B&T~記憶喪失の転生者、伝説級の暗殺術で異世界ディストピアをぶっ壊す~   作:五島七夫

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通称アラン・スミスと呼ばれる男の正体

 気が付けば、真っ暗な空間に居た。そしてこの感じは、以前に一度体験したことがある。

 

「……ひとまずはお疲れ様だな、アラン」

 

 先ほどまで脳内に響いていたはずの声に振り向くと、暗闇の一部分だけ明かりがあるのが確認できる。その空間に置いてある椅子の背を抱いている男――エディ・べスターがこちらに声を掛けてきていた。

 

「……以前より、ハッキリと見えるな。まだ顔までは見えないが……」

「恐らく、お前の体にADAMsが馴染んできたってことだろう……その証拠に、以前より負担なく使えるようになっていたはずだ」

「まぁ良く分からんが、成長してるってことだな」

「はぁ……呑気だな、お前は」

 

 全然呑気な気など無いのだが。むしろ、襲撃からの一件から、コイツに聞きたいことなど山ほどある。ゲンブ達のこと、旧世界のこと、自分とお前との関係性、そして――。

 

「……なぁ、聞きたいことは山ほどあるんだが……俺は一体、何者なんだ? いや、何者だったんだ……? お前の知っている範囲で良い、それを教えてくれ」

 

 どう優先度をつけていいものかも分からなかったが、ひとまず――自分のことから聞いても、他のこともついて来てくれる気がする。レムは明らかに自分に何かを隠していたように思うし、先日の学長から聞かされた事に対する自分自身への疑念も晴らしたい。

 

「そうだな……少し時間もあるし、それもいいだろう。だが、話す前に一点質問だ。お前は何故、この世界でアラン・スミスと名乗っていたんだ?」

「それは……レムに名づけられたんだ。記憶喪失の俺に、アラン・スミスと名乗ったらどうかと」

「ふむ……どうやら女神レムとやらは、お前の二つの側面を知っているのだろうな。それでだが、先ほど言ったDAPAと戦うために秘密裏に開発されたサイボーグ、それがアラン・スミスだ」

「……俺が、サイボーグ?」

 

 べスターの言葉に、自分の体に視線を落とす――べスターの姿は見えるのに、真っ暗闇の中で自分の体は見えない。

 

「ま、待ってくれ、俺は人間じゃ……」

「あぁ、元々は一般人だった。アンドロイドとサイボーグを混同しているな? アンドロイドは最初から人によって造られたヒューマノイドなのに対し、サイボーグは体に機械を取り付けた者。体の構成に機械を使っている人型というのは同じだが、先天性か後天性かの違いがある」

 

 べスターはそこで一旦言葉を切った。顔は見えないから本当にそうしているかは不明だが、恐らく挙動的にはこちらを超え更なる遠い暗澹《あんたん》を眺めているのだろう。

 

「ある日、一人の青年がトラックに轢かれそうな少女を自分の身を挺して救った……その青年は一度社会的に死んで、虎に生まれ変わった。その虎のコードネームがアラン・スミス……その名を知っているのは、旧国際機関のお偉いさんのごく一部と、オレと……後二人しかいないはずなんだがな。

 お前が死んでからはアラン・スミスというコードネームは闇に葬られた……だから、チェンもホークウィンドも原初の虎というサイボーグが居たことをは認知していても、お前の名を知らなかったんだ」

 

 つまり、レムが言っていたことは半分は嘘だった。自分は確かにトラックに轢かれて、表向きには死んだ。しかし、そのまま転生したわけではなかったのだ。

 

 今の自分とトラックに轢かれる前の自分、その間を繋ぐ虎という存在――それが、アラン・スミス。どうりで、レムに提示されたこの名前に馴染みがあった訳だ――実際にこの名で呼ばれていたことがあったのだから。

 

「なるほどな……だが、腑に落ちない。二つの点で……一つ、なぜそんなサイボーグが必要だったのか。もう一つ、元々一般人の俺なんかより、なんでもっと強そうな奴を選ばなかったのかだ」

「一つ目の理由は、まぁ一か八かだったんだ……第五世代アンドロイドに対抗する手段としてな。DAPAの一角に、通称ARCというアンドロイドと生態研究の開発会社がある。

 第三世代の戦争利用で人権問題に発達し、日常的な業務をこなす人類の隣人としての第四世代の裏側で開発されていた第五世代……それらのアンドロイドは完全迷彩という機能を登載していて、既存の機器では察知が出来なかったんだ。

 熱反応、金属反応、音波に光……ありとあらゆる探知機を掻い潜るそれらは、無論人の目にも映らない。第五世代を探知するには、もはや嗅覚、もとい空間への微細な違和感を察知できる生物を使うしかない、その仮説の下に作り出されたのがアラン・スミスだ」

「……実際に、俺はその第五世代とやらを見極めることができた?」

「あぁ。もちろん、二年に及ぶ訓練と、同時に本来お前が持っていた空間に対する観察眼が凄まじく優れていたおかげなのだろうが……旧国際機関側で第五世代を見極められたのはお前と、お前の戦闘データを元に作成されたパワードスーツT2の演算機械、それにホークウィンドくらいだ」

 

 それを聞いて一つの疑問が氷解した。自分には何故、優れた索敵能力があるのか。機械での探知もできず、人の目にも写らない何者かに気付くためには、神経を研ぎ澄ませ、微細な違和感で対応するしか無かったはずだ――それ故に培われた能力が、自分の索敵だったのだ。

 

