B&T~記憶喪失の転生者、伝説級の暗殺術で異世界ディストピアをぶっ壊す~   作:五島七夫

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草原での雑談

 グレンたちの根城を離れて南大陸を更に西へと進む。数日もすると渓谷を抜けると視界が拓け、どこまでも続く草原が広がる景色に変わった。川を降っていけばそのまま目的地である世界樹付近までたどり着けるらしいのだが、まだ道は遠いようだ。

 

 現状、気温はレムリア大陸にいる頃よりは大分高いものの、砂漠ほど日差しが強い訳でもなく、同時に多湿というほどでもない。そのため、エルたちも以前のようにダウンせず、元気に活動している――ちょうど今など魔獣たちを倒している所だ。

 

「いやぁ、今日も平和ですねぇ」

「そうだな……いやそうか?」

 

 ナナコは自分の隣でのほほんとしているが、戦闘が行われているのに平和もないだろう。ただ、ガングヘイムを発ってから何度も見た光景ではあるので、魔獣との戦闘が常態化しており、もはや魔獣と少女たちとの戦闘が日常の風景と感じてしまう気持ちは分からなくもない。

 

「いや、アランさんの言うことも分かりますよ? とはいえ、お三人方がとっても強いですし、アランさんがしっかり敵の気配を察知してますから、強襲されることもありませんし……うぐ、そう考えると私って本当に何にもしてないなぁ……」

 

 ナナコはその背丈に対してアンバランスな大荷物を背負いながらぐったりとうなだれた。

 

「いや、山盛りの荷物を持ってもらってるから大分ありがたいんだがなぁ」

「そうは言いますが、他の方と比べたら格段に危ないことはありませんし、実際にこれくらいは軽い物です。私からしてみるとたいしたことはしてないんですよねぇ……多分、アランさんも同じだと思いますよ?」

「うん? どういうことだ?」

「アランさんは索敵を本能的にできちゃうからたいしたことをしてないって思ってるかもしれませんが、実際はみんな大助かりというか。

 たとえば、ここみたいに草の背が高い場所だと敵がどこに潜んでいるか分かりませんから、アランさんが居るだけでみんな神経を大分すり減らさないで進めますし」

「なるほど、自分ではたいしたことないと思ってることが、意外と周りには役に立ってるってことだな」

「そうそう! 私が言いたいのはそういうことです! いやぁ、私たちって意外と似た者同士かも……」

 

 ナナコは嬉しそうにぴょんぴょんしながら髪を跳ねさせていたが、途中でハッとした表情になり口元を両手でふさいだ。

 

「おっと、私はアランさんとはあんまり仲良くしちゃいけないんでした!」

「え、俺と友好関係を結ぶのに誰かの許可がいるの?」

「あ、えと、そのぉ……別に誰かの許可とかないですよ!? 自分の意志です!」

「えぇ……? 自分の意志で仲良くしちゃいけないとか思われているのは、それはそれでショックなんだが?」

「え、えとえとえと! 私としてもアランさんと仲良くしたい気持ちはあるのですが、ちょっと優先順位があると言いますか……!」

 

 口元を抑えていた手を離し、ナナコはぶんぶんと振りだした。そこでちょうど戦闘が終わったようで、エルたちが草原の奥から引き上げてきた。

 

「おつ……」

「皆さん、お疲れ様でした!!」

 

 元気な声でナナコが労いの言葉を掛けたので、自分の労いの言葉は声量で押し負けてしまった。とくにナナコはレバーを操作して魔術弾を排莢しているソフィアの方へと向かって行った。

 

「わっ……ナナコ?」

「ソフィア、お疲れ様!」

「……うん、ありがとうナナコ」

 

 こちらからだとナナコの髪と荷物でソフィアの表情は見えないが、声はかなり柔らかかった。

 

「……文字通り、雨降って地固まるってやつかしらね」

 

 エルが自分の横に並び、微笑みながら少女二人の方を眺めている。エルの言う通り、先日の雨の日にナナコがソフィアを救った後から、二人の距離感は近づいたように見える。

 

