B&T~記憶喪失の転生者、伝説級の暗殺術で異世界ディストピアをぶっ壊す~ 作:五島七夫
セブンスが退き、ダンの邸宅に静けさが戻ってくる。遠距離でソフィアの魔術の追撃はあったが魔術が途中でかき消えているのが見えたから、逃げ切られてしまったようだった。
「う、うーん……はっ!! エルさん、ソフィアちゃん! 無事ですか!?」
「うん、大丈夫だよ!」
首を抑えながら上半身を起こすクラウに、扉から出てきたソフィアが答える。一緒にシモンも降りてきたようで――それと同時に、車とやらがこちらへすごいスピードで接近してきて、門の前でまた勢いよく止まった。
「な、なんじゃこりゃあ!?」
車を開けて開口一言、ダンが自身の家を身ながら悲痛な叫びを上げた。改めてみると、一階の壁には二つ大きな亀裂が走り、付近の窓ガラスは割れてしまっている。二階など丸々一部屋分の穴が開いており、庭には所々クレーターがある有様――まぁ、自分の家がこんな状況になっていれば叫びたくもなるだろう。
「い、いや……まぁ、襲撃者を迎撃できただけでもいいとするか」
そうぼやくダンの元に、ソフィアが小走りで近づいていく。
「ダンさん! ゲンブ一派が襲撃してきた理由は分かりますか!?」
「あぁ? そりゃあ、ヴァルカン神を倒しに来たんだと思うが……」
「それじゃあ、ヴァルカン神を護らないと……恐らく、セブンスはそちらへ向かったんだと思うんです!」
「なるほど、それで……」
ダンは言葉を切って、改めて彼の家の惨状を納得した様子で見る――すると、気配を隠す様に物陰に隠れていたシモンを発見したようで、驚いた表情を浮かべた。
「シモン!? おめぇ、どうしてこんなところにいやがる!?」
「そ、そんな……僕はソフィアを案内しただけで……」
「テメェ、オレの部屋に勝手に入りやがったんだな? まぁ、それは良い……だが、換装パーツの付け方もおかしいじゃねぇか! なんで短くなってんだよ!?」
「そ、それは……ソフィアが取り回しやすようにしたんだよ!」
「そもそも、テメェみたいな青臭いガキがこんなところをほっつき歩いてんな! さっさとテメェの巣穴に戻って閉じこもってろ!」
「くっ……もうちょっと言い方ってもんはないのか、クソ親父!」
恐らく、ダンはシモンに危険な場所にいてほしくないということなのだろうが、言い方はもう少しあるようにも思う。段々とヒートアップしていく二人を止めないと――そう思っていると、先にソフィアが二人の間に入った。
「ダンさん、今は緊急事態です。厳しいようですが、シモンさんとの話し合いは後にしてください!」
「ちっ……また、後でゆっくりと話そうシモン。ソフィアちゃんの推測通りなら、急がねぇとマズいな……お嬢ちゃんたち! 車に乗るんだ! オレが襲撃者が来ているほうへ連れて行ってやる!」
そう言いながら、ダンは再び車に乗り込んだ。自分たちも車に移動し、ソフィアとクラウが後ろの席に、自分は前に乗り込み――すぐにダンの車は後ろの方へ角度を着けながら勢いよく下がり、切り返して元来た道の方へと走り出した。坂を降りながら、車はどうやら街の中央にある地底湖の方へと向かっているようだった。
「ダンさん、あの子の持つ剣なんですが、聖剣レヴァンテインに似ていました。何か理由は分かりますか?」
「アイツらがどんな理由でレヴァンテインのマネっこしたかは分からねぇが、威力は勝るとも劣らねぇな……ただ、レヴァンテインのマルドゥーク・ゲイザーは一日三発までの制限があるのと同様に、あの剣は最大出量で撃つなら一発が限度なはずだ」
「なるほど、それで……」
ソフィアが納得する理由はなんとなくだが自分にもわかった。彼女は自分とクラウを相手にしている時は、出力を抑えていたのだ。同時に恐らく最大の一撃は、ヴァルカン神を倒すのに残している――そんなところだろう。
「……エル、ダッシュボードを開けな」
ダンが丸い装置を握りながら、自分にそう声を掛けてくる。ダッシュボードとはなんだか分からないが、彼の視線の先、自分の目の前にある引き出しのようなモノのことだろう――取っ手を引くと、その中には色々と整備などに使う道具らしいものが詰まっていた。
「その中に、強化弾……構成魔術の威力を強制的にあげる魔術弾が入っている。第六と第七、一発ずつあったはずだ。それをソフィアちゃんに」
そう言われて、魔術弾らしいものをなんとか探り当て、後ろに座るソフィアに手渡す。
「ダンさん、これの使い方は?」
