B&T~記憶喪失の転生者、伝説級の暗殺術で異世界ディストピアをぶっ壊す~ 作:五島七夫
少女たちが寮に帰って来て、自分が夜間に工場へ招待されていることを聞かされた。ダンと一対一で話すとなると、多少は緊張するが――自分が好かれていないことに加え、相手は自分の正体を認識している可能性が高い。恐らくはレムが自分に手を出さないようにと言ってくれているだろうが、それでも何かしらの危害をくわえてくる可能性は否定できない。
とはいえ、ある種チャンスでもあるように思う。少女たちが居ない状況なら、色々と話も引き出せるかもしれない。それに危険があったとしても、少女たちを巻き込むこともない。虎穴に入らずんばなんとやら、以前にアガタにそう言われて笑われたことを思い出しつつ、ともかくダンの招待を受けてみることにした。
「……アレ? でも、設備を使えるか聞きに言ったんだよな?」
「うっ……色々と話しているうちに、そのことをダンさんに相談するのを失念しておりまして……」
自分の質問に対してクラウはなんだか歯切れの悪い返事を返してきた。そうでなしにしても、帰って来てからなんだかそわそわしているような――これはクラウだけでなく、エルもだが――というか、自分が夜に招待されたという話をしただけなら、色々と話してきたというクラウの論証とも矛盾する。
「……おい、大丈夫か? なんかダンに変なことを言われたんじゃないだろうな?」
「そ、そんなことないですよ!? ねぇ、エルさん?」
「えぇ……ちょっと世間話が立て込んだだけよ」
クラウの狼狽を見ると、何もなかったというのは嘘っぽい。エルはいつものように腕を組んで答えたが、なんとなく緊張した面持ちなような気がする。女好きのオヤジのことだ、彼女たちは何かセクハラじみたことでもされたのかもしれない。それを酋長の権力でもみ消しているとか――それなら、ダンにはガツンと言ってやらねば。
ともかく、次第に夜になり、一人で工場へと向かった。淡い光を映す湖面を見ながら坂を降りてバスに乗り、夜間の街並みをぼうっと窓から眺めると、等間隔に置かれた街灯や信号、路面に並ぶ建物からの橙色に近い蛍光灯の明かりが眼に入って、なんだかまた懐かしい様な心地がしてくる。
自分の中の前世の知識としては、すでに蛍光灯やネオンなどほとんどなく、フィラメントの燃えるような明かりなどはあまり馴染みがなかったように思う。それもでこれらをどことなく懐かしいように思うのは、写真や映像の中でそれらを見ていたからからだろう。自分が直接見たことのない光景でも、自分の――正確には自分のオリジナルの――祖先が残した記憶が、自分の体の奥底に染み付いていて、それが郷愁の念を想起させるのかもしれない。
この世界で目覚めて、何度もそんな光景に出くわしてきた。今までは自然の美しさや街並みの懐かしさから心を打たれていたが、この景色もやはり悪くない。そしてバスを降り、星のない真っ暗な空洞のドームを見つめながら歩いていると、いつの間にか工場に着いていた。
工場の明かりはほとんど消えており、中に入ってみても昼間のうるささが嘘のように静かだった。どうやら、ドワーフの工場は交代制の二十四時間稼働などではないらしい。そもそもそこまでドワーフ人口も多くなさそうだし、輸出して外貨を稼ごうなどという気もないのだから、昼間の稼働だけで事足りるのだろう。
何度か足を運んだおかげで見慣れてしまった階段を昇り、二階にある休憩室の扉の前にたどり着く。一応気配を手繰ってみるが、感知出来る息遣いは中に一人分――それこそ、第五世代型アンドロイドとやらが待ち構えていたら呼吸はしないだろうが、中には一人の他に動く気配は感じない。とりあえず、目立った危険はなさそうだ。
「……おい、ダン。来てやったぞ」
「本当に口が悪いな、てめぇはよ……まぁいい、入んな」
扉を開けて、一瞬隙間から中を覗く――やはり、ダン以外には誰もいないようだ。肝心のダンは、また面白くなさそうな視線をこちらへ向けてきた。
「けっ、まさかオレが、勇者様を闇討ちするとでも疑ってんのか?」
「あぁ、大分嫌われてるみたいだからさ。用心するに越したことはないと思ってな」