「そうですねぇ、アラン君が気絶してたおかげでしょうか?」

 

 エルの反対側、自分を挟むようにクラウが並んだ。それに対し、エルはため息を吐きながら眉間に指を当てた。

 

「あのねぇクラウ……そもそもコイツが気絶して無ければ、危険もなかったでしょうに」

「それは確かに……でもまぁ、ソフィアちゃんはピリピリしているより笑っていてほしいですし、ナナコちゃんも悪い子じゃありませんから……二人の距離が縮まって良かったです」

 

 確かに、クラウの言う通りだ。自分もあの二人が打ち解けてくれて良かったと思う。しかしはて、自分は何故に気絶などしていたのだろうか――その原因を思い出していると――。

 

「口の中にあの味が戻ってきた……」

「あ、あはは……料理に対するやる気は買いますけど、しばらくあの子に料理をやらせるのはやめておきましょうか……」

 

 普段は悪ふざけをするクラウも流石にこちらのトラウマを変にほじくり返すのはマズいと思ったのか、なんだかいつも以上に優しかった。

 

 日が沈む前に拓けた場所に陣取り――どの道身を完全に隠せるような入り組んだ場所もないので視認性の良い場所を選んだ。野営の準備を始め、自分は薪を集めるために散策に乗り出した。

 

 そして、自分の散策の背後に一つの気配が着いて来ている――その正体は分かっている、ナナコだ。

 

「俺と仲良くしちゃダメなんじゃなかったのか?」

「それはそのぉ、先ほども言ったように色々と事情がありまして……!」

「その事情とやらを教えてほしいんだがな?」

「そ、それは言えないんです……」

「でもそれじゃあ、俺もどうナナコと接すればいいか分からんしなぁ」

 

 別にナナコのことを悪く思っているわけでもない。むしろ、彼女の表裏のなさや人の良さから察するに、悪意を持っている訳でないのは分かっている。とはいえ、どう接すればいいか分からないのは事実だし、何よりあまりに素直すぎて、少々意地悪がしたくなるのも正直な所だ。

 

 事実、振り返ると、少女は少々涙目になりながら一生懸命にこちらへ着いてきていた。

 

「その、意地悪しないで連れて行ってくださーい! さもないと、お仕事が無くて申し訳なくなっちゃうんです……!」

「ふぅ……分かった分かった。意地悪して悪かったな、ナナコ」

 

 こちらが謝罪をすると、ナナコは表情をぱぁっと明るくして、また髪をぶんぶんと振りながら小走りに近づいてきた。今にして思えば、こう単純で素直な子は周りにいなかったから新鮮でもある――ソフィアたちも優しく良い子たちなのではあるが、皆一様に一癖二癖あるので、ナナコのように感情をストレートに出してくれる子は自分にとっては接しやすくもある。

 

 さて、仕事を果たさねば。この辺りは木も多くないから、薪を探しには時間が掛かる――辺りを見回していると、仕事を手伝うために着いてきていたはずのナナコは、そのくりくりした瞳で地面の代わりにこちらを見ているようだった。

 

「あのあの、アランさん! アランさんって、好きな人っています?」

「どうした、藪から棒に」

「ヤブラカボウ……? デクノボウの親戚ですかね?」

「やぶからぼう、突然にって意味だ。ちなにみ木偶の坊は役立たずで気が利かないって意味な」

「あぁ、なるほどぉ! なんだか聞き覚えのある言葉ではあったんですが、そういう意味だったんですね!」

「良かったな、一つ賢くなって」

「はい!」

「それじゃあ、薪になる枯れ木を探してくれ」

「了解です!!」

 

 ビシィ、と音が聞こえそうなほど勢いよく敬礼のポーズをとり、ナナコも薪を探し始めた。少しの間、まばらに生える木々の周辺で薪を探していると、ナナコは腕に枯れた枝を何本か抱えながらこちらに走ってきた。

 

「……って、はぐらかさないでくださいよ!」

「いや、はぐらかしたつもりもないんだが……薪を探しながらだって会話は出来るだろう? ちょうどそんな感じに」

「はっ、それは確かに……!」

 

