B&T~記憶喪失の転生者、伝説級の暗殺術で異世界ディストピアをぶっ壊す~   作:五島七夫

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最後の四神

 姿を消した自分たちを探しているのだろう、テレジア・エンデ・レムリアは遠方の空で辺りを見回していた。そして自分たちが見つからずに癇癪でも起こしたのか、天を衝くほどの甲高い咆哮をあげながら炎を世界樹に向けて乱射しだした。

 

 すぐに辺りから悲鳴が聞こえだす。テレジア・エンデ・レムリアの放つ炎に眠っていたエルフたちが文字通りあぶりだされたのだろう――何にしても、このままでは被害が広がる。そうなる前に奴を止めなければ。

 

(……私は何をやっているのだ?)

 

 優先順位を考えれば、レアを殺害してこの場を離脱すれば良いだけだ。ファラ・アシモフはそのままレアというエルフの身体を三千年間使っており、他の七柱のように本体と依り代を分けていない。そのため、あの老婆さえ死ねば自分の目標は達せられるのだ。

 

 先ほど自分でトドメを刺せなかったのはひとまず置いておくとしても、何ならレアに殺意を向けているテレジア・エンデ・レムリアに任せたって良いはずだ。

 

 そんな中、わざわざ仇敵の身を救い出し、あまつさえテレジア・エンデ・レムリアの攻撃を止めようと――エルフたちの被害を抑えようなどと考えてしまっている。王都を襲撃した時にアラン・スミスが龍から人の子を救っていたが、アレに感化されたのか。

 

(……余分なことを考えるな。今はすべきことに集中するんだ)

 

 頭を振って冷静さを取り戻し、改めて周囲を見回す。逃げ惑う人々の中の一部には弓を携えて迎撃に移る者も居るようだ。しかし、狙いが甘く多くははずれ、一部片翼の鳥に射線が合っている矢も彼女の放つ炎熱によって中空で燃え尽きていた。

 

 確かに飛ぶ鳥を落とすなら、確かに斧よりも弓矢の方が良さそうだ。矢よりも早く動けるこの身ならば、弓を射る必要など無いと思っていたが――ともかく、付近にいる一人のエルフの隣まで移動する。

 

「な、何だお前……アルフレッド……?」

「……貸せ!」

 

 こちらを見て驚きの表情を浮かべる一人の男から弓を強引に奪い、次いで矢筒も取って自分の肩にかける。そして加速装置を起動し、弓を引き矢を放ちながら移動し――スローモーションで飛んでいく矢を尻目に、テレジア・エンデ・レムリアの側面を狙える位置に一気に跳躍する。

 

 計十二本の矢を打ち終えて加速を切ると、僅かな時間差で矢が扇情にテレジアへ向かって飛んでいく。正面にあたる八本は炎に焼かれたが、側面を取るように放たれた四本は炎の壁を掻い潜って行き――だが、うち二本は外れ、残り二本は鎧に弾かれてしまった。

 

 しかし、鎧に弾かれたと言ってもロングボウの威力が強靭なおかげか、中空に浮かぶ乙女は呻き声をあげながらのけぞった。

 

「……あぁあああああ!!」

 

 咆哮と共に、テレジアの周りに炎の渦が生じる。側面からの攻撃にも備えるためだろう、生半可な攻撃のせいで向こうに警戒させる隙を与えてしまったようだった。

 

『……この機械の腕では、繊細な調整が効きにくいな』

『言い訳ですか? アナタの望んだ改造だったはずですが』

『すぐに慣れる……しかし、あの能力は一体何なんだ? テレジア・エンデ・レムリアには魔術の素養はなかったはずだが……』

『……にわかに信じがたいですが……彼女はグロリア……グロリア・アシモフのようです』

 

 空を飛ぶ女にどう対処したものかと考えているうちに、脳内にゲンブの声が響く。

 

『何を言っている? 奴はテレジア・エンデ・レムリアではないのか?』

『彼女の左腕を見てください……僅かにのぞく皮膚部分、あそこからグロリア・アシモフのDNAを検知しました。どうやら、腕を接合することで、私やホークウィンドのように人格の転写をしているよう。

 ですが……人格の結合が不完全なようで、テレジア・エンデ・レムリアの人格と混同しているようではありますがね』

『成程、それで最初は私を狙っていた訳だな……それで? グロリア・アシモフとは何者だ? ファラ・アシモフと同じ姓ということは……』

『アナタの考えていることは、半分正解で半分間違いです。グロリア・アシモフはファラ・アシモフの一人娘ですが……同時に、最後の四神である朱雀……つまり、私たち旧政府軍の一員であった者です』

