B&T~記憶喪失の転生者、伝説級の暗殺術で異世界ディストピアをぶっ壊す~   作:五島七夫

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陳の罠

 解放したエネルギーが巻き起こした爆発による煙が晴れると、鉄巨人は跡形もなく燃え尽きていた。というか、半径五十メートルほどに巨大なクレーターが出来上がっており、辺りの建物を吹き飛ばしてしまっている。夜間で店はやっていないし、恐らく自分がドンパチやっている間にみんな避難もしただろうから人的被害は無いだろうが――。

 

『……むしろ、俺の方がゲンブより街を破壊しちまったな……』

『まぁ、調整も出来なかったんだ、仕方ない……それで、チェンはどこに行った?』

 

 言われた通り、人形の気配を探す。相手も潜伏して奇襲するつもり、というわけではなさそうだ。かなり離れてしまっているが、遠景に浮遊する人形を捉える――なにやら身をひそめる所を探しているのか、こちらから離れていってしまっているようだった。

 

『どう……追う……』

『……おい、べスター?』

 

 突然べスターの声にノイズが入り、段々と聞き取りにくくなってくる。ただ、寸でのところでアドレナリン、という単語が脳内に響いて状況を理解した。要は危機的状況が去って自分の興奮状態が落ち着いているせいで、べスターの声が聞こえなくなり始めているのだ。

 

『おい、今ADAMsが使えなくなったら困るぞ!? ……くっ!!』

 

 なんとか使用不能になる前に加速装置を起動させ、チェンの後を追う。チェンは坂の上を走っている貨物列車に身を隠すつもりなのだろう、ほとんど点のごとき小ささになっているシルエットが列車の中へと吸い込まれた。

 

 それを追い、一気に道路を駆け抜け――消防車が出動しているようだが、その横をすり抜け、坂に点在する建物の屋上を飛び移り、一気に貨物列車の屋根まで到達したところで加速を切った。

 

『おい、べスター、聞こえるか? ……いや、聞こえないのは俺か……うん?』

 

 べスターの声が聞こえなくなるのと同時に、自分を覆っていた黒い鋼体がかさぶたのように崩れ落ちてしまう。ADAMsを使った反動はないが、それでも加速が出来なければ変身は出来ない――いや、恐らくは冷却時間などが必要で連続の変身もできないだろう。ここからは生身で進まなければならない。

 

 貨物の上を飛び移りながら、人形の気配を手繰る。コンテナの中にでも入られてじっとされたら分からないかもしれないが、開けたような形跡もないし、恐らくは前の方に居るのだろう。自分も前に進むことにする。

 

 運転車両にたどり着く直前でふと前を見ると、トンネルに列車が入る直前だった。反射で「うぉ!?」と間抜けな声をあげてしまうが、寸前で身をかがめ、なんとか入口に頭を激突しないですんだ。そのまま匍匐(ほふく)前進して連結部分に降り、改めて気配を手繰る――運転席に三人分の気配、それも一つはやけに小さい。ここにチェンがいることは間違いなさそうだ。

 

 運転室への扉をゆっくり、静かに開ける――中を覗き込むように見ると、恐らく運転手であろうドワーフが倒れており、その傍らにゲンブ人形が浮いているのが見える。角度的に、ここからなら当てられる――ベルトから市販の短剣を一本抜き出し、それを微かな隙間から人形の後頭部を目掛けて放った。

 

 てっきり結界により弾かれるかと思った短剣は、そのまま人形の頭に深々と刺さった。事切れたかのように人形が落下するのを確認して、扉を開いて中に入ることにした。

 

「なんだ、もう結界は切れていたのか……?」

 

 こちらの質問に対し、人形はうつ伏せから首だけ百八十度回し、天上を仰ぎ見るような容で答える。

 

「ははは、というより、もうこの人形の身を護る意味も無くなったのですよ」

「……どういうことだ?」

 

 人形が笑いながらカタカタ口を動かすのに合わせて、貨物列車の速度が上昇した。

 

「悪いですが、アナタにはしばらく遠くへ行ってもらいます。巨大な迷路になっている地下鉄道の中で、しばらく彷徨っていてください。幸い、ADAMsは緊急時にしか作動できないようですから、結構な時間稼ぎになるでしょうし」

「なっ、しかしお前も街から離れて……」

「ふふふ……いやぁ、あえて以前と似た人形を調達して正解でした」

 

 やられた、要するにこの人形は本体ではなかったということか――冷静に考えれば念動力で遠隔操作ができるのだから、チェンは危険な渦中に身をさらす必要なんかないのだ。

 

「繰り返しですが、アナタの戦闘センスは凄まじいものがある……素晴らしい」

「……しかし、テメェの手のひらで踊らされたとはな……癪だぜ」

「いやいや、戦術レベルではアナタの勝ちです。戦略レベルでは私が上回っていただけでね……それに、アナタの新しい力を見れたのも僥倖でした。

 フレデリック・キーツの発明品をそのまま使うのも危険ですが、解析すれば危険な装置などは外せるでしょうし、アナタがこのままこちら側に着けば戦力の大幅アップは間違いありませんよ」

