カプセルコーポレーションに入社します!   作:ドッカン太郎

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ずいぶん更新が遅くなりましたが、皆様高評価やお気に入り登録ありがとうございます!!


結婚式後半

 

 

 私の初恋は、今から8年前くらい。

 セルゲームの開催が全世界で報じられ、世界中が恐怖と不安に包まれていたあのとき、その少年は無邪気な表情で突如私のもとに現れ、川で溺れそうになった私を助けてくれた。そしてその少年は、呑気そうな表情で胡椒がほしいなんて宣ったのだ。あのとき、同じくらいの子供がみんな怯えていたのに、その少年は怯えどころか、いつもと全く変わらない様子で過ごしていたので、私はあまりにおかしくなって笑ってしまったのを覚えている。だから最初は、ドジで天然だけど優しい子なんだろうと思っていた。

 

「ライム、あの子はきっと世界を救ってくれるだろう」

 

 おじいちゃんは彼に出会って間もなく私にこっそりとそう言った。おじいちゃんは昔天下一武道会に出場したことのある武道家で、人を見る目は確かだが、それにしたって私とそう背丈が変わらない男の子が、セルを倒すなんて信じられるはずもなく、ボケが進んじゃったのねと返した気もする。

 しかし、現実はおじいちゃんの言う通りになった。私達に襲いかかった桃白白という殺し屋を戦わせずして追い返したり、村の人が無理やり作らされた頑丈なシェルターを一瞬で破壊したりしてのけ、更に数日後にはセルを倒したというニュースが世界中に届けられた。もちろん、セルを倒したのはミスターサタンだと報じられたが、おじいちゃんと私は、彼が倒したのだと信じた。

 

 それ以来、私と彼は会っていない。でも、あのときおじいちゃんと私を助けてくれたことを思い出すたびに胸が熱くなり、それが恋だと自覚した頃には、村を出ることを強く願うようになった。だから私は必死に勉強して都会に出て、彼に会えるよう大企業に就職することを目標に今まで生きてきた。

 そして私はカプセルコーポレーションの社長秘書室に運良く配属された。しかもブルマ社長と孫悟飯に面識があったことを知り、長年の夢が遂に叶ったと大いに喜んだものだ。尤も、彼が婚約中であることも知り、失恋もしてしまったわけだが。

 だから今の私の目標は、彼にお礼を言うことだ。そして今日の結婚式、二人のお付のロボットに足をぶつけちゃったベンのおかげで、二人のそばにいることができる。ベンには後でご飯を奢ってあげようと誓い、私は横目で二人の様子を見る。

 

(楽しそうだなあ……)

 

 気をつけなければ口に出てしまいそうなくらい、素直な感情だった。彼はあの時と比べ背丈が大きく成長したが、メガネをしていて穏やかな雰囲気さは更に増した。戦いとは全く無縁そうな青年で、どっちかというと勉強の虫のような見た目だ。彼は幸せしか入ってないような表情で新婦と談笑しながら料理を楽しんでいる。新婦も新婦で純白のウェディングドレスに身を包み、新郎を暖かく見守る表情で微笑んでいる。

 もし、私があそこに座っていれば。座ることができたら。きっと、あの笑顔を真正面から受け止めて、私も幸せな表情を浮かべていたのだろう。そこにはおじいちゃんもいて、彼のお父さんもいて。わたしたちの晴れ姿を暖かく見つめてくれたことなのだろう。

 ああ、もっと早くこの気持ちを伝えておけばよかった。あのとき、彼の気持ちをちゃんと伝えておけば、きっと彼のそばに居続けられた。

 

「あの、すみません、そろそろお色直しの時間じゃないですか?」

 

 不意に横から声をかけられ、反射的に飛び退く。声をかけてきたのは、新婦のビーデルさんだった。まずい、トリップしてしまった。私は表情を引き締め、失礼しましたと詫び、時計をチェックする。ちょうどお色直しの時間になっていたので、私は慌てて司会を務めるブルマ社長に合図を送った。まあ、あなたについて悩んでいたんですなんて言えるわけない。

 

「ここでビーデルがお色直しのため、いったん席を外します! みんな、期待しててねっ」

 

 新婦は調整班の付き添いの人にエスコートされ、式場を後にする。その場に残されたのは、彼と私だけだった。正面に見える会場の隅に立っているベンからひっそりとしたサムズアップも見える。お色直しの瞬間を逃したらもう今後一切チャンスはなくなってしまう。私は勢いよく足を踏み出し、彼に話しかけた。

 

「あ、あのすみません、孫悟飯さん!」

「え、あ、はい!」

 

