B&T~記憶喪失の転生者、伝説級の暗殺術で異世界ディストピアをぶっ壊す~   作:五島七夫

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君の渾名は

 午後になって、ダンと三人の少女たちも留置所に集まった。ダンの方は、昨晩に取っていた少女の身体に関するデータを取りに一旦席を立っているところだ。

 

「……それじゃあ、記憶喪失だっていうの? アナタみたいに?」

「あぁ、どうやらそういうことらしい」

 

 先ほど来たばかりのエルたちに、ひとまず事情を説明した。といっても、自分は彼女が記憶喪失らしいということくらいしか分からないし、皆がここに来るまではお腹が減っただのなんだの、くだらないことしか話せていないのだが。

 

「にわかには信じがたいと言いますか、まさかこんなに短い期間の内に、記憶喪失の人を二人見ることになるとは……」

「情報を引き出されないようにするために、記憶喪失のふりをしているだけかもしれないよ?」

 

 三人の少女たちが各々喋る後ろで、セブンスは上半身を突き出しながら情けない声を出す。

 

「あのぉ、出来ればここから出してもらえませんか? せめて、腕のこれを外してもらえるだけでも嬉しいのですが……」

「それはダメです」

「そんなぁ……」

 

 ソフィアに即切られ、セブンスはしょんぼりと肩を落とす。

 

「まぁ、そのお嬢ちゃんが言うことも、あながち嘘じゃないのかもしれねぇ……」

 

 扉が開かれ、その奥からダン・ヒュペリオンが入ってきた。ダンはそう言いながら右手の人差し指で鍵の束を回し、牢の入口の方へと移動する。

 

「ダンさん、どういうことです?」

「あぁ……額にサークレットが着いていただろう? どうやら、それで感情や記憶、行動をコントロールされていたみたいだな」

「それじゃあそれが破壊されたことで、彼女は本来の人格を取り戻した、と?」

「あぁ、恐らくな……それで、お前さんたちには悪いんだが……」

 

 ダンはソフィアの疑問に返答しながら牢屋の鍵を開けて、ベッドに座っているセブンスの方へと近づき、少女に鍵を見せた。

 

「……ひっかかねぇって約束してくれるかい?」

「立派な髭のおじさま! もちろんです!」

「ははは、調子のいいお嬢ちゃんだ。なんだか懐かしいな……良いだろう、信じるぜ」

 

 ダンは笑いながら、セブンスの拘束を外し始めた。セブンスは拘束具が外れて表情をパッと明るくさせ――なんだかこう見ていると、本当に明るくていい子のように感じる。そしてダンに立つように施されてすぐに立ち上がり、我先にと軽快な足取りで牢屋から出てきた。

 

 次いで、セブンスを追うように出てきたダンが、少女の肩にポン、と手を置いた。

 

「……それで、お前さんたちはこの子を、世界樹に住むレアの所に連れて行ってほしいんだ。生物学に関しちゃ、オレよりもレアに……エルフに聞いた方が確実なことも分かるだろう」

「で、でも! サークレットで操られていたのは、あくまでも仮説でしかありませんよね? 記憶を失っているのも本当か分からないですし……仮にそうだとしても、記憶を取り戻したら、襲撃されるかも」

 

 ダンの提案に、ソフィアが食って掛かる。肝心の襲撃者である少女は初めて聞きました、というような様子で、自分の顔を拘束衣で隠れた手で示しながら驚いた表情を浮かべている。

 

「え、え? 私、そんな襲撃とか恐ろしいことしてたんですか!?」

「さっきも言っただろうよ……」

「いやぁ、お腹が空いててそれどころじゃなく……ぐぅ、思い出したら空腹がぶり返してきました……」

 

 本当にぐぅ、という腹の虫が牢屋内に響き――あまりに毒気が抜けすぎてどう対応すればいいのか分からないのだろう、三人の少女たちはぽかん、と口を空けてセブンスを見つめていた。

 

 その空気に耐えきれなかったのか、銀髪の少女は拘束衣の袖と首をぶんぶんと振りだす。

 

「え、えとえとえと! 大丈夫です! 私、人畜無害ですから!」

「そうは言っても……散々好き勝手されて、人畜無害は納得できないというか……」

 

 ソフィアがそう言いたくなる気持ちも分かる。地底に大穴を空けておいて人畜無害も無理があるだろう。しかし、ダンがソフィアの肩を叩き、窘めるような表情で口を開いた。

 

「まぁ、そう構えなくても大丈夫だと思うぜ、ソフィアのお嬢ちゃん。あの大剣はこちらで封印するし、そうでなくとも記憶があるなら、お前さんに手痛くやられたんだ、警戒して簡単には手出しも出来ねぇだろうさ。

 何より、今のこの子はヴァルカン神が無害だって言っている。それを信じてみてくれねぇかい?」

「ふぅ……分かりました。ダンさんがそこまでおっしゃるのなら」

「それじゃ、オレは剣の解析を……の前に、宝剣の修理だな。ともかく失礼するぜ」

 

 そう言いながら、ダンは扉の方へと移動し、少女たちはセブンスを取り囲むように移動しだした。自分もセブンスの方へ行こうと思ったが、ダンがこちらを見ている気配を察し、そっと廊下側へと移動する。

 

「……セブンスのDNAだが、やはりナナセ・ユメノのものと一致した。恐らく、チェン一派が作り出したクローンだろうが……細かいことは分からん、レアの報告を受けてくれ」