 一人で納得している間にも、べスターの話は続く。

 

「二つ目の質問だが、DAPA側が個人情報のデータを政府以上に知り、管理していた点からだ。軍人や有力なスポーツ選手の死体が消えたとなれば、DAPA側に警戒されるからな……」

「成程、それで元一般人である俺が選ばれた訳だ」

「あぁ……だが、とんだ僥倖だった。恐らく、強力な素体でも第五世代には対抗できなかっただろう。何故なら、第五世代を見極めることができる確証はなかったからだ……お前が選ばれたのは本当に偶然だが、皮肉にもそれが奴らに対抗する最高の素体だったんだ」

 

 今度は、べスターは恐らく椅子の背に額を預けて、沈むように下を眺めているような気がした――そして、どことなく自嘲的な声のまま話し続ける。

 

「そう、とんだ僥倖だった……その青年は、非人道的な実験をするのに丁度いい境遇だった。自身の事故の前に両親を別の事故で亡くし、親戚づきあいも無い。両親の事故をきっかけに交友関係も皆無に等しくなっており……だから社会的に居なくなっても問題視されない。

 そしてたまたまその人物が、武装した第五世代型アンドロイドを掻い潜り、要人を暗殺できるだけの力を持った虎になるとは……出来すぎていたと言ってもいい。

 つまり、エルという娘の見立ては間違っていなかった。アラン・スミスは間違いなく暗殺者だったのだから」

 

 まくしたてるように叩きつけられたのが返って良かったのかもしれない、一個一個の事実にあまり現実感はなく、そこまでショックを受けることはなかった――自分が両親を亡くしていたこと、人付き合いもなかったことなど思い出そうとしても思い出せないし、半分は他人事みたいだった。

 

 そして同時に、第五世代とやらと戦えるようにするには当然目的があって然るべきだ。その目的が、危険な任務の遂行――要人の暗殺であったのなら、それも理由としては納得できる。

 

 しかし――。

 

「……俺は、喜んで人を殺す様な奴だったのか?」

 

 やはり、それだけは気になった。DAPAと言われる連中が、禄でもない陰謀を持っていたとしても――時に誰かを殺める熾烈な決断をしなくてはいけなかったとしても、それを楽しんでやっていたような奴が自分のオリジナルだったとは思いたくない。

 

「いいや、そんなことはないさ……事情は色々とあった。まず、機械の体になって目覚めたお前がこちらの要件を呑まないのなら、その場で抹殺すると脅した。それに……アラン・スミスは超法規的な存在、もはや人ではないんだ。人が人を裁くことは在ってはならないが、虎が人を食い殺すのは自然の摂理なんだよ」

「そんなのは詭弁だ。それとも何か、俺のオリジナルは社会的に死んでも、人の心まで持つことを許されなかったのか?」

「そうだな、言い方が悪かった……一言で言えば、お前は人を望んで殺す様な奴じゃなかった。そもそも、DAPAとの戦いに身を投じる中でも、気に入らない任務に対しては命令を聞かなかったりと滅茶苦茶だった……思い出しただけで頭が痛くなるぞ」

「はは、そいつはいい。いたいけな一般人を変な人体実験にさらした罰としては、頭痛なんぞクソくらえだろ?」

「違いない……だが、加熱するDAPAのやり方に、少しでも人々に手を差し伸べらえるのもまた虎だったんだ。奴らは世界の終末を偽装するため、様々な破壊工作を行った……それを阻止し、罪もない一般人を救っていたのもまた虎だったんだ」

 

 とはいえ、DAPAの偏向報道で常に悪者にされていたが、と付け足された。

 

「……だが、アラン・スミスが我々に加担した一番の理由は……」

 

 丁度その時、また自分の背後から光が伸びだし、自分の体が吸い込まれ始める。

 

「……そろそろ時間のようだな、アラン」

「あぁ、そのようだ」

「先ほどカッカするなと注意したが、お前の人生を大きく歪めたオレが、そんなことを言う権利は無かったな……」

「いいや、言うのはタダさ。それに……なんとなくだが、やっぱり俺はお前のことは信用していたんだと思う、べスター。

 もしお前が俺に実験を施さなかったら、その場でオリジナルの命が潰えて終わっていただけだ。蘇ってその手を血で赤く染めていたんだとしても……それ以上の人々を救えていたのなら……その存在が歪んでいても、アラン・スミスにはきっと価値があったんだと思う」

「ふっ……そうか」

 

 男の笑い声は自嘲気味だが、同時に少し暖かかった。本当は常に一緒なのに、なかなか話せる機会もない同居人に、変に気を揉んでもらうよりは気持ちよく会話も終わった方が良いだろう。

 

「そうだ……アラン・スミスになる前の、俺の本当の名前を教えてくれよ」

「あぁ……それは、イト……」

 

 ウ、まで聞こえて後、男の声は全く聞こえなくなってしまい――明るい光に包まれたと思ったら、また急激に世界の暗さが視界に一杯になる。今の時刻を想定すればそれも当たり前なのだが、それ以外にもある種見慣れた光景が現世に戻った自分の視界に広がっていた。

 

「……おはよ……ソフィ……」

「アランさん!!」

 

 相変わらず体に力が入らずたどたどしい言葉になってしまうが――目の前にいたソフィアに挨拶だけすると、すぐに少女は自分の胸に抱きついてワンワンと泣き出した。その背後で石畳に座っているクラウが胸を撫でおろす様に一息つき、同時にその隣にいるエルも疲弊した表情で大きく息を吐き出していた。

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