B&T~記憶喪失の転生者、伝説級の暗殺術で異世界ディストピアをぶっ壊す~   作:五島七夫

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世界樹への旅路

 サバナ気候の草原を数日進むと、また段々と気温が上がって来るのと同時に湿度も増してき――それにあわせて、周囲に生息する植物も段々と温帯、熱帯の物へと変化していった。

 

 何より、晴れた日には遠景に伸びる一本の柱のようなモノが徐々に近づいてくるのが印象的だった。以前にも、海と月の塔という天を衝く塔を見たのだが、今度のモノもそれに近い――それは宇宙まで伸びるほどの高さではないものの、代わりに太く、同時に大きく枝葉を伸ばしているので、その存在感は海都で見た蒼の塔よりも更に上と言える。

 

「……アレが世界樹か?」

「うん。私も初めて見たからあまり偉そうなことは言えないけれど……女神レアが育てた、大きく高く天まで伸びた一本の苗木。熱帯雨林の中央にそびえたつあの巨木こそが、エルフたちの住む世界樹ユグドラシルだね」

「へぇ……しかしこんな暑い所で生活しているなら、エルフってのは存外色黒なのか?」

 

 エルフというと、色白というイメージがある――以前見たT3は病的に白かったと記憶しているが、なんだかこんな熱帯に居て肌が白いのも違和感がある。自分の質問に対しては、先ほど答えたソフィアに変わり、今度はクラウが口を開いた。

 

「それはどうでしょう、エルフの中にも色々と種族があると聞きますし、中には褐色肌の方も見たことはありますが……とはいえ、見てきたエルフの多くは色白だったと思います」

「ふぅん。エルフはエルフでも色々種類が居るのか?」

「はい。森にすむ通常のエルフの他に、褐色肌のダークエルフや、レムリアの民との間に生まれたハーフエルフなども居ますが……一番の区別は、ハイエルフかそれ以外か、と言ったところでしょうか」

「ハイエルフ……偉そうな名前だな」

 

 前世のファンタジー的な知識の中にハイエルフなんて名前もあったような気がするが、まさかこの世界にも存在しているとは思わなかった。それくらい何の気なしに呟いたのだが、クラウは「もう!」と叫び、すぐに人差し指を立てた。

 

「偉そうなんじゃなくて実際偉いんですよ! ハイエルフは大地の神であるレアを筆頭として、この星に神々が移り住んできたときに七柱の創造神に追従した者たちであると聞きます。そのため、女神レアやその他の七柱に近い神格を持つ、由緒正しき存在なのです」

「なるほどね」

 

 言われるまでは疑問に思っていた訳ではないが、クラウに説明されると同時に一つの仮説が自分の中に浮上した。それは、七柱以外のDAPAの職員たちが恐らくハイエルフとしてこの星に生き延びている、というものだ。

 

 冷静に考えれば、この星に来るのに七人ではきつかったはずだ。もちろん、コンピューターや他のアンドロイド達の助力があれば不可能でも無かったのだろうが、元々組織として存在していたDAPAがたったの七人ぽっちになってしまったというのも違和感がある。

 

 そこで、残りの職員たちはハイエルフとしてこの世界に残り続けていると考えれば疑問は払しょくできる。もしかすると一部の職員はドワーフになっていたのかもしれないし、また別のモノに扮していたり、眠り続けていたりするのかもしれないが――七柱というのは特に彼らの代表者というのであって、旧世界からの生き残りはまだ複数人いるのかもしれない。

 

 もっとも、これらは自分の推測であって、ハイエルフとやらはただ単にレアが最初に作ったエルフというだけなのかもしれないし、真相はレア本人にでも聞いてみなければ分からないだろう。

 

「……しかし、なんだか世界樹の上の方、違和感がないか?」

 

 そう、先ほどから眺め見ている巨木の先端が、なんだか妙にアンバランスになっているように見える。クラウも目を細めて自分が見ている先を注視したようだが、恐らく見えなかったのだろう、ため息を吐きながら首を振った。

 

「アラン君基準で話題を振らないでくださいよ。まだまだ距離があるのに、そんな正確に視認できるわけないじゃないですか」

「……私も、ちょっと違和感がありますねぇ」

 

