B&T~記憶喪失の転生者、伝説級の暗殺術で異世界ディストピアをぶっ壊す~   作:五島七夫

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雷光の刃、再び

 寮を先に飛びだしていたソフィアにはすぐに追いつくことが出来た。彼女なりに一生懸命走っていたのだろうが、その辺りは自分たちと歩幅も体力も違うので仕方がないだろう。

 

「ソフィアちゃん! 待ってくださーい!」

 

 クラウがソフィアの横に並び、少女に補助魔法をかけたようだ。そのおかげか、息が切れていたソフィアも呼吸が少し楽になったようだ。

 

「ふぅ……ふぅ……ありがとう、クラウさん」

「いえいえ……でも、ダンさんは工場の方へ出てますよね? お宅へはどうやって入るつもりです?」

「家政婦さんが居れば、事情を言って開けてもらおうと思ってるね」

「もしいなかったら……?」

「その場合、アクセルハンマーでお邪魔するよ!」

「……うひぃ、ソフィアちゃん過激ぃ」

 

 うひぃ、とかいう返しが彼っぽくて少々笑ってしまうが――ともかく、自分もソフィアの隣に並ぶ。

 

「まぁ、緊急事態だからね。ダンも理解してくれるでしょう」

「それもそうですね……でも、別にエルさんに扉を斬ってもらうでもいい様な……?」

「それもそうね……」

 

 そんな呑気なことを言いながらだが、着実にダンの邸宅に近づいていく。坂上のここからだと市街地が見える――店舗が並んでいる商業区辺りでは、妙な爆発や光の線が街を焼き払っているが、どうやらそこ以外では破壊行動は無い様だった。

 

 しかし、この辺りは人だかりも多い。この辺りはまだ安全なので、野次馬が状況を観察しているといった感じだが――その中に、一人見知った顔があった。偶然目が合ったそのドワーフの青年は、驚いたような表情を浮かべる。

 

「君たち!? どうしてこんなところに……」

「シモン、そういうアナタも」

「流石にあんな光が差し込んできちゃ、状況を確認するのに外には出るさ」

 

 シモンは月明かりの差し込む天上を見上げながら呟く傍らで、ソフィアが歩み出てシモンの前へと進んだ。

 

「シモンさん、丁度良かった! 一緒に来てくれませんか!?」

「えぇ!? ぼ、僕は厄介ごとは……」

「いえ、私の魔術杖を取りに、ダンさんのお宅に入りたいんです! ダンさんは今、工場の方でアランさんといるはずなので、不在ですから!」

 

 ソフィアとしては、ダンさえいなければ良いという判断なのかもしれないが――シモンは返答に窮しているようだった。それもそうだろう、自分たちと行動を共にして魔術杖を取りに行くということは、戦闘に巻き込まれるかもしれないのだから。

 

 えぇっと、と呟きながら後ろ髪を掻くドワーフの青年の前に、今度はクラウが立つ。彼の気持ちを慮っての事だろう、ゆっくりと、同時に深々と頭を下げた。

 

「シモンさん、私からもお願いです。私たちで出来る限り、街を護りますから……」

 

 そうまで言われては、嫌だとも言いにくいだろう。シモンも嘆息交じりに「分かったよ」

と返し、今度は四人でダンの邸宅へと足を進める。ダンの邸宅付近は静かなもので――遠くから爆発音は聞こえてくるが――門を開け庭を進み、シモンがドアの横のボタンを押すと、ややあって女中がドアから顔を出した。

 

「坊ちゃん!? お帰りなったんですか!?」

「いや、この子の武器が、オヤジの部屋にあるみたいなんだ……それを取りに来ただけさ」

「そうですか……そういうことでしたら。でも、私ではダン様のお部屋を開けることは……」

「僕がスペアキーの場所を知っている。だから……」

 

 ドワーフの二人が会話をしているのを聞いているとき、ふと強い風が吹いたような気がした――ふと、アランが「雨も風が無いからか」と言っていたのを思い出す。

 

