B&T~記憶喪失の転生者、伝説級の暗殺術で異世界ディストピアをぶっ壊す~   作:五島七夫

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Burning Bright

 宙に浮かぶ人形は、変身した自分をじっと見つめ――視覚自体はあの人形にある訳ではないのだろうが、それでもお互いの視線が交錯する。

 

「……なるほど、フレデリック・キーツの発明。しかし大丈夫ですか? 元々敵対者であった者の施しを受けるなど……罠があって然るべきと考えるのが妥当です」

「いいや、これを俺に授けたのは、フレデリック・キーツなんて奴じゃねぇ。ドワーフの酋長、ダン・ヒュペリオンだ」

 

 詭弁だというのは分かっている。恐らく、フレデリック・キーツというのはヴァルカン神の元の名前だ。先ほどの酒の席での内容をしっかりと覚えているわけではないが、それでも朧げに覚えている範囲のことを想定すれば、要はフレデリックとヴァルカン、ダンは全て同一人物なのだ。

 

 しかし、フレデリックもヴァルカンもダンも、全て立場が異なる。DAPA幹部に七柱の一員、ドワーフの酋長――少なくとも、自分はドワーフの酋長のことは信じられると思っている。

 

 そして、ドワーフの酋長は自分に協力してくれるという覚悟を持ったのだし、自分と同じ未来を見ていると思うのだ。ならば、彼と彼が大切に想う街を守らなければならない。そう思っていると、人形はやれやれ、といった調子で首を横に振った。

 

「アナタの言うことは理解しかねますね」

「はっ、そうかよ……まぁ、そんな成りじゃ、男の子の気持ちは分からねぇかもしれねぇな」

 

 黒くなった指先で相手を指さして後、どうしたものかと思考を巡らす。ADAMsを利用すれば、チェンを振り切って他の場所に移動することは可能なはずだ。コイツは防御力こそ厄介だが――。

 

「……私以外の三人は速度と火力が異次元……自分がいなければ対処できないかもしれない。そう考えていますね?」

「い、いいや? そんなことは考えてないぞ?」

 

 こちらの思考をぴたりと言い当てられ、思わず上擦った声で返事を返してしまう。

 

「ははは……結構。原初の虎は単純一途の直情馬鹿。なるほど、べスターの言う通りですね」

『おい、お前は俺のことをどういう風に説明してたんだ!?』

『どうもこうも、見た通りを言っていただけだが……』

 

 脳内のお友達に突っ込みを入れている傍らで、チェンが指をくっ、と押し上げた。

 

「交渉を反故にしたのはアナタです、アラン・スミス……ならば、私は当初の役割、厄介な手合いを引き付ける囮役を続けるだけ。そしてもしアナタがADAMsを使って離脱するなら……他にすべきことをするだけです。たとえば、車で移動中のダン・ヒュペリオンを殺害するとか、ね」

 

 おそらく、これは挑発だ――いや、事実でもあるのだろう。自分をこの場に引き止めておけるならそれも良しで、自分が他の場所へ迎撃に向かえば、他のメンバーがやろうとしていたことをチェンが引き継ぐだけ――とにもかくにも、コイツはこの場に放っておけるほどの存在じゃないということだ。

 

 それならば――。

 

「最速でテメェをぶっ飛ばすのが、最善の策ってことだな!!」

 

 今度はこちらから打って出る。奥歯を噛んで加速し、左右から来ている機械人形を迎撃する。なるほど、これらの人形もなかなかのパワーと速度があるが、やはりホークウィンドやセブンスとは比較にならない。まずは自分から見て右の一体が振りかぶっているビームサーベルを掻い潜り、懐から切り上げるように機械の左腕を肩から両断する。そのまますれ違って、上半身を捻じりながら左手の爪で相手の右腕を断った。

 

 一体目の両腕が落ちるよりも先に、続く二体目の迎撃に移る。腕を切り落とした機人の背後から右手のナイフを相手に向けて投擲し、すぐにその後を追う。相手がトリガーを引く寸前、まずはその右手を切り落とし、遅れて飛んできたナイフが首筋に刺さった瞬間、そのグリップを右手で握りなおして思いっきり振りぬいた。

 

 そしてすぐにチェン、もといゲンブ人形の方へと向かい――しかし、いくら変身したとしても視神経の限界は変わりないか。このまま本体を狙えば限界が来る――そう判断し、相手の死角に潜り込むべく、路地裏に入って加速を解く。

 

 操り人形の切り落とした末端がアスファルトに落ちて鈍い音を響かせる。身体の負担は感じられないが、しかし身体が燃えるように熱い。音速を超えて空気との摩擦を受けているのだから仕方ないか。

 

(……よし、次は本体を……!?)