「いつも通りに詠唱すれば問題ないぜ。ただ、後装してもすぐに撃てねぇからすぐに使いたいなら魔術弾を込めなおす必要はあるな」
「分かりました」
答えてすぐにソフィアは魔術杖を操作し、元々装填されていた弾を取り出して自分が渡した弾を杖に詰めだした。取り回しやすいように多少ソードオフしたようだが、それでも一メートルを超える長さの杖を操作しているのだから、自然と杖は横向きに操作することになり、先端はクラウの膝に乗っている。
「切り札は最後に取っておいた方が良くないですか?」
「うぅん、出し惜しみはなし……恐らく、次は一瞬で決まるよ。だから、最善を尽くすんだ」
魔術弾を再装填しなおし、ソフィアは機械の蓋の部分をバン、と音を立てて閉めた。
「それでダンさん、ヴァルカン神はどこに居るんですか?」
「あぁ、ちょうど地底湖のど真ん中、その底に眠っているんだが……そうだな、ちょうど破壊された灯りの真下だ」
それで、地底湖の方へと向かっているのか――ふと前のガラスの向こうを見ると、禍々しい紫色の電撃が上空を走っているのが見えた。だが、車の屋根が邪魔で、その上空で何が起こっているのかまでは視認できない。
「ダン、これ窓はどうやって開けるの!?」
「あぁ、ちょっと待ってろ、オレが開けてやる……」
「あ、後ろの方も開けてください!」
ダンがドア側のボタンを操作すると、四つのドアについている全ての窓が一斉に下がりだした。そして、窓から少し身を乗り出して上空を見る――僅かに輝いて見えた灯りの部分を確認すると、やはり割れた太陽の上に紫色の光が集まり、それがドンドン収束しているのが見えた。
状況を見てから三人とも車の中に引っ込むと、ソフィアの隣でクラウがわたわたと慌てているようだった。
「どど、どうします!? このままじゃ、ヴァルカン神が……!」
「どうするもこうするも、迎撃するしかないね」
そう言いながら、ソフィアは魔術杖のレバーを強く引き上げた。
「ダンさん! 船に乗り換えている時間はありません。この車で、湖に突っ込んでください!」
「はぁ!? コイツはスパイが使うようなスーパーカーじゃねぇんだ! 水面を走ったりは出来んぞ!?」
「大丈夫です、道は私が……私とグロリアスケインが作ります……エルさん、クラウさん、車の天井を吹きとばして!」
「はぁぁああああ!?」
ソフィアの言うことに、ダンは二重に驚いて大声を張り上げるが――どうするもこうするも、ゲンブ一派に好きにやらせたくないならやるしかない。
「大丈夫よダン」
「何がだ!?」
「こういう時のソフィアは、無敵だから」
実際、ソフィアが考える策は外れたことは無い。だったら、それにあやかってやるだけだ。左側のドアを開けて、椅子に立てかけてあった神剣の鞘を外に出す。
「クラウ、悪いんだけど鞘を引いてくれない?」
「了解です!」
クラウが外で鞘を引き、こちらも柄を前に押し出す様にして刀身を抜き、腕を引きながら車内に翡翠色の刃を入れる。
「クラウ、やるわよ」
「重ね重ね了解です! ソフィアちゃん、鞘を持っていて!」
クラウの準備が出来たのを見計らい、車の天井に刃を突き入れる。ダンが横で「あぁ、あぁ……」と呻いているが無視して、身を捻じりながら一気に四角く切れ目を入れた。
「私のこの手が光って叫ぶ! 行きますよぉ……第六天結界パンチ!!」
後ろから気合が入っているのか間が抜けているのか分からない声が聞こえ、ドゴォ、と鈍い音がするとともに車の天井が遥か上空に吹き飛ばされた。そして背後に天井が叩きつけられたのをルームミラーで確認すると、ダンは左手で顔を抑えた。
「あぁ……オレの車がオープンカーになっちまった……」
「すいません、でも緊急事態なので……ついでにちゃんと前を見てください!」
ソフィアも本当に謝っているのか良く分からない軽い調子で言うと、すぐに後部座席の上に立った。そして、魔術杖を迫りくる地底湖の方へと向けて詠唱を始める。
「第六魔術強化弾装填! 構成、冷気、凍結、強風、全て強化……コキュートスエンド・アサルト!!」
三つの方陣が車体の前に現れ、ソフィアが魔術名を叫んだ瞬間、正面の広範囲に強力な冷気が走っていく。その勢いは車の進行より早く、地底湖の表面をどんどんと凍結させていき、その上をダンの運転する車が突き進む形になった。
「アイスバーンでハンドルがきかねぇ……クソ、こうなりゃヤケだ! クソがよっ!!」