 もちろん、もう天上は開いているし、下では爆発も起こっているのだから、ちょっとした違和感ではあるのだが――なんだ急な危機感を感じ、自分は剣に剣を伸ばす。

 

「シモン・ヒュペリオン……見つけた」

 

 その声がした方向に合わせて神剣を抜き出し、鋭い剣気のする方へと振りかぶった。確かな手ごたえ――というより競り負けそうになるのを、アウローラによる身体の強化を発動してなんとか持ちこたえる。

 

「……あぁああああ!!」

 

 そこに気迫を上乗せして、なんとか襲撃者の凶刃を弾き返すことに成功した。とはいえ、巨大な剣の持ち主は衝撃を吸収するように背後に跳んで、涼し気な顔をしながら着地したのだが。

 

 しかし、腰の下まで伸びる長い髪、ヒラヒラの黒いドレスに勇者の聖剣を思わせる大剣――これが音に聞こえるセブンスという少女か。

 

「神剣アウローラ……ハインラインの器」

「……アナタ達、いつも私のことを器、器って! なんなのよ、一体!!」

 

 襲撃者どもは毎度そうやって自分を目の敵にしてくる。事実、セブンスは標的を切り替えたかのように自分の方へと向き直り、一足飛びでこちらへと肉薄してきた。

 

(速い……けど、アイツほどじゃない!!)

 

 神剣の加護がある今なら反応できる範囲――そう思いながら、大上段から振り下ろされる鋭い一撃を受け止める。足が地面に埋まるかと思うほどの衝撃が全身に走るが――少女の持つ大剣の刀身には刃の代わりに熱線が走っており、これは神剣でなければ容易に両断されているだろう。

 

「エルさん!」

 

 補助魔法が入るのと同時に、クラウが結界を踏んで跳び、そのまま剣を押し付けている銀髪の少女に蹴りを放つ。セブンスはすぐにそれに反応し、こちらの剣を弾いて、そのままの反動でまた一気に後ろに跳んだ。

 

 標的に攻撃が当たらなかったクラウは、そのまま庭の芝生に着地し、すぐに入口にいるソフィアとシモンの方を向いた。

 

「……ソフィアちゃん! ここは私とエルさんに任せて!」

「うん、お願い! さぁ、シモンさんも!」

 

 ソフィアとシモンが中に入るのを扉の閉まる音で判断しつつ、自分は改めてセブンスに向き合う。同時に、クラウがトンファーを取り出しながらゆっくりと自分の横に並んだ。

 

「……とはいえ、お姉さん二人がかりで戦えば、なんとかなっちゃうかも?」

「油断は止めなさい、クラウ……ゲンブ一派の一員なんだから、油断できる相手ではないわ」

 

 クラウを窘めて、相手の様子を伺う。見れば見るほど小さく華奢で、あの細腕でどう大剣を振り回しているのか全く謎だが――そして何より、まったく隙が無い。まさしく達人という雰囲気であり、自分の知るありとあらゆる剣術とは違う、何か特有の気迫のようなものがあり、こちらは二人いるというのに踏み込めるタイミングが全く見当たらないほどだ。

 

 だが、攻めあぐねているのは向こうも同様なのだろう、二対一で攻めあぐねている様子で――しかし、この均衡は少女の方が破った。

 

「コード、龍殺し【ドラゴンスレイヤー】発動……」

 

 セブンスが掲げる大剣が一部が音を立てながら開き、刀身の隙間に蠢くような紫色の光が走る。

 

「なっ、アレは……!?」

 

 恐らく、聖剣レヴァンテインと同じような機構。アレは天から降り注ぐ光を光波として斬撃を放っていたが、セブンスの持つ剣は中に溜めているエネルギーを外に放出するタイプか。

 

 ともかく、自分たちの後ろにはダンの邸宅があり、アレをそのまま許せば中のソフィアやシモンがやられる。

 

「クラウ!!」

 