 ありったけ勇気を振り絞ったせいか、若干声が大きくなってしまい、彼はわずかに驚いた。その驚き様は、子供の頃からあまり変わっていない。それを見て少しだけ落ち着いた。

 

「私、ライムっていうんですけど、覚えていますか……? あの、セルゲーム前にチャズケ村にいた……」

 

 私は祈るように彼を見つめる。一瞬彼はん?と首を傾げたが、やがて顔を輝かせ、あっと叫んだ。

 

「あー、ライムちゃんか!! 覚えてるよ! 大きくなってたからわからなかったよ」

「たしかにそうですね、お互い大きくなっててずいぶん変わりましたもんね」

「そうだね、おじいさんは元気?」

「おじいちゃんは元気です! 悟飯くんにあいたがってたので今度遊びに来てください」

「そうだね、ぜひまた胡椒買いにいくよ」

 

 あっという間に、流れるようなコミュニケーションができて胸をなでおろした。いやあ懐かしいなあと彼が感慨深そうにつぶやき、側においてあるシャンパンを口に含む。

 

「そういえばライムちゃん、カプセルコーポレーションに就職したんだね! すごいなあ〜」

「いえいえそんな……」

「僕の友達もカプセルコーポレーションを志望した人多かったけどみんな落ちちゃったし、そんな中受かるなんてとってもすごいよ。やっぱり大企業だから志望したの?」

「え、ええ……まあそれもあるんですけど」

 

 そこまで言いかけて私はしまったと気づく。ここは素直にそうですと言って終わらせるべきだった。これはそれ以外の理由を言う必要がでてきてしまう。案の定彼はそうなんだ、他にどういう理由があるのと聞き返してしまっている。

 不味い、ここはごまかすべきだ。適当に、開発に興味があるだの、企業理念に共感しただのいってその場を乗り切ればいい。

 

「……あ、あなたにお礼が言えると思ったからです」

「えっ……」

 

 言ってしまった。ウソを付くのが昔は得意だったのに。セルが来たぞと言って悪いやつにいたずらしてたのに、なんでこんなときに限って正直に言ってしまったんだ。もう、こうなったら伝えるしかない。

 

「カプセルコーポレーションにいけば、色んな分野に関われると思ってました。そしてあなたは将来偉い学者さんになるといってたので、それで接点を作れれば、いつかあのときのお礼を伝えられると思って……」

「お礼?」

「そうです。貴方は昔、殺し屋から私とおじいちゃんを助けてくれて、そしてセルから地球を守ってくれた。そのお礼が言いたかったんです。だから、本当にありがとうございました」

「そんな……でも、どういたしまして」

 

 彼は優しくほほえみ、頭を下げる私に頭を上げるように促す。

 そんな優しさを持っているのなら。貴方は世界一強くて優しい男の子であるのなら。

 きっとこれからいう私のワガママだって、受け入れてくれるんじゃないのか。あわよくば、結果も変わるんじゃないのか。

 あり得ない妄想が現実になる可能性が今、出てきているんじゃないのか。

 私はきっと前を向き、強く彼を見る。もうこうなったら、ブレーキなんていらない。

 

「あの……これからいうことは、貴方にとってははた迷惑な話ではありますので、聞かなかったことにしてください。そして、私のわがままを許して下さい」

 

 あのとき、胸にしまい込んだ想いを、ここで爆発させるしかなかった。私は思い切り息を吸う。もう、もしかしたら私はここにいられなくなるかもしれない。それでも、それでもこれは私の、長年の夢だったんだ。

 心臓の音がうるさい。お前もう余計なこと言うんじゃないと抗議するかのように。でも、もう私は止まらない。なぜならーー

 

「わ、私はずっと、あなたのことがーー」

 

 

 

 

 

「ご歓談中失礼します! さて、新婦のお色直しが終わりました! さあビーデル、悟飯くんにあなたの晴れ姿を見せつけちゃいなさい!」

 

 ブルマ社長のアナウンスが会場に響き渡り、私の想いが遮られる。彼の目線も私ではなく、披露宴会場の出入り口の方に向けられた。そこには、真紅のウェディングドレスを纏ったビーデルがいた。艶やかな薔薇の花がいくつも散りばめられており、高貴さを演出している。それでいて彼女のエネルギッシュな部分も際立ち、実によく似合っていると言わざるを得ない。それを証明するかのように、出席者から黄色い悲鳴が上がっている。

 

「わぁ、綺麗だなあビーデルさん……」

 

 彼は、少年のような瞳で、そして一人の男の表情で新婦を見つめていた。彼は曇りなき愛情を彼女に抱いている。本当に、あの無邪気な英雄は彼女のことを心から愛しているのだ。私がしようとしていたことは、彼のそんな純粋な気持ちに靄をかけるのと同じことだ。そんなこと、許されていいはずがなかったのだ。

