カプセルコーポレーションに入社します! 作:ドッカン太郎
私の名前はクープス。
Zpaper社に勤めている新米メディア記者だ。
デジタルメディアが発達した時代において、情報の正確さや鮮度は重要であり、それによって手に取れる金額が大きく変わる。
編集長から、何か特ダネを持って帰ってこなかったら初ボーナスなしだというとんでもない業務命令を受けてしまった。同期の20人は慌てた顔で散り散りとビルから飛び散っていき、今頃西の都をハエのように飛び回っていることだろう。
ただ、ここで大きな特ダネを掴めば、同期に大きな差をつけることができるのは間違いない。そう思い、私はカプセルコーポレーションの前にひっそりと張っている。
なぜカプセルコーポレーションの前に張っているのか。それは、カプセルコーポレーションでどうやら結婚式を行うらしいからだ。しかも、ミスター・サタンの娘のビーデルがだ。
根拠は二つある。まず、最近ビーデルが単独でカプセルコーポレーションに入っていく姿が何度か確認できている。しかも、男と仲良さそうに一緒にカプセルコーポレーションまで歩いていた姿も一度だけだが見たことがある。なぜ世界チャンピオンの娘が単独でカプセルコーポレーションに足を運ぶのか。世界的な大企業の社長宅にそう何度も入れるほどにカプセルコーポレーションとミスター・サタン家の関係が良好だという話は聞いたことはない。そして、仲良さそうに男と二人で歩いているというのも疑わしい。まずミスター・サタンは過去の会見にて聞かれてもいないのに、「私より強くなければ、娘とは交際させん!」と吠えていた。と考えるとビーデルは交際経験もなく、男友達もそれほど多くなさそうだと普通に考えられる。にもかかわらず男と親しげに歩いているというのであれば、これは交際している可能性もあるかもしれない。そう思い、私はもうここ1週間近く張り込んでいる。
とはいえ、これだけだと結論が飛びすぎだ。別にただの友人かもしれないし、仮に交際していたとしても結婚と結びつけるのは早急だ。まあ精々熱愛くらいだろう。しかし、私は先日、カプセルコーポレーションに入っていく、胴着姿の男とその奥様っぽいご婦人との会話を聞いてしまった。
「ブルマさん、ここで結婚式を行うだな。オラすっごく楽しみだべ!」
「だなぁ。うんめぇもんいっぱい出そうで楽しみだぞ!」
「もう悟空さ! メシ食いに行くのが目的じゃねえだぞ! オラたちの悟飯ちゃんと、ビーデルさんのでぇじなでぇじな結婚式なんだからな! 父親としてちゃんとしてくれなきゃ困るだ!」
「わ、わかってっさ」
そう、これが根拠その2であり、そして最大の証拠だ。ボイスレコーダーはすでに取ってある。あとは、結婚式の決定的な瞬間をカメラに収めて、編集長にもっていけば、出世間違いなしだ。
カプセルコーポレーションの庭を囲う茂みに身を隠し、様子をうかがう。すると、綺麗なドレスやスーツに身を包んだ集団がぞろぞろとカプセルコーポレーションに入っていく。これはもう間違いない、結婚式だ。音をたてないようにガッツポーズをし、その集団を目で追う。カプセルコーポレーションにしてはかなり簡易的な装いのチャペルの前にみんな集まり、用意されたベンチに座っていく。
(なんか、肌が緑色の人がいたり、異様に大きい人がいたり、空を飛んでる子供たちがいるんだけど……!?)