「あぁ、分かった……だが、レア神とやらは俺を歓迎してくれるかな?」

「はは、そいつはお前さんの態度次第だ。頼んだぜ、アラン・スミス!」

 

 最後に背中をバンと叩かれ、思わず前のめりになりながら室内に戻る。改めて室内を見ると、少女達に取り囲まれているセブンスが袖で口元を抑えながら噴き出していた。

 

「ぶふぉ!! いやなんですかセブンスって!」

 

 そしてそのまま、クラウとソフィアの間から、銀髪の少女は袖を振りながらこちらを見た。

 

「聞いてくださいよアランさん! 皆さんが私のこと、セブンスって呼ぶんです!」

「呼ぶも何も、お前さんが自分でそう名乗ってたんだぞ?」

「えぇぇええ!? や、ヤバい……私の中の獣が暴走を……うぅん……何をしてたんだ、記憶喪失前の私……!? ともかく! ちょっとセブンスって呼ばれるとサブいぼが立つと言いますか! もうちょっと他の呼び方は無いでしょうか?」

「いいじゃないかセブンス。俺はカッコいいと思うぞ?」

「ほ、ほんとですか? ほんとにほんとですか!?」

「あ、あぁ、嘘じゃない……なぁ?」

 

 そう、嘘じゃない。何なら初めて彼女の名前を聞いた時などあまりの格好良さに心が震え立ったほどだ――こういう感性を共有できる緑髪の方に声をかけると、彼女も眼をキラキラさせながら、同時に口元を手で押さえながらこちらを振り向いた。

 

「そうですね、私もカッコいいと思いますよ……ふふっ!」

「笑うなよクラウ……ふほぉ!」

「あー! やっぱり絶対おかしいと思ってるんです!!」

 

 かつてセブンスと名乗っていた少女は、袖で頭を抑えながらぶんぶんと頭を振った。そして、すがるような瞳で金髪の少女の方へと向き直る。

 

「あの、ソフィア? 歳も近いと思うし、その……何か良いあだ名とか無いかなぁ?」

「……さぁ?」

 

 ソフィアは通称セブンスに話しかけられても、すぐにそっぽを向いてしまった。以前に首元に剣を突きつけられまでされたのだから、警戒を解けないのも仕方がないか。

 

 歳の近い少女に頼れなくなり、かつてセブンスと名乗っていた少女は、最後にはこの中で一番真っ当な性格のレイブンソードさんの方へ一歩近づいた。

 

「ぬーん……あの、エルさん? その、何か良いあだ名とか……」

「……私はそういうのは苦手よ。笑ってる二人に聞いてみたら?」

「あの二人、絶対変なのつけるじゃないですか!?」

「まぁ、それもそうだけど……」

 

 こちらからは見えないが、七番目の少女が下から真剣な目で見上げてきているのだろう、エルは気まずそうに視線を泳がせ――レイブンソードはクラウが「ライトニングスラッシャーとかでいいんじゃないでしょうか?」とか喚いているのを華麗にスルーし――最終的にはため息を一つ、眉間を指でつまんで口を開いた。

 

「……アラン、アナタがちゃんとしたやつを考えてあげなさい」

「いやぁ、俺はセブンスで全然……」

 

 いいぞ、という前に、銀髪の少女が泣きそうな目でこちらを見ているのに気付き、さすがにいい加減なことは言えなくなってきてしまった。

 

「……ふぅ、分かった分かった。というか、勇者ナナセに似てるって話だし、ナナセでいいんじゃないか?」

「でも、勇者ナナセ本人なわけじゃないよね?」

 

 ソフィアにぴしゃり、と突っ込まれて思わず黙ってしまう。ソフィアとしては、さんざん振り回してきた相手が勇者と同じ名なのは納得いかないのかもしれない。

 

「まぁ、それもそうだな……うーん、それじゃあ…………えぇっと…………ナナコ」

 

 あまり自信が無かったので、最後は我ながら消え入るような声でなんとか絞り出す形になった。口から出た名が少々間の抜けた響きのせいか、自分を見ていた少女達が一斉にぽかん、とした表情を浮かべており、あだ名を所望した少女は俯いてしまっている。

 

「アラン君、ナナコというのは?」

「えぇっと、セブンスがナナだから……?」

 

 そう、セブンスが七番目、それにナナセのナナにも掛かるし、あとはまぁノリで子をつけた感じなのだが――クラウは「アラン君、センス……」などと冷たい瞳でこちらを見ていた。

 

 少しの間、気まずい空気が流れる――しかしその沈黙はポフ、という間の抜けた音で終焉を迎えた。肝心の銀髪の少女が、袖と袖を叩いて顔を上げ、満面の笑みでこちらを見ていたのだ。

 

「良いですね、ナナコ! 親しみがある感じがします!!」

「マジか」

「マジです! なんだか、昔そんな風に呼ばれていたような……素敵なあだ名、ありがとうございます! アランさん!」

 

 セブンス改めナナコは顔に大輪の花を咲かせ、そのまま頭の高さが腰にかかる勢いで会釈をし――ぐぅ、という間の抜けた音が牢内に鳴り響く。

 

「あのぉ、それで……ご飯とか、いただけないでしょうか?」

 

 再び顔を上げた少女の表情は、打って変わって苦笑いが浮かんでいたのだった。

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