「はぁ……この期に及んで、まだ俺と手を組もうと思ってるのか?」

「はい。私の目的はあくまで、七柱を倒すこと……アナタを倒すことではありませんから」

 

 目的はお前を倒すことじゃない。それは、先ほどまで自分がこの人形に対して抱いていたのと同じ発想だ。癪だが、変な所でコイツと自分は似ているのかもしれない。

 

 冷静に考えれば、わざわざ自分の肉体が滅んでまで――本当にチェンの肉体が滅んでいるのかは謎だが、少なくとも真っ当な状態ではないだろう――また一万年の時を掛けて復讐相手を追ってくるのは、ある意味では相当な執念と言える。

 

 それは、残された者としての執念とも言えるかもしれないが、同時にコイツなりに世界を想い、非道な実験をしている七柱を止めたいというのも嘘では無いのだろうとも思う。でなければ、いくら復讐と言えども、一万年もかけて外宇宙の惑星まで七柱を追ってはこなかっただろうから。

 

 そう思えば、確かにチェンと手を組むのは、一つアリな選択肢かもしれない――いや、やはりないな。コイツはシンイチの仇と手を組んでいるし、エルやダンのことを狙っているのだ。T3に相応の報いを受けさせることと、このような乱暴な手だてを金輪際使わないこと、友好的な七柱まで殺めないこと――これくらいの条件があって、やっと話し合いをしてやってもいい、くらいの相手だ。

 

「……言い訳のように聞こえるかもしれませんが、彼らには眠ってもらっただけ……私も、不要な殺生を好むわけではありません」

 

 自分が考えていたことを当てるかのように、人形はカタカタと口を動かした。割と自分が単純なのか、それともコイツの読心術が優れているのか――恐らく両方正解で、どちらも自分にとっては癪だった。

 

「……オークを間引きしたやつがよく言うぜ」

「まぁその辺りはアレです。アナタと比べると、必要不要のラインをかなり広く持っているだけですよ……さて、私は自分の仕事にとりかかるとしましょう。それでは、原初の虎……アラン・スミス。ごきげんよう……」

「おい待て、エルたちに何かしたら容赦しないからな!?」

 

 自分の叫びに対する返答は無かった。人形は文字通り、糸が切れたように力を失い、無理やり回していたであろう首が千切れ、そのまま無残にも床に転がっていった。

 

 ともかく、この列車から脱出して、早く街に戻らなければならない。そうなれば列車を止めなければ。変身もADAMsも無い状態でこの速度を――スピードメーターは時速百六十キロメートルを超えている――無理やり飛び降りれば、流石にタダではすまないだろう。

 

 いや、飛び降りようとすれば危機を身体が察知して、再びADAMsを利用できるようになるかも――とも思ったが、それを実行するのは止めておいた。暴走機関車と化したこの列車を捨ておくと、今乗っている二人以外にも夜間運航をしている列車と衝突事故を起こし、大惨事が起こるかもしれないからだ。

 

 そう思えば、やはりゲンブの奴はやり方が少々苛烈だ。ともかく、自分は電車の操作など分からないので、分かりそうな人に聞いてみることにする。

 

「おい起きろ、起きてくれ!!」

 

 眠っている運転手の一人の肩を持ち、激しく揺らしてみる。チェンが言っていたように命に別状はなさそうだが、単純に眠っているというより気絶しているという感じで、ちょっとやそっとでは起きそうにない。

 

「ブレーキ、ブレーキはどこだ!?」

 

 もう一人の方の肩を乱暴に叩きながら質問してみるが、こちらも同様に起きてくれる気配はなかった。自然と口から「クソッ!」と悪態が出てしまうが、文句を言ったところで状況は改善されないので、自分でブレーキを探してみることにする。

 

 それらしいものはすぐに見つかった。ガラス張りの奥にある赤いボタン、この世界の文字で緊急停止と上に書かれている。虎の爪をダンお手製のベルトから取り出し、逆手に持って小指のガード部分でガラスを殴ると、そのまま赤いボタンまで強く押し込まれた。

 

 幸いにして、緊急ブレーキ自体は作動してくれた。ただし元々の速度が高かったため、徐速度の低下は緩やかだが――実際は数十秒だろうが、停止するまでの時間も偉く長く感じる。

 

 列車が停止したのを見て、車体横の扉を蹴り開けてトンネル内に飛び降りる。緊急ブレーキを作動させれば、恐らくは他の列車にもそれが伝わり、事故は防げるだろう――というか、それ以上のことは自分ではできない。ともかく、一秒でも早くガングヘイムに戻るべく、列車が後部車両の方を目掛けて走り出した。

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