『……スザクとやらに関しては聞き覚えがあるな』

『えぇ、最後の作戦行動中に作行方不明になっていたのですが……彼女の類まれなる能力が永久に失われることを惜しんだのか、身体の一部を保管して残しておいたのでしょう』

 

 なるほど、確かに飛行能力に炎を操る能力――詠唱せずに放出されているのを見るに、あれは魔術ではなく、魔王ブラッドベリのエネルギー衝撃波のような超能力の類だ。それらを同時に使えるとなれば、面も空間も制圧する能力は非常に高いと言える。それを有事の際に残しておいた、ということなのだろう。

 

『それで、あの超能力は……?』

『入手の経緯は別々だと聞いています。DAPAの一角、ARK社の超能力開発部門でパイロキネシスの能力を得て、飛行能力に関しては月のメガリスに触れて開眼したものだと』

 

 ちなみに、魔剣ファイアブランドで不完全な能力を補っているようです、とゲンブの考察が続いた。

 

『つまり、ファラ・アシモフは我が子で人体実験をしていたということか……だが、グロリアとやらがレアを狙った理由は? もちろん人体実験などされていたのだ、母親に感謝する筋合いもないとは思うが……』

『それに関しては少々事情は複雑なのですが……端的に言えば私たちと同じ、復讐のためですよ』

『確かに、先ほど凄まじい殺意をレアに向けていたな……それも実の母親に対して。一体、グロリアとやらは何を失ったんだ?』

『……原初の虎ですよ。鳥かごに捕らえられていた彼女を救い、彼女に自由の空を与えたのは他でもない原初の虎だったのです。

 旧世界において原初の虎を倒したのはファラ・アシモフではありません。が、グロリア・アシモフの燃え滾る殺意は、全てDAPAへと向いたのです。とくに自身に望まぬ能力開発を施し、その身を捕囚していた実の母親に対する恨みはかなり強い物でした』

『成程。自身が開発した強力な力に牙を向かれるとは、レアも皮肉だな』

『しかし、DAPAがそれだけ人道に反したことをしていた証拠です』

『私は、貴様らの所属していたという旧政府軍とやらのことも信用はしていないがな……原初の虎だって人体実験の産物だろうに。何なら、私は未だに貴様のことを信用してはいないぞ。同じ敵を討つために手を組んでいるだけに過ぎないのだからな』

『おっと、これは手厳しい……死にかけのアナタを拾って動けるようにまでしたのは私だというのに、よよよ……』

 

 あまりにもわざとらし過ぎる泣きまねに、反論する気力すら失せてしまう。実際の所はそれなりに彼のことは信用はしているのだが、先ほど言ったことも嘘ではない――伝え聞く旧世界とやらの顛末だって嘘だとも思ってないが、DAPAも旧政府軍とやらも、互いが互いを滅ぼすために手段を選ばずにえげつないことをしていたことには変わりないのだ。

 

 端的に言ってしまえば、自分達の戦いに大義などない。元々は人の身にあまる大いなる力を手に入れんと欲する欲深い者たちと、それを阻止するのに非人道的な行為に手を染めるのも躊躇のなかった連中の戦い――そして後者の残党に自分が加わり、今ここにあるのは復讐の炎だけなのだから。

 

『しかし、世界樹は思ったほどは燃えないのですね』

『あの中でエルフたちが生活しているからな。防火の結界が張られているし、何より世界樹は生きているのだ』

『なるほど、巨木をめぐる水分により、火が広がらないようになっているのですか』

『だが、このまま放置していては確かに世界樹を焼き尽くされるな……』

『……どうあっても、故郷は大切で?』

 

 脳内に響く男の声を無視して身を潜めていた茂みから立ち上がり、外套の内側から手斧を取り出して上空に向けて放り投げる。斧は闇夜でアーチを描き、宙を浮かぶテレジア・エンデ・レムリアの元へと接近し――その身を包む灼熱の炎により手斧は溶かされたが、同時に向こうの意識をこちらへ向けることには成功したようだった。

 

「お前……ファラ・アシモフをどこへやったの!?」

「貴様の相手は私だ……聞き分けのない小娘の躾をしてやる」

「お前は、T3……シンイチさんの仇……ファラ……うぁぁああああああああ!!」

 