 仲間の名を呼ぶと、彼女も自分と同じように察していたのだろう、すぐに家の前に移動し、両手を広げて放たれる一撃に備えていた。対するセブンスは、右手を突き出して巨大重量であるはずの大剣の柄の底を左手一本で持ち、光を纏う刀身を右腕と左腕を入れ替えるバネで思いっきり突き出した。

 

「御舟流奥義……左片手一本突き!!」

「やらせません……第六天結界!!」

 

 刀身から放たれた紫紺の光波を、六枚の盾が迎撃する。眩い光と激しい音の向こう側で戦う仲間を、なんとか視界にとらえ――クラウが歯を食いしばりながら耐えているが、結界が一枚、また一枚と破られていく光景につれ、彼女の瞳が絶望に呑まれていくのが見える。

 

 しかし、最後の一枚になった瞬間に気を持ち直したのか、クラウディア・アリギエーリの瞳に闘志が戻った。

 

「……んだらぁああああああああ!!」

 

 轟音の中でも聞こえるほどの彼女の咆哮、同時に巨大な爆発が巻き起こる。クラウの呻き声が聞こえたと同時に、土煙の中から彼女の体が吹き飛ばされる形で現れ、背後の建物に背中から身体を打ち付けてしまったようだ。

 

「うぁっ!」

「クラウ!? くっ……!?」

 

 土煙の中を通って鋭い剣気が近づいてくるのを察し、煙の中を反射する光から相手の剣線を読み、神剣で斬撃を受け止める。しかし、下から勢い良く振り切られた逆袈裟は威力が高く、こちらの体が浮き、クラウと同様に自分も背後の壁に叩きつけられてしまう。

 

「かはっ……!」

 

 背中の強い衝撃のせいで、思わず肺が潰されたような息が漏れる。だが、それはすぐに自分の体を包む淡い光のおかげで楽になった。隣を見ると、瓦礫の中からこちらに差し出された光る手のひらの上に、深紅の瞳が浮かんでいる。

 

「奇遇だねエルさん……二人して吹き飛ばされて、壁に叩きつけられちゃうなんてさ」

「……ティア、大丈夫なの?」

「まぁ、クラウが気絶しちゃったからね。それに、ボク自身が不調な訳じゃない。魔法に違和感があるだけだからなんとかなるさ。それより……」

 

 回復魔法をかけ終え、ティアは土煙の晴れた先をその赤い眼で見る――銀髪の少女が、また涼し気な瞳でこちらを見ているのが、何とも気に食わない。

 

「あんな小さい子にいいようにされてるなんて、癪だと思わないかい?」

「同感!!」

 

 二人で壁と瓦礫から抜け出し、自分は左から、ティアは右から、セブンスに向かって攻撃を繰り出した。少女も自分たちを同時に相手にするのは厳しいと判断したのか、後ろに跳んで再び間合い取るが――自分もティアもそれを読んでおり、ティアがすぐに前進を開始し、自分はお返しと言わんばかりに神剣の光波で着地を狙う。

 

 セブンスは着地と同時にすぐにまた横に移動して神剣の一撃を躱し、その先に待ち構えていたティアの蹴りを刀身で受けた。セブンスが剣を押し出し、ティアが弾き飛ばされている内に、今度は自分が間合いを詰める。

 

「間合いを取られると、またあの光線を出されるでしょうから!?」

「あぁ、押して押して押しまくろう!!」

 

 その後は、二人で波状攻撃を仕掛け、セブンスの方が防戦一方になる。とはいえ、これはこれで癪と言えば癪――二人がかりでなら優勢というのは、一対一なら相手の方が技量が上ということだ。もちろん、見た目で油断するなと言ったのは自分だけれど、それでも剣士としての腕が劣るというのは、簡単に認めがたいものがある。

 

(……アイツなら、きっと私と同じだけの時間があれば、この子を倒しているでしょうね……)

 

