きを感じ取った。
(あの目は・・・人殺しの目じゃない)
警察に入ってからも、ポニィは犯罪に手に染める犯罪者をたくさん見てきた。そんな彼らの目は共通して、目が悪意に染まっていた。だが悠仁の目は悪意あるものとは全く程遠い目であった。その眼差しを見て、彼女は直観する。
彼は、殺人など侵していないと。
ポニィが考えている間にも悠仁は高く跳躍し、観客席まで移動する。日車は狙いを悠仁に定め、駆けだす。
ドォォン!!
観客席側に着地した悠仁は床に拳を叩き込んで衝撃を与え、周囲にあった椅子を宙にばら撒かせる。乱雑に迫る椅子の雪崩の中に日車は突っ込み、悠仁探す。そんな中で日車は自身が弁護士としての原点を思い出していく。
●
『日車君』
『吉沢さん。議案なら先ほど提出しましたが』
『ああ、違う違う。書面は見たよ。素晴らしい。そのまま判決として使えるくらいだ。君は確か、検察官か弁護士を志望していたね』
『・・・はい』
『どうかな、裁判官を目指してみないか?』
『・・・すみません。自分は裁判官にはなりません』
『・・・そうか。一応理由を聞こうか』
『出世に興味がない自分には向いていません』
●
(人は皆、弱く醜い。だが・・・あの時は・・・少なくともあの時まで・・・他の生物にはないその穢れこそ、尊ぶべきだと思っていたんだ!)
椅子が宙に乱雑に舞う中で日車は処刑人の剣を振るい、悠仁に斬撃を放つ。だがその場に残っていたのは、悠仁が脱ぎ捨てた高専の制服のみだった。肝心の悠仁は、脱いだ自身のパーカーを手に持って日車の背後に回り込んでいた。日車が振り向いた瞬間に、悠仁はパーカーを彼に向けて投げ放つ。日車は彼が放ったパーカーを振り払い、処刑人の剣を構えて接近する。対する悠仁も迎え撃つために拳を構える。
(なぜだ⁉虎杖悠仁!何故罪を認めた⁉)
ジャッジマンから提出された証拠は開封前から術師本人には共有される。ゆえに知っているのだ。渋谷事変の大量殺人、その真の犯人を。
(提出された証拠は・・・君の中に巣くう悪魔、宿儺について!お前は殺してない!何故だ⁉何故・・・!!)
悠仁の間合いまで接近した日車は処刑人の剣を振るい、彼に斬撃を放とうとする。悠仁自身も拳に力を込め、日車に向かって拳を放とうとする。
「・・・っ!!」
そんな彼の真っ直ぐな表情を見て、日車はたじろぐ。そしてなんとあろうことか自身の術式を解除して、処刑人の剣を自ら消した。
「「!!?」」
日車が自分の術式を解除したことに悠仁とポニィは驚愕の表情を浮かべる。
ドゴォ!!
「ぐお・・・ああああああああ!!」
悠仁の拳をまともにくらった日車は観客席まで吹っ飛ばされる。
「お・・・おい・・・」
「日車、あんた・・・」
日車の放つ一撃は間違いなく悠仁に直撃できる間合いだった。それなのにその直前で術式を解いたことに日車もポニィも戸惑いを見せる。
「刑法39条一項だ」
「「!」」
「面識能力と制御能力・・・いずれかが欠けていると、心神喪失となる。渋谷での君は、宿儺に肉体を乗っ取られていた」
「!!?」
刑法39条一項の詳細を述べる日車の口から宿儺の名が出てきて、ポニィはまたも驚愕する。
「なんで宿儺のこと・・・」
驚く悠仁の疑問に答えず、日車は話し続ける。
「つまり制御能力がなかった。自発的に制御能力を放棄したわけでもない。つまり・・・無罪だ。君に罪はない」
ジャッジマンは無情にも有罪を下したが、日車は無罪であると断言し、悠仁には何の罪もないと主張する。そんな中でポニィは宿儺という名を聞いて、悠仁に顔を向ける。
(宿儺って・・・あの両面宿儺のことよね?それが虎杖の中にいるってことは・・・虎杖は宿儺の器⁉)
呪術師をやっているならば宿儺の名を知らぬ者はいない。元呪術師であったポニィも当然宿儺のことは知っている。宿儺を受肉した者が死刑になることも。だが悠仁はこうして生きていて、高専の生徒になっている。そのことからポニィは悟が招き入れたのだと予想する。
