カプセルコーポレーションに入社します! 作:ドッカン太郎
よければご覧ください。
「ここがカプセルコーポレーションの試験会場か……」
俺は受験票を握りしめながら、周りの人に聞こえないようにつぶやく。ちょっときつめにネクタイを締め、群青色のスーツに身を包んだこの姿が、齢22歳の身の丈に合っていない気もするが、雑念を振り払うべく首を横に振る。
俺が今目の前にしているのは、世界的な大企業のカプセルコーポレーションの試験会場。本社ではなく、西の都の民間の別のビルの会議室で筆記試験を行うのだが、この筆記試験に臨むのだって、とんでもない倍率の書類選考を突破しなければいけないのだ。そんな試験に合格できたこの奇跡を無駄には絶対にしない。そう誓って俺は、血がにじむくらい強く受験票を握りしめ、試験会場のビルに入る。
受験票に記載されている会議室に向かい、指定された席に座る。すでにタブレット端末とタッチペンが机に置かれており、これで問題を解くようだ。ほかの企業の試験も受けに行ったが、紙で実施している会社もちらほらあった。やはり、この辺からして次元が違う。
時計を見ると試験開始までまだ10分ほど時間があった。トイレも済ませて置いたし、このままおとなしく待とうと腕を組んだその時、そばで何かが落ちた音がした。
「あっ」
隣の席の女の声だった。床を見ると、どうやら少し古そうな時計が落ちていた。おそらく試験で時間を把握するために持ち込んだのであろうが、大体タブレット端末に時間表示はされているし、そもそも会議室内にも時計がある。わざわざ荷物を増やす意味はあるのだろうかと思いはしたが、俺はとりあえず手を伸ばし、その時計を拾い、隣の席の女に渡した。
「落としましたよ」
「ありがとうございますっ」
俺から時計を受け取った女はすぐに時計を触り、傷がないかどうか確かめていた。よほど大事なもののようだったようで、傷がないとわかったときは安堵した表情を見せていた。
「その時計、お気に入りなんですか?」
「そうなんです。これ、おじいちゃんからもらったもので、大事な時にはずっとつけてるんです。っていってもタブレットに時間は書いてあるんですけどね」
照れながら、女は時計を机の上に再度置き直す。三つ編みのツインテールの茶髪で、そばかすが少しだけ見えて、素朴な田舎娘という印象だった。
「今日はどちらからいらしたんですか?」
なんでこんな時に雑談なんかしようとしているんだ俺と心の中で突っ込んでいたが、リラックスするためだと無理やり割り切る。
「チャズケ村からです。田舎ですよ」
「ああ、あそこですか。自然が豊かでコショウが名産だって聞いたことあります」
チャズケ村といえば、相当な田舎だ。しかし、そんな田舎からでもこのカプセルコーポレーションの入社試験に臨めるのだから、能力はかなり高いはずだ。
「あの、お名前はなんていうんですか? 私はライムです」
「俺はベンって言います。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします。では、お互い頑張りましょう」
そうですねと返して、俺は正面を向き、それからは会話がなくなった。ライムさんと話してだいぶリラックスできたから、うまくいきそうだ。
しばらくして試験官ロボットが登場し、受験生向けのアナウンスがあった。まず、カンニングや不正行為、受験問題をSNSに掲載・共有等は禁止と告げられ、次に試験のスケジュールが説明された。そして試験開始の合図が試験官ロボットから発せられた瞬間、俺はタブレットペンを手に取った。
問題数は全100問で、あらゆる科目の問題がある。しかもざっと問題を見た限り、どれも手ごわそうだ。そしてそれを4時間で解き切る必要がある。正直かなりハードだが、やりきるしかない。なんせ世界最大規模の企業の入社試験だ、多分今日ここにいるような連中は、100問解き切ることなど当たり前にこなすはずだろう。