皮肉を返しながら中へと入り、自分も定位置であるダンの真正面にドカっと腰かける。皮肉を返されたのが面白くなかったのだろう、ダンは手をひらひらさせながら大きくため息をつく。
「はぁ……あぁ言えばこうだ。あのな、テメェはオレにお願いする立場なんだぞ? 媚びへつらって土下座の一つでもしたらどうなんだ、え?」
「クラウから聞いたぞ。レムから武器作成の依頼されているのに、お前がボイコットしてるらしいじゃねぇか……そういう意味じゃ、むしろテメェの方が俺に詫びを入れるべきなんじゃないのか?」
「ちっ……」
「……招待したのはダン、お前の方なんだ。俺と何を話す気だったんだ?」
「まぁ、そう急かすな……男と男が腹を割って話すって言えばよ……コレよ」
ダンはそう言いながら、座っているソファーの足元に手を伸ばす。そして何かを握って、それをドン、と机の上に置いた。それは酒瓶だった。それも、偉く度数の高そうなやつで――改めてみれば、空のグラスが机の上に二つ並べてある。
以前ワインを飲んで潰れてしまったことを思い出していると、ダンがこちらを見る表情が見る見るうちに楽し気なものに変わってくる。恐らく、自分が引きつったような顔をしてしまっているのが彼にとって愉快だったに違いない。
「……お、お? アラン・スミスさん、まさかお酒が飲めねぇってのかい?」
「あ、あのなぁ……酔っぱらってちゃ、真面目な話し合いなんてできないだろ?」
「かぁー! 分かってねぇな!」
ダンはまた、自らの目元を右手でパン、と叩いて覆って見せた。
「むしろ、酔っぱらってなきゃ話せねぇことだってあるってもんよ……それに思い返してみろ、オレ達が素面で、どれだけ建設的な話が出来るってんだ?」
「……一理、いや百理あるな」
今まで素面で対面すれば、憎まれ口を叩き合って話も進まなかったのだ。そう考えれば、何かしらの緩衝材は――それが酒というのは、以前泥酔した記憶がある自分としては本当は勘弁してもらいたいのだが――必要かもしれない。
そんな風に思っている傍らで、先ほどの自分の意見を肯定と受け取ったのだろう、ダンが身を乗り出してこちらのグラスに琥珀色の液体を注ぎだした。
「ちょ、ちょっと待て! 俺はまだ飲むとは……というか、そんなになみなみと注ぐな!」
「はっ、景気よく行こうぜ……ま、そんな無理に飲ませる気もねぇよ。テメェはちびちびとやればいい」
そう言いながら、ダンは彼自身の前にあるグラスに琥珀色の液体を注ぎ込んだ。こういう強い酒は、そもそも割って飲むモノなんじゃないか――そんな風に思ったが、ダンはこちらの気持なんかお構いなしに、注ぎ終わったグラスをずい、とこちらに押し出した。
「ほら、テメェもグラスを持ちな」
「……あぁ」
「それじゃ、一時休戦だ……さて、何に乾杯するかな?」
「ふぅ……そうだな。それじゃ、ガングヘイムに」
ここに来るまで見た光景は、間違いなく自分にとっては感動できるものだった。だから、これは嘘偽りのない音頭になる――ダンは自分の口から出た言葉が意外だったのか、最初こそ驚いた表情をしたが、またすぐに口元をあげてグラスを軽く突き出してきた。
「あぁ、ガングヘイムに……」
「乾杯」
グラスのぶつかる乾いた音が狭い室内に響き、男二人でグラスの液体を口へと運ぶ。以前の経験から一気に口に含むのは危険と知っていたので、本当に少量だけ液体をあおる――しかし、少量とは思えないほどの刺激が舌を走り、鼻の奥から強烈なアルコール臭が突き抜けてきた。
「……酒くせぇ」
「当然だ、酒なんだから……だが、それが良いんだよ」
ダンは乾杯で一気にグラスを空け、再び自分でアルコールを注いでいる。
「……で、乾杯したぞ? 改めて、何を……」
「落ち着けよ……大丈夫だ、次第にそういう感じになってくる。それまで、そうだな……お嬢ちゃんたちの話でもするか」
「はぁ、エルたちの?」
「あぁ、そうだ……で、お前さん、誰が好きなんだ?」
「……あぁ?」
「なんでぇしらばっくれやがって。あんなにかわいい子たちを三人も連れてるんだ、色っぽい話の一つでもあるんじゃねぇのか?」
「いや、とくに無いが……」
そう言いながら、アルコールを口に含む。しかし、ダンの言うことはもっともだ。あんなに可愛い子たちと寝食を共にしているのだから、もう少し色っぽい話の一つでもあってもいいんじゃないか?