(多分五条の仕業ね。あいつならやりかねない。でも、宿儺の仕業とはいえ、大量殺人を犯したんだ。ただでは済まないはず。ということは虎杖は・・・高専から命を狙われてる⁉)
高専の内部情報も悠仁の事情も何1つ知らないポニィはわけがわからなくなり、混乱している。ただ1つだけ、ハッキリとわかっていることがある。
「・・・でもやっぱり・・・俺のせいだ。俺が弱いせいだ・・・」
それは悠仁は根っからの善人・・・人を傷つけるような罪を犯すような人間ではないということだ。だからこそポニィは、悠仁を咎人だとは認めてはいない。
「・・・本当に弱い人間は、他人の罪を進んで被ろうとはしないわ」
「!」
自分は弱いと主張する悠仁にポニィが物申す。
「本当に弱い人間っていうのは・・・私みたいな奴のことを言うのよ。私は弱い。弱いから・・・呪術師を辞めた」
そう言ってポニィは、自分が呪術師を辞めた経緯を語り始める。
●
今より10年前、高専を卒業した後の頃。ポニィは変わらずに高専所属の1人の呪術師として
そんな中で、術師失踪事件が起こり始めた。当時のこの頃はまだ犯人の目星もつかなかった状態だ。この事件の調査を請け負ったのが、高専を卒業して半年くらい経ったポニィたち3人であった。最初の事件の現場に到着した3人はまず残穢の調査を行う。
「どうかな、グリーン君?」
「ダメだ、残ってる残穢は呪具のものだけで、肝心の犯人の残穢は消えている。ただ、残穢はこの先に続いている。そこまで距離は長くないから、辿ってみよう」
「わかったわ。少しでも犯人の痕跡が残っていればいいけど・・・」
3人は廃墟に続いている残穢を追って中へと入っていく。
「呪具を使用してるってことは、やっぱり犯人は呪詛師かな」
「どうかな。過去の記録では、『黒沐死』というゴキブリ呪霊が呪具を所持してるらしいからね。そういう呪具を使用する呪霊がもしかしたらいるのかもしれない」
「ひぇっ・・・ゴキブリ・・・」
「で、でも、そうだとしたらこの案件って特級案件じゃない?呪具を使用する個体なんて見たことないし・・・」
「あくまで可能性の話だよ。そうと決まったわけじゃない」
事件の犯人について話し合っている間にも3人は廃墟の最奥まで辿り着いた。だが、肝心の残穢はここで途切れており、術師の影は1つも見当たらない。
「残穢はここまでのようだね」
「ここは完全に外れかしら」
「そうなるね・・・仕方ない。次の現場に・・・」
何の収穫も得られず、次の現場へと向かおうとしたその時、こちらを除いている呪力の気配複数感じ取った。3人がそちらに視線を向けてみると、数多くの呪霊が壁をすり抜けて現れる。
「呪霊・・・!」
「でも、3級ばっかり!この程度なら朝飯前でしょ!」
「うん!早く片付けよう!」
この時期の3人はまだ術式に目覚めてはいない。だが3級レベルの呪霊など今さら敵ではないため、3人はそれぞれ持っていた呪具で呪霊を蹴散らすのであった。
●
数分も経たないうちに集まってきた呪霊は全滅した。だが、3人の警戒は解いていない。
「・・・
「・・・うん。誰かこっちに近づいてきてる」
「2人とも、警戒を緩めずに」
こちらに近づいてきている気配に勘づいている3人はいつでも攻撃できるように、呪具を用いて攻撃態勢に入り、警戒を強める。気配がする方角に注目を集めていると、陰の中より、1人の人物が姿を現す。その人物を見た3人は信じられないような表情を浮かべる。
「・・・・・・嘘・・・」
「まさか・・・本当に・・・?」
特に
「・・・3人とも、久しぶりね」
現れた人物はクスリと笑い、3人との再会の言葉を述べる。ただグリーンは感じ取っていた。その人物から漂う不気味な雰囲気を。
「バカな・・・こんなことはありえない・・・!だって・・・」
「・・・どうしたの、グリーン?まさか私を忘れちゃったのかしら?だとしたら悲しいわね」