もちろん俺とて何の対策もせずにここにいるわけではない。カプセルコーポレーションの入社試験の問題は非公開で、事前に情報はゲットできなかったが、あらゆる大手企業の問題を事前にリサーチし、傾向を掴んでおいている。大体大手企業は、問題作成にそこまでの時間を割いておらず、企業の試験問題作成を業者に委託している場合が多い。だからこそ、同規模クラスの企業の過去問を解いておけば、ある程度は対応できるはずだ。
果たしてカプセルコーポレーションも一部業者に問題を委託しているようで、ほかの企業で見たことのある問題がちらほらと見受けられた。そのおかげで好調なペースで問題を捌くことができ、試験時間が3時間半が過ぎた段階で、わずかに1問程度残すほどになった。
これなら余裕だと思い、最後の1問を確認する。しかし、問題文を見た瞬間、俺は大いに困惑した。
『100.ここまでお疲れさまでした。最後の問題です。セルゲーム事件について、添付された資料を基に、誰が倒したか答えてください。』
なぜ最終問題でこんなサービス問題を出したのか。
こんなの決まっている。ミスター・サタンがセルを倒し、変な連中がトリック合戦をしている間にサタンがビシッと倒したのだ。そんなのは誰もが知っている話で、今更聞かれることはない。
まあとはいえ、こんな常識を聞いてくれるのはありがたい。しかもねぎらいの言葉もある。とっとと書いて、さっさと見直しに移ろうとペンを握りしめる。
――本当に、サービス問題か。
ミスター・サタンと書こうとした手が止まる。
途中まで、ライム含めた周りの優秀な受験生が頭を抱えるほどの過酷なほどの問題を出した企業が、最後にこんな問題を出すだろうか。仮に誰もが知っているサービス問題を出したとして、企業側にメリットはあるのか。しかもご丁寧に、お礼なんぞ問題文で書くのか。
これは、何か試されているんじゃないのか。そう思い、俺は添付の資料ファイルに目を落とす。ファイルは3つあり、どちらも新聞記事だった。一つは、セルゲーム開催及びミスターサタンの参加表明の記事で、もう一つはミスターサタンが世界を救い、国王から栄誉賞を授与した記事、最後は動画ファイルだが当時セルゲームを中継したZTVの10分間の映像だった。
とりあえずさっと目を通せる新聞記事から見ていく。かつてない脅威に対抗出来る戦士の参戦を喜ぶ内容であり、これ自体は周知の事実だった。サタンの参加表明の記事には、あわせて国王のコメントが次のように掲載されていた。
『ピッコロ大魔王をはるかに超えうる脅威が地球に迫っている。格闘技世界チャンピオンのミスターサタンの参戦報告で幾分安心したが、私個人としては、念には念をという気持ちでいる。もちろん彼も頼もしい存在だが、何しろ相手は街をあっという間に破壊できる存在だ。そんな存在に対して、一人の人間で太刀打ちできるのかと心配してはいる。彼自身は、数々の試合でたくさんの奇跡を現実にしてくれた男ではあるが、地球の運命がかかっている試合において、保険を何重にも駆けることは損ではないはずだ。だから私はかつてピッコロ大魔王を倒してくれた勇敢な少年のような存在を探し続けている。これを見てくれた彼、もしくは彼の意思を継いだものが、セルゲームに降り立ち、ミスターサタンと共に悪を倒してほしい』
(なんだこれ……国王はミスター・サタンの参戦を不安視していた……?)
あの時の周囲の反応は、子供心に覚えている。当時15歳だったが、周りではサタンの参戦を大人や子供含めてみんな喜んでいた。なにしろ彼はお茶の間をにぎわせた最高のヒーローだった。だからこそ、彼がセルと戦うのは何にも違和感がなかったし、セルを倒したのだって、不思議じゃなかった。
俺は確認のため、サタンがセルを倒したときの新聞記事を見る。そこには、「謎の集団とセルがトリック合戦を行い、そしてその集団の中の金髪の胴着を着た青年が、セルゲームに迷い込んだ弁当売りの少年を戦いに出そうとしたことにサタンが憤慨し、セルを殴り倒した」と記載されている。そして、金髪の青年たちがずらっと並んでいる写真も併せて掲載されている。おそらく彼らが、ミスターサタンを邪魔していたと報道されていた連中だろう。だが――ここで一つ疑問が生じた。
(こいつらがセルに対してトリックとかを使っていたのなら、何故セルはわざわざトリックに付き合ったんだ?)
