B&T~記憶喪失の転生者、伝説級の暗殺術で異世界ディストピアをぶっ壊す~   作:五島七夫

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七柱会議

 王都の襲撃が起こった後、ルーナより七柱の招集がかかった。とはいえ、本体はそれぞれ遠隔の地にあるし、自身はすでに実体はないAIなのだから――都合、電子による仮想空間内にそれぞれ集まることになっている。

 

 七柱に招集が掛かると言っても、概ね集まるのは四柱から五柱だ。ハインラインは常に眠りについているし、アルファルドが姿を表すことは滅多にない。その他、都合が合わないものが集合しないケースもあり、今も実際に集まっているのは自分を含めて四人だった。

 

「……アルジャーノンは、メモリーの修復と移行に手間取りそうじゃからな。これで全員か」

 

 そう切り出したのはルーナは――その姿は幼い少女のモノで、今はセレナと名づけた肉体に宿っている――仮想現実の海に浮かぶ円卓につき、自分の対面から周囲を見渡してそう呟いた。

 

「旧世界からの来訪者が、モノリスからパワーを抽出してをぶっ放してオレ達に牙を向けてきたんだ。ハインラインも起こすべきなんじゃないか?」

 

 そう言ったのは、自分の隣に座るヴァルカンだ。胸まで覆うほどの白い髭に、背は低いものの恰幅の良い男性――ファンタジー世界のドワーフをなぞった姿をしている。元々からそこまで身長の高い男ではなかったが、今はそれにもまして小さい。ただ、現在の体になってから結構な歳が経っており、その顔には多くの皺が刻まれている。

 

 ヴァルカンの意見に関しては、この場を仕切っているルーナが首を振った。

 

「結論から言えばノーじゃ……理由は追って説明する。さて、本題に入る前に……レム、答えてもらわねばならぬことがある」

「……原初の虎について、ですかね?」

「そうね、私もそれは聞きたいわ」

 

 自分の言葉に返ってきたのは、ルーナではなくヴァルカンの隣にいる女性の声だった。レア神――エルフという種族になぞった姿ではあるものの、すでに人間でいうところの初老といった風貌である。その身を長命には設定したものの、その寿命を四千年程度に設定しており、その身を使い始めてから三千年近く経っているのだから相応というところか。

 

「彼の存在は、我々にも伏せられていましたね。納得のいく理由が欲しいわ」

「……私の方で、チェン一派の存在を想定していました」

「その対抗策として彼を復活させたというの? 私たちの敵対者を対抗策にするだなんて愚行だし……仮に百歩譲ってアナタの言う事が本当であっても、そもそも何故私たちにチェン一派の暗躍すら伏せていたの?」

「彼らがこの星に来るというのはあくまでも可能性の一つで、確証はありませんでした。アルフレッド・セオメイルの生体チップが機能を停止した時に、若干の違和感があっただけ……その処置を施すほどの技術力を持つ可能性の一つとして想定していただけです」

 

 これは事実だ。実際、チェンは痕跡をほとんど残してくれず、アルフレッド・セオメイルの生体チップの停止は誤作動と言える範囲に留まり、あくまで可能性の一つとして想定していたに過ぎない。本当に彼らがこの惑星に来ていることを確信したのは、アラン・スミスがレヴァルの地下でその気配を察知した後だった。

 

 しかし、恐らく自分よりも早く、チェン一派を察知していた一柱が居るはず――魔族の使う魔法に関しては、彼が管轄。本当は存在しない、偽りの邪神ティグリスに対する祈りを受ける神――つまり、彼は自分よりも早くレヴァルの地下空間でジャンヌ・アウィケンナ・ネストリウスが暗躍していたことにも気付いていたのだし、彼は敢えてそれを放置していたとも言える。

 

 その彼は、今この場には居ない。居ない理由が分かっているのも自分だけだろう。その一柱だけは全てを知って、そのうえで行動していたのだ。

 

 同時にまた、チェン一派の暗躍こそが、自分がアラン・スミスを秘密裏に蘇らせた理由でもある。三千年前に、この世界の海に溶けゆく自分の自我が最後に抱いた疑問――この世界の既定路線を覆せる最後のチャンス、それが今しかないと思ったから。

 

 自分が心中を整理している傍ら、ヴァルカンが髭を撫でながら嘆息を一つついた。

 

「それならそれで、キチンと報告してくれなきゃ困るぜお嬢ちゃん」

「アナタは口を挟まないでヴァルカン」

「おっと……」

 

 レアにとがめられて、ヴァルカンはバツが悪そうに口髭を手で押さえた。

 

「さぁ、レム。まだ答えてもらっていないわ。あくまでもチェン一派への対抗策の一つとして想定したとしても、我々にその存在を伏せて、何故よりにもよって最大の敵……邪神ティグリスという寓話の元、原初の虎を復活させたのか」

「それは……」

 

 レアに詰めかけられ、どう答えたものかと返答に窮する――元々、アラン・スミスの人格を信頼してこの世界に蘇らせたのであって、まさかADAMsを取り返す事態になるとは思っていなかったのだ。

 

 ADAMsさえなければ、如何様にも言い訳が出来たのに――アラン・スミスというコードネームを知るのは、もはやこの世界に自分ともう一柱しかいないはず。だから、仮にアラン・スミスが自分の介入であると他の者たちに気付かれたとしても、それだけならさほど問題にはならないはずだった。

 

 しかし、ADAMsを利用したあの戦いぶりを見たら、七柱の誰もが気付く。彼が原初の虎であったと――自分が言い淀んでいると、対面でルーナが不敵に笑い始めた。

 