私はカメラを構えながらその恐ろしい光景に身を震わせていた。ただの人間だけじゃなく、空を飛びながらけらけら笑っている二人の子供たちがいたり、スーツではなくターバンとマントを羽織っている緑色の肌をした大男がいたり、成人男性の2倍くらい身長のありそうな恰幅のいい大男がいたりとカオスだ。これはいよいよ大きなネタを釣り上げたかもしれない。
「ご来場の皆様。本日は孫悟飯さんとビーデルさんの結婚式にご参列いただきまして、ありがとうございます。では、新郎のご登場です」
ふむ、相手の男が先に来るか。ビーデルお嬢様のお心を仕留めた男はどんな見た目をしているのか。私はシャッターボタンに思い切り力を籠める。
鮮やかに、上品に光る黒いタキシードをまとった男性は、緊張を隠し切れずにバージンロードを歩く。バージンロードを歩き切り、参列者に顔を見せるために振り返ったが、非常におとなしそうで、優しそうな印象を受けた。とても、武術なんてやっていそうな見た目じゃない。言い方悪いが、絶対弱そうだ。
(こんなやわっちいのがビーデルさんのお婿さんなの? 元カレの方が絶対強いわね)
まあ人柄は誠実そうであるので、そこにビーデルさんは惚れたのかもしれない。元カレはボクシングでけんかは強く、別れたときの捨て台詞でビーデルと付き合ってやるなんて言ってたけど、多分強い男は恋愛対象外だったのかもしれない。
「続いて、新婦のご登場です」
その後、新婦であるビーデルがバージンロードを歩み始める。純白のドレスに身を包み、ほっそりとした後ろ姿で、バージンロードを踏みしめるようにゆっくりと歩く。隣には、ミスターサタンがエスコートしているので、もう新婦はビーデルさんだと確定だ。こちらを振り向くまで私はシャッターを連続で切り、勝利を確信した。
(くっくっく……これで私は出世コースだ! ミスターサタンの娘のビーデルが電撃結婚なんてニュース、うちが出せば他も出し抜ける! 大手柄間違いなしだ!)
私は早く本社に報告に行くべくカメラをリュックにしまおうとした。
「きゃっ!?」
瞬間、手に持っていたカメラが、突然ポップコーンがはじけるように音を立てて火花を散らした。それに呼応するように、私の持つ携帯端末やデジタルウォッチ、パソコン、そしてあの証拠になりうる会話を録音したボイスレコーダーなどあらゆるものが弾けてしまう。
私は安否を確認したが、電源すらつかないほどの損傷を追っていた。只の故障かと思ったが、私の持つすべての電子機器が一斉に故障なんて偶然ではありえない。ビーデルの花嫁姿をカメラに移した直後に起こったのだから、何者かが仕掛けた攻撃に違いない。しかし、電子機器だけを的確に攻撃するとは、なかなかのテクノロジーだ。さすがは、世界一の開発系メーカー、セキュリティは桁違いだろう。
だが、ここで疑問も残る。では、何故ビーデルの段階まで泳がせておいたのか。私はすでに花婿や参列者たちの写真も撮っていた。システム的に監視させているのなら、私がカメラを構えた瞬間に作動しなければおかしいはずだ。なのに、なぜこのタイミングだったのだろうか。単に発動が遅れただけなのか?
ふと私は、誰かからの視線に気づく。参列者側から視線を感じた。吸い寄せられるように私は茂みから顔を出す。視線の主は、緑色の肌をしたターバンとマントの大男だった。ほかの参列者が花嫁たちをじっと見つめている中、その男だけは、私をひたすらにらんでいるように見えた。これはなんとなくまずい気がする。
私は慌てて茂みに身を隠し、そそくさにその場を去った。
「ーー最近こそこそ嗅ぎまわっているネズミは貴様か」
「ぎゃあっ!?」
しかし、カプセルコーポレーションの茂みから大通りに抜け出した私の背後から、鋭い声が刺さる。振り向くとそこには、緑色の肌をしたターバンの男がいた。チャペルの方にいたはずなのに何でここにいるのか。テレポーテーションでも使用していなければ説明のつかない現象だ。
「あ、あの、さっき、チャペルの方にいましたよね?」
私の困惑に満ちた質問に対して男は答えず、私の首にかけてある社員証をかすめ取る。あまりの速さに目が追い付かず、いつの間にか社員証が男の手に奪われていた。
「ブルマの奴が、最近この辺を嗅ぎまわっているネズミがいるから、俺に探すよう依頼してきたんだ」
「け、警察とかなんですか……?」
「違う。俺の聴力をアテにしたんだろ。お前がカメラを使っている音なんかも丸聞こえだったしな」
