B&T~記憶喪失の転生者、伝説級の暗殺術で異世界ディストピアをぶっ壊す~   作:五島七夫

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檻の中の少女

 ソフィアの魔術がセブンスの一撃を防ぎきり、後から銀髪の少女が落下してきた。セブンスは空中で翻り、剣を凍った湖面に突き立てて着地するが、その瞳はどこか虚ろで、焦点が合っていないように見える。

 

 自分は神剣を抜き、剣を構えながら俯きがちの少女にゆっくりと近づいていく。

 

「勝負あったわね、セブンスとやら。流石に三対一では……」

「……アクセルハンマー!!」

 

 自分がセブンスと交渉しようとする横から、金の髪が流れて突き進んでいき、杖を振りかぶった。セブンスはなんとか、という調子で剣を盾にガードしたが、剣ごと弾き飛ばされ、湖面に強く身体を打ち付けられて動かなくなった。

 

「……第五魔術弾装填」

 

 ソフィアは杖を振り回しながら、その先端をセブンスの体に向ける。このままではいけない――そう思って自分も前に出るが、それよりも早く結界で跳躍したのだろう、クラウが魔術の射線の前に着地し、両腕を広げてソフィアを止めてくれた。

 

「ソフィアちゃん! 待ってください!」

「待てって、どうして?」

「どうしてって……そりゃ、危険な子なのは間違いないですけど、でも動けなくなったのをこんな一方的に叩くのは……!」

「それは、その子の外見が人間だからそう思うんだよ。魔族や魔獣に対して、クラウさんは同じように情けをかけるの?」

「そ、それは……」

「そう、事の本質はそれと同じ……うぅん、それ以上。古の神々とそれに与する者は知恵が回る分、魔獣や魔族より悪質だよ。その結果、レヴァルも、王都も、ハインライン辺境伯領も、ガングヘイムの街も、ゲンブ一派に荒らされ回った……放っておけば、もっと被害が広がる」

 

 ソフィアの言うことはもっともだ。だが、自分とクラウが恐れているのは、きっとそういうことではない――それを伝えるため、自分がソフィアの肩を持ち、金髪の少女をこちらへと振り向かせた。

 

「……ソフィア」

 

 名前を呼ばれて振り向く彼女の顔には、まるで感情のない人形のように冷酷な瞳があった。それに一瞬だけたじろいでしまうが、なんとか自身の心を落ち着かせ――少女の肩を強く持ち、視線を逸らさぬよう緑の瞳をじっと見つめる。

 

「あの子には、色々と話してもらうべきことがある……それに何より、私もクラウも、アナタに手をかけてほしくないの。アナタに人殺しになって欲しくないから……」

「そう……エルさんは優しいもんね」

 

 ソフィアの言葉に動揺し――あまりに情けないが――肩を持つ力が緩んでしまった。彼女の真意は分からないが、暗にT3に対して千載一遇のチャンスを逃した自分が攻められているような気がしたからだ。

 

 同時に、自分とソフィアの差を思い知らされたようにも思う。自分は甘く、彼女は覚悟が決まっている――その差をまざまざと見せつけられたような心地がした。

 

「……オレぁ、立場的にはやったれやったれ、と言いたいところなんだが……個人的にはその子を殺すのを、少し待つことには賛成だぜ」

「……ダンさん?」

 

 いつの間にか自分とソフィアの横を過ぎ、ダンが倒れるセブンスの元へと進んでいっている。そして、跪いてその顔を覗き込み――しばらくして、こちらへと振り向いた。

 

「少し幼いようだし、髪の色も違うが……間違いねぇ。この子の顔立ちは第八代勇者、ナナセ・ユメノにそっくりだぜ。この子の身元を調査したほうが良いだろうな」

 

 ソフィアは自分が掴んでいた手をゆっくりと払い、ダンと倒れるセブンスの方を身ながら頷いた。

 