 いつの間にかナナコが横に並び、目を細めながら世界樹を見つめていた。

 

「お、ナナコには見えるか?」

「はい。所々枝葉が剥げて、なんならちょっと煙も上がっているような……」

「おいおい、まさかの火事か? 穏やかじゃないな……」

 

 ここから見えるほどの火事ならば、結構な規模の火事なのかもしれない――そう思うのといやな予感が脳裏に走るのと同時に、ソフィアもハッとした表情になってこちらを見上げてきた。

 

「……アランさん、もしかしたら!?」

「あぁ、まさかゲンブたちに襲撃されたのか!?」

 

 それなら、一刻でも早く世界樹に駆け付けなければ。走り始めようとするのと同時に誰かに肩を掴まれる。振り返ってみると、エルが自分の肩を掴んでいた。

 

「ちょっと落ち着きなさい。走ってすらどれくらいかかる距離だと思っているの? 世界樹が巨大だからここからでも見えるだけで、まだ徒歩にしたら数日掛かる距離でしょう」

「いや、しかし……」

「ちなみに、アナタだけ加速していくっていうのは無しよ? 噂の変身とやらをすれば十分の間、それを瞬間移動と見紛う速度で進めるのだから、アナタだけは確かにすぐにたどり着けるかもしれないけれど……一人で行かせて無茶させるわけには行かないわ」

 

 言われるまで普通に走り始めようとしていたのだが、確かにADAMsを使えば自分だけならすぐに到着できるだろう。とはいえ、自分だけ向かったとすると少女たちとはぐれてしまう可能性もあるし――この場に待ってもらうとしてもこのだだっ広い平原の中に戻ってこれる確証はない。

 

 何より、エルが加速装置を使うことを仄めかしたせいか、ソフィアも真摯な表情でこちらを見ている。その眼が行かないでほしいと強く訴えかけているので、さすがに自分だけ行くとも言い難い――そんな風に思っていると、クラウが瞳の上に手を添え、目を凝らしながら口を開く。

 

「それに、煙が上がっている程度なら……やっぱり、私には全然見えませんが……もう襲撃は終わってしまったんじゃないでしょうか? もちろん、素早く到着するに越したことはないでしょうから、急いでいくこと自体には賛成ですけれど」

「うぅん、そうだな……エル、どれくらいの距離になりそうか分かるか?」

 

 尋ねると、エルは地図を取り出して視線を落とす。そして周囲を見渡し――恐らく地図上の目印になるような所を探しているのだろう、周囲にある山の様子などを一通り見てから再び地図に視線を戻した。

 

「普通に歩いて行ったら、まだ一週間って距離ね。ただ、急いでいけば二、三日は縮められるでしょう」

「ただ、世界樹を取り囲むジャングルがあるから、踏破するのが厳しいかも……」

 

 エルが言葉を切った瞬間、ソフィアがぽつりとつぶやく。実際ソフィアの言う通り、熱帯雨林を超えるのは楽ではなさそうだ。森を歩くのも大変な上、前世的な感覚から言っても熱帯雨林には危険な生物が多い――原生生物が巨大化している惑星レムでは、ただでさえ危険なジャングルの踏破はより危険なものになるだろう。

 

「……そうなると、結局差し引き一週間って所か」

「そうですね……とはいえ、あそこで野宿も大変そうですが……」

 

 クラウが指さした方向には、辺り一面の緑、それも草木でなく多い茂った森が広がっている。確かに、そもそも熱帯雨林で野宿など出来ないかもしれない。あの中を知り尽くしている者が――せめて少しでも安全な道を知る者が居るのなら別だろうが、そもそも道順が分からなければあの森の中で右往左往する危険性すらある。

 

「それじゃあ、急がば回れだよ。当初の予定通りに川のある所まで下って、ジャングルに近づいて船着き場まで行こう。そうすれば、エルフに世界樹まで案内してもらえるはずだから……クラウさんの言う通り、もう襲撃は終わってるんだと思う。レア神の安否や、世界樹に住むエルフたちも心配だけれど、急ぎつつ慎重に進んでいこう?」

「……あぁ、そうだな」

 

