カプセルコーポレーションに入社します! 作:ドッカン太郎
パーティー調整班に配属になった俺は、早速先輩社員であるケリーさんに案内され、オフィスに入る。
「新しいメンバーが2年ぶりに入ってきたぞ~」
オフィスに入り、委縮する俺の背中を押す。オフィスの中を見渡すと、そこには3人しかいなかった。
「おお、君が新しく入ってくるベン君だね。私はパーティー調整班長のスカットだよ。最初は大変だろうけど、わからないことがあったり、悩みとかあったらいつでも相談してね。よろしくね」
「はい、よろしくお願いします」
ここの班のチーフリーダーのスカットさんは、どうやら柔和そうな雰囲気を感じる。どうやら働きやすそうだと心の中でガッツポーズした。
「俺はケリー、28歳だ。あんまりここに新人は入ってこないからうれしいぜ。よろしくな!」
ケリーさんはサムズアップし、歯をニカっと光らせて挨拶する。
「あたしはレベッカ。この中じゃ二番目に最年少だけど、よろしくね」
艶やかに光る赤い髪を払いながらそっと微笑む。釣り目で腰も細く、一目で美人だとわかる。
チームメンバーの紹介が一通り終わったようで、スカットさんは手に持っているタブレット端末を操作する。ピコンという軽快な通知音が鳴り、資料一式が送付された。
「では早速、現在我が班が取り組んでいる案件について共有します。ファイルを開いてください」
送られてきたファイル名には「孫悟飯&ビーデルの結婚式」と記載されていた。
「結婚式をやるんですか……?」
「はい。孫悟飯さんとビーデルさんがご交際されていることはご存知ですよね? この度お二人が来年に結婚されることになったそうで、その結婚式を我々で手配することになったんです」
なんと、もうそこまで話が進んでいたのか。ガイドブックによると彼らはまだ学生の身だ。ということは卒業してすぐに結婚するつもりのようだ。まあこれは金持ちの娘と結婚するからできる所業なのだろうが、俺の知っている世界ではないのでやはり驚きは隠せない。
……そして、ライムがかわいそうでならない。ある意味彼女がこの班じゃなくて正解だった。
「ブルマ社長の大切なご友人の結婚式ですので、しっかり準備を進めていく必要があります。若い方の意見は貴重なので、どんどん積極的に提案してくださいね。では、細かいことについてはケリーさんとレベッカさんからご説明をお願いします」
「わかりました!」
「あいよー」
では私は班長会議にいってきますといって、部屋を出ていき、3人だけが残された。
「ちなみに、結婚式場でアルバイトとかしたことある?」
レベッカさんは机によりかかり、リップを弄りながら尋ねる。ありませんと首を振ると、まあその年だとそうだよねと返す。
「まあ段取り教えるけど、まずは結婚の誓いをするの。神様に誓う神前式と、親族や参列者たちに誓う人前式とか色々あるけど、誓いのキスとか指輪交換をして永遠の愛を誓うのよ」
「永遠の愛ねえ。そんなんあるんかな」
「そういう野暮な話はいいの。やることに意義があるんだよ。……次に披露宴。新郎新婦がゲストに対して感謝の気持ちを込めてささやかなパーティーを開くの。そこでは一般的にはケーキ入刀とか、ドレスを変えるお色直し、あとは親族に対して感謝の気持を伝えるお手紙を渡したりするわね」
「詳しいなお前。結婚式好きなんだな」
レベッカさんは近くにあるペネンコのぬいぐるみをケリーに思い切り投げつけた。
「……この年になるとそういうのが多くなるんだ、嫌なもんさ」
「まあたしかに俺も最近誘われまくってるわ。まあなんだかんだめでたいからありがたいけどな」
「あたしは毎回3万ゼニーを払うたびに、これがあればもっとうまい飯食えたり、いいところ旅行できるなあって思うんだけどね。式場の料理ってそんな美味くないし」
「はは……俺が結婚してもお前は呼ばないでおいてやるよ」
「そりゃあ助かるね。まあありもしない仮定の話をしてもしょうがないからミーティングするぞー」
「ありもしないってお前なぁ……」
リップをポーチに入れて、中央の広めのミーティングテーブルにレベッカさんが向かう。テーブルは4人しか使わないはずなのに、8個椅子がある。おそらく昔はもっといたんだろうな。