「くっくっく……レア、そうレムを虐めてやるな。そやつが何を思って虎を蘇らせたかはさておき……そやつの夫が、なかなか面白い活用方法を見つけたようじゃからな」

「……アルファルドが?」

「はは、知らされておらんか……夫婦のくせに。まぁ、そなたは人工知能の一種、既に夫婦の契りなど反故にしているかもしれんが……ホレ」

 

 ルーナが宙をスワイプすると、自分たちの顔の前にモニターが現れ、ある文面が現れる。

 

「なっ……!」

「主《ぬし》の旦那は、主の想定を超える準備をしていたようじゃな……もちろん、我々に黙ってことが進んでいたのは癪じゃが、これはこれで面白い」

 

 内容の衝撃に驚きの声を上げる自分に対し、ルーナはその整った顔を愉快気に歪ませている。

 

「オレぁ反対だぞ! こんな作戦……そもそも、肝心のアイツはなんで姿を現しやがらねぇんだ……自分で説明しろってんだ」

「……私も反対だわ。封印指定のアレを起こすなんて」

 

 自分の他の二人も、アルファルドの考案した策には反対のようだった。恐らく、レアの方が深刻だろう――彼女の言う封印指定は、彼女にとって因縁の深い、目を背けたいものだろうから。

 

 だが、他の二人が反対なら、まだこの計画は覆せる。とにもかくにも、アルファルドに主導権を握らせたくない。

 

「私も反対です。アルファルドの独断で、このような策に頼ろうなどと……」

「じゃが、チェン一派に迎撃するだけの準備を進めるためにはこれは中々の上策と言えよう。

 そのうえ、計画も一気に最終段階まで進んで一挙両得じゃ……原初の虎をこちらで利用することになるから、ギリギリまでハインラインを使えないのだけがネックじゃがな……ちなみに、此度に招集したのはお主らの反対を聞くためではないぞ」

「どういうこと? 確かにハインラインの票は、便宜上アルファルドに従うことになっているけれど……アナタが賛成したとして、アルジャーノンの無効票が……」

「いいや、王都襲撃の前夜に、アルファルドはアルジャーノンに既に了承を得ておったらしい。つまり、アルファルドはこうなることを事前に予見していたし、同時に賛成票は四、つまりお主ら三人が反対したとしても、既にこれは決定事項なのじゃ。資料をよく見てみぃ」

 

 確かに、添付された書類の一番下には、四柱の賛成署名が入っている。あの人は、いや、あの人らは。

 

 実際の所、自分を含め、この場にいる四柱はこの惑星に長く居付き、徐々に考え方も変わってきているように思う。しかしアルファルドとアルジャーノンの二柱だけは一万年前のあの頃から何一つ変わらない。ただ高次元存在に手を伸ばそうと――我武者羅に手を伸ばし続けている。

 

 同時に、眠り続けているハインラインも同様だろう――彼女にとっては虎、その中でも原初の虎以外は眼中にないのだから。彼が復活したとなれば嬉々として決着を着けに行くだろう。

 

「……面白いではあるまいか。我々を苦しめた最大の敵、本物の邪神ティグリスを我々の手で転がしてやろうというのだからな。まぁ、貴様は彼奴が暴れまわっていたころにはDAPAには与していなかったから、面白味も半減じゃろうが」

「……止めてルーナ。あの人は……」

「おぉ、怖い怖い……AIの分際でそんな顔をするな。あまりの恐ろしさに泣いてしまいそうじゃ」

 

 ルーナはそう言いながら、両手を握って目元を抑えるポーズをする。とはいえ、口元は相変わらずにやけているのだから――泣いてしまいそうというのだったら、嘘でももう少し真面目にやってほしいように思う。そしてすぐに飽きたのか、月の女神は両手を下げて冷たい瞳でこちらを見た。

 

「さて、各々準備を進めるがいい……妾も何かと忙しいのじゃ。それではな」

 

 忙しいだなんて大嘘、大体のことは自身のお付の第五世代に放り投げて、自分は若い男をとっかえひっかえして遊んでいるだけのくせに――ともかく、ルーナが仮想空間から光の柱を立てながらログアウトすると、ヴァルカンが大きくため息をついた。

 

「ふぅ……どうするよ、レの字」

「レの字は止めて頂戴、レムと被るんだから……どうするもありません、確かにアルファルドの計画が上手く進めば、我々の悲願が成就する」

「だが、アンタは……」

「……ここで止まるくらいなら、私たちは一万年前に止まるべきだったのです」

「まぁ、それもそうさな……」

「えぇ、それでは……」

 

 物憂げな表情のまま、レアがログアウトする。後に残されたヴァルカンは、髭を揉みながら灰色の瞳をこちらに向けてきた。

 

「まぁ、そういうことだ。お嬢ちゃん、お前さんも色々と複雑だろうが……覚悟を決めるんだな」

 

 それだけ言い残し、ヴァルカンも円卓からその姿を消した。

 

「……そうですね。私も覚悟を決めないと」

 

 本当は、アラン・スミスの結論を待ってから決断するつもりだった。しかし、どうやらその余裕も無いようだ。それに、彼の思考はいまだに追えているし、おおよその結論は分かっている――アルファルドとチェンのせいで、また王都襲撃のせいで事情がかなり複雑になってしまったが、自分のやるべきことはある程度決まったし、同時にどうにか上手く矯正していかなければならない。

 

「あの子には、また苦労を掛けるわね……」

 

 結局世界に影響するには、アガタの力を借りざるを得ない――そして、今想定していることを彼女にやってもらうには、かなりの負担となるだろう。それでも、彼女は自分を慕い、付き従ってくれる――それに若干の罪悪感を覚えながらも、自分も円卓を去り、準備を勧めることに決めた。

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