その人物は驚くグリーンを嘲笑うかのように冷たい笑みを浮かべ、ゆっくりと歩みを進め、その全貌を現す。
「子供の頃からずっと一緒だったのに」
姿を現した人物とは、すでのこの世を去ったはずの仲間・・・苦楽を共にしてきた家族の1人である女性、六道コルネリアであった。だがこのコルネリアは本人ではない。その証拠として・・・彼女の額には縫い目の跡あったのだ。
これが現す意味・・・彼女の正体は彼女の体を乗っとった術師、羂索なのである。
●
「・・・う・・・うぅん・・・」
3人が目を覚まし、その視界に映ったのは見覚えのある天井であった。ここは高専の医務室である。
「ここは・・・医務室・・・?」
「私たち・・・いったい何を・・・」
3人はゆっくりと起き上がり、何があったのか思い出そうとする。
「おお、起きたかお前ら」
3人が起きたことで、安心した声をあげる者がいた。3人が振り向くとそこには首元にスカーフを撒き、髭を生やした長髪の金髪の男だ。
「親父・・・」
「「お父さん・・・?」」
この男の名は六道
「何があったか覚えているか?」
「えっと・・・確か、失踪事件の調査任務で・・・そこで・・・誰かと会ったような・・・」
「そいつはどんな姿をしていた?」
「それが・・・思い出せないの・・・
「ごめんなさい・・・私も覚えてなくて・・・」
「僕もだ・・・まるで、記憶に靄がかかったみたいにあやふやで・・・」
3人は当時のことを思い出そうとするが、あの場で誰と会ったのかまでは覚えていない様子だ。どうやら羂索は自分の足が付かないように、何らかの方法で自分に関わる記憶を消したようだ。
「・・・まぁ、思い出せないならそれでもいい。呪術師やってるならそういうことだって稀にある。今はお前らが無事だったことを喜ぶべきだな」
「「お父さん・・・」」
本当は3人が会った人物のことを聞き出したかったが、既に細工されて思い出せないのなら仕方ないと割り切り、
「しばらくは安静にしていろ。自分の怪我を治すことも呪術師の仕事だからな。怪我が完治したら、またバリバリと働いてもらうからな」
「うん」
「よーし、いい子だ」
素直に返事をする
●
3人のお見舞いを終えた
「お疲れ様です。娘さんたちのお見舞いですか?」
「ま、父親としてこれくらいはな」
「はは、
硝子と軽い雑談をしたところで、
「・・・で?どうなんだ?怪我は治せるのか」
「怪我の方は治せますよ。ただ一点、気になることが」
「なんだ?言ってみろ」
「検査してわかったんですけど、3人とも術式かなんかで脳がいじられてる形跡があるんですよ」
「何?」
「命に係わるほどのものじゃないんですけどね。でもこの形跡は未だに眠ってる御宅のナハシュと、各地で眠ってる被呪者とほぼ同一のものです」
「・・・あいつらもいずれナハシュみてぇになっちまう・・・そう言いてぇのか?」
「それは断言はできませんけど、何らかの呪いに蝕まれてるのは間違いないですね」
(その呪いをかけた奴に問い詰めれば手っ取り早いんだが・・・関わった痕跡を消すほどの周到な奴だ。簡単にいかねぇわな)
硝子の話に
「・・・とにかく、その呪いはあいつら戦線復帰に影響はないとみていいんだな?」
「現時点では、ですけどね」
「それだけわかりゃ充分だ。俺もあいつらを気にかけておく。お前も引き続き、あいつらの面倒を見てやってくれ」
「もちろん。それが私の仕事ですし」
●
その数日後、3人の怪我は治り、復帰することができたが、ポニィの方は少し問題が発生した。その問題というのは、彼女の動きだ。
(・・・前より身体が動かなくなってるわ・・・!)
怪我の後遺症なのか、特訓中の彼女の動きのキレが学生時代の頃と比べても数段落ちており、ちょっとした蹴りの連撃を放つだけでも息が上がるほどであった。それだけではない。
「・・・ヨクトボトムス!」
ポニィは布の呪具、ヨクトボトムスを使って、加速力を使って走り出す。しかし・・・
ぐらっ!