 ソフィアの提案に頷きつつ、改めて遥かに臨む世界樹を見つめる――アレをやったのがゲンブたちであるのなら、やはり彼らと手を組むことは憚られる。勝つために手段は選ばないのも一つの正解であるのだろうし、七柱とこの星に眠る第五世代型アンドロイドを一斉に敵に回すのなら綺麗ごとを言っていられない部分もあるのも納得は出来るが、それでもあの大木にも罪のない多くのエルフたちが住んで居るはずなのだ。

 

 もちろん、何か別の理由で煙が上がっているだけかもしれないが――ともかく、見晴台を下って道を急ぐことにする。その後は一日多めに行軍し、そのまま翌々日の午前にはエルフの船着き場へと到着することができた。

 

 船着き場にいるエルフたちは自分たちを歓迎してくれた。普段は人里離れ、レムリアの民と距離を取って生活している彼らだが、自分たちが十人目の勇者であることを知らせるとすぐに事情を教えてくれた。

 

 曰く、古の神々の襲撃があったのが四日前で、世界樹の上層で激しい戦闘が行われたこと。同時にレアは人質にとられ、戦闘をしたアガタとテレサも同時に連れていかれたとのことだった。

 

「……テレサ様、来てたんだね」

「ソフィア、テレサ様って誰?」

 

 熱帯雨林を蛇行する川の上、船上でソフィアがぽつりと呟いたのに対し、その隣でジャングルを見ていたナナコが質問した。

 

「テレサ様は、レムリア王国のお姫様なんだけれど……先代勇者であるシンイチさんを失ってから引きこもっていたから、まさか邪神討伐に参加されているとは思わなかったなぁって」

「う、うぅん? お姫様が戦場に立つっていうのも違和感があるんだけれど……」

「えっと、そうだね。その辺りの説明もしないと分からないかな」

 

 ソフィアが今までの状況、とくにテレサを筆頭に旧勇者のパーティーについてと、王都襲撃についてをナナコに説明しだした。この辺りはソフィアは容赦が無いタイプというか、かつてセブンスと名乗っていたナナコが王都を襲撃し、同時に時計塔を吹き飛ばし、学長ウイルドを亡き者にしたことまでを説明した。

 

「……そっか、私はそんな酷いことをしてしまったんだね」

 

 話が終わると、ナナコは川の流れを見ながらそう呟いた。ソフィアから話を聞いている途中から目に見えて気落ちしていたし――自分も彼女と近い経験をしたからわかる。記憶を失う前の自分が人殺しであったという事実を突きつけられる時の動揺というものが。

 

 記憶が無いせいで他人事のように感ぜられつつ、同時に記憶を失う前の自分が非道な人間であったのではないかという恐怖に、記憶が戻った時に残酷な衝動が戻ってくるのではないかという不安――そして何より、人の命を奪うという、取り返しのつかない過ちを犯してしまっているという絶望感。そういった感情が、今の彼女に――自分よりも余程幼い彼女の胸に去来していると思うとやるせないものがある。

 

「ナナコ、大丈夫か?」

「えへへ、はい、大丈夫ですよ。むしろ、ソフィアたちが私のことをえらく警戒していた理由も、今更ながらに納得できました」

 

 ナナコはそう言いながら気丈に笑った。彼女の幼い顔は無気力に見えつつも、どこか芯の強さも感じる。大丈夫というのは嘘ではなく、すでにある程度の心の整理を済ませているのかもしれない。そうなったら、自分よりもナナコは精神的に強いと言えるかもしれない。

 

「……ナナコも操られていただけだから。責任能力は無かった訳だし、裁判をしても無罪にはなると思う」

 

 ソフィアも言い過ぎたと反省したのか、珍しくナナコに優しい言葉をかけている――いや、裁判云々は気持ちに寄り添っているわけではないし、優しいというのも少々違うかもしれないが。

 

 ナナコも自分と同じ考えなのか、ソフィアに対して苦笑いを返した。

 

「えぇと、そういう問題じゃない気が? いくら操られていたとしても、私が危険な存在ってことは変わりないわけだし、裁判で許されるのも違うと思う。むしろ、私がしなければならないのは償いだよ」