 

 そう思って加速スイッチを入れようとした瞬間、切り落としたはずの機械の腕が――腕のみが、サーベルを構えてそのまま突撃してくる。後ろに倒れ込むようにしてそれを躱《かわ》し、自分の上を通り抜ける腕が握るサーベルの柄部分を斬りつけ――誤作動を起こした光学兵器が、自分の上をすり抜けた奥で爆発し、腕も破片がこちらへ散らばってきた。

 

『チェンは俯瞰してお前の動きを見ているんだ。ADAMsを起動している間ならともかく、停止した瞬間にお前の位置をとらえてくるぞ』

『あぁ……息を着く暇もなさそうだ!!』

 

 そしてまたすぐに路面へと躍り出ようとする瞬間、路地の出口の左右で待機していた二体の機人が振りかぶってきた武器を足を止めて躱し、そのまま交差している二本の武器にブーツの底をかけて奥歯を噛み、今度はチェンを挟んだ対角線上の建物を目掛けて跳躍した。

 

 変身のおかげで基礎の身体能力も上がっているのだろう、向かいの壁へは一足飛びで到着した。建物の柱に着地し――超音速で一定の質量がぶつかった衝撃で柱がへこみ、周りのガラスに亀裂が入り――そのままチェンの側面を取る様に跳ぶ。

 

『次こそは……ちぃ!?』

 

 突き出したナイフは、再度アンティーク人形の周りを覆う結界に阻まれる。どうやら、正面だけでなく全方位に結界を仕込んでいるらしい。素早くもう片方の手も突き出して半透明の壁を突き、突き上げた反動を活かしてそのまま下へと向かう。

 

 しかし、相手はこちらの着地点を予想しているのか、すでに下にいる機械人形の一体がこちらに銃口を向けている。左手のナイフを投げて銃を構える機人の手首を穿ち、相手の引き金を引く指を止める。そして着地してすぐに刺さったナイフを目指して駆け出し、手首に刺さったそれを思いっきり引いて銃ごと両断し、そのまま返す刃で首に一本筋を入れた。

 

 加速した時が終わり、上からガラスの破片が舞い落ちてくる――相変わらず体に負担自体は無いが、自分を包む熱はどんどん上がってきているように感ぜられた。

 

「あははぁ、さすが原初の虎……気が付けばドンドンとこちらの手ごまが減っていきますねぇ……しかし、最速でぶっ飛ばすんじゃなかったんですか?」

「けっ、言ってろ……」

 

 実際この勝負、今の所は負ける要素もないが勝てる要素もない。ADAMsの負担が無くなったからと言って簡単に勝たせてくれる相手ではない――いや、このままいけば時間稼ぎという目的が達せられるだけ、相手の勝ちとも言える。こちらも獲物の攻撃力は上がっているのに、七星結界の前では店売りの短剣と変わらない効果しか出せないのだから。

 

『べスター……七星結界の弱点はないのか?』

『すまんが、分からないな……あの能力は、旧世界に居た頃には無かったものだ。恐らく、この星に来る途中か、到着後に編み出したのだろう』

『それならしゃあねぇな……!』

 

 機人の攻撃を避けながら、一旦少し思考してみる――べスターの辞書に頼れないとなれば、あとは自分の勘と本能が頼りだ。七星結界となれば、要するにはクラウの使う神聖魔法と同じ――いや、アイツが使うのは魔術の一種なのだとか、クラウから共有を受けていたはず。

 

 しかし、奴は結界を行使する際に魔術の詠唱を行っていない。そうなれば、自分がよくクラウに仕込んでもらうのと同じように、何かしら物に結界を仕込んで、それを消費しているに違いない。