「うわっ⁉」
ヨクトボトムスの加速力についてこれず、ポニィは体勢を崩し、1回転して転んで背中から壁に衝突してしまう。
「いっつつ・・・くそ・・・」
自分の身体が呪具の能力についてこれなくなってしまった事態にポニィは毒づいている。起き上がろうとした時、1人の男が彼女の顔を覗き込む。
「や、ポニィ、お疲れサマンサー!」
自分の目の前に現れた目元を包帯で覆った銀髪の男にポニィは怪訝な顔をする。
「・・・誰?」
「やだなぁ、僕だよ僕。忘れちゃったの?このグッドルッキングガイを」
男は包帯を解いて自分の素顔を晒した。その顔を見た瞬間、怪訝な顔からすごく嫌そうな顔に変わる。
「・・・私をからかいに来たの?五条」
「冷たい反応だねー。久しぶりに会ったんだから、もうちょっと嬉しそうな顔してもいいでしょー?」
「おあいにく様、私はろくでなしと会いたくなかったわ」
「ひどっ」
ポニィの悪態に対して銀髪の男、悟は包帯を巻きなおし、再び目隠しをする。
「それでなんか用?世間話に来たんじゃないでしょ」
「うん。まぁね。ちょっと君に言いたいことがあってさ」
「言いたいこと?」
ポニィの疑問に対し、悟は先ほどまでののほほんとした態度から一変して、真顔で本題に入る。
「ポニィ。お前、術師辞めろ。もう何の役にも立たねぇから」
「・・・はあ?」
呪術師を辞めろと言われて当然納得するわけがないポニィは悟の発言に対して睨みを利かせる。
「なんでそんなこと・・・」
「だってお前、弱くなってるだろ。見なくてもわかる」
「・・・っ!」
的を射るように痛いところを突かれてしまったポニィは唇を嚙みしめる。
「そうでなくてもお前イカレてねぇじゃん。ただ
「・・・っ」
「自分の身の振り方はしっかり考えた方がいいんじゃない?じゃないとさぁ・・・このまま呪術師続けたって、早死にするだけだよ」
冷たい声質で淡々と述べられる悟の言葉にポニィは何も言い返せず、悔しさで拳を握りしめる。
「・・・なんてね!さ、新入生の顔合わせにでも行くとするかな。ポニィも明日任務でしょ。がんばりなよ・・・死なない程度に、ね」
普段通りの口調に戻った悟はポニィに向けてひらひらと手を振り、最後にニヒルな笑みを浮かべた後に去っていった。一方で、悟の指摘で自分が弱くなっていると改めて悟ったポニィは影を差し・・・自分が呪術師として志す理由を、見失ってしまった。
●
弱くなって役に立たなくなっている。
そんなこと、五条に言われなくても私自身が1番わかってるんだ。そして、みんなの中で私が1番呪術師に向いていないことも。事実、呪力総量は私の方が1番少ないしね。そして呪術師も私が思い描いていた正義の味方とは最もかけ離れたものであることも。非術師を守るって聞こえはいいけど、それが悪人であっても守らなくちゃいけない。
呪術界が最も重視しているのは呪術界の規律と秩序。非術師の善悪なんて、上にとっては知ったことじゃない。五条の言うとおり、上が腐りきってることなんてとっくに気づいてる。
だけど私は・・・私たちはお父さんに拾われて、呪術師として今まで育てられて今日まで生きてきた。そして自分たちは呪術師として生きることが全てだと疑わなかった。その全てがなくなったら・・・私は何のために生きてきた?何のために・・・誰の為に生きればいいの?
いや・・・そもそも弱くなった私に価値なんてあるの?弱くなった呪術師は、本当に呪術師と呼べるの?
私は・・・何のために呪術をやってる?
わからない。何もかも。私は何のために・・・何で呪術師であり続けなければならないんだろう?