チャペルからあの茂みまで、実に20メートル近くはあった。そんな中、シャッター音なんて聞こえるはずがない。しかも私のは被写体に気づかれないよう極力シャッター音を抑えてあるタイプだ。そんな音すらもはっきり聞こえていたというのか。もはや、人間離れしている。
いや、そんなことに感心している場合ではない。社員証を返してもらわなくてはいけない。私は返してくださいと言いながら手を伸ばす。
だが、その手を退けるように、男は緑色の手の平をこちらに突き出してきた。そして手のひらから黄色く光り輝くエネルギーのようなものが飛び出す。
「今日は俺の弟子の大事な結婚式だ。今回は見逃してやるが、次は命はない。分かったか」
そう、殺気がこもった瞳で睨まれ、私の手は反射的に引っ込んでしまった。ただのトリックだろうが、正直全くそう思えないような圧を感じた。あれをまともに喰らえば命はない。沿う感じさせるような何かがあの男にはあった。
私のささやかな抵抗が無駄に終わり、男は手を引っ込め、社員証をもったままあっという間に空へと飛び上がってしまった。おそらくさっきの式場にもどったのだろうが、あまりに一瞬すぎてよく分からず、気づけば私は、道のど真ん中でしりもちをついていた。
***
「早速不審者情報が来ました。Zpaper社のクープスという女記者が嗅ぎ回っていたということですので、警備ロボやドローンにこの情報を学習させておいてください」
結婚式の最中に、俺達のインカム越しにキャシーさんから情報共有があった。やはり、マスコミが嗅ぎ回っていたか。俺はあまりさとられないようにため息をつきながら悟飯とビーデルの挙式の様子を見つめる。
「それでは指輪交換をお願いします」
神父役を務めているデンデが宣告すると、孫悟飯がビーデルの手をそっと取り、優しく指輪を通す。
俺はそっと隣に立つライムの様子を見る。ライムは先程のインカムで飛ばされた指示を遂行するためタブレット端末を操作していた。
先日ZTVの突撃取材の件を受けて、結婚式にマスコミが嗅ぎつけて来ることを懸念して、俺達パーティー調整班はマスコミへの対策を検討していた。警備ロボやドローンを増設するのは当然だが、正直あまり警備ロボやドローンを配備していると却って何かあると周りに喧伝しかねない。そこで俺達は今回、ピッコロさんを利用することをブルマ社長に提案した。人間と比べ物にならない聴力を持っているので、シャッター音などの些細な音も聞き逃さない。しかも、過去に孫悟飯が正義のヒーロー・グレートサイヤマンに扮して天下一武道会に参加した際、中継カメラなどをすべて破壊してみせたという。俺としては最初引き受けてくれるか怪しかったが、ケビンさんいわく、「口で社長に勝てるやつは一人もいない」とのことであり、果たしてピッコロさんはすんなり引き受けたとのことだった。
ピッコロさんを通じて得られた情報はすべて社長秘書室のメンバーに共有され、警備ロボやドローンの監視対象に加えられる。
操作を終えたライムは視線を戻し、悟飯とビーデルの指輪交換の様子を見つめる。
「それでは、誓いのキスを」
デンデが厳かに告げると、孫悟飯とビーデルは一歩近づき、そのまま唇を合わせた。参列者たちは黄色い声援をあげ、サタンの泣き声が響き渡る。ライムはその瞬間端末に目を落とした。
誓いのキスが終わればあとはフラワーシャワー、その後は披露宴だ。披露宴会場は立食形式であり、テーブルなどの準備を手伝う必要がある。俺はライムの肩を叩いて合図を送り、そそくさにチャペルを離れた。
「はぁー、緊張した!」
「ああ、あれが結婚式なんだな」
「ベン、結婚式は初めてなの?」
「ああ。ライムはいったことあるのか?」
「友達の式でね。でも花嫁さんすごくきれいだったなあ……」
やはりウェディングドレスは女子の憧れなのだろう。ライムは瞳をキラキラさせていた。俺としては結婚式は初めてなのだが、カプセルコーポレーションとしてはかなり素朴な感じなので少し拍子抜けな印象がある。まあ参加人数も少なく、極秘に行っているので規模には限界があるので仕方がないのだが。
談笑しながら披露宴会場にいくとそこは修羅場だった。調理場では怒鳴り声が飛び交っている。
「おい、チャーハンはまだか!!」
「できてるよ、早くテーブルに持っていってくれ!」
「お前まだ付け合せの野菜の処理終わってねえのかよ!!!」
「しょうがないでしょ!? 250人分の料理を10人で作るなんて無理に決まってるでしょ!」
「無理でもやらなきゃならねえとこがあるんだよ! このあと洗い物もあるんだからな、気を抜くなよ!」
料理班のキッチンはまさに戦場だ。それに素人が行こうものならあっという間に焼き殺される。