 斧を投げて空いた手で手招きをすると、テレジア・エンデ・レムリアは遠方からこちらを見つめ――自身の中にある二つの殺意をどう発散すればいいのか困惑しているかのように頭を手で押さえながら振り、そして悲鳴をあげながら魔剣に炎を螺旋状に纏わせえた。

 

「死ねぇえええええええええええええ!!」

 

 テレジア・エンデ・レムリアが魔剣を振りかぶるのに合わせ、鞭状の焔がしなりこちらに襲い掛かる。木の枝を飛び移って躱したものの、元居た枝は――枝と言っても世界樹規格なので、優に直径で一メートルは超える太さがあるのだが――いとも簡単に切断された。

 

 反撃しようと移動しながら斧を投擲するが、やはり彼女の周りを覆う炎の壁に溶かされてしまう。どう対処したものか――考えているうちに、再びゲンブの声が頭に響きだす。

 

『しかし、何故今更になって……見たところ制御不能が出来ていない戦力を投下するとは。七柱は……アルファルドは一体何を考えているのでしょう? 私なら、グロリアの人格が全く出てこないようにしてから投下しますが……』

『私の知ったことか。本人に聞け』

『というか、何ならアシモフを倒す絶好のチャンスです。アナタは身を隠して誘導し、娘に母を討たせてはどうでしょう? 復讐も済んで彼女の気も晴れるでしょうし』

『それは許容できん。レアを殺すのは私だ』

 

 けん制がてらに再び斧を投擲するが、やはり炎の壁の前に溶かされてしまう。仮に接近できたとしても、今のままでは攻撃を通すのは不可能――アレの壁を超えるには、物理攻撃より魔術的な――あの炎を超えるだけのエネルギーの照射が必要になるだろう。

 

『はぁ……それで先ほどレアを助けたというのですか? 更に、グロリアをどうするつもりですか? 飛行する敵は、ADAMsの最大の敵と言っていい。

 それに、出来れば彼女も仲間に引き込みたいです……テレジア・エンデ・レムリアは素体としてグロリアに合っていないようなので、ひとまずあの腕だけでも回収したい』

『……そんな余裕があればだがな』

 

 レアの身を救い出し、火の鳥を引き受けてしまったのはまったく自分の勝手なのだが――しかし、現状では防戦一方だ。テレジアの体を生け捕りにするどころか、本気で対処して自分の身すら守れるかどうか危うい。ADAMsを使えば容易に相手の攻撃は避けられるが、音速を超えるのに負荷が掛かるのは間違いないので、逃げ回っているだけではいずれこちらにも限界がくるからだ。

 

 だが、自分が加速するのに負荷が掛かるように、相手も何某かの負荷が掛かっている可能性はある――その隙を狙えばなんとかなるかもしれない。

 

『ゲンブ、奴の能力は無限か?』

『結論から言えば有限です。電気などの分かりやすいエネルギーは使用しませんので、そう言う意味では無限に近いですが……パイロキネシスにも空中浮遊にも集中力を必要とするのに対し、精神力は戦う時間に比例して消耗しています。そういう意味では、時間稼ぎさえすればおのずと勝機も見えるかもしれませんが……』

『具体的にはどれくらいの時間を耐えればいい?』

『グロリア本人は継続して一時間は戦えました。不完全な人格投射で精神力は万全とは言えないでしょうが……』

『仮に三十分だとしても、このまま暴れられたら世界樹が持たんな』

 

 そうなれば、やはりなんとか撃墜しなければならないか。そう思いながら炎を避けるため移動していると、自分の肩の辺りに長方形のモニターが浮かび上がり、自分を追従してくる――そこに写っているのはエルフの老婆、レアだった。

 

「……アルフレッド」

「T3だ……それで、何の用だ?」

「祭壇の封印を解きます。精霊弓を使ってください」

「なんだと? だが、もはや私に精霊の加護は……」

「生体チップを取り除いた今のアナタは、精霊魔法を授けることはできませんが……精霊弓の使用は可能です。厳かなのは名前だけで、その実態は携行式弓型波動砲……セーフティはアナタのDNAに合わせて外してあるので、問題なく使用できます」

「……良いのか?」

 

 敵である自分に強力な兵器を手渡すことになるだけでなく、こちらに授けようとしているのは自身の娘を容易に殺傷できるほどの武器だ。それを渡すというのはどんな気持ちなのか――モニターを眺めていると、老婆は伏し目がちに首を振った。

 