ダンがハンドルを叩きながら悪態をついている後ろで、ソフィアが中空で魔術杖を一回転させる――そして車体が湖の中央まで近づいた瞬間、杖を紫色の光が集まる一点に向けて掲げた。
◆
一人の少女が、割れた電球の上で剣を掲げている。ここではモノリスに直結できないので、事前に充電しておいたエネルギーを出力にしなければならない――先ほどの先頭において幾許かのエネルギーは放出してしまったが、地底湖の底に穴を空けるには造作もないだけの破壊力が残っているはずだ。
対して、凍る地底湖を滑るように走る車の後部座席にも、一人の少女が立っている。金髪の少女がおもむろに杖を振り上げると同時に、車は減速し始め――このままいくと、ちょうど二人の少女が持つ最大の一撃がぶつかり合うことになるのだろう。
「システム、ゴッドイーター起動」
「第七魔術強化弾装填」
ジオフロントの中空で、自分にだけ見えるように小さく映し出している三つのモニターのうち二つから、それぞれ声が聞こえ始める――セブンスも、下にソフィア・オーウェルが到着したことに気付いたのだろう、下を見つめる視線が一層鋭いものになる。
「エネルギー充填八十パーセント……アンカー射出に変わり、射出するエネルギーの反作用にて制御を行う」
「我開く、七つの門、七つの力……我が魔術、雷を纏いて、其の盾を破る絶氷の光とならん」
銀髪の少女が電球の口金を蹴り、剣を両手に持ちながら下へと落下し始める。対する金髪の少女の上空には巨大な魔法陣が浮き上がり――なるほど、強化弾を出したか。それなら勝負の行方は分からなくなった。
モノリスに接続せずとも、ゴッドイーターはマルドゥークゲイザーを超える一撃を射出できる。しかし、ソフィア・オーウェルのシルヴァリオン・ゼロも相当な威力のある魔術。電磁力と極大の冷気で重力下でも擬似的な絶対零度を作り出す――ゴッドイーターがエネルギーの極限の増加に対し、ソフィア・オーウェルの第七階層魔術は極限のエネルギー停止に他ならない。ただの第七階層ならば範囲でゴッドイーターが勝っただろうが――果たして、この勝負どうなるか。
「ソードライン、誤差修正。エネルギー充填百パーセント……行くよ、ミストルテイン!」
「汝、その魂すら凍て尽かせ、ただ塵へと還るがいい……行くよ、グロリアスケイン!」
二人の少女の視線が互いに交錯し、上からは大剣が紫煙を巻き上げながら振り下ろされ、下からは巨大な魔法陣が杖で突かれ――。
「御舟流奥義、下り彗星縦一文字!!」
「シルヴァリオン・ゼロ・アサルト!!」
ミストルテインから放出されたエネルギーを、囲むように展開されてい蒼白の光線が迎撃する。互いの技がジオフロントの大気を大いに振動させ――さきほどのアラン・スミスの一撃など比べ物にならないほどの力の奔流に、ドワーフの街中の窓ガラスが割れ、瓦礫を巻き上げているようだった。
ミストルテインから照射されたエネルギーは直進を許されず、その余波でセブンスの体は宙に浮いたままになっている。
「うぅうううううううううッ!!」
「あぁあああああああああッ!!」
互いに、自分の一撃が相手を上回るのだと、二人の少女の美しい顔に鬼気迫る表情が浮かんでいる。プラスとマイナスは拮抗し――いや、僅かにだがミストルテインのゴッドイーターが押し始めたようだ。流石に大気中では完全な絶対零度は不可能であり、無限にも近いエネルギーを放出するミストルテインが一歩上回ったか。
(……ソフィア・オーウェルにティアという人格、惜しい人材を失いますが……止む得ませんね)
ソフィア・オーウェルは最初こそ侮っていたが、彼女の明晰な頭脳は素晴らしいし、二連続魔術の詳細も確認してみたい。それに、ティアという人格は七柱の影響を受けない――上手く行けばアラン・スミスと一緒に取り入れられると思っていたが、このままいけばゴッドイーターに巻き込まれて跡形もなくなってしまうだろう。
(とはいえ、ハインラインの器とフレデリック・キーツを同時に葬れるのは僥倖……アラン・スミスとは永劫に手を組めなくなるかもしれませんが、二柱同時撃破と思えばおつりがきますか)
見れば、押され始めたソフィア・オーウェルの表情に絶望の影が見え始めている――その時、また激しい閃光が地下都市の中空に発生した。
直後、モニターに表示されている計器類が激しく乱高下し、安定しなくなっている。あの光の中で一体何が起こっているのか、モニターから人形の目を離し、網膜があったら焼ききれてしまうほどの光の中央を凝視することにした。