B&T~記憶喪失の転生者、伝説級の暗殺術で異世界ディストピアをぶっ壊す~ 作:五島七夫
第二十七号遺跡には、まだ日のあるうちに到着できた。川を南下している間は快適だったし、また砂漠を横断しているうちに魔獣に襲われることもなかった。合わせて、周囲を確認しながらここまで来たものの、人の気配もなかったし、何者かが襲われたような痕跡もなかった。
もちろん広大な砂漠の中を突っ切ってきただけなので、シモンとやらが数百メートル南北にずれて東西を横断していた可能性もあるし、なんなら魔獣に一飲みでもされて痕跡すらない可能性もあるのだが。
ともかく、第二十七号遺跡とやらの中を練り歩く。長く砂と風に晒されていたせいで大部分は埋まってしまっているのだろう、所々に建物があった痕跡は見えるが、壁の一部や列柱の先端が砂から顔を出している程度のモノだ。
これはこれで、太古の浪漫と時の流れを現すいい景色なのだが、今回は絵を描きに来たわけではない。ひとまず集中して人の気配を探しつつ、遺跡の中央部分に向かっていく。
「おーい、シモンとやら、いるなら返事をしろー」
遺跡中に聞こえるように声を上げて見るが、残念ながら反応は無い。百メートル四方程度の遺跡であり、そもそもそれくらいなら自分のセンサーにかかるはずだから、声を出したことは徒労に終わった。
そもそも、シモンとやらは何故にこんな場所に来たのか。また、この遺跡とやらは元々なんだったのか――街を作るなら川沿いが良いはずだ。何某かの宗教施設だとしても、この世界は七柱への信仰が中心だから、普通に街中に教会を作ればいいだけだ。
もちろん、数千年の時の流れの中で川の流れが変わり、その結果として破棄された街とも考えられるが――遺跡の規模感がそこまで大きくないことから言っても、街とも言えないないように思う。
そんなこんなで色々と考察しながら歩いていると、遺跡の中央にある一つの柱の元まで辿り着いた。それをぐるっと回る様に一周しようとすると、対面の位置で一つのことに気づく。
「……下への階段?」
柱の中は空洞になっており、合わせてその下へ向かっていく階段があったのだ。しかし、これには違和感がある。本来ならば、この階段は砂に埋まっていないとおかしいはずなのだ。幾分か中に砂も見えるモノのごく少量であり――そうなると、恐らくこの柱は普段は閉まっており、今だけ開いているから砂に埋もれていないと考えられるのではないか。
そしてきっと、これを開けたのはシモンという名のドワーフであり、きっと彼はこの下に用があってこの第二十七号遺跡を訪れたのだ。ここが開きっぱなしになっていることから推察すれば、彼はまだこの中にいるだろう――とはいえ、命があるかまでは分からないが。
「さて、鬼が出るか蛇が出るか……」
とにかく入ってみようぜ、そんな思いで階段を下り始める。最初のうちは日の光が届いているため明るかったが、段々とその明かりが減っていき――しまったな、灯りなどは持ってきていない。中が複雑な構造になっているのなら、松明でもないと厳しいかもしれない。
同時に、なんだかワクワクしてきている自分もいる。前世的な感覚で言うのなら、砂に埋もれた遺跡というのなら、王や偉人の副葬品でも埋まっていそうだ。お宝ががっぽがっぽあるかもしれない。
しかし、そんな夢も幻想も、階段を降りきるころには砕かれた。同時に、灯りを持ってこなかったことも杞憂に終わった――中は前世で言うところの地下施設の様になっており、青白い壁が足元のライトに照らされていたのだ。
そして、階段を降りきった場所の壁には金属のプレートがはめ込まれており、そこには旧世界の文字で「南大陸第二十七号保管庫」と記載されていた。
「……浪漫もへったくれもあったもんじゃないな」