ねぇ・・・私はどうすればいいの?教えてよ・・・
コル姉・・・
ナハシュ・・・
●
それから1週間が経ち、ポニィは1人、自分の呪術師としての存在意義を見失いかけて黄昏ていた。自分は呪術師を続けるべきなのか。呪術師を辞めたところで自分は何のために生きればいいのか。そればかりが頭に浮かび上がり、ポニィはため息をこぼす。
「はぁ・・・」
頭を悩ませるポニィの前に、偶然仕事で通りがかった伊地知と顔を合わせる。
「あ、ポニィさん。お疲れ様です」
「・・・伊地知・・・」
「・・・あの・・・ポニィさん?どうしましたか?どこか体調が優れないのですか?」
元気がない様子のポニィを見て、伊地知はどうしたのか顔色を窺っている。
「・・・伊地知、ちょっと質問していいかしら?」
「ええ。なんでしょう?」
「伊地知は学生の頃、術師志望だったでしょ?なんで補助監督に転向したの?」
ポニィの質問に対し、伊地知は当時を振り返るように答える。
「そうですね・・・ポニィさんの言うとおり、私は元は術師を志望していました。でもね、五条さんにハッキリと言われたのです。『術師辞めろ。クソの役にも立たねえから』と」
「自分の後輩にも容赦ないわねあいつ・・・」
「そうですね。でも、その言葉に救われたのも事実です。五条さんがあぁ言ってくれなかったら中途半端な術師になってすぐ死んでいたでしょうからね。新しい道を示してくれた五条さんには、感謝しているんデス」
当時を思い出して笑みを浮かべる伊地知に対し、ポニィは羨むような小さな笑みを浮かべる。
「・・・羨ましいわね。私の周りには、そんなことを言ってくれる奴なんて誰もいなかったわ。みんな、呪術師になるのが当たり前って奴ばかりだったから。・・・いっそのこと、役立たずと言われて捨ててくれた方が、何倍も気が楽なのかもしれないわね・・・」
「ポニィさん・・・」
現在のポニィの現状について伊地知は悟から聞かされて知っている。自分と似た境遇にあっている彼女に対し、シンパシーを感じている。しかし何と声をかければいいかわからず、伊地知は困った様子である。
「自らをそう卑下なさるのはおやめください」
するとそこへ、第三者の声が会話に割って入ってきた。2人がそこに視線を向けてみると、そこには美しい銀髪の長い髪を持った男性が数名の男を引き連れて立っていた。
「誰?」
「きょ、教主様⁉」
「教主様?」
「はい。この方は安寧道教主様です」
「!安寧道って・・・盤星教と同じ天元様を崇拝している宗教団体の?」
「はい。時々は街周辺の様子を見て回ってたり、こうして高専の方々に話を伺いに来たりします」
安寧道。盤星教と同様、天元を崇拝している宗教団体だ。ただこちらの場合、盤星教のような悪い噂は聞かず、善行の積み重ねが、幸せや長寿につながると教えを説いている。
「伊地知さん。本日の学長さんの対談の予定ですが・・・」
「予定の時刻より余裕があります。お望みであれば、予定時間まで席を外しますが」
「はい。ありがとうございます」
「では、ごゆっくり」
教主の意向に従い、伊地知と教主の護衛の男たちは一礼してその場から席を外した。残ったのは教主とポニィのみだ。
「さて、私には見えます。あなたはいずれ、世界を震わせる偉業に立ち合う姿が。しかし、どうやらあなたには何かお悩みがあるようですね。私でよろしければ、お話を伺いますよ。お話を聞くことしかできませんが、微力ながらあなたのお力添えになりましょう」
「わざわざありがとう。でも、そんな大した悩みじゃないから・・・」
「悩みに大きいも小さいもありません。困っている方がいれば手を差し伸べる。私の性分です」
「・・・じゃあ・・・ちょっとだけ聞いてくれるかしら?」
「はい。ぜひ」
にっこりと微笑む教主の善意に甘え、ポニィは自身が抱えている悩みを打ち明ける。
「高専に来てるってことは、教主様は呪術師の存在を知っているのよね?」
「ええ」
「私も、その呪術師なんだけど・・・最近、自分の力が弱くなって、呪術師としての価値観が見出せなくなってしまっているの」
「ほう」