「お、ライムとベンじゃないか!! 出来上がった料理をとりあえずバイキング台に乗せてくれ! 料理名は全部書いてある!」
カヤンさんが少し苛立った声で指示を出してくる。どうやらほんとに極限状態らしい。俺たちは言われた通り料理を急いでバイキング台に運んだ。
時が経たないうちにもう参列者たちがぞろぞろと披露宴会場に向かってくる。料理を揃え終えた俺達は急いで脇に移動し、肩で息をしながら汗を拭う。
「えー、ここからの進行は私、ブルマが担当します! 悟飯くん、ビーデル、本日は本当におめでとう! じゃあ悟飯くん」
はいと返事し立ち上がる孫悟飯。改めて容姿を見ると、かなり大人しそうで優しそうだ。着痩せしているだけかもしれないが、筋肉もそこまで大きく見えない。この人物が実は地球で一番強い人間であるというのがにわかには信じられない。
「皆さん、本日はお忙しい中、僕とビーデルさんの結婚式にご出席いただき、ありがとうございます。ささやかではございますが、ブルマさんたちに協力いただき、披露宴を準備させていただきました。ささやかではございますが、どうぞごゆっくりお過ごしください」
おお、なんて礼儀正しくしっかりしているのだ。周りの温かい視線に照れながらもきっちりとこなすなんて。改めて完璧超人ぶりを見せつけられている。
「悟飯くん、挨拶ありがとう。では、乾杯の音頭に移るわね。飲み物はみんな来ているかしら」
孫悟飯が挨拶している間にも料理班のメンバーが慌ただしく飲み物を注いでいた。なんとか全員に飲み物が行き渡り、皆が頷く。
「じゃあクリリン! 乾杯の音頭頼むわね」
「はいっ」
背が小さくフサフサの髪をした赤色のシャツの男が壇上に立つ。ブルマ社長より背が小さいのでマイクスタンドを下げつつ、マイクテストを行った。
「えー、ご紹介に預かりましたクリリンです。悟飯、お前と初めてあったのは、確かカメハウスで悟空といっしょに来たときだったな。そのときはお前、悟空の後ろで隠れてたよな。でもお前、次にあったときにはピッコロに鍛えられてて、ベジータたちと戦ってたんだもんな。年長さんだってのに大したもんだって思ったぜ」
待て、年長さんだと??
年長さんといえば、5歳くらいだ。そんな年から孫悟飯は戦いをしていたのか。しかもきっとこの連中のことだ、生死をかけた戦いに参加した、ということだろう。こんなの親だったら卒倒するレベルだが、孫悟飯の両親二人は平然とクリリンの話を聞き、特に父親の方は感慨深そうに頷いていた。
「でも、俺は最初お前は不良になると思ったんだ。だってたった4歳のときにピッコロに連れ去られて1年間修行するってんだ、そりゃグレないほうがおかしいだろって。でもお前は常に礼儀正しかったし、誰に対しても謙虚に素直に接してた。お前が宇宙一強かったときであってもだ。だからお前はこんなきれいな嫁さんをゲットできたんだ。良かったな」
「ありがとうございます、クリリンさん!」
確かに4歳のときから生死を分けた戦いをしているのに不良になったりグレたり、その力を悪用しようと考えないのは凄まじい。周りの環境にあまりに恵まれすぎている。いったいどんな教育をしたのだ。
「ビーデル。知ってのとおりお前の旦那はとっても優しくて、強くて、頭が良くて頼りになる男だ。こんなやつ、多分世界中探してもいないと思うから、大事にしてやってくれ。頼むぜ」
「はい、ありがとうございます。クリリンさん」
「はは、長くなっちまったな。じゃあ乾杯といきますか。さあ、グラスをあげて……乾杯!!」
「「「乾杯!!」」」
瞬間、グラスを重ねる音が会場にきれいに響く。そして皆がビュッフェテーブルに置かれている料理を取りに殺到した。新郎新婦の分はあらかじめテーブルに取り分けてあるので、動けない新郎新婦が全く食べられないということはない。それに、お代わりしたければライムが担当する配膳ロボがとってきてくれる。今回その配膳ロボに俺が足を"偶然"にもぶつけてしまったので、食事中ライムはその配膳ロボにつきっきりだ。俺はパーティーの全体の様子を見つつ、ライムへ視線を向けるが、さすがに新婦もいる中で中々話しかけづらいようで、何も喋っていない。
「ここでビーデルがお色直しのため、いったん席を外します! みんな、期待しててねっ」
ビーデルさんはゆっくりと立ち上がり、ミスター・サタンのエスコートで披露宴会場を退出する。よし、これで新郎一人になった。ライム、頑張ってくれ。俺はひっそりと親指を立てて、ダイニングテーブルの料理の交換作業へと向かった。