B&T~記憶喪失の転生者、伝説級の暗殺術で異世界ディストピアをぶっ壊す~ 作:五島七夫
魔獣を討伐した翌日、気が付けば昼前という時間になっていた。ソフィアと別れた後はすぐに寝てしまったことを考えると、半日以上寝てしまっていたことになる。それだけ、慣れないことをして疲労が溜まってたということか――まぁ、そもそも前世ではどんな生活をしていたかも思い出せないのだが。
今日はひとまず、装備を買いに行くことにした。慎ましく生活しておけば三か月強は生きていけるとしても、自分で稼げるようになっておかないと不安もある。それに、異世界の武器屋に行く、それだけでなんとなくワクワクする。
宿を出るときに武器屋の場所を聞くがてらに、部屋を取っておくかどうか宿の店主に聞かれた。冒険者ギルドの敷地は結構大きいが、本来は立地的に、また戦時のセーフティネットとして存在しているのだから、部屋の予約はいっぱいでもおかしくないと思う。
「冒険者ギルドの宿は、値段は中間って所だからな。ワーカーやってるやつらは簡易宿舎に泊まるし、魔族や魔獣を討伐できるような連中はもう少し高級な宿を取ってるぜ」
とは、宿主の談。しかし、あまり夜にチェックインしようとすると、すでに満室のケースも多いとのこと。ひとまず、簡易宿舎はギルドの相部屋よりも怖いかもしれない。少し街の状況が分かるようになるまでと考えて、一週間二百十ゴールドで予約を取っておくことにする。
武器屋も、やはり正門の近くにあった。もしかすると、個人の業物を作っているような名工は隠れて存在するかもしれないが、ひとまず多くの冒険者が利用するというらしい大型の武器屋に足を踏み入れた。さすが最前線の武器屋というだけあり、店内はなかなか広く、武器、防具が幅広く取り揃えられているように見える。時間は正午ということが幸いしたのか、昼飯時のおかげで人はまばらだ。これなら、ゆっくり見れるかもしれない。
「……げっ」
入口で店内を見回していると、背後から女の声が聞こえた。その声は聞き覚えがあり、自分の数少ない知り合いと言えば彼女しかいない。
「げっ、とはご挨拶だな、エル」
「はぁ……まぁ、丁度良かったかしらね」
エルは腰につけているバッグに手を付けると、革袋を一つ取り出してこちらに手渡した。
「はい、ワーウルフ一体分の千ゴールド」
「え、良いのか?」
「良いも何も、アナタが倒した分なんだから当然でしょ……」
元々、ワーウルフ討伐に関しては全額無いものと思っていたのだから、一体分でも増えれば十分に助かる。これから武具を揃えるのだし、何かと入用なのだから、ありがたくいただくことにする。
「ありがとう、エル」
「どういたしまして……それじゃ」
軽く手を振りながら、エルはこちらの横を素通りしようとする。
「いやいや、ちょっと待ってくれ。俺、武器を買い揃えたいと思ってるんだけど……」
「そう? 勝手に買えばいいじゃない。私には関係ないわ」
素気無くそのまま、彼女は店の奥へと消えてしまった。もう一度会うことにはなる、はこの報酬を渡すためで、それ以上の干渉はする気はない、ということなのだろう。
どうしようか、彼女のことは諦めて自分で探すか。正直、武器や防具についても解説がもらえれば助かるのだが――。
「いらっしゃいませ、初めて見る顔ですねぇ、何かお探しで?」
エルに解説してもらおうかとも思ったが、その前に店員に捕まってしまった。のんびり自分で探したい気持ちというか、店員だとつい要らないものまで高額で買ってしまいそうで嫌なのだが。しかし、相手は脂ぎった顔の年季の入った中年、ということは武具に関してはプロだろうし、店員に聞けば良いか。
「あぁ、昨日、冒険者になってね。武器防具を買おうと思ってきたんだけど」
「はい、はい……ちなみに、お予算はいくらほどで?」
最初は三千ゴールドと思っていたが、エルからもらった千ゴールドがあれば、もう千は上乗せしてよいか。
「四千ゴールドかな」
「よんせ……はい、四千ゴールドでございますね」
額を伝えた瞬間に、店員の態度があからさまに変わった気がする。これはボラれるかもしれない、注意しなければ。
「それで、どのような種類の武具をお考えで?」
「そうだなぁ、ディフェンダーをやろうと思ってるんだが」
「それでしたら、盾と鎧、兜、篭手など防具一式に、槍か長剣がスタンダートでございますね」
分かっていたことだが、やはり防具がより重視されるか。しかし、なんとなく前世でゲームなどやっている時には武器によりお金をかける派だった気もする――とはいえ、命あって物種、防具にお金をかけるのは反対はしない。
ただ、一点だけ気になることがある。昨日、ソフィアと一緒に魔獣討伐をしている時に感じたことだが――。
「なぁ、盾を持たないって選択肢はあるか?」
思いっきり大きめの盾を――タワーシールドとかいう種類だったと思う――取り出そうとしている店員に質問してみた。