「中途半端な術師はいずれ死ぬ。それはわかってる。でも、私は今まで呪術師であり続けるべきと、そう考えて生きてきた。呪術師じゃなくなったら・・・私は私じゃなくなってしまう。そんな気がしてならないの。それでなくても、呪術師は時には非術師の悪党も守らないといけない時もある。けどかといって見殺しにすれば、私たちも悪党と何も変わらない。術師としての存在意義。術師の存在意義。この2つが板挟みになってしまって・・・私は何がしたくて、何を目的に術師として戦うのか・・・私の本当の望みが、わからなくなってしまったの・・・」
悩みを打ち明け、顔を項垂れているポニィに教主は口を開く。
「・・・差し出がましいことを承知で意見を述べさせていただきます。あなたは非術師であったならばと考えたことはありますか?」
「え?」
「呪術師としての自分は、数多ある可能性の1つにすぎません。術師が呪いを祓う意味、非術師の役目、そしてあなたの見る世界。あなたの見る世界を少しばかり広げてみたら、何か得るものがあるかもしれません。私から見れば、あなたは呪術師に囚われすぎて、少し窮屈そうだ」
「・・・自分が・・・非術師だったなら・・・」
教主からの助言に対して、ポニィは真剣に考える素振りを見せる。すると、席を外していた伊地知が戻ってきた。
「教主様、学長がお見えになられました」
「わかりました。すぐに向かいましょう」
教主はすっと立ち上がり、ポニィに顔を向け、にっこりと微笑む。
「では、私はこれで失礼します。また何か困りごとがありましたら、ぜひ安寧道にお越しください。いつでも相談にのりますよ」
教主はそう言ってポニィに向けて礼儀正しくお辞儀し、応接室へと向かうのであった。
●
それから1週間の時が過ぎた。相も変わらず力が戻らないポニィは休日にただ1人街の中を歩いている。そんな中で彼女は歩きながら街中を歩く数多くの人間を観察している。
「私が非術師だったら・・・か・・・」
考えてみれば、ポニィは今まで非術師がいったい何をしているのかということを具体的に考えたことはなかった。人々を助けるのは呪術師の役目であるとずっと信じてきて、難しいことを考えなかったからだ。だが教主に指摘され、非術師とは何かと考えるようになり、こうして街に出て非術師の観察しているのだ。
「こうして見てみると、私たちと何にも変わらないわね・・・」
ポニィが歩道橋に上がろうとした時、重い荷物を持って上がろうとする老婆の姿を目撃する。高齢者が重いものを持って上に上がるのは大変だろう。そう思い、ポニィは老婆に近づく。
「おばあちゃん、よかったら荷物、運んであげようか?」
「おや、いいのかい?」
「任せて!こう見えても私、鍛えてるんで!」
そう言ってポニィは老婆の荷物を持って、老婆と共に歩道橋を渡っていく。
「助かるねぇ。どうも腰が痛くて・・・」
「なんのなんの!困ってたらお互い様よ!」
「ありがとう。優しいのねぇ」
何の変哲もないただの人助けによるお礼の言葉。その一言だけでも、今のポニィにとっては、心が洗われる気分になった。
その後でも・・・
「てめぇ何しやがる!」
「てめぇこそ!」
「こらぁ!そこ、喧嘩しない!ストップ、ストーップ!」
大の大人たちのみっともない喧嘩の仲裁をしたり・・・
キキーッ!
「危ない!」
信号無視して車道に出た子供が車に轢かれる前に助けたり。
数多くのトラブルを発見し、その度に手を貸し、一般人を助け続けた。そうしているうちに、あっという間に日が暮れてしまった。
「はぁ・・・今日はトラブルの連続で全然気が休まらなかったわ・・・でも・・・嫌な気分じゃない」
弱くてもこんなに人の役に立てるなんて。
強くなきゃ人の役に立てないとずっと思いこんでいたが、いざこうして人助けをしてみると、人々の役に立てることがこんなにもあるとは思わなかったポニィは、気落ちしていた気分が一気に洗い流されるような気持ちになる。すると・・・
「きゃー!!ひったくりー!!」
一般人の女性がバイクに乗る男からひったくりにあい、叫び声をあげる。
「!私に任せて!」
それを聞き、その光景を目撃したポニィは女性に荷物を取り戻そうと駆けだす。ポニィの身体能力は呪術師的には弱くなっている。だが、一般人レベルにおいてはとても速く、バイクと追走できるほどである。
「なっ⁉速っ⁉なんだこいつ⁉」
人の足でバイクに追いすがるその事態に驚愕するひったくり犯は捕まるまいとバイクを加速させる。これによってポニィとひったくり犯の距離が遠くなる。
「ヨクトボトムス!」
そこでポニィはヨクトボトムスの能力を使い、自身の速度を上げた。これによって、バイトの距離が一気に縮まった。