「さて、さっきいった段取りのうち、結婚の誓いの場の調整自体は、粗方終わっている。まず人前式で行う。といっても、神父役は本当の地球の神様にやってもらうから、まあ神前式とも言えるか。あとは会場と椅子を用意するだけで済むんだ」
改めて、本当の神様を結婚式に呼ぶって、何なんだ。
大学の講義で世界中の宗教の結婚式について紹介していたが、大体は神の言葉を代弁する者が神のお言葉を述べる。だがまさか本物の神様を呼ぶことができるなんて、カプセルコーポレーションの人脈は頭おかしい。
「ただ、披露宴の食事の調達がまだ進んでいないんだ。はっきり言って、列席する人の食べる量が異常だから、それに対応できるだけの食事を用意しなきゃいけない」
「というわけで、お前の初仕事は、料理班との調整業務だ。料理班と協力して、彼らが満足できうる量と質を提供できるようにしてくれ」
ケリーさんが顔写真付きの料理班のメンバーリストを俺の端末に送ってくれる。若手から中堅、ベテランまで幅広くそろっており、調整担当と書いてあるのは、俺と同じく若手の男で、カヤンというらしい。栗色の天然パーマで、どこか柔らかい印象を受ける。
「わかりました。とりあえずご連絡してみますね」
「頼むぞ。何かわからないことがあったらレベッカか俺に聞いてくれ」
そういうとケリーさんとレベッカさんは自分のデスクに戻る。デスクは一人一人簡単な仕切りで区切られており、何かわからないことがあれば、社用携帯端末で呼び出して連絡するようなシステムになっているようだ。俺も自分のデスクに向かい、早速社用携帯で挨拶がてらカヤンさんを呼び出す。果たして1コールでカヤンさんは出てくれた。
「はい、料理班のカヤンです」
「お世話になっております。本日付でパーティー調整班に配属となりました、ベンと申します。ご挨拶させていただきたいと思い、ご連絡しました」
「おお、君がベンくんか。ケリーから聞いてるよ。そんな硬くならなくてもいいって、1年しか違わないしさ。とりあえずよろしく!」
ケリーさんと同じくフランクな方で安心した。俺は肩の力を緩めてありがとうございますと礼を言う。
「んで、孫悟飯さんとビーデルさんとの結婚披露宴の料理の話だよね? 正直全然話が進んでないけど、あと1年で何とかしなきゃいけないからさ。とりあえず結婚式の出席者って現段階でわかる?」
どうだろうか。どこかに資料があるはずだ。
俺は端末の検索機能で、資料を検索する。すでに暫定版の出席者リストは作られており、合計人数も出ている。
「えっと……現時点で26人ほどです」
「なるほどね~割と小規模だけど超大食いはどのくらい?」
「新郎含めて5人です」
「それで、水しか飲まない人は?」
「2人ですね」
「りょーかい。まあ大食いは50人前くらいあっという間に食べちまうから、50×4で200人前、そして食事をしない参加者が2人がいるから、まあ大目に250人前は手配しなきゃいけないな」
たった26人の結婚式に250人前の料理を用意するなんて、正直予算オーバーもいいところだ。ミスターサタンの資金力がなければ絶対に実現は不可能だろう。
「形式はやはりコース形式ですか?」
「いや、立食で考えてる。50人前の分なんて、一気にテーブルに置き切れないから、立食スタイルの方が楽だ」
「確かにそうですね。では立食スタイルで行きましょう」
「オーケーだ。食材の調達はこれからこっちで行うけど、ベンたちは料理班の応援に来てくれそうな人を手配してもらえるか。配膳や片付け、食器洗いなどもしなきゃいけないが、手が全く回らん」
たしかに、10人で250人分の料理を作るだけでもとんでもない労力が必要になる。ほかの部署から応援を要請しなければいけない理由を考えるのは想像に難くない。
「わかりました。応援呼べたらまたご連絡します」
「おう、頼むわ! あとさ、今日昼空いてるか? 空いてたらさ、今日俺飯作ってやるから食わないか?」
突然の申し出で正直驚いたが、あのカプセルコーポレーションの社長に出す料理班の料理をいただけるってとんでもなく貴重な機会だ。俺は空いてますと即答した。
「オッケー! あとベンに同期いたよね? その子も良ければ連れてきてくれよ。歓迎したいからさ」