 腕に抱える薪を指さすと、ナナコはハッとしたような表情を浮かべる。そして今度は近めの距離で、互いに薪を拾いながら会話を続けることにした。

 

「それで、アランさんって好きな人は居ないんですか?」

「だからどうしたんだ、藪から棒に」

「ヤブラカボウじゃありませんよ! あんな美人達や可愛い子に囲まれてるんですから、誰か好きになってもおかしくはないじゃないですか?」

「そうだなぁ、ナナコも可愛いしな」

「わ、わ、わ!? そ、そういうのは結構です! 間に合ってますので!」

「間に合ってるのか!?」

 

 まさか間に合っているとは。そもそも、彼女は元々ゲンブたちと一緒にいたはずだから、出来ているとするならT3辺りか。そう思うと、アイツを見る目が変わってしまう。

 

 最低でも三百歳を超えるはずのT3が、見た目で言えば幼いナナコと出来ているとなったら、もうそれはロではじまってリに繋がり、コンで終わるアレだ――いや、冷静に考えればナナコは記憶喪失なのだから、特に深い意味もないのかもしれない。

 

「……とはいえ、初めてあった時も一緒にいたみたいだし、うぅむ……」

「もう、アランさんはすぐに話を脱線させますね!?」

 

 気が付くと、ナナコが准将殿よろしくに頬を膨らませてこちらを見ている。

 

「ナナコには負けるさ」

「むぅ……! なんだか、皆さんがアランさんに対してむくれちゃう気持ちが分かったかも……!」

 

 思い返すと、ソフィアはよく頬を膨らませているし、クラウも「もう」と言いながら怒っている顔が容易に浮かぶし、エルにもため息をつかせている――そうなると、ぜひむくらせてしまう理由を問いただしてみたいが、こちらが質問するよりも早くナナコが指をピン、と立てて先手を取ってきた。

 

「もう一回、もう一回聞きますよ? もうはぐらかさないでくださいね? ちなみにはぐらかしてるつもりも無いとか言わないでくださいよ?」

「そうだなぁ……ダンにも同じようなことを聞かれたが、特に異性として好きってのは無いな。あの子たちのことは仲間だと思っているし、大切に想っているつもりもあるが……妹みたいに思ってる感じだ」

「えぇ、そうなんですか? エルさんとクラウさんなんか、凄い大人じゃないですか?」

「ナナコから見たらそうなのかもしれないが……いや、俺から見ても落ち着いていると思うよ。とくにエルなんかは、そうだな、妹なんて言ったら失礼かもしれない」

 

 実際、エルなんかは見た目も雰囲気も落ち着いているし、妹と言うには違和感もある。しかし同時に、彼女も少々だらしないところなどがあって隙もあるし、ステラ院長の見立てやべスターの証言を聞く限りでは一世代分は自分より彼女の方が年下になるので、年下というか妹的に感じてしまう部分はあるのかもしれない。

 

 そんな風に考察していると、目の前でナナコがなんだか一人で納得したようにうんうんと頷いているのが見えた。

 

「うぅん、そうですねぇ。私、アランさんのことを近所のお兄さんって感じに思ってるんですけど」

「なんだか唐突な告白だなぁ。なんだ、近所のお兄さんって」

「親しみやすいって感じのことですよ! でも実際、なんとなくアランさんってお兄ちゃん気質ですよね。面倒見が良いというか、良い感じに隙があると言いますか。その隙のおかげで親しみがあるんですよねぇ。

 実際、妹さんがいるんじゃないですか? 年下の女性の扱い方、上手いと思いますし」

「なるほど……なるほど?」

 

 分かるような感じがして一瞬納得しかけるが、冷静に考えるとナナコの理論は同時によく分からないような気もして思わず聞き返してしまった。

 

 とはいえ、実際に妹が居たと言われたことに関しては、なんだか妙にしっくりくる。そもそも、自分が彼女たちを妹みたいに思っていると思ったのも、元々自分に妹が居て、その感じを彼女たちに重ね合わせていたのかもしれない。

 