実際、一目見た時から全員可愛いと思ったし、魅力的だと思っている。そして実際の所、彼女らからの好意も自覚がない訳でもない――しかし何故だろうか、親愛の情は大いにあるのだが、自分からは異性愛的な気持ちを彼女たちに抱いていないことに今更ながらに気づいた。
「はぁ……なんだよ、照れてねぇで話したらどうなんだ?」
「いや、違うんだ……そうだな、あの子たちのことは、なんというか……」
「……なんというか?」
適切な言葉が思い浮かばない――乾いた口にアルコールを含み、彼女たちに抱いている想いを言語化しようと試みる。幸い、ダンは催促しないで、腕を組みながらじっと待っている。
ちびちびと舐めるようにしているうちに、気が付けばこちらのグラスも半分以上減っていた。
「……妹みたいに思っているのかもしれない」
それは、あまり考えないで出た一言だった。とはいえ、口にした後に妙にしっくりときたのも確かだ。それぞれ性格も出自も違うが、優しくて強く、同時に脆さを抱えている三人の少女たち。自分はあの子たちを――。
「俺はあの子たちを守ってあげたいと思っているのかも……」
「けっ、今日日流行らねぇぜ、そういうの……守ってあげるなんて上から目線はよ。それとも何か、テメェは自分のことはご立派にやってて、他人に気を使えるほど余裕があるっていうのか、え?」
「……違いない」
全くダンの言う通りで、反論の余地すらなかった。半分は居心地も悪いが、半分は心地が良い。自分の未熟さを指摘されるのはバツも悪いが、この世界であまりこういう風に注意してくれる人も居なかったせいかもしれない。
気が付けば、なみなみと注がれていたはずのグラスはいつの間にか空いていた。それを見て、ダンは無言で注いでくる――しかし、言われっぱなしは癪に障る。少し言い返してやらなくては。
「……あのな、今日あの子たち、帰って来てからよそよそしいんだ。テメェがセクハラまがいのことでも言ったんじゃないのか?」
「いや、そんな記憶はないが」
「本当か? 怪しいな……テメェみたいなスケベなジジイは、思考が硬直化してて、客観的に自分を見れなくなってる可能性があるからな」
「けっ……まぁ、否定はしないけれどよ……」
ダンはダンで憎まれ口は変わらないが、いつもと比べると態度も口調も柔らかい。なるほど、これが緩衝材の力か――そんな風に思いつつも酌は続く。
その後、ちょっとした雑談が続いた――ように思う。口寂しさを紛らわすために含んでいたアルコールが回ってきたのか、段々と思考が回らなくなってきているせいか、あまり会話の内容が頭に入ってこなくなっていた。
「……おい、アラン。ちょっとペースを落としな……眼が座ってるぜ。ほら、水を入れろ」
そう言いながら、ダンはもう一つグラスを出し、そこに透明の液体を注いだ。その液体を飲むと少し気分も落ち着いたが。しかし、思考がぼうっとしているのは変わりない。
空いたグラスの向こう側に、白髪のドワーフが見える――皺一杯の顔、瞳は難く閉じられ、なんだか重苦しい表情を浮かべているようだ。
「……お前を見た時、オレはとうとう自分の元に、死神がやってきたんだって思ったんだよ。ついに、裁かれる時がきたんだと……虎に食い殺される時がきたんだってな……」
虎が食い殺す、そんなことをベスターが言っていたな――だが、イマイチ思考がはっきりしないせいで、何と返せば良いのか分からない。しかし、ダンはこちらの状況などお構いなしといった調子で喋り続ける。
「オレはな、DAPAでは一介の技術者だったにすぎねぇ……ただ、虎に暗殺された上役たちがいなくなったせいで、玉突き人事で役職ばっかり立派になって……気が付けば遥か星の彼方まで来ちまった。