自分が真にこの世界の住人なら、何か古代人か異星人がこの施設を建てたと興奮していたかもしれないが――実際にはある意味、古代人なり異星人なりがこの遺跡を作ったのは間違いないのだが――自分が旧世界の住人である以上、どちらかというとここに足を踏み入れることは、同郷が作った施設に侵入するのに等しい。
しかし、ドワーフとは今まで接点が無かったが、ここに足を踏み入れられる権限を持っているということは、少なくともレムリアの民よりは彼らは七柱に近い所にいるのだろう。そして同時に、その人物がこの中で消息を絶ったというのなら、何か危険なことが中で起きたのかもしれない――そう思い、一層警戒を強めることにする。
まず、外から中の様子を手繰る。中はそこそこの広さがあるのか、ひとまず何者の気配も感じない。目を凝らしてみれば廊下は枝分かれしており、多少入り組んだ構造になっているようだ。この場にいても埒が明かない、そう思い遺跡の中に足を踏み入れることにする。
足音を殺しながら慎重に中を進む――この遺跡がレムリアの民に見られたくない場所なのなら、トラップの一つや二つあってもおかしくはない。流石に赤外線は肉眼では視認できないので、そんなものがあったらアウトだが。しかしその原理で言えばシモンであっても進むのが難しいだろうし、恐らく危険があるとしても別の要因だと思う、いや思いたい。
十字路になっている部分まで進み、一旦立ち止まる。そこはひし形の空間になっているのだが、空気の流れに少し違和感がある。正面の壁は周りと同じものなのだが、背後の面には空洞があるような気がする。
振り向いて見ると、そこには人型の穴が一つ空いていた。自分から見て左側が空いており――もう片方には、人型の何かが埋まっている。これが真の古代遺跡であるのなら像が埋まっているだけと判断するのだが――。
その時、また背後から――つまり、元々向かっていた方の通路の奥――何者かが動く気配を感じた。それは本当に微細な気配、音も殺意も無い。しかし、こいつは――。
息を止め、背後の気配が消えるのを待つ。緊張を悟られるな、奴らは人の出す微細な分泌物すら把握する。音を立てるな、奴らは百メートル先に落ちた針の音ですら感知する。しかし、自身の放つ体温と鼓動の音は止めようがない。その何者かがこちらに銃口を向ける気配を察知し――。
『……我慢したところで無駄だってことだな、べスター?』
『……アラン、どうした? 今、オレの声が聞こえているのか?』
覚悟を決め、脳内のお友達に声を掛けてみることにする。案の定、すでに自分の緊張が極限に達しており、ベスターの声が聞こえるようになっていた。しかしべスターは自分のように異常を感知している訳ではないので、呑気に質問を返してきたが――ともかく止めていた肺に一気に新鮮な空気を入れて、勢いよく通路の方へと跳躍した。
自分が先ほど立っていた場所に熱線が走る。自分はすぐに腰の小型バックからアリギエーリ印の劇薬を一本取り出し、それを口にする。薬はすぐに効き、若干眩暈のする心地になり――どうせこちらの存在はバレているのだと瓶を蓋ごと投げ捨て、討ち杭を左手に装着しながら脳内の相棒に語り掛ける。
『おい! 第五世代型アンドロイドって硬いよな!?』
『あぁ、後期型ならばT2と同程度の装甲はある……仮にオレが知っている世代から進化していないと楽観的に捕らえたとしても、今のお前に倒せる武装は無いな』
『冷たい現実をどうも!』
足音はしない。だが、確実に何某かがこちらへ向かって移動してきている――薬を飲んで準備はしたが、ひとまずADAMsを使う気はない。あまり安易に使えば離脱前に体に限界が来るし、何よりアレを使うと音速の壁を超えた時の音がデカい。この遺跡の中に多く奴らが存在していた場合、それらに自分の位置を知らせてしまう恐れがある。