「わかりました! 連れていきますね」
「おう、待ってるわ!」
そういうとカヤンさんは元気よく電話を切った。俺は携帯端末を静かに置き、ケリーさん含むチーム全体に、簡潔に共有するべくチームチャットを起動した。
『ベン:料理班のカヤンさんとお話しましたが、人手が料理班だけだと足りないので、配膳や片付け、食器洗いなどの雑用担当スタッフを手配してほしいとのことでした』
『ケリー:早速ありがとう! まあ確実にそうなると思ってたわ。とりあえず受付班とガーデン班、そしてクリーニング班に声かけたほうがいいな』
『レベッカ:@ベン とりあえずこれが名簿。これを見てメール送ってね』
『ベン:承知いたしました』
レベッカさんから送られてきたリストから、受付班、ガーデン班、クリーニング班の宛先をピックアップしてメールを一斉送信する。こういう大人数向けのメールはすぐには返信は来ないものなので、俺はふうと一旦一息をついて、ライムへカヤンさんのことを伝え、お昼一緒にどうかと誘った。意外にもすぐ『行きたい!』と返事が来たので、カヤンさんにそれを伝えた。
その後はマニュアルを見たり、ケリーさんに頼まれた雑用をこなしていたら、あっという間にランチタイムを迎えたのだった。
「初日の昼に悪いね! 改めて俺の名前は料理班のカヤン! よろしくね」
「よろしくお願いします」
「じゃあとりあえずこっちへどうぞ!
料理版のオフィスに入ると、手前には4つのテーブルが、奥にはかなり大きめのキッチンホールが見えた。俺達は言われるがままにテーブルに着くと、カヤンさんから苦手なものがあるかなどを聞かれて、特にないと伝えるとじゃあちょっと待っててねといってキッチンへと入っていく。
「ベン、ありがとね誘ってくれて」
「カヤンさんがぜひ二人で来てくれって言ってたからさ」
「そうなんだ。社長専属のシェフがご馳走してくれるなんてとっても楽しみだね!」
「だな」
キッチンから香ばしい肉とスパイスの香りが漂ってくる。初仕事で疲れている体に肉はあまりにも刺激的だ。自然と増してくるよだれを必死に飲み込みながら、会話もなくいまかいまかと待ち続けた。
「お、もう待ちきれないって顔してるな! おまたせ、俺特製のステーキ丼だ!」
なんてことだ。昼から上質な油で輝くステーキ丼を頂けるなんて。6切れのステーキに彩り豊かな野菜、そして頂上には薬味としてもいただける山わさびが乗っていた。美味しそうという言葉が漏れ、ライムはもちろんのこと普段写真を取らない俺でも思わず写真を取ってしまう。
「さあ、冷めないうちに食べてくれ」
「いただきます!」
魚に飛びつく猫のように早速俺達はステーキに齧り付く。なんてことだ。肉汁しか入っていないジュースを飲んでいるかのようだ。しかも、頭が痛くなるような重たいものではない。まるでフルーツのように爽やかで、しかし王者の風格を感じさせるような上品で重みのある油が、口の中を駆け巡る。当然だが、こんな美味しい肉を食べたことなんてない。
「美味いか?」
「はいっ……!! とっても美味しいです! こんな美味しい肉食べたことないです……!」
「そうかそうか。社員食堂のコックロボにはまだまだ負けてないつもりだよ! ご飯はおかわりもできるからどんどん食ってくれ!」
正直、丼に乗っているもの全てが美味い。野菜もなんのドレッシングもかかっていないが、ステーキソースと上品すぎる油で極上の味に生まれ変わっている。こんなものを食べてしまったら、午後の仕事をより一層頑張らないといけなくなる。
「さて、俺も食うかな。一緒のテーブルでもいいかな?」
「もちろんです!」
「サンキュー!」
カヤンさんも自分の分のお昼をお盆に乗せて持ってきた。カヤンさんはステーキ丼ではなくカレーだった。こちらも具材が豊富でとても美味しそうだ。
「実はこのステーキ丼、今度の結婚式案件で出そうと思ってるんだ。だから感想を聞きたかったんだ。油っこさはどうだ?」
「全然感じません! たしかにジューシーですけど、あっさり食べられます!」
ライムが、まるでこのステーキ丼オタクみたいな感じで興奮気味に語る。
「そうか。これならビーデルお嬢様もお喜びだろうな! 世界一の資産家の娘に出す料理だからちょっと不安だったんだよ」
