B&T~記憶喪失の転生者、伝説級の暗殺術で異世界ディストピアをぶっ壊す~   作:五島七夫

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武神の力

 賢人十三人集の部屋まで案内してくれたエルフが、今度は寝所まで案内をしてくれた。エルフ曰く、異邦人が来ることを想定していない世界樹は宿というものが無いらしい――この辺りはガングヘイムと一緒だった。

 

 案内された寝所は、世界樹の幹の中、ツタワタリという植物性蜘蛛の乗り場の近くだった。荷物を置いて一息つくと、既に日も傾き始めており、アランを誘って少し降り、エルフの飲食店で食事を摂ってくることにした。

 

 食事中は、ナナコとソフィアはいつも通りの印象だった。クラウは少し影があって口数も少なかった。連れ去られた友人のことを気にかけているのか、それともハイエルフたちがやや辛辣な調子だったのが気になるのか――恐らく両方だが、やや後者に比重があると言ったところな様に思う。

 

 そして、ハイエルフたちの的になっていたアラン・スミスは、悪辣な態度をとられたことなどどこ吹く風と言った様子だった。そして、ちょうど食事から寝所に戻ったタイミングで、そんな彼に廊下で呼び止められた。

 

「エル、ナナコがエルフたちに連れ去られないか注意しておいてほしいんだ」

「それは構わないけれど……それにしても、アナタはどこに行っても嫌われているわね?」

 

 自分の言葉に対して、アランはバツが悪そうに俯き、後ろ髪を右手でくしゃっと掴んだ。

 

「まぁ、勇者の割には口が良くないからかな?」

「えぇ、そうね。それどころか態度も目つきも悪いから、致し方ないのかも?」

「あ、あのなぁ……」

「冗談よ、半分はね。アナタが不思議なのは、今に始まったことではないけれど……どうにも神話の時代に生きた人々は、アナタを知っているように思うのよね」

 

 それが率直な感想だった。ダン、すなわちヴァルカン神然り、此度のハイエルフたち然り、彼らはみなアラン・スミスとは初対面ではないような対応を取る。

 

 それも、どちらかと言えばネガティブな方面で――ダンとは最終的には和解していたように見えたが、それは二人の性質が近いためだろう。対して今回のハイエルフたちとの和解は不可能そうに見えた。

 

 そんな自分の感想に対し、アランは俯いたままで首を横に振った。

 

「いやぁ、偶然だろう。それこそダンの言葉を借りるなら、俺は邪神ティグリスに似ているらしいからな」

「まぁ、それはダンも冗談って言ってたけれど、火のない所に煙は立たないから……あながち似ているというのも嘘でもないのかもしれないわね」

「ふぅ……クラウにも疑われたよ。エルも俺のことを疑っているのか?」

「そうね。でも私がアナタを疑っているのは今に始まったことじゃないし?」

「はは……それもそうか」

 

 自分の口調が冗談めかしていたせいか、アランはやっと顔をあげて口元に笑みを浮かべてくれる。

 

「一応、誤解無いように言っておくけれど、私はアナタのその胡散臭くていい加減な部分を常に疑っているのであって、仲間として疑っているわけではないわ……それなりに多くのことを隠しているとも思っているけれど、それは理由があってのことだと思うの。

 だから、私は変に詮索する気は無い。いつか話せるようになったら話して頂戴」

 

 これは、嘘偽らざる本心だ。もちろん、彼が隠し事をしていることに全面的に納得しているわけではないけれど、根が善良な彼のことだから話せないのは相応に事情があるのだと推察は出来るし――同時に、仮に創造神たちが彼を嫌っていたとしても、彼が道徳的に踏み外す様な人間でないことは自分は十二分に理解している。

 

 もちろん、仮に創造神たちとアランが敵対するのなら、その時は自分がどうすべきなのかまでは結論は出ていないが――少なくとも、ゲンブ一派と言う共通の敵が居る間は、彼も神々もいがみ合いながらも手は取ってくれるだろう。

 

 アラン・スミスは善良という見立て通り、こちらの言葉に暖かい笑みを浮かべて小さく会釈した。

 