「そういうことなら、分かりました。ただし、早急に拘束具と牢による身柄の確保と、その大剣の封印をしましょう」

「あぁ、それに関しては同意見だ……この剣に関しては、オレも独自に解析してみてぇしな。エルのお嬢ちゃん、剣の輸送を頼む。クラウのお嬢ちゃんはその子をおぶって岸まで移動してもらっていいか?」

 

 自分とクラウはダンの提案に即頷き――ソフィアの心境が変わらないうちに、早く行動したほうがいいと判断して――自分は大剣を、クラウはぐったりしたセブンスを負ぶって凍った湖面を後にする。ダンは適宜振り返りながら「オレの愛車が……」とぼやいていたが、氷の上だと操縦できないらしいので諦めてもらう他ない。

 

 ともかく、湖面を抜けたあたりで、遠くから見慣れたシルエットが走ってきていた。アラン・スミスは「おーい」と声をあげながら手を振り、自分たちの元に着いた時には息を切らしながら膝に手をついていた。

 

「はぁ……はぁ……良かった! みんな無事だったんだな!」

「うん! アランさんも無事でよかった!」

 

 先ほどの冷たさが嘘のように、ソフィアはその顔に大輪の花を咲かす。とはいえ、彼の顔を見ると安心できるのも頷ける。クラウもやっと緊張がほぐれたようで、ちょっと皮肉気な笑顔を青年に向けていた。

 

「……まったく、アラン君はどこで道草を食ってたんです?」

「道草とは心外だなぁ……俺だって、ゲンブの相手をしていて……まぁ、偽物だったんだが……と、セブンスを生け捕りにできたんだな?」

「えぇ、ソフィアちゃんが頑張ってくれたおかげで」

「そうか、それは良かった。そいつはなかなかなクソガキだが、悪い子とも思えないからな……ソフィア、お疲れ様」

「う、うん……アランさんもお疲れ様」

 

 先ほど思いっきりトドメを刺そうとしていたので気まずかったのか、珍しくソフィアも苦笑いを浮かべているようだった。

 

 しかし、緊張が解けたのと同時に、ダンの言っていたことが気になりだす。クラウの背後で小さく息を立てている少女、それが前々代の勇者にそっくりとは。見たところ、ソフィアと同い年くらいに見えるし、そもそも三百年前の人物が居るのもおかしな話になる――そして万が一本人であったとしても、古の神々に協力しているのも腑に落ちない。

 

 とはいえ、難しいことを考えるのは後にしたい。自分がどれほど貢献できたかは置いておいても、ひとまずは古の神々の襲撃を退けることも出来たのだから。激しかった戦闘音も落ち着いたことでドワーフたちも外に出だしたのか、辺りも人の声でざわついてきだした。

 

 背後を見ると、徐々に溶け出した氷に亀裂が走り、流氷のように湖面を漂いだしている――迎えの車が来るまでの間、ダンは沈んでいく愛車を見つめて名残惜しそうにしていたのだった。

 

 ◆

 

 ゲンブたちの襲撃から一夜開けた。格子の向こう側にある窓には、一筋の光が差し込んでいるのが見える――この牢屋のベッドですやすやと寝息を立てている少女にぶち空けられた穴から、太陽光が差し込んできているのだ。

 

 昨晩はあれ以上の襲撃は見られなかった。どうやら、T3とホークウィンドは別行動だったらしく、ゲンブとセブンスの二人による襲撃だったらしい。ゲンブがいつの間にか姿をくらましていたのはいたのは気になるが、ひとまずは撃退には成功したという形だ。

 

 しかし、そもそも昨日の襲撃の意図は何だったのだろうか? ダン曰く、恐らくヴァルカン神を倒すことだったのだろうということだったが――それは、ソフィア達のおかげで守り抜くことが出来たようだ。

 

 とはいえ、昨日からシモンの消息が分からないのも気になるところだ。ダンの息子、継承の儀式――そういった要素を鑑みると、ゲンブの狙いの中にシモンが居たのではないかという推察も立つ。