「ビーデルさんに? ミスター・サタン関連でなにかあるんでしょうか?」
「あ、そっか。ライムちゃんは開発班だから知らないか。来年孫悟飯君とビーデルさんの結婚式をうちで上げるんだよ」
カヤンさんが笑いながらそう言ったので俺はライムの方をちらりと見る。ライミは顔を曇らせることなくそうなんですねと明るく返していたので内心胸をなでおろす。
「そういやベン、応援の件はどうなった?」
「今受付班、ガーデン班、クリーニング班に人材を手配してます」
「オッケー! このまま頼むわ。ライムちゃんは今開発でなんの仕事してるの?」
「重力室の新しいトレーニングガジェットの開発です。自動で相手を追尾して攻撃するガジェットを作ってほしいと、ベジータさんからの要望がありまして」
「なるほどな。俺は機械のことはよくわからないけど、あの人のパンチにある程度耐えられるようにしなきゃいけないのは大変そうだな」
「そこがもっぱらの課題です……しかもクオリティが高いものじゃないとかなり怒られるそうで……」
ライムさんはがっくりと肩を落とし、カヤンさんが大丈夫だよと笑い飛ばしてくれる。この人はやっぱりいい人だ。
そのまま俺達は食事を最後まで味わっていただき、満面の笑みでカヤンさんにお礼をいう。またいつでも飯を食べに来いと言ってくれ、俺達は料理班を後にした。
「美味しかったね!私こんな美味しい物食べたの初めてだよ。この会社入ってよかったなあ」
「そうだな、しかも社長秘書室で良かったって思うよ」
俺はそういいながらライムの顔色を伺う。先程孫悟飯とビーデルの結婚式の話をカヤンさんがしたから、落ち込んでいるのではと感じた。しかし今の彼女はそんな気配を感じさせない。きっともう切り替えはできているのだろうし、美味しいステーキ丼を食べたからそれどころじゃないという感じだろう。俺はそのことに言及せず、適当な話で場をつなぐ。
自分達のオフィスに帰る途中、前方にジャージのポケットに手を突っ込んだ、逆だった黒髪の男がすれ違おうとして来た。ライムはその人を視認した途端、頭を下げたので、慌てて俺も頭を下げる。
とんでもない威圧感、半袖のシャツから見える凄まじい筋肉、目で殺しかねないような厳しい視線ですぐに分かった。この人は、ブルマ社長の夫のベジータさんだ。
ベジータさんは、何も声をかけずそのまま通りすぎるかと思ったが、俺達を見て足を止める。
「おい、そこの女。お前、開発班の新人だろ?」
「は、はい! ライムと申します」
「重力室の重力を、300倍から500倍にまでにあげられるようにしろ」
500倍の重力だと?
仮に体重が60キロだったとしたら、30000キロ、すなわち30トンとなる。そんな重さの空間なら、動くどころかあっという間にぺしゃんこだ。
「ご、500倍ですか!? と、とんでもない重力ですよそんなの……」
「いいからやれ。カカロットを超えるためだ」
「しょ、承知しました……」
拒否は絶対に許さないとばかりに睨まれたので、ライムがほそぼそと了解すると、ベジータさんは何も言わずにその場を去っていった。
「……相談しなきゃな、ステイシーさんに」
ライムはその場にへたり込みたい気持ちを我慢しつつも抑えきれないような感じでしゃがみ込む。
「やっぱガイドブック通りだったな。プライドが高くて、厳しい人だった」
「そうだね……話してみるとやっぱりすごい人だったね」
そんな人と社長は結婚したと思うとすごい。第一、こんな性格ならDVとか日常的に行われててもおかしくないのだが、夫婦仲が悪いという話は研修でも出てこなかった。妻には甘い顔をするのかもしれないが、全く想像ができない。
そろそろ昼休みが終了してしまうので、俺達はじゃあねと言って分かれ、それぞれのオフィスに入っていった。席に戻った俺は、自分の業務端末のメールアプリを開く。するとそこに、先程展開した結婚式の料理の応援依頼に対する返答が3班それぞれ来ていた。
「……参ったなあ」
3班とも、結婚式関連で料理班に割ける人材が1人か2人位しかいないという回答だった。
悟飯とビーデルの結婚式は意外と公式でちゃんとやっていなかったので、楽しみです。