セルは、数々の人々を殺害し、国有軍をも壊滅させた怪物だ。そんな容赦のない存在が、わざわざトリックに付き合ったりするのだろうか。セルは理解不能な怪物だからそんなこともあるだろと歴史の先生が言っていたが、冷静に考えたら変だ。そんなふざけたことをしても、セルに無残に殺されるだけだ。
ということは、トリックなんて、彼らは使っていない。ちゃんと戦ってたんだ。俺は、最後の動画ファイルデータを開く。今から8年前のエイジ767年5月12日、セルゲーム開催当日の映像だ。冒頭では、ZTVのアナウンサーがセルゲーム会場に到着し、出場選手たちにインタビューをしていた。しかし、ボディプロテクターを着用している逆立った黒髪の男からは、「消えろ、二度と俺には話しかけるな」と言われたり、茶髪の大男は返答すらしなかった。もう少し動画を進めると、金髪の逆立った胴着の男からは、ミスターサタンが挑もうとする際に、「おめえ殺されっぞ、悪いことは言わないからやめとけ」と忠告をしてアナウンサーやサタンから失笑されていた。やがてサタンが足を滑らせて敗北し、もう一度戦うとアナウンサーに返答していた。
『あいつ、まだレベルの違いに気づいていないのか……バカの世界チャンピオンだ』
その時、小さいが、そんな風に言っている男の声がした。俺はそこだけ巻き戻し、もう一度確認する。今度は、確かにはっきり聞こえた。間違いなく、あの場にいる誰かがそう言っているのだ。
俺は、何か気づいてはいけないことに気づいてしまった気がする。そう思いながらも、好奇心に身を任せて動画を進めていく。もはや俺は試験であることを忘れ、ただただ見つかるかもしれない新事実に心を震わせていた。
その後、金髪の胴着の男がセルゲームのリングに上がった。そしてセルに向かってとびかかり、その刹那、二人は姿を消していた。アナウンサーが消えてしまったと驚愕に満ちた声を上げ、カメラも彼らの行方を追えていない。その後カメラが上空に切り替わると、二人の姿が見えた。空中で浮きながら、二人が殴りあっているようにしか見えない。ワイヤーでも使っているのかと思いたいが、ワイヤーを吊り下げる舞台装置も何もない。そして空中に自在に動き回り、二人が激突するたびに、カメラが揺れている。まるで、鉄球が自在に飛び回りながらぶつかり合っているようだ。そして、手から光るロケットのようなものを互いが撃ち合う。両者がぶつかり合った瞬間、爆発が起こって、映像が終わってしまった。
もしこれがトリックでなければ、これはもはや、人間の領域をはるかに超えている。ヒーローであるサタンも所詮は人間、彼らの領域には届かない。そんな力があれば、とっくに先ほどの試合で使っている。
俺は手からタッチペンを落としてしまい、慌てて試験官ロボットを呼ぶ。試験官ロボットがどうぞと渡してくれたが、お礼すらも言えなかった。セルを倒したのは、セルじゃない。あの金髪の青年だったのだ。
残り時間は1分。回答を書かなくてはいけない。俺は、震える手でペンを握りしめ、回答用紙に答えを記入した。
(『セルを倒した人物は、金髪の胴着を着た青年である』……と)
この選択でよかったのだろうか。
迷いはある。サタンと書くのが正解なのはわかっている。けれど、それは本当に正解なのか。会社説明会でもブルマ社長が言っていた。世の中、摩訶不思議なことでいっぱいなのだから、常識を疑えと。だったら、その通りにしてみる。仮にダメだったら、その時はその時だ……!