 

 だとすると問題になるのは、本体に攻撃を通すにあと何回防がれるかだ。とはいえ、目に見える所に「あと何回です」と書いてある訳でもないし、以前にエルたちが対応したときには相当数防がれたはずだから、突破できるまで攻撃を繰り返すのは呑気すぎるか。

 

「……アナタはこんな風に考えている。あと何回で私を突破できるのか……お察しの通り、この結界は無限ではない。しかし、それはアナタも同様なのでは?」

 

 そう言いながらゲンブ人形が手を振りかざすと、また一斉に機械人形たちが襲い掛かってくる。さすがに、これは加速しないと対処しきれない――ADAMsを起動し、今度は向かって右側、先ほどとは反対方向の建物の柱を蹴り、中空からこちらを狙う狙撃手の武器を破壊しに向かう。

 

『おい、俺は何分戦っている!?』

 

 実弾サブマシンガンを真ん中から斬り落とし、すり抜けざまにそのまま浮いている機械人形を蹴り、もう一体に肉薄するついでにべスターに質問する。

 

『まだ実時間としては二分にも満たない……だが、先ほどダンが言っていたことを想定すると、加速している限りは十分とはいくまい。恐らく、お前の体感時間に比例して変身時間が減るはずだ』

『くそっ、なるほどな……!』

 

 もう一体の持つブラスター銃を切り落とし、そのまますり抜けて反対側の壁に着地する。恐らく、そろそろ何か対抗策を用意しているはず――そのまま三角飛びの要領で向かいの建物に向かって飛び、その屋上に着地したタイミングで加速を解く。

 

 見れば、アンティーク人形の上に一体の機械人形が浮遊し、そのまま身体から爆発を起こした。恐らく、次の結界に突進してきたこちらを上に弾いて、素早く落下できないところを狙って爆発に巻き込もうとしたのだろうが――何か迎撃の準備をしていると想定したこちらの勘が当たった形だ。

 

 チェン人形の周りはやはり七層の膜が覆い、爆発の影響は受けていないようだ。結界の奥でギギ、と首を回し、人形はこちらを向いてくる。

 

「やはり素晴らしい戦闘センスですね……こちらが結界は無限でないと言えば、イノシシのように突っ込んでくると思ったのですが。それに、四肢など末端を斬られるだけでは、念動力で動かしている機械人形達の攻撃は止まない……それなら火力を削ぐ武器破壊というわけですか」

「はっ、ごめんなさいするなら今の内だぞ?」

「ははは、御冗談を……むしろ、アナタの方が限界に近いように見えますよ? それとも、もしや……やはりアナタを警戒して、フレデリック・キーツはとんだ代物をアナタに授けたか……」

 

 言われた通り――加速による負荷はない代わりに、身体の熱さは上昇する一方だ。自分の腕を見ると、皮膚は光を吸う黒から、段々と赤みがかったモノに変化してきている。

 

 しかし、悪い感じではない。むしろ、自分の体が訴えかけてきているようだ――もっと速く、もっと熱く――そう思い、双剣を構え直し、人形に対して続行する意思を示して見せる。

 

「引く気はない、と」

「当たり前だ……テメェの方こそ、頼みの人形どもの武器もほとんど無くなってるんだ、降参したらどうだ?」

「そうですね、おっしゃる通り……では、こういうのはどうでしょうか……!?」

 

 人形が両手をパンと合わせると、機械たちが――自分が斬り飛ばした腕や首、それどころか飛び散った建物の破片、路駐していた車なども合わせて、一か所に凄まじい勢いで集結していく。金属同士がへしゃげ、螺子が曲がり、無理やりに接合していくそれら――都合六体の機械人形と周囲の金属が合体するように合わさり、グロテスクな鋼鉄の巨人の姿になった。

 

 そして、チェンが人差し指をクン、と上げると、下半身に対して強靭で長い巨人の右腕が振り上げられる。下から迫りくる鉄の巨碗は建物の表面を抉りながら、自分が立っている場所を目掛けて上がってきている。

 