まぁ、それ自体は良いんだ……外宇宙に飛び出して、人が住めるような星を探すのが小さいころからの夢だったからよ……ともかく、虎がやってたことだって許されねぇことだと思うが、同時にオレがやってたことだってそうは変わらん。いや、功罪のデカさで言えば、虎なんぞと比べ物にならねぇくらいエグイことだってたくさんやってきた」
自分の視線は酔いのせいか定まらない――おぼろげに眼に入ってくるのは、何度も無くなっては注がれるダンのグラスだけだ。
「……なぁ、シモンに会ってきたんだろう? アイツは、何か言っていたか?」
「自分が自分でなくなるのが怖いと……」
「そうだ、当然だ、当たり前だ……アイツは何も間違っちゃいえねぇ。可愛そうなシモン、生まれた時からその身を捧げることを定められていた……だが、間違っているのは、きっとオレ達の方だ。この世界の方なんだ。
だから、せめて継承の儀式を行うまでは、好きに生きさせてやろうと思った……オレは頑固者で偏屈で、何か言われたら言い返してやらねぇと気が済まねぇ性質だ。だから、いい親にはなれねぇ……そう思いながら、九人の息子たちを犠牲にしてきた」
ダンが何のことを言っているのか分からない。それより、意識を保つことだけでいっぱいいっぱいだ――幸いまだ頭痛などはないが、意識は大分もうろうとしている。ダンはこちらの状況を知ってか知らないでか、独り言のように話を続ける。
「そう思うなら、継承の儀式なんぞ止めちまえばいい。フレデリック・キーツは一抜けたで、舟を降りることだってできた……ただ……ただ、オレが居なくなっちまったら、ファラを見捨てることになっちまう……だから、自分の罪のデカさから目を背けて、ここまで来た」
「……ファラって誰だ?」
「独り言だよ、気にするな……」
そう言いながら、ダンは再びもう一つのコップに水を入れてくれた。だが、敢えて自分は琥珀色の液体の方を手に取り、それを再び口に含んだ。
「虎よ……お前さんは誰の味方で、誰の敵だ? オレが聞きたいのはそれだけだ」
「……俺は、あの子たちの味方だ」
「あぁ、そうだろう……何せ妹だもんな。だがそうなれば、お前が戦うべき相手は誰なんだ?」
「さぁ……分からん」
「分からんって……!?」
自分の返答が気に食わなかったのか、ダンはテーブルを拳で叩いた。しかし、こう朦朧としている状態では、上手くとりつくろうことも出来ない――いや、そもそもこの男に対しては、変にとりつくろうという気など最初からなかったのだが。
「そんな不確かな状態で、信念もないのに、勇者の使命を受けたのか!? ふざけるな!!」
「ふざけてなんかない……俺は……シンイチの想いを継ごうと思って……」
「短時間で言うことを変えるな。お嬢ちゃんたちを護るためなのか、それとも先代勇者の遺志を継ぐためのか……」
「別に……矛盾はしていない。両立しうるんだ」
「オレが知りてぇのは、お前さんの優先順位だ。いや……オレがオブラートに包むのを止めるべきなんだな……原初の虎の敵はチェン一派か、七柱か、それとも両方か……どうなんだ?」
「だから、そのどれも敵かもしれないし、敵じゃないかもしれない……俺はな、成立の過程が何であれ、この世界が好きなんだ。だから護りたいんだ……シンイチが護ろうとしたこの世界は、俺にとっても守る価値があるんだから……だから、この世界に生きる人々の安寧を破壊する者が、俺の敵だ」
「……この街も?」
「あぁ、この街もだ……ガングヘイムは懐かしい感じがする。俺は好きだよ」
「お前……」
身を乗り出してこちらの襟を掴まんとする勢いだったのに、ダンは急に驚いたような表情を浮かべ、ソファーに戻って深く腰を下ろす。そして、老人は休憩室の小さな窓へと視線を向けた。