そして、ひし形の空間に何者かが足を踏み入れた気配を察知する。それは確かに周りの風景に溶け込み、透明な液体がその場に存在しているかのような感じ――だが、自分にはその者が確実にそこにいると分かる。
「対象ヲ確認。合致するデータなシ……暫定、第六世代型アンドロイド」
十字路の方から機械音声が聞こえ始め――第四世代でももう少し上手く喋ったはずだ。要はこの星に到着してから三千年という時間の中で、コイツはどこか故障でもしてしまったのかもしれない。
ともかく、相手の右手が動き――こちらも袖から短剣を一本取り出す。
「照合のナい第六世代は、デリーと……」
「遅せぇ!!」
相手が右手を上げるのに合わせて、短剣を投擲する。投げたナイフの先端が、敵が右手に持っているはずの複雑な機構の隙間に突き刺さる。そのまま相手がこちらに銃口を合わせて引き金を引くと、ナイフのせいで機構が誤作動を起こし――敵が右手に持っていたはずの小銃が爆発を起こした。
その爆発の影響か、襲撃者は姿を隠している機能を維持することが出来ずに姿を現す――銀色のボディの周りに迷彩を維持しようという涙ぐましい努力が見え、その体の回りに微小な砂嵐のようなノイズが幾重にも走っている。だが、右手のブラスターの暴発で右手が吹き飛び、肘より先が無くなって、ワイヤーが飛びてる形になっている。
「流石に中身まで頑丈にできてはいないだろ!?」
先ほどの衝撃で足元のおぼつかなくなっている機械人間に一気に詰め寄り、飛び出ている中身に対して杭の先端を打ち付ける。トリガーを引くと、派手な音とともに自分の体が後ろに吹き飛ばされ――だが、それは相手も同様で、互いの体が炸薬を中心にはじけ飛んだ。
着地と同時に、すぐさま姿勢を立て直して前を見る。暫定、第五世代型アンドロイドの右腕は吹き飛び、またその衝撃が丸ごと内部の機構を破壊してくれたのだろう、ザザ、ピーという乾いた電子音を立てたかと思うと、隙間から煙をだしてそのまま動かなくなった。
『原始的な武器だけで第五世代型を倒すとは……もはや馬鹿かお前は』
『はは、誉め言葉として受け取っておくよ』
脳内から聞こえてくるべスターの声は、驚きを通り越して呆れに近い。ともかく、本当に動かなくなったのか確認するために、ひし形の空間から吹き飛んで通路の奥で倒れて煙を上げている機械の方へと近づく。もはやうんともすんとも言わない、これは完全撃破と言って良いだろう。
「ふぅ……ビビらせやがって」
小さな声で言いながら機械人間の近くまで近寄ると、自分の足音が僅かに通路に響く――だが、足音は自分が出した一つではなかった。すぐ背後で何者かが動き出す気配を感じ――イヤな予感がして振り返ると、先ほど壁に埋まっていたもう一体が動き出していた。
「僚機の信号が停止。緊急事態発生……現状を確認」
もう一体のアンドロイドは、きょろきょろと周りを見回し――自分がアイツなら、僚機とやらの側で勝ち誇っている男が何某かの原因と判断する。三千年以上前のポンコツであっても、それくらいは簡単に判断するだろう。
『……なぁ、もう一回聞いていいか?』
『第五世代型アンドロイドに原始的な武器は通用しないぞ?』
『それなら、もう一回……!?』
相手のブラスターの誤作動を狙う、そう思った矢先にアンドロイドが取り出したのは、腰に差していた剣――いわゆるヒートソードというヤツだろう、刀身が一気に橙色に輝きだした。
「……侵入者による襲撃と推定。暫定、第六世代アンドロイド……排除する」
「お……おぉぉおおお!?」
機械人間はその姿を隠すこともせずに急接近してきて、両手で持った太刀を横薙ぎにした。それをしゃがみ込むように交わすと、上の方で壁が溶ける音が聞こえる――べスターの言う通り、鉄の短剣でチャンバラも出来そうにない。