だが、見直しに入ろうと急いでほかのページをチェックしようとした直後、試験官ロボットが終了の合図を告げた。試験問題を表示していたページが一瞬でブラックアウトし、終了の二文字が出てくる。見直しができず、最終問題で時間をかけすぎたことを後悔し、俺は周りに聞こえないように小声で毒づいた。
試験官ロボットから帰って良しと告げられたので、周りが続々と帰り始める。
「マジで問題むずかったなあ」
「それな。まあでも最後のサービス問題マジでありがたかったぜ」
「あれサタンって書くだけだったからな。他に時間使えたのデカかったわ」
これは終わってしまったかもしれない。きっとこの会社には行けないのだろう。やはり、最終問題は深く考えずにサタンと答え、ほかの問題をケアするべきだった。ほかの会社の選考ではこういうミスをしないように気を付けようと誓い、俺も席を立とうとした。
「あのっ、ベンさん。試験、どうでした?」
隣の席に座っていたライムさんが不安そうに声をかけてきた。ああ、きっと俺と同じようにうまくいかなかったんだろうな。
「時間が足りなくて、見直しできませんでした……これは多分落ちましたよ」
「私もなんです……問題が難しすぎて、なんとか終わらせたって感じで……」
多分この人は、ちゃんと最終問題をサタンって書いたんだけど、ほかが難しすぎたって感じなんだ。俺はまあ道中の問題は対策してたから解けたけど、最後のサービス問題を落としてしまったのはデカすぎる。さすがにそんなことは恥ずかしくて、ライムさんには言えない。
「ベンさん、よければ一緒に駅まで帰りませんか?」
「いいですよ」
俺たちは一緒に席を立ち、駅までの道を共にする。ほかの受験生たちよりかはちょっと遅れて出たため、周りにあまり人はいない。何も話題がないのはつまらないので、俺から適当に話を振ってみる。
「ライムさん、大学はこの辺なんですか?」
「そうです。もともと父が技術者だったので、私も開発とか技術系の勉強がしたいと思って、都会に出ました。今は一人暮らしです。ベンさんは、西の都出身ですよね?」
「いや、俺は北の都出身です」
「どっちにしても都会人ですね……あ、もう駅つきました」
そんな話をしていると駅までついた。線路はもはや存在しておらず、電車も反重力装置で空中を移動するのだ。衝突しそうになっても、自動で回避してくれるので事故も起きにくく、必ず定刻通りにつく。これもカプセルコーポレーションが開発しており、俺はいけなくなるかもしれないと思い起こして落ち込んでしまうが、なんとか表情を隠す。
「ベンさん、とりあえず今は3日後に来る結果を信じて待ちましょう。せっかくあった縁ですし、連絡先を交換しませんか?」
「いいですよ。就活生なので情報交換とかしたいですしね」
俺は正直女子とあまり関わりがないので、少しうれしかったが、正直ライムさんにその気はないだろう。携帯端末を開き、メッセージアプリを開こうとしたその時、一通のメールが届いた。送り主は、カプセルコーポレーション社長秘書室だった。
「えっ、なんでカプセルコーポレーションから?」
「え、ライムさんも?」
「そ、そうです、突然メールが来て……」
全く同じタイミングで二人にメールが届いた。おそらく先ほどの試験官ロボットが伝えた、今後の選考に関する備忘アナウンスなのかもしれない。だが、件名は『社長面接のお知らせ』と書いてあった。
「……ってことは俺たち、筆記は合格ってことですか?」
「そういうこと、ですよね……?」
「そういうことでいいんですよね……!」
それに気づいた時、俺たちは瞬時に抱き合って、やったーと叫んだ。しかし、ライムさんの体の柔らかい感触に気づき、俺はすぐに彼女の体を離す。彼女もまた、赤面させながらごめんなさいと謝っていた。
「お、俺の方こそすみません! とりあえずメール、見ましょうか」
「そ、そうですね!」
俺たちは逸る気持ちでメール本文を見るべく開く。メールには以下の文面が書いてあった。
「ベン様
本日は筆記試験を受験いただきまして、ありがとうございました。
選考の結果、ベン様には是非社長面接に進んでいただきたく、ご連絡いたしました。
つきましては、以下の日時で実施させていただきたく存じます。
5月12日 15:00~
カプセルコーポレーション本社
住所:西の都△△―〇〇―■
ご返事いただけましたら、こちらで日程を確定させていただきます。