「……記憶が無かったことに対して、責任を持つの?」

「あはは、うん……逆に記憶が無いから実感が無くて、こんな風に軽々しく言っちゃうだけかもしれないけれど。でも、一つだけ確かなことがある……それは、この世界に重大な危機が迫っていて、多くの罪のない人が巻き込まれてしまっているということ」

 

 銀髪の少女は再び水の流れに視線を戻す。しかし、先ほどは物憂げに見つめていたのに対し、今度は考え事をするように口元に手を当てながらじっと水面を眺めている。

 

「でも、どうしてゲンブさん達は七柱の創造神たちと戦っているんだろう?」

「それは、復讐のためって言ってたけれど……」

「逆を言えば、七柱の創造神たちも、古の神々に酷いことをしたってことだよね?」

「う、うぅん、それは……」

「それに、アルフレッド・セオメイル……その人は、元々勇者と一緒にいたのに、ゲンブさん達に加担してる。

 もちろん、そのアルフレッドさんがエルさんのお父さんやシンイチさんって人を殺したことが許されるわけじゃないけれど……元々は世界平和のために戦った人が、今は世界を混乱させる側に加担している。それには、きっと事情があるんだと思う」

 

 ナナコはそこで言葉を切って、自分とソフィアの方を見つめてきた。

 

「だからきっと、私は知らなくちゃならないんだ。自分がなぜ、セブンスと名乗ってゲンブさん達に加担していたのか……そしてなぜ、神々が争っているのか、その理由を」

 

 そういう少女の顔には、どこか強い意志を秘めた笑顔が浮かんでいる――七柱の創造神に造られた存在でないおかげが、ナナコはこの世界の在り方を客観的に観れているようだ。それはある意味、自分にとっては味方が出来たような心地がして、なんだか心強い。

 

 しかし実際、ソフィアから話を聞いただけでここまでの心境に至るとは、ナナコは自分が思っている以上にしっかりしているのかもしれない。正確には邪念がない分、思考が単純というべきなのかもしれないが。

 

「……もし、事情が分かったとして。もし七柱の創造神が間違えているってなったら、ナナコはどうするつもりなの?」

 

 そう質問するソフィアの声は低かった。この世界に生まれ落ち、自分が信じていた神に反抗する可能性があると示唆されれば、ソフィアから緊迫した空気が出るのも致し方なしか。対するナナコは、そんなソフィアの調子などどこ吹く風と言った調子でたはーっと笑った。

 

「それは分からないなぁ……きっと、どっちが正しくて、どっちが間違えているって無いから。みんなそれぞれ、自分が正しいと思ったことを、一生懸命に頑張っているだけ……でも……」

「でも……?」

「皆の事情が分かれば、自分のすべきことが分かるような気がするんだ。七柱の創造神も古の神々も、私なんかよりもずっと頭が良くて、色々考えた上で行動してるんだと思うけれど……でも、誰かを悲しませるようなことをしてしまうのは……それだけは絶対に違うの」

 

 言葉を切ると、ナナコの口元から笑みが消える――同時に、深い暗褐色の瞳でまっすぐに、質問をしてきている金髪の少女を見据えた。

 

「だから、私は真実を知らなくちゃいけない。神様たちの事情を理解したうえで、戦いを止めるように説得してみるんだ。それで、もしお互いに戦うことを止められないようなら……私はきっと、どっちとも戦うよ。喧嘩両成敗、だね!!」

 

 最後には、また緊張感のない笑みがナナコの顔に戻ってきた。しかし先ほども思ったが、ナナコはなんだか自分に近い感性を持ってくれているような気がする。彼女は七柱の監視下に無いだろうし、そのうちこっそりと自分の知っている範囲のことを伝えてもいいかもしれない。

 

(……いや、流石にそれは早計か)

 

 今でこそのほほんとしているモノの、いつどこで記憶を取り戻し、ゲンブたちの元に戻ってしまうとも限らない――サークレットで操られていたという説が濃厚だが、それだって確実とは言い難い。

 

 もちろん、自分が持っている範囲の情報はゲンブだって知っているだろうし、ナナコに話したところでそんなにリスクもないかもしれない。同時に、ナナコの――セブンスと名乗っていた少女の、もっと言えば夢野七瀬という少女の本質はこちらであるように思うから、むしろ真相を知れば彼女も自分の味方になってくれる可能性もあるように思う。