 

 シモン自身は長い間、砂漠の街アレクスに居たのだし、その時を狙わなかったのなら優先度は低かったのだろうが――ともかく、シモンの捜索の方はダンがすることになっている、というのが昨晩からの現状だ。

 

 さて、一夜明けて、自分は早速だがセブンスを拘束している留置所まで来ていた。ここまでは、故あって一人で来ていた。とういうのも、エルはまだ眠っていており、ソフィアはなんだかここに来るのが嫌そうであり、クラウもどことなくよそよそしく――まぁクラウの言葉を借りるなら、各々色々と複雑なのだろうと納得し、ともかく色々と事情を知るであろうセブンスからいち早く色々な情報を知りたいと思い、こちらへ向かってきた形だ。

 

 道すがら街を精力的に直すドワーフたちを――彼らはものづくりが好きだからか、壊されたというのに割と活き活きとしていた――横目に確認しながら来たのだが、なるほど、レムリアの民と比べるとドワーフたちはたくましいと言える。襲撃があったというのにへこたれず、なんだか来た時以上に活気に満ち溢れていた。

 

 そして留置所に到着後、もう十時を過ぎるというのに、ベッドに横たわる少女は呑気に寝ているのを眺めている訳だが――セブンスは以前の触れれば斬れるような雰囲気は鳴りを潜め、すやすやと気持ちの良い寝息を立てていた。

 

 椅子の背に腕をかけながら数分の間、格子越しにセブンスを眺めていると、やっと「うぅん……」と身体を動かし始めた。

 

「目が覚めたか?」

「ふぁい、おはようございましゅ、ふぁぁ……」

 

 なんだか間の抜けた声が牢の中から発せられる。王都を襲撃したときの鋭さが嘘のようだが――ともかくしばらく格子の向こうに横たわる少女を眺めていると「あれ、あれ?」と首を振りだした。最初は眠そうだったが、徐々に眼が覚めてきたようで、呂律もハッキリしてきている。

 

「体が動かせない!?」

 

 少女は今更ながらに寝巻の代わりに拘束衣で身体を縛られていることに気づいたのだろう。まぁ、起きて自身の身体が動かなくなっていたら驚くのも当たり前か。

 

「まぁ、それは自分のやったことを鑑みれば、当たり前の処置というか、それくらいで済んでいるんだから温情というか……」

「……ふん!」

 

 牢の中で気合の入った声が聞こえると、どうやらセブンスは腹筋で上半身だけはなんとか起こしたようだった。そうすると、少女のダークブラウンの瞳とバッチリと目が合う形になる――不思議とだが、以前見た時よりも眼に輝きがあり、なんだか年相応の女の子、といった雰囲気になっている。

 

「あれ、お兄さん、どこかで会ったことありませんか?」

「お、おぉ? なんというかマイペースだね君ぃ……」

「ちょっと待ってください、私、記憶力には自信があるんです! すぐに思い出すので……えぇっとぉ、うんっとぉ……」

 

 どうやら、自身の身体が拘束されていることも忘れているらしい、セブンスは眼を閉じてうんうんと唸りだした。最初は何か思い出すのに必死そうだったのだが、再び「あれ、あれ?」と呟き始め――最終的には、驚愕に見開いた眼でこちらを向いた。

 

「あ、あの!」

「なんだ?」

「私は誰なんでしょうか……?」

「……はぁ?」

 

 間抜けな質問に対し、こちらも思わず間抜けな返事を返してしまう。最初はこちらを油断させる策か何かかとも思ったが、セブンスの顔に浮かぶ必死さと、同時に見せる間抜けさ――どうやら腹が減っているようで、ぼぅっとしたり、かと思えば真剣に自分のことを思い出そうとしていたり――そんなのを見ていると、なんだか今までと雰囲気が違いすぎて、自身が誰か分からないというのもあながち嘘ではないような気持ちになってきてしまったのだった。

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