ご都合が合わない場合は、別途ご連絡いただけますと幸いです。
よろしくお願いします。」
「試験官ロボからは、3日後に面接があるって言ってましたよね……? しかも、社長からなんて言ってなかった気が……」
「って、しかもこれって今日じゃないですか!? どうしよう、まったく準備してないですよ!」
同じメールが届いているライムさんが叫び慌てふためいた。無理もない、筆記試験の当日に面接の連絡なんて来たら誰でも慌てる。
「じゃ、じゃあ今そこのファミレス入りましょう! ご飯食べながら面接練習を二人ですれば……」
「そうしましょう!」
二人はすぐさまメールで承諾の連絡をし、まるで電車に飛び乗るかのようにファミレスに駆け込んで、お得なランチメニューを頼んでご飯を掻き込み、ぎりぎりまで面接練習をして、開始時間の15分前に本社につく電車に滑り込んだ。
電車から降り、カプセルコーポレーション本社の前につく。大きなドーム型の建物で、その周りを自然豊かで巨大な庭で囲んでいる。圧巻された俺たちは緊張した面持ちで、インターフォンを押す。すると銀色のロングヘアの受付嬢が応じ、ベンとライムの名前を告げると、二人一緒に面接試験を行うからついてきてくれと言われ、言われるがままにする。そして、案内された部屋には、「社長室」と記載されていた。
いよいよだ。
大げさになりすぎないように深呼吸をする。もうここまで来たら、ベストを尽くすまでだ。
俺は横に立つライムさんの顔を見つめる。ライムさんもまた、緊張を隠し切れない表情だったが、頑張ろうねと言わんばかりにぐっと顎を引き締め、親指を上に突き立てた。
社長室のドアが開く。ふわりとフレグランスのいい匂いが鼻腔に届く。さすが世界一の大企業の社長室だと思いながらも、俺たちは失礼しますと毅然とした声で奥に座っている社長に挨拶する。
「あら、そんなに肩ひじ張んなくてもいいのに。ま、そこのソファーに座んなさいよ」
世界一の大企業・カプセルコーポレーションを統括するブルマ社長が、柔らかい声音で声をかけてきた。革張りの高級そうなソファを見て萎縮しつつも、それを何とか隠しきって俺たちもそこに座った。
社長もまた反対側のソファーに座っており、向かい合わせの状態になっている。水色の綺麗な髪をしていて、顔立ちも非常に整っている。これでも俺たちよりはるかに年上のはずだが、正直そうは見えず、バリバリ働く美人若手女社長という言葉がとても似合う見た目だ。服装もスリットの入った紺のワンピースを着用しており、非常に様になっている。
「悪いわね、筆記試験の終わり際に来てもらってて。疲れてるでしょ? ま、とりあえずはじめましょうか」
「「よろしくお願いします」」
さあ一言目に、何と言ってくるか。俺たちはドキドキしながらブルマ社長の言葉を待つ。さあ、何でもかかってこい……!
「ていうか、もうあんたたちはここで働いてもらうことに決めたから。そんな肩ひじ張んなくても平気よ」
……え?
たぶん、今言葉に出てたと思う。実際、ライムさんは声に出ていた。
「面接、じゃないんですか……?」
「面接と言ってもね、合否を決める面接じゃないわ。アンタたちの合格は筆記試験の問題ですでに決定してた。だから、どういう人間か会ってみたかっただけだし、どっちかというと面談よ。何飲む? コーヒー? 紅茶? あたしはコーヒーのブラックで」
すごく気軽な感じに社長が話しかけてくれることに困惑しつつ、俺はコーヒーを、ライムさんは紅茶を注文した。するとすぐに給仕ロボが砂糖やミルク付きで持ってきてくれた。ブルマ社長が一口加えたので、俺たちも真似するように飲んだが、正直味が分からない。
「あ、あの、じゃあ私たちって筆記試験は満点だったのでしょうか……?」
「んー、ライムさんは7割程度かな。ギリギリ合格って感じ。ちなみにベン君は9割だったわよ」
「ってことは、ほかの合格者たちもこれから来るのでしょうか……? さすがに俺たち二人だけってことはないですよね?」
「まあそりゃあアンタたちより点数が上の受験者はいたけど、今日は呼んでないわよ? ……なぜかわかる?」
ブルマ社長が意地悪そうな笑みを浮かべた。俺たちと他の受験生との違い、か。基本筆記試験はその人の能力を図るためのもので、人物像を掴むためのものじゃない。すなわち、ほかの受験者との差は能力の多寡でしかないのだが、俺より能力の高い人間がここにきていないので、それは理由にはならない。まるで見当がつかない。