『くそ、アイツ結構脳筋じゃないか!?』

『いや、油断するなよアラン。チェンの行動が力技に見えるとき、その裏に何かを隠しているように見せかけて、結局力技の時がある』

『それは力技っていうんだ!!』

 

 べスターに突っ込みを返しながら隣の建物に避難し――人形からは離れる方向だ――そのままジャンプして路面方面へと飛び降りる。路駐している車のルーフをクッションにして路面に降り、そのまま敵に背を向けて走り出すことにした。

 

『なんだ、敵前逃亡か?』

『あぁ、あのデカブツなら取り回しが悪くなって、身動きも取れないだろ?』

『引く気はないと言ったばかりなのに?』

『お前は本当に口を開けば皮肉しか言わねぇな……俺の目標はアイツの撃破じゃないんだよ』

 

 そう、自分の目的はこの街の、ひいてはダンや少女たちを護ることであって、ゲンブ人形を倒すことではない。それに、変身できる時間が残り少なくなっているというのなら、むしろ他の敵を撃破すべきだ。遅い巨人相手なら、ソフィアのシルヴァリオン・ゼロで一撃で葬ることも可能だろう。そう判断して移動を始めたのだが――。

 

「……やれやれ、甘く見てもらっては困ります」

 

 その低い声が背後から聞こえた瞬間、背筋がぞく、とする――その気迫にすぐに奥歯を噛み、後方から迫りくる大質量を避けるために路肩の方へと跳ぶ。直後、弾丸並みの速度――超音速の世界でもなお、それなりの速度で鉄の塊が四車線分の道路を駆け抜けていった。

 

 百メートルほどアスファルトを抉って進んだ巨大質量は、その速度に見合わないほどピタ、と制止する。加速を解きつつ視線を落とすと、もはやこの変身能力の限界なのか、アスファルトについている自分の腕が真っ赤になっているのに気付いた。

 

「……動かす物の数が減れば、それだけ一個に力を集中できる……そして、どれだけアナタが強く鋭くなっても、巨大質量を苦手とすることは変わらないでしょう?」

 

 実際、ゲンブの言うことはその通り――新しい武器の切れ味がどれほど上がっても、あの巨大質量相手では威力など無きに等しい。それこそ、複雑な機構で動く機械なら超音速の衝撃に任せて打撃をくわえて内部から故障させることは出来るだろうが、念動力で無理やり動かされているアレに対してはあまり意味もないだろう。

 

 そして、接近してきているアンティーク人形の方を見る――チェンはその小さな手には何かしらの札を持ち、見下す様にこちらを見ていた。

 

「さて、アナタは右腕を飛ばされても回復できるだけの再生能力があるのは認知しています……そうですね、その素早く動き回るための足を奪い、少しの間おとなしくしておいてもらうことにしましょう。話し合いはそれからゆっくりと、ね」

 

 恐らく、あの札には七星結界が仕込まれている――結界の弾く力を切断するのに利用するつもりなのだろう。つまり、アレに当たったら、いくら幾分か強度が増したこの体でも簡単に両断してしまうに違いない。

 

 どうしたものか。前門の虎に後門の狼、虎に挟まれるとは皮肉だが、ともかく危機的状況には変わりない。後方にある建物に逃げるのもありだが、あの鉄塊の速度ならADAMs無しには逃げ切れないし、加速したらで変身が解けてしまいそうだ――しかし、身体が熱い。腕が、足が、前進が――燃えるように熱い。

 

「……虎の紋様?」

 

 ふと、チェンの声が聞こえる。差し込む月明かりに僅かに照らされるガラス片を覗き込むと、確かに赤々と燃えるようなマスクに――以前、魔王ブラッドベリが身に着けていたT2というパワードスーツと同じ様に――虎のような黒い紋様が幾重にも走っている。実際には、元々黒かった鋼体皮膚が一部分残り、それ以外の所が赤くなっている、が正解か。

 

『……分かったぞ、アラン』

『……あぁ? この窮地を脱するだけの何かだろうな?』

『さぁ、それは分からん』

『分かったのか分かってねぇのかハッキリしろよ……それで?』

『あぁ、フレデリック・キーツ……いや、ダン・ヒュペリオンが言っていたことだが、奴は制限時間の説明をしている時にエネルギーを解放すると言っていた……どうやらこの変身では、ADAMsを利用した分のエネルギーがお前の体内に溜まっているんだ』