「……そう言えば、ナナコも、記憶を失う前のセブンスも、俺とどこかで会ったような気がするって言ってたな。もしかしたら、ナナコの近所に住んで居たお兄さんに俺が似ているのかもしれないな」

「なるほど、そういう感じかもしれません! だから私も、自然と近所のお兄さんって言葉が出てきたのかも?」

「むしろ、実はナナコは本当に俺の家の近所に住む子だったのかもしれないな」

「そうだったら素敵ですねぇ。でも、お互いに記憶がありませんから……」

「真実は闇の中、だなぁ」

 

 そう、かなり低い可能性だが、あり得なくはない話だとも思う。今でこそ白に近い銀髪というなかなかお目にかかれない髪色をしているが、ナナコという名前が本人にとってしっくり来ていること、また瞳の色などを見れば、自分とナナコは同郷のように感じられるのだ。

 

 もちろん、同郷としても国単位で見れば何千万という人口が居た訳だし、同じ国の中というだけでも近くに住んで居た、などという可能性は低いのだが――しかし、少ししてその僅かな可能性すら無かったと思い直すことになった。

 

 というのも、仮に彼女がナナセ・ユメノのクローンだとして、その少女も恐らくだが七柱に造られた存在と考えるのが自然だからだ。対して自分は、べスターやレム、ゲンブの言葉を聞く限り、確かに旧世界に存在していた――そう思うと、自分とナナコが同じ時代、同じ場所に存在するのは、きっと今が初めてなのだ。

 

 ナナコはこちらが何を考えているなど露にも知らぬ様子で、満面の笑みを浮かべながらこちらを見ていた。

 

「それじゃあ親しみを込めて、今度からアランさんのことをお兄ちゃんって呼んでいいですか?」

「何がそれじゃあなのかは良く分からないが……」

「えぇ、呼んだらダメですか? なんというか、ソフィアと呼び方が被ってちょっと惜しいなぁって思ってたんですよ」

「そこに関して惜しいという感性が生じる君の脳内構造を理解できないんだが……まぁ、別に好きに呼んでくれて構わないぞ」

「それじゃあ、えへへぇ……お兄ちゃん!」

 

 小首を傾げ、満面の笑みでこちらを見上げてくる銀髪美少女。その子が自分に向かって、自分だけに対して、お兄ちゃんと呼んでくれている――これが和を以て貴しとなす精神、人間の根源にある真理、つまり――。

 

「……強い!」

「えぇ!? 私のお兄ちゃん、強かったです!?」

「あぁ、大分効いた……だが……」

「だが?」

「絶妙にしっくりこない……」

 

 危うく自分もロで始まってコンで終わる奴になりかけるほどの衝撃が走ったが、実際に自分の胸中に浮かび上がってきたのは違和感だった。胸はきゅんきゅん、心はぴょんぴょんしたのだが、なんだか少し違うような気がして、心の奥底から美少女のお兄ちゃんを受け入れられない自分が居るのだ。

 

「ふぅ……それじゃあ、今まで通りにアランさんって呼ぶことにしますね? しっくりこないのに呼び続けるのも変ですし」

「そうだな。やっぱり血縁関係がないのにお兄ちゃんって呼ばせるのは事案っぽいしな」

「じあ……?」

「いや、大丈夫、こっちの話だ……さて、薪も集まってきたな。そろそろ戻るか?」

「はい、そうですね……あ! また結局脱線しちゃいましたけど……それで結局、とくに好きな人は居ないってことで良いんですか?」

「あぁ、そうだな」

「なるほどぉ、了解です!」

 

 ナナコは両腕にたくさん薪を抱えたまま、キリッとした顔で応えてきた。

 

 野営地に戻ったあと、ナナコとソフィアは二人で固まってなんだか楽しそうに談笑をしていた。いや、正確にはナナコがグイグイいっているだけのようにも見えたが、所々ソフィアも満更ではなさそうな顔をしていたのできっと仲良くなっているに違いない。

 

 だが翌日、クラウとエルに「良い趣味してますね?」だの「不潔」だのなじられてしまった事に関しては、冤罪だと声高にして叫びたかった。

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