「……もしかして、最終問題、ですか?」
「正解! あそこの回答で、二人だけ他と違ってたからよ」
ライムさんがおずおずと回答した答えがまさかの正解だったようだ。
最終問題。セルを倒したのは誰かと問う問題。俺はあそこで、金髪の青年と回答した。まさか、ライムさんもそう回答したのか。俺は驚愕の表情でライムさんを見つめるが、ライムさんはやっぱり、そうだったんだと呟いた。
「まあライムさんのお祖父さんのラオ・チュウさんは武道家だし、なんとなく気づくんじゃないかなって思ってたけど、ベン君はよく気付いたわね。なんで気づいたか理由、聞いてもいい?」
俺はどう考えてその結論にしたのか思い出すために少しだけ黙って、回答する。
「まず、国王陛下がピッコロ大魔王を倒した少年の存在に言及し、サタンの参戦を不安視していたことに引っかかりました。そして、金髪の青年たちとセルがトリック合戦をしている間にサタンが倒したと記事に書いてありましたが、正直街も破壊できるような存在のセルがトリック合戦に付き合う義理ってあるのかなと思いました。それで映像を見て、これはトリックじゃないと気づいて、あそこで戦っていた金髪の青年が倒したんじゃないかな、と……」
ブルマ社長は感心したように頷き、正解よと親指を立てる。
「あなたの言うとおり、サタンじゃセルの相手にならない。あの映像はトリックでも何でもないのよ。でも、一個だけ惜しいところがあるのよ」
「え?」
「セルを倒したのはね、あそこにいたこの子なのよ」
そういってブルマ社長は、問題用紙に掲載されていた資料を見せた。金髪の青年がいる集団が映った写真が見え、ブルマ社長は白いマントを着用したもう一人の金髪の少年を指さした。
なんてことだ。やはり、サタンじゃなかったのか。しかも、こんな子供があのセルを倒したのか!?
「……ご、悟飯君だ! やっぱり、彼が倒したんだ!」
不意にライムさんが身を乗り出してそう叫んだ。ブルマ社長がちょっと驚いたので、ライムさんは慌ててごめんなさいとソファーで縮こまる。
「え、アンタ悟飯君知ってるの?」
「は、はい。昔、セルゲームが始まる前に悟飯君が私の住むチャズケ村に来てくれて、助けてもらったことがあるんです」
「そうなんだ……意外と世界って狭いわね」
つまりこの少年は、ゴハンという名前で、昔ライムさんを助けて、そのあとセルを倒したってことか。そして、ブルマ社長はそんな彼を親しげに呼んでいる。真の世界の救世主とも面識があるというのか。
「話を戻すと、セルを倒したのはこの悟飯君なの。ライムさんは名前は書いてなかったけど、白いマントの少年って書いてたのよ。ベン君はその悟飯君の父親の孫君を書いてたけど、まああれだけじゃ悟飯君だってわからないからオッケーにしたわ」
「じゃあ、サタンって書いていたら俺たちはここに呼ばれていなかったってことなんですか?」
「そうよ。まあ不合格じゃないけど彼らは西の都の別のビルで働くことになるでしょうね。アンタたちの就職先はこの建物で確定よ」
いつの間にかオフィスまで決められており、困惑するばかりだ。
「あ、あの、何故私たちはこの建物なのでしょうか?」
「だって、アタシの周りははっきり言って変な奴らばっかだからね。変な奴らを見ても思考停止にならない人材が欲しいのよ。だからあの最後の問題で試したの」
「では……そ、空を飛んだり、手から何かビームのようなものを出せる人間は実在するってことですか?」
「そうよ。ごまんといるわよそんなの。旦那や息子だってそうだし。ちなみにアタシはそんなことできないからね?」
さらりと言いのける社長に愕然となってしまう。もはや俺の常識が通用しないところに社長は住んでいるようだ。
とりあえず分かったことは、社長の周りにはとんでもなく常識はずれな奴が多いので、そんな奴らに対していちいち驚かないような人間が欲しかったということだ。……ただ、正直その期待には応えられそうにない。もうずっと驚いている。
「まあといっても驚かない方が無理ないわよね。アタシだって正直冷静に考えてみたらわけわかんなくなるもん。たぶんね、これからもっと驚くこと多いから楽しみにしてなさい」
ブルマが意地悪そうに笑い、じゃあ諸々細かい手続きはまた連絡するから今日は解散ねと告げた。ドアの後ろに立っていた受付嬢に出口までの案内をお願いしたその瞬間。