「いいのです……あそこに居るのは一万年前の亡霊、私の娘は既に死んでいるのですから」

「……そうやって、貴様は過去から眼を背け続けるのだな」

 

 レアの言葉に気持ちがカッとなり、思わずそう呟いてしまう。彼女がこの大地に生きる者たちのことを愛しているというのは、恐らく嘘ではない。まだこの森に自分が居た時に見たレア神は、慈愛に満ちたまがうことなき女神であったと思う。

 

 しかしそれは、結局彼女の一面に過ぎない。女神にしてエルフの長であるレアではなく、彼女の持つファラ・アシモフという側面は、母親であるという事実から逃げ続けている――この大地に産み落とした者たちは愛せても、この女は自分が腹を痛めて産んだ子供だけは恐ろしいのだ。

 

 そう思うと、思わず毒を吐かずには居られなかった。一方で全てを包み込むような愛情を見せていながら、たった一人だけから目を背けているという矛盾が我ながら許せなかったのか――いや、柄にもなくグロリアという少女に同情したのかもしれない。自分がグロリアの立場であったとすれば、きっとこの女のことを許せないと思ったから。

 

「……精霊弓は使わせてもらう……そしてあの鳥は堕とす。だが、命までは取らん。貴様には娘に対して謝罪させてやるまで、互いに生き延びてもらわなければならん」

 

 自分の宣誓に対し、レアは眉をひそませるだけで押し黙ってしまった。代わりに、脳内に胡散臭い男の声が響きだす。

 

『その原理で言えば、アナタはテレジア・エンデ・レムリアに謝罪をしないといけませんよ? 何せ、愛する者を奪ったのですから』

『謝って済む様な問題ではない』

『それなら、ファラ・アシモフも同様ですねぇ』

『良いんだ……私は親子の仲裁をしようと思っているのではない。七柱を出来る限り苦しめた上で殺してやろうと思っているだけなのだからな』

『ひぃ、趣味が悪い』

『貴様ほどではない』

『ははは、誉め言葉として受け取っておきますよ……それで? その精霊弓とはどこにあるのですか?』

 

 ゲンブの言葉に、モニターから眼を放して上を見る――その先にはなお鬱蒼と茂る世界樹の葉で出来た巨大な屋根がある。

 

『世界樹の最上部……枝葉の上に浮かぶ祭壇、そこにエルフの秘宝である精霊弓エルヴンボウは封印されている』

『なるほど……アナタがそこにたどり着くまでは、彼に時間を稼いでもらいましょう』

 

 まぁ、彼が片づけてしまうかもしれませんがね――そう付け足された瞬間、世界樹の下から何かが凄まじい勢いでほとんど垂直な木の幹を走って昇ってくるのが見えた。

 

 こちらに近い高さまで来ると、駆けあがって来た巨体は幹を蹴ってこちらへと跳躍し、自分の隣へと並んで太い腕を組んだ。

 

「セイリュウ・ホークウィンド……推参!」

 

 新たに現れた巨漢に驚いたのか、テレジアはしばし驚いたようにホークウィンドの方を見つめた。しかし、何か思うところがあったのか――すぐに目を細め、黒装束をじっと見つめだした。

 

「ホーク、ウィンド……忍者を自称する、変な男……」

「一万年の時を超えて覚えていてもらえて嬉しいぞ、グロリア……だが落ち着け。お主が振り上げた拳を下ろせば話は早い。私は無用な殺生は好まない……武器を収めてこちらへ来るんだ」

 

 そうだ、元々仲間の彼が説得をするのが早いかもしれない。幸い、グロリアは姿形は変われどもニンジャとやらの技で旧知と理解してくれたようだ。テレジアの中に存在するグロリアという少女は黒装束を見つめ――だが、その視線が僅かにこちらを見た瞬間、また手を当てて頭を大きく振り出した。

 

「うぅ……T3……ホークウィンド……邪神の手先……!!」

 

 どうやらテレジア・エンデ・レムリアとグロリアの意識が混在しているせいで、彼女は――正確には彼女らか――誰が敵か味方も判別出来なくなっているらしい。そして少女の様態を見て、ホークウィンドは小さくかぶりを振った。

 

「ダメか……T3、状況はゲンブから共有されている。この場は私に任せてお前は精霊弓とやらを取りに行くがいい」

「あぁ、任せた」

 

 忍装束と共に頷き合い、自分は奥歯を噛んで世界樹の頂点を目指すべく移動を始めたのだった。

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