すぐさま身を反転し、先ほど倒したアンドロイドが腰に着けている柄を握ってそのまま低姿勢で前進する。背中すれすれで熱い何かが空を斬り――振り向くと自分がしゃがみ込んでいた場所の床がバターの様に斬れていた。
『くっ……だが、こいつを使えば……!』
そう、第五世代が持っていた物なのだから、これも何某かの未来兵器だ。いや、元々自分のオリジナルが生きていた時代を考えれば現代兵器、いっそ一万年前の骨董品ですらあるのだが、この世界の基準で考えれば未来的な何か――恐らくビームサーベルとか、柄の大きさからしてビームダガーか、ともかくボタンを押して刀身を出そうとする。
だが、残念ながら柄からは何も出なかった。誤作動かと思ってもう一度押してみたが、乾いたカチカチという音が通路に響くだけだった。
『馬鹿め、アンドロイドの使う兵器は、奴らのコンピューターと連動しているに決まっているだろう?』
『てめ、そういうことは早く……』
「うひぃ!?」
言え、とべスターに反論する余裕は無かった。素っ頓狂な悲鳴を上げながら、縦一閃される斬撃をバックステップで躱す。着地と同時に袖から短剣を取り出して相手の眉間に投げつけるが、それも空虚な音を立てて弾かれてしまう。
だが、相手の方も一度迎撃を止め、人間でいう眼の部分がカラフルに光だし――恐らくだが、何か計算しているのだろう、それも自分にとってイヤな方へ結論が出そうだ。
「対象の危険レベル、三から四へ修正」
その言葉を皮切りに、先ほどよりも素早い踏み込みに、鋭い斬撃が乗っかる。警戒はしていたのでスレスレで躱すことは出来たものの、刀身が近づいただけで掠った右袖の繊維が燃え上がった。
『一旦離脱したらどうだ? ADAMsを使えば、相手を掻い潜って外に出ることは可能だろう』
『あぁ、そうしたいのは山々だが……まだシモンとやらを見つけていないからな』
『この惑星の種族が第五世代型アンドロイドとどのような関係にあるのは不明だが、見たところ侵入者には容赦ないという雰囲気だ……恐らくすでに……』
「……おいアンタ! こっちだ!!」
相手の攻撃をいなしながら脳内会議をしていると、背後から声が聞こえた。バク転するついでに一瞬だけ声の聞こえたほうを覗き見ると、通路の奥の扉に手をかけて、小柄な男性がこちらを見ているのを確認できた。
『……べスター、まだシモンは御存命だった様だぜ?』
脳内で皮肉を返すが、後ろの男と合流するのには目の前の機械から距離を大いに取らなければならないだろう。一瞬ならば、負荷も少ない――そう判断して奥歯のスイッチを入れ、一気に扉の方へと駆けだした。
ドワーフの横を通り過ぎ、加速を切る。爆音と同時に目の前で自分が消えたことに驚いたのだろう、推定シモンは困惑したように辺りを見回している。ついでに、通路の奥にいる人型も、状況を整理するためか足を止めているようだった。
「扉を締めろ!」
「……!? アンタ、いつの間に後ろに……」
「早く扉を!」
「わ、分かった!」
ドワーフはすぐに室内に戻り、扉の隣にあるディスプレイを操作し始めた。彼の身長だと画面は顎から首辺りの高さであり、液晶型のキーボードは腕を上げて操作しているので扱いにくそうだ。
小柄な男がエンターキーを押すと、徐々に扉が閉まり始める――狭くなる通路の奥で、第五世代型アンドロイドの眼が赤く光って自分を捕らえ――。
「……照合データ、ホワイトタイガーのADAMsに一致……」
どうやら地下に眠っていたポンコツすら自分のことを知っているらしい。しかも、恐らく扉が開けば真っ先に自分に襲い掛かってくるだろう――ともかく、自分の探し人は見つかったのだ、ひとまず扉の奥で見えなくなる旧敵に対して手を振って見せることにした。