「この街はな、進化を止めた惑星レムの中でせめても作ったオレの思い出なんだ……旧世界の街並みを、オレが好きだった物を、少しでも蘇らせたくて……」
「プラモデルとか部屋に飾っちゃう男の子の精神だろ? 分かるぜ」
「はは、この歳にもなって、男の子もないがな」
「いや、好きなもんは何時までも好きでいていいだろ」
「……そうだな。だが、三千年の時の中で……この街は、オレの思い出以上の意味を持つようになった。この星で生まれて、この星で育ったオレの……ドワーフの同胞たち。それが住まうこの街は、オレにとって……そうだな、街全体が自分の子供みたいなもんなんだ」
ダンからの質問攻めがひと段落ついた。朧げな視界でテーブルを見つめると、ダンは酒瓶から最後の一滴まで自らのグラスに注ぎ――その手の動きを追うように顔を上げると、ドワーフの老人は最後の一杯を愛おしむように、少しずつ残りの酒を口に入れているようだった。
「……もし、もしもだ。この世界の歪みの中心が、この世界を生み出した者たちだとして……そうしたら、お前はそいつらを滅ぼすのか?」
「さぁ……? 俺は、この世界を生み出した者たちが、なんでこの世界を造り上げたのか知らないからな……だが、一つだけ言えることはある」
「……なんだ?」
「親は子離れすべきだと思うぜ……道具ならいざしらず、生み出した命には人格があるんだから。子供たちが自立できるまで見守って、自立したらあとは自由に任せる……大切に思うならこそ、子供を信じるのが、親ってもんだと思うぜ」
「けっ……人の親にもなったことがないくせに、偉そうなことを言うんじゃねぇ……」
ダンは少しずつ、少しずつ酒をあおり――その表情に深い哀愁を帯びたかと思うと、今度は自嘲的に笑い出した。
「だが、お前の言う通りだな。いや、ずっと前から分かっちゃいたんだ……だが、オレ一人では確信できなかった、怖かったんだ……この一万年が、無為になるのが……」
「……ダン?」
「ダン、ダンね……そうだな、今のオレはドワーフの酋長、ダン・ヒュペリオンだ」
自らの名前を名乗り、男は一気にグラスを煽いだ。そして空になったそれを勢いよくテーブルに叩きつけ、深い皺の入った目尻の奥に宿る強い視線をこちらへと向けてきた。
「くどいようだが、ドワーフの酋長としてもう一度聞くぞ? アラン・スミス……お前の敵はなんだ?」
「この世界の人々を……あの子たちを危険にさらす、全ての者たち」
「ふぅ……なるほど……レムがどうしてお前を蘇らせたのか、ようやっと分かった気がするぜ」
ダンは微笑を浮かべ、しかしまたすぐに真剣な表情に戻る。
「だが、お前は馬鹿だ。途方もない連中を相手にすることになるぞ? 如何にお前が原初の虎……いや、凄まじい力をその身に秘めているとしてもだ。その身一つで何が出来るっていうんだ?」
「未来のことなんか分からねぇ……俺は思うがまま、やれることをするだけだ」
「けっ、思い上がりも甚だしいぜ……楽観的に何とかなると思ってるからそんなことが言えるんだ」
「そうかも……そうだな……」
「だからせめて……威張れるだけの力は必要だよな……?」
「……ダン?」
「原初の虎はオレの敵だ。永久のライバルだ。だが、お前になら……アラン・スミスになら……」
ダンはひじ掛けに手をつき、背後の扉を見つめ始める――だがその瞬間、建物全体が大きく揺れ始めた。
「な、なんだぁ!?」
「くっ……!?」
迫りくる危機に意識が一気に覚醒する。この感じは、以前に体験したことがある。時計塔を破壊した一撃には及ばないものの、それに近い――狼狽するダンをよそに窓の外に目を向けると、紫紺の光がガングヘイムの街に降り注いでいるのが見えた。