『それがこの熱さの要因か……それで、当然放出できるんだろう?』

『あぁ、恐らくベルトに付いているボタンが起動スイッチだ。恐らく攻撃に転じられるように設計しているだろう……だが、放出機構が分かってもどうすればいいか詳細は分からないし、どの程度の威力が出るかも不明だ』

『その辺はぶっつけ本番だな。直感でやってみるさ!』

 

 さて、後は人形と巨人、どちらにこの身体の内に溜まりに溜まった炎をぶつけるかだ。ゲンブ人形にぶつけて通ればそれで勝ちだが、七星結界の強度を超えるには威力が足らないかもしれない。それなら、単純な鉄の塊である巨人にぶつけるほうがより確実と言えるだろう。

 

 そうと決まれば――。

 

「……力比べをしようぜ鉄巨人!」

 

 そう叫びながら振り返り、自分の方を見下ろすように制止している巨大な鉄塊を見上げた。

 

 

「一体何を……くっ!?」

 

 背後でゲンブの慌てる声がする。自分が何かしでかす気なのか察し、巨大質量を打ち出す準備に入ったようだ。だが、自分の方が早い。道路の真ん中に躍り出て、鉄巨人の方を向いてベルトについているボタンを押すと、バックルから目の前にゲートのような扉が現れた。

 

「おぉおおおおおおおおお!!」

 

 奥歯を噛んで加速し、迷うことなくそのゲートを潜り抜ける。全身の熱が更に上昇し、身体の表面を電気が駆け巡る――次第に体内の熱がベルトを通じて表面へと流出し、それらが自分の身体に纏わる眩い光となる。

 

 すでに鉄の巨人はこちらへ弾丸並みの速度で接近を開始している――普通にかち合えば、質量差で自分の方が木っ端みじんになるだろう。

 

 だが、いける。もはや確信しか持てず、一切の躊躇なく大地を蹴り、右の拳を突き出しながら相手の腹部を目掛けて突撃した。

 

 それは、刹那の出来事。エネルギーを帯びた拳が鋼を容易に溶かし、超加速した自分の体は一瞬で鉄塊の背中から通り抜ける――自分の身体を覆っていたエネルギーを巨人の体内に置き去りにし、そのままの勢いで飛び去り、百メートル以上は離れた場所に、アスファルトを削りながら低姿勢で着地した。

 

 そのまま地に着いた左腕を軸に一回転、通り抜けた巨人が見えるように振り返りながら音速の世界から脱する。加速を解いたというのに、一瞬の静寂――そして、巨体に空いた大穴を中心に眩い光が漏れ始め――直後、巨大な音と共に、地底の天井まで焼くほどの巨大な火柱が巻き上がった。

 

『同じ技術屋として、認めざるを得ない……悔しいが、フレデリック・キーツは天才だな』

『……そうかい? 俺はそうは思わないな……いや、もちろん凄いのは否定しないぜ。だが、天才というよりこれは……そう、ダン・ヒュペリオンの執念、そういう風に思うんだ』

 

 黒く戻った腕を見ながら脳内の友に返答する。何となくだが、天才という一言で片づけるのはダンに対して失礼な気がする――天才と言うのは簡単だが、ダンは見えない所でもがき苦しみ、何かに手を伸ばしているものな気がしたからだ。

 

『執念……ふっ、そうだな……さしずめ、今の技はタイガーブレイクといったところか』

『何がさしずめなのかは全く不明だが……なんかこう、もっとカッコいい感じのはないか?』

『なんだ、タイガークローで気に入ってたじゃないか』

『必殺技はもっとこう、シンプルじゃなくて捻った感じのヤツがだな……』

『それなら、バーニングブライトなんていうのはどうだ? 虎を謳う、旧世界の詩の一節だ』

『なるほど……いいなそれ、気に入ったぜ』

 

 指を鳴らして脳内の共に賛同し、辺りに充満する煙が晴れるのを待つ――だが、見えずともわかる。既に巨人の気配は無く、どうやら跡形もなく消滅してしまったようだった。

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