「いいいいい⁉」
驚いている間にもひったくり犯はポニィに肩を掴まれ、彼女と共に横転し、バイクから飛び出す。ポニィは地面を転がり、そのままひったくり犯を取り押さえる。
「大人しくしろ!」
●
その後、警察が現場に駆け付け、ひったくり犯を逮捕する。ポニィ自身も、バイクに飛び乗るという危ない行為を犯したために警察からお りを受けていた。
「ひったくり犯の確保の協力には感謝するが、今後このようなことはないように」
「はい、すみませんでした・・・」
「では、私はこれにて」
警察官はポニィに敬礼を送った後、ひったくり犯を乗せたパトカーに乗り、警察本部へ帰還するのであった。
「あの!」
するとそこへ、ひったくりにあった被害者の女性がポニィに声をかけてきた。
「ありがとうございました!この恩は一生忘れません!」
女性は頭を下げてポニィに感謝の言葉を述べて、去っていった。これまでの活動を振り返って、ポニィはわかったことがある。
(呪いは術師しか祓えないけど、日常の事件には干渉できない。でも、非術師は呪いは祓えないけど、非術師には非術師にしか解決できない事件を解決する。術師が裏だとすれば、非術師は表。表と裏・・・この2つがあるから、日常は成り立ってるんだ・・・)
正直、それを理解しても、自分が何をしたいのかはわかっていない。だからこそ、その答えを、今から探しに行くのだ。そのためにも、やるべきことがある。ポニィはスマホを取り出し、電話を掛ける。
「もしもし、お父さん。帰ったら話があるの。・・・うん。じゃあ、早く帰るね」
「五条、話があるんだけど・・・ちょっといい?・・・わかったわ。じゃあ外で待って・・・何笑ってんの?」
そうして、ポニィは自分のやりたいことを探すため、呪術師の道を辞め、新たに警察官としての道を歩み始めるのであった。
●
「・・・当時の私の力は、もう呪術師として役に立たなかった。それでなくても私は、自分の出した決断でお父さんやみんなの期待を裏切ってしまった。みんなに合わせる顔がないわ・・・」
悠仁に自分の過去を話したポニィは当時、呪術師を辞めると告げ、
「・・・でも自分の状況を理解してそういう決断を出したんだろ?だったら・・・」
弱くはないと悠仁が口にしようとしたが、ポニィは首を横に振り、否定する。
「弱いわよ。どんな言葉を並べたって、結局は呪術から逃げたってことだもの」
「・・・そうか・・・」
話を聞いていた日車は一言そう呟いた。
日車自身はわかっている。ポニィの言う弱さは、今述べた過去だけではないということを。彼女は述べなかったが、警察という組織の中にも少なからず闇は潜んでいた。その答えを日車は誅伏賜死によって知っている。彼女自身が警察で犯した罪を語らないのは、彼女の中の警察のイメージを壊したくないのだと日車には理解できた。
「・・・六道・・・君にもいろいろ事情があったようだな・・・」
日車はポニィの心情を察し、同情する。
「・・・日車。あんたさっきなんで術式を解いたのよ?」
「・・・・・・・・・初心に還った」
術式を解く理由を日車は間を開けて簡潔に答え、ゆっくりと起き上がる。
「虎杖・・・六道・・・お前たちのような弱さを持つ人間が、まだまだいるのかもしれん」
起き上がった日車は椅子を手に持って会場に移動する。
「虎杖、服を着ろ。2人とも座れ。100点をやる」
100点やるということは、悠仁たちの望むルールを追加することを応じるということだ。2人は近くにあった椅子を手に取って会場に移動し、持ってきた椅子に腰かける。
「・・・虎杖、六道」
「ん?」
「何?」
「自分の意思で人を殺めたことはあるか?」
日車の問いかけに対し、2人は間を開けてから答える。
「「・・・あるよ(わ)」」
「・・・そうか」
日車は初めから呪術師だったわけではないため、2人がどういう経緯で自分の意思で人を殺めたのかはわからない。ただ・・・日車はこの東京第1コロニーに入る前に裁判官と検察官を2人殺しているため、その心の痛みが深く理解できているつもりだ。
「・・・最悪の気分だったろう」
初めのうち、日車は人を殺めたことに対し、気持ちがいいと言っていたが、これが彼自身の本心である。
「・・・コガネ、ルール追加だ。
「・・・承認されました」
日車に憑いていたコガネは姿を現し、日車の100点を消費し、彼が述べたルールを承諾した。