突如ブルマ社長の目の前に男が現れた。しかも、ドアを経由せず、突然その場所に現れた。まるで、天井から降りてきたかのようだったが、当然ながら天井に穴などない。そう、まさに何もない空間からテレポーテーションのように現れたのだ。ライムさんは転げ落ち、あわわわと震えてしまっている。俺もまた、何も言えずに固まってしまっていた。しかし、ブルマ社長及び受付嬢は平然としており、しかもブルマ社長に至っては普通にその人物に話しかけた。
「ちょっと孫君、いきなり瞬間移動はやめなさいよ」
「わりぃなブルマ、チチの奴がさ、畑の肥料が足んねえっていうからよ」
男の方はブルマ社長に対して友人のように軽い口調で頼みごとをしてきた。大企業の社長に対してなんて大胆なと思ってしまうが、これもここでは常識になっているようで、ブルマ社長も受付嬢もいつも通りだといわんばかりの表情だ。
「前アタシがあげた試作品のやつ? あれならまだあるから後で渡すわね」
「サンキュー!」
「一応使い心地とかそういうのも聞きたいから、とりあえず研究室行くわよ。あともういい歳なんだから受付に行ってからアタシを呼びなさいよ。後ろの子たちもびっくりしているじゃない」
そういうと男は俺たちの方を振り向き、びくっと体が跳ねる。四方八方に黒髪が伸びたざんばら頭で柔和な瞳をしているが、露出している腕の筋肉はもはや常人のものではない。あれで殴られようものなら即死してしまいそうだ。赤と青の胴着も着用しており、奇しくもセルゲームに参加していた金髪の青年と同じものを着用している。彼の仲間なのだろうか。
――いや、ブルマ社長は彼のことを孫君と呼んでいた。そして、先ほど、「ベン君はセルを倒した人物を孫君だと回答した」というようなことを社長は言っていた。つまり、黒髪の彼と金髪の彼は、同一人物ということなのか?
「わりぃな驚かして」
……駄目だ、もう頭が動かない。謝罪の言葉も頭に入ってこない。
「……キャシー。あとでこの子たちに例のガイドブック送ってあげて。多分このままじゃショック死するから」
「かしこまりました」
ブルマ社長と孫君と呼ばれる青年が社長室を後にして、キャシーと呼ばれた受付嬢と俺たちが残された。
ぽかんとしている俺たちにキャシーさんがお疲れさまと声をかけてくれて、少しだけ気持ちが落ち着いた。
「そういえば、社長全く聞いてないけど、この会社に来てくれるってことでいいんですか?」
「も、もちろんです。私、この会社に入りたかったので……正直驚いていますが、ぜひお願いします」
ライムさんはすぐさま返答した。きっとライムさんはあんな超常現象を見せつけられても、元からこの会社に対する熱い思いはあったのだろう。
俺とてその気持ちは負けていないと思う。けれど、次元の違う世界に片足を突っ込んでいる会社だと初めから知っていたら、この企業を受けただろうか。
でも、だからと言ってほかの会社に行きたいかといわれると違う。給料はいいし、ブランドもあるし、何より俺が全く知らない世界を知ることができる。それこそ、この会社にしかない「強み」だ。
とんでもない事実を知ることになるだろう。とんでもない現象に出会うことになるだろう。でも、一度きりしかない人生だ。平凡なサラリーマンじゃない人生だって、いいはずだ。
「――俺も、この会社に入りたいです。よろしくお願いします」
「わかりました。では、後日またメールしますね。それと――入社おめでとうございます。よろしくお願いしますね」
キャシーさんは柔らかい笑顔で、俺たちを迎えてくれたのだった。
ライムというヒロインですが、オリキャラではなく実はZのアニオリで登場したキャラです。
悟飯がセルゲーム前にお使いで立ち寄った小さな村に住む少女で、祖父ラオ・チュウが武道家です。ちなみにラオ・チュウは孫親子の実力を見抜いていました。
アニメでは悟飯より背が小さく、年下のような印象を受けましたが、当時15歳くらいでもぎりぎり通じる見た目かなと思い設定を変更しています。というか、悟飯が10~11歳に見えなさすぎる精神年齢なんですよね。。。正直、アニオリキャラなんでこのくらいの設定変更は問題ないでしょう。
オリジナルヒロインを設定してもよかったのですが、悟飯のことを少し気になっていた様子でしたし、孫悟飯の異常な強さの片りんを直接目で見ているので超常現象にも少しは理解のあるキャラクターとも言えます。少なくとも初期のビーデルよりかはあります。まったく理解のないベンとの対比がしやすいなと思い、採用しました。