「とはいえ、お客様、ディフェンダーの命は盾でございますよ?」
「いや、あんまりデカいと視界が遮られて嫌なんだ」
そう、昨日一番の違和感はそこだった。剣も使い慣れていないのはもちろんだったが、相手の攻撃を盾でいなす、というのが結構神経を使う。受けたのは衝撃で分かるが、その後の展開が目で見えないため、余計にストレスを感じていたように思う。
「それでしたら、両手剣などいかがでしょうか?」
「両手剣……!」
両手剣と言えば、男の子が一度は憧れるやつ筆頭である。店員が「良いものがございます」と言い、そのまま剣の並ぶコーナーへと連れていかれた。
「両手剣は扱いは難しいですが、使いこなせれば攻防一体。肉厚な刀身で相手の攻撃を弾き、両手の力で持って敵をなぎ倒すことが可能です」
「ふむ……!」
そうか、その通りだ。手に持つものが一つなら、それの扱いに集中できるし、両手の力を入れられるのも大きい。両手剣を持って戦っている所を想像する。人型サイズの複数の敵を一刀で薙ぎ、大型魔獣を一撃にて両断している自分の姿が目に浮かぶ。なるほど、きっと自分は大剣を扱うために生まれてきたに違いない。自然と、ふさわしい二つ名まで浮かんでくる――大型殺し【ジャイアントキリング】のアラン・スミス――悪くない。
「……お客様?」
「はっ……いや、続けてくれ」
いかん、つい妄想に耽ってしまった。相手は歴戦の商人、あまり隙を見せてはボラれる可能性があるのを忘れていた。しっかりしなくては。
「それでですね……こちら、名工ガランゼウスの最後の一振り、巨人をも粉砕するために造られたといわれるジャイアントスレイヤーでございます」
そう言いながら、商人は壁に立てかけられている巨大な一振りを商人は指さしている。名工、ガランゼウス、最後の一振り――そんなの強いに決まっている。なにせ、名前に濁点が二つも入っている。弱いわけがない。
「こちら、一品ものでして……本来でしたら、五千ゴールドなのですが、お客様の冒険者への最初の一歩という記念に、特別にお勉強して……」
そう言いながら、商人は懐からソロバンを出し、ぱちぱちと叩き出し――。
「こちら、三千五百ゴールドでのご提供でいかがでしょう?」
「なっ……それだと、防具がほとんど買えないじゃないか」
「しかし、こちらもこれ以上は流石に……人気刀工の剣ですからね。でも、無理とおっしゃるなら……」
「ちょ、ちょっと待ってくれ」
次に来た時にはもうないかもしれない。そう思うと焦りが生じる。一応、こちらの全財産は五千五百ゴールドほど、予算から足が出ても買えなくもない。ガランゼウスと、ジャイアントスレイヤーと一緒に頑張れば、すぐにお金なんて稼げる――そう思えば、これはむしろ投資と言えるかもしれない。見ていてくれガランゼウス、お前の意思は俺が継ぐ――。
「……アナタ、馬鹿なの? こんな御大層に飾られてて売れないんだから、人気が無いに決まってるじゃない」
その声に、一気に現実に引き戻される。振り向くと、黒い髪の女剣士があきれた顔でこちらを見ていた。
「エル、商売の邪魔をしないでくれ」
「邪魔する気はないんだけど、素人相手に扱えもしないものを売りつけるのもどうかと思ってね……合わないものを使わせても、命を落とすだけだから」
エルはこちらをちらと見て、「まぁ、死にたいのなら止めはしないわ」と付け加えた。折角なので、こちらの疑問をぶつけてみることにする。
「ちょっと待ってくれ、エル。ガランゼウスは名工なんだろ?」
「えぇ、そこは間違っていない。というか、そこの商人は嘘を一つも言ってない。ただ、アナタに利するようなことを敢えて伏せているのも確か。ガランゼウスが人気なのは、値段に対して丈夫な武器を作ってるから。それに、基本的には片手剣が人気なの。その最後の一振りとやらは、最後くらい好きなものを作りたいってことで造られたらしいわ」
「それでいて、なんで売れないんだ?」
「そもそも、両手剣なんて死にたがりが使う武器……主にアタッカーが使うものだけれど、それにしてもこの剣は巨大すぎる。使うには、相当の力と技量が必要よ。それでアナタ、この剣に見合うだけのモノを自分が持っていると思っているのかしら?」
「あーうー……」
一瞬、俺とガランゼウスの間に入るな、とか言おうと思ったが、聞いている限りすべて正論に聞こえる。とりあえず、両手剣はOKとしても、ジャイアントスレイヤーは買わないほうが良さそうだ。そもそも予算オーバーしそうだし。
こちらが現実に還るころには、店員は大きなため息をついて離れて行っていた。
「はぁ……エル、お前が邪魔をしたんだからな。てめぇがそいつの面倒を見ろよ」
カモにできないことが分かったせいか、あからさまに態度が変わっている。同時に、エルのほうも大きなため息をついたが、今度は離れることはなかった。