総則10『
「「ホッ・・・」」
新たなに追加されたルールによって殺し合いの強制がなくなった。そのことに安心した悠仁とポニィはほっと息を吐いた。
「コガネ、俺の2点を虎杖と六道ポニィにそれぞれ1点ずつをやってくれ」
「かしこまりました」
日車のコガネが彼の言葉に承諾すると同時に、悠仁とポニィに憑いているコガネがそれぞれ出現し、ポイント譲渡のアナウンスを口にする。
「「日車寛見から1ポイントが譲渡されました」」
「これでお互いに19日間は術式を剥奪されることはない。達者でな」
日車は自分のポイントを全て悠仁とポニィに渡し、この会場を立ち去ろうとすると、悠仁が呼び止める。
「日車!これからどうするつもりだ?あんたさえよければ、俺たちを手伝ってくれないか?」
悠仁からの協力の要請に対し、日車は口を開く。
「・・・余った2点は東京に来る前に俺が殺した裁判官と検事のものだ。結界が開けたら六道、君の元に自首しに行くと約束しよう」
「・・・それは本当のことなんでしょうね?」
「二言はない。それまでは自分が何をするか考える。それに君たちといると、ますます自分を嫌いになりそうだ」
日車は自身を自傷するように悠仁からの協力要請を断った。
「すまない。責めたわけじゃないんだ。・・・またな」
日車は2人に別れを告げて、扉を開けて劇場を去っていった。この場に残ったのは悠仁とポニィの2人だけだ。
「・・・虎杖。詳しい話を聞かせてくれるわよね?ここまでの間、何があったのか」
「・・・ああ」
●
悠仁はこれまでの経緯を全てポニィに話した。自分がどうして宿儺の器になってしまったのか。渋谷事変で起きた出来事を。悟の封印のことを。ここに来るまでの経緯その全てを。
「五条が封印されたなんて・・・信じられないけど・・・私の呪力が大きく膨れ上がったこと、術式が開花したことを考えれば、嘘ではないみたいね」
正直に言えば、情報力が多く、その多くが衝撃的な内容すぎてとてもではないが整理が追い付けていない状況にある。
「正直、理解が追い付いてないけど・・・早い話、死滅回游の平定、それからその獄門疆を開けるために、天使と来栖
「事は一刻を争うんだ。もたもたしてたら、この国の人間が死ぬんだ。俺たちに協力してくれないか?」
「・・・・・・」
悠仁からの協力要請に、ポニィは考える素振りを見せる。
「・・・私がここに来たのは、何も日車の逮捕だけじゃないの。安寧道に預けていた私の仲間、ナハシュを連れ戻すために来たの。あんたたちはナハシュにも協力を求めてるんでしょ?だったら取引といきましょう」
「取引?」
ポニィは自分が悠仁たちに協力に応じるための取引を持ち掛け、その内容を語る。
「私からの条件は2つ。
1、ナハシュを必ず見つけ出すこと。
2、ナハシュに殺し合いを辞めさせること。
この2つをちゃんと守ってくれるのなら、協力すると約束するわ。なんなら縛りにしたっていい」
「?元よりそのつもりだけど・・・それだけでいいの?」
今述べた条件は元より悠仁自身もそうするつもりであったが、あまりにも簡単な縛り内容に拍子抜けしている。
「・・・昔、私はナハシュに命を助けられた。なのにその彼が今、死滅回游に巻き込まれてる。もし操られているのだとしたら・・・私は1秒でも早く助けに行きたい」
ポニィの表情からして、彼女は本気なのだと悠仁には理解できた。目的は同じ。ならば、断る道理はない。
「・・・わかった。その条件、呑むよ」
「取引成立ね」
ポニィの笑みにつられ、悠仁自身も笑みを浮かべ、彼女と握手を交わそうと手を伸ばす。
「・・・でもそれはそれ、これはこれなのよね」
ガシャンッ!
「・・・え?ええっ⁉手錠⁉なんで⁉」
ポニィは手を差し伸べてきた悠仁の手に手錠をかけた。手錠をかけられた悠仁はわけがわからず、動揺したように狼狽えている。
「・・・私が警察官であること、忘れてないわよね?・・・未成年でパチンコ店に行った件」
「・・・あ」
日車の誅伏賜死で挙げられた悠仁のしょうもない微罪。それを今さらながら蒸し返された悠仁は冷や汗をかいている。
「詳しい話が聞きたいから・・・事情聴取、お願いできる?当然、拒否権なんてないから」
ポニィはにっこりと微笑んで、自分の警察手帳を見せて悠仁に事情聴取を迫ろうとしていた。
「あ、はい」
悠仁はこの時、警察に捕まった罪人の気持ちが理解するのであった。