 私は唇を噛み締め、新婦が着席するまで無言で居続ける。新婦は私に微笑み、ありがとうございますとお礼さえ言ってのけ、ただいまと彼に言った。

 

「そういえばライムちゃん。さっきなんて言おうとしたの?」

 

 彼は私の瞳を覗き込んだ。その真っ直ぐな瞳は私の醜い部分を暴き出そうとするように見えてしまった。でも、実際に私は醜い。彼の、そして新婦の未来に傷をつけかねない行為をしかけたのだ。 

 だから私は、精一杯頬を上げ、にっこり笑った。

 

「ごめん、結婚おめでとうって言おうとしただけ!! 引き続き楽しんでね!」

 

 これは、私にとっての罰だ。横に座ろうと戦わなかったものの末路なのだ。だから、この時間だけはどうか、耐えてください。そう祈りながら私はペコリと頭を下げた。

 その時、いつの間にか側にいたベンがこっそり私の耳元に近づいて囁いた。

 

「ライム、そろそろメンテも終わっただろうし、料理班のヘルプに一緒に来いってさ」

「……わかったよ」

 

 ベンが新郎新婦に事情を説明し、あとはすべてロボットが対応してくれるので何かあったら呼んでくれと告げ、その場を去る。彼は私を最後まで笑顔で見送ってくれた。

 

「ライム、ちょっとこっちへ」

 

 新郎新婦から離れ、料理班の厨房へ向かう途中。脇の茂みへと手を引っ張って連れ込まれる。私は抵抗せずに茂みに入り、少し置くまで進むと、カプセルコーポレーションの古い倉庫にたどり着く。もうほとんど立ち寄ってない場所だ。立ち寄るとしても社長が一人で古い研究ガジェットを漁るときくらいだ。もうここまで来ると、結婚式の喧騒が全く聞こえなくなっている。

 

「ここ、俺のお気に入りの休憩場所でさ。めんどくさい案件があったときはここでストレス発散してるんだ」

「……そうなんだ」

「なあ、ライム。お礼、言えたか?」

「……うん、いえた」

「そっか……気持ちは、伝えられたか?」

「……ううん」

 

 古い倉庫の中で、やけに私の返答が響き渡る。かなりかすれてて、もう涙声なのがバレバレだった。私はハンカチで目尻を拭おうとした。でもーーベンは、優しく微笑んでハンカチを取り上げた。

 

「ここなら、誰にも聞こえないからさ」

 

 瞬間、私の心の中のダムは決壊した。

 もう何を言ったのか覚えてない。多分悟飯くんへの気持ちをベンにぶつけまくったんだと思う。ベンのスーツを涙と鼻水でグチョグチョに濡らして、彼の温かい胸に飛びついて拳で叩いて、喉が枯れるまで叫んだことしか明確に覚えていない。

 気づいたら、外の窓から夕日が差し込んでいた。そしてベンの姿はなく、メッセージアプリで、「おはよう。そろそろ孫悟飯さんが閉幕の挨拶をするから、それだけ聞きに戻ってこい」との一言だけが送信されていた。

 私はぐちゃぐちゃになった顔を拭き、慌てて会場に戻る。なんでもないような表情を作りながら、私は壇上の方へと視線を向ける。そこには、凛々しい表情で原稿を読み上げる彼がいた。

 

「皆さん。この度はお忙しい中、僕たちの披露宴にご出席いただきまして、ありがとうございました。楽しんでいただけましたら幸いです。僕はこれまで、色んな人に支えられて生きてきました。僕に学者への道を導いてくれたお母さん、いつも僕を守ってくれたお父さん、僕に戦士としてのあり方や戦い方を教えてくれたピッコロさん、僕の力を認めてくれたベジータさん、そして僕を見守り続けてくれた全ての人に改めて感謝を申し上げます。これから僕たちは温かい家庭を築いていけるように励みますが、ご指導ご鞭撻の方よろしくお願いします」

 

 パチパチと温かい拍手が会場を包む。私の初恋が終わっていく音がするけれど、全部ベンの胸の中で吐き出したからだろうか、 心地が良かった。私ではなく、ビーデルさんを選んだから、彼は幸せな表情を浮かべているのだ。きっと私なら、あんなふうに笑顔にすることはできなかっただろう。根拠はないけれど、なんとなくそんな感じがしてしまうのだ。

 

 私はひっそりと親指を彼に立てた。彼もそれに気づき、少しだけ咲いながら、親指を立て、新婦とともに会場を後にしたのだった。

 

「ーーさようなら、私の初恋」

 

 そっとつぶやいた声は、拍手の海に流され、空へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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