 音速を超えるADAMs、アレさえあれば人型の相手をするにはほとんど無敵だ――しかし同時に、その事実がまた自分の中にどす黒い感情を巻き起こす。

 

 仇の使う技、自分が逃した相手、そして最近ではアラン・スミスがADAMsを使えることに頼り切ってしまっている自分――魔王討伐から、自分はT3やホークウィンド、セブンスのような強敵を相手にしたときに、足を引っ張ってばかりだ。

 

 ハインラインの本懐は、勇者の右腕になること。今の自分は全くそれが出来ていない。その事実が自分を焦らせる――神剣の加護があるのなら、せめてこの少女には遅れを取りたくない。

 

「……凄い、強い」

「……え?」

 

 感嘆するように呟いた少女に、一瞬だけ呆気を取られ――舐めるんじゃないわよ、そう返してやる前に、少女のダークブラウンの瞳に強い力が籠った。

 

「でも……それはアシモフの子と言う範疇の中での話……!」

 

 防戦一方だった少女の気迫が増し、一瞬だが自分とティアの攻撃の手が緩む。そこに繰り出される痛烈な横一線に対し、ティアは結界を張るが弾き飛ばされ、自分は寸で後ろに跳躍して躱し――再び距離を取った瞬間、再び大剣に紫色の光が走る。

 

「ハインラインの器、覚悟!!」

「……舐めるなぁあああああッ!!」

 

 相手が逆袈裟から振り上げる一閃に対し、こちらも大上段からの光波をぶつける。紫紺と翡翠の二色がぶつかり合い、辺りの大気を振動させる――互いの剣線は互角、つまり威力的には五分ということになる。

 

 王都で時計塔を破壊した一撃なら、恐らく神剣や第六天結界でも止められないはずだ。ということは、出力を抑えているのか――剣戟が対消滅した反動で衝撃波が巻き起こり、その激しさに自分の体は再び後ろに吹き飛ばされたと同時に、落下の衝撃で神剣が右手から落ちてしまう。

 

「……くっ!?」

「エルさん!!」

 

 土煙の中からくる気配に対しては、またすぐにティアの援護が入る。自分の前に立ち、結界を張ってくれるのだが――。

 

「……読んでいるよ」

「なっ……」

 

 土煙から抜け出た気配は、想定よりも高い場所から――ティアの身体の上空を通り抜けた。ティアの背後に立ったセブンスは、そのまま裏拳の要領で剣の柄をティアの首辺りに勢いよくぶつける。

 

 「がっ……」という短い呻きの後、クラウディア・アリギエーリの身体はその場に臥してしまった。神剣の加護や補助魔法がかかっていたのだから大丈夫だとは思うが、普通なら後遺症が残るレベルの一撃だ。ともなれば、気絶してしまうのも致し方ないか。

 

「……私の狙いはアナタじゃない。だから、そこで大人しくしていて……さぁ」

 

 そう言いながら、セブンスは剣を正段に構えて、立ち上がろうとするこちらを見下ろしてきた。剣は、自分から二メートルくらいの位置にある――セブンスもそれをちらりと一瞥《いちべつ》した。

 

「アナタが剣に飛びつくより、私がミストルテインを振り下ろす方が速い……アナタに恨みは無いけれど、アナタの血を断つことが私の使命だから……」

「……ホント、いい加減にしてよ。私が一体なんだっていうの?」

「私も良く分かっていない……それを知る必要もないってゲンブが言ってた」

「……そう。そんな使命も想いも何もない者に、斬られて終わるのね」

 

 それは、嘘偽りない本心だった。父の仇を討ち、彼の供として戦うという志半ばで果てることは無念だし、それを終わらせる者に想いが無いのならなおさら――しかし、自分の言葉に対しては感情が揺れたのか、少女の表情が微かに強張るのが見えた。

 

 そして、その揺れ動いた一瞬の隙を狙ったのか、背後の頭上から轟音が響き渡った。自分とセブンスの間に巨大な氷柱が突き刺さった。

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