 

 だが、やはり伝えるにはソフィアたちに聞かれるリスクもあるし、何よりこんないたいけな少女を旧世界から続く血みどろの戦いに巻き込むのも違うだろう。ソフィアを護るために棒一本で魔族を威嚇するだけの剣の腕は本物だし、実力があるのは間違いないのだが――実力があるからと言って、危険なことへと誘いこむのは避けねばなるまい。

 

 しかし、ソフィアはナナコの言葉をどう受け取ったのか――しばらく川の方を見て黙っているが、返すべき言葉を見つけたのだろう、ソフィアも顔を上げた。

 

「ナナコ……エルさんやクラウさんには、そういうこと言ったらダメだよ?」

「ほぇ? どうして?」

「あの二人は、私と比べると信心深いから……私はナナコの言い分は理解できるけど、創造神と戦うだなんて言いぐさは、納得できない人も多いはずだよ」

「そっかぁ……確かに。でも、ソフィアとアランさんなら大丈夫?」

「私とアランさんにも、あまり話さないで。誰に聞かれるとも限らないから……」

 

 ソフィアはナナコに対してそう言って後、何故だか突然自分の方へと振り返り、意味深にニッコリと笑う。その瞬間、なんとなしにだが、ソフィア・オーウェルは自分が想像している以上に核心に近づいているのではないか――そう思わされた。

 

 思い返せば、ソフィアは元々アレイスターの下で師事を受け、この世界の体制に対して懐疑的な意見を持っていたはずだ。それが近頃は、妙に創造神万歳というか、以前の客観性が欠けていたように思っていたのだが――実態としては、本心を押し殺して、従順なふりをしていただけなのかもしれない。

 

 そう、彼女はジャンヌ・ロペタの豹変を見ているのだ。同時に、神々の目を欺くためにはどうすればいいのかと自分に質問してきていた――実はソフィアは、ジャンヌを破滅の道へと落としたのは七柱の創造神ということに気付いているのではないか? 

 

 同時に、自分が次の標的にならないよう、彼女も上手く立ち回りながら情報を集めているのかも――学院の英才、稀代の天才ソフィア・オーウェルなら、それくらいのことをやってこなすのかもしれない。

 

「ソフィア……?」

 

 真意を知るべく、少女の名前を呼ぶ。するとソフィアは口元に人差し指をあて、可愛らしくウィンクをして見せた。

 

「それこそ、クラウさんやエルさんに聞かれたら困るもんね?」

「……あぁ、そうだな」

 

 言葉こそは無難だったが、今の所作にはそれ以上の意味が含まれているように思う。もちろん、自分から変に伝えることもないが、やはりソフィアはこの世界の歪みについて気付いている、そう確信させてくれた。

 

 こちらが深く頷き返したことで、ソフィアはまた微笑みを浮かべて頷いてきた。そして編み込みを揺らしながら再びナナコの方へと振り、人差し指をピン、と上げながら話し出す。

 

「ただ、事情を知らないとっていうのは賛成だよ! きっと私たちは、知らなきゃいけないことがたくさんあるから」

「それじゃあ、ソフィア! 協力してくれるの!?」

「うぅん、協力するというか、私は私で勝手に情報を集めるから、ナナコは私に着いてきたら分かるかも、みたいな?」

「あ、あははぁ……ソフィア、相変わらず私に対して辛辣……」

「もう、そんなこと言うんだったら、もう何も教えてあげないよ? せっかく、私の知っている範囲のことをナナコに話そうと思ってたのに……」

「えぇ!? そ、それは是非とも聞きたい……!」

「それじゃあ、変なこと言ったらダメだよ? それに、私が知っている範囲のことだけだから……」

 

 ソフィアが話すことなら、情報の取捨も上手いだろう。それこそ、自分が見てきたことをナナコに伝えるより分かりやすく話してくれるに違いない。それなら、この場はソフィアに任せてもいいだろう――もう一つ、線上に乗ってから気になっている相手が居るので、自分は彼女の方へと向かうことにした。

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