「エル……ありがとう」

「それで、ナナコが連れ去られないようにしろと言うのは、ハイエルフたちがあの子をさらいにくると判断したってこと?」

「いや、その可能性は低いとは思っている。あの機械剣が無い状態のナナコは、まぁ剣の腕は凄いみたいだが、それでも強力な戦士という範囲内……高等な結界を吹き飛ばすほどの力は無いはずだ。

 それなら、ハイエルフたちとしても絶対に拘束しなければならないほどの危険性はない。ただ、アイツらがナナコを置いて行けと言ったのは、万が一に備えて危険因子を確保しておきたいくらいの温度感だと思う」

「それなら警戒するほどかしら?」

「もしアイツらにナナコが捕まったら、結構えげつないことをされると思うんだよ……それで、こちらも万が一に備えたいって次第だな。俺も変な気配が近づいてきたら飛び出ていくが、殺気や速度がないと気付きにくいから……」

「成程、了解よ。ちなみに、他の皆には話しても?」

「もし避けられるなら、クラウには言わないでやってくれ。ハイエルフを疑ってかかるとなれば、あんまり良い気はしないだろうしな」

 

 確かに、食事の時の調子を見る感じ、これ以上クラウに神々を疑わせてしまうようなことは言わないほうが良いだろう。それは同時に、アランへの疑惑ともなってしまう――彼女も仲間を疑ってしまうことにも心を傷めているようだから、自分一人で対処出来るなら変に巻き込まないほうが得策か。

 

「そうね。それなら、なるべく私だけで対処するようにするわ。ナナコに話すと変に気を使いそうだし、ソフィアは問題なさそうだけれど、話すところを見られたらなんだしね」

「それに、エルが一番遅くまで起きてると思ってな」

 

 そう言う彼は、悪戯っぽく笑っている――この笑顔を見るたびに癪な気持ちになる。皮肉を言われているのに安心するような、胸が暖かくなるような――自分には可愛げが無いので癪な気持ちが先行してしまい、ついついいつものようにため息を返すことになってしまうのだが。

 

「はぁ……そういうことね……」

「いや、朝まで起きててくれとは言わないさ。ただ、起きている間に妙なことが起こらないか、それだけ警戒しててくれ」

「了解よ、任されたわ」

「あぁ、頼んだ」

 

 二人で頷き合い、自分はナナコたちの待つ部屋へと向かった。その後は何事もなく夜も更けていき、三人の少女たちはいつの間にかベッドの上で寝息を立て始めていた。

 

 自分はと言えば、窓際で木々の枝葉が擦れる音を聞きながら、ぼぅっといつもより近くにある月を眺めていた。本来、高高度にあるこの場所は強い風が吹いているはずなのだが、エルフの精霊魔法による調整で穏やかになっているらしい。

 

 別段、アランとの約束があるから少しでも長く起きていようと思っているわけではない。単純に、眠くないだけ――悠久の時を生きるエルフは時間には縛られないのか、ここには時計もなく、何時なのかも分からない。ソフィアなら月や星の位置でおおよその時間を言い当てるのかもしれないが、流石に自分にはそこまでの知識は無いので、ただ時の過ぎゆくに任せているだけだ。

 

 ただ、こう言った時に彼が自分を頼りにしてくれたことが、なんやかんやで嬉しかったのかもしれない。それに応えたいがために気分が少し高揚しているのか――何にしても、もう少し起きていてもいいだろう。

 

 ふと、そろそろ寝ようかと思ったタイミングで小さな物音がした。一瞬空耳かとも思ったが、どうやらそうではないらしい――扉の方から断続的に、扉を叩くような音が聞こえてくる。

 

(まさか、本当にさらいに来た? いえ、でもそれなら、さっさと部屋の中に入ってくるかしら……)

 

 もしかすると、誰かが起きているのか確認をするために小さな物音を立てているのかもしれないが、それは向こう側にいる本人に聞いてみたほうが早いだろう。他の三人に気付かれないようにそっと席を立ち、扉の方へと向かってノブに手をかける。

 

 扉を開けると、そこにはソルダールが一人立っていた。まさかアランの言う通り、本当にナナコをさらいに来たのか――とも思ったが、それならもう少し大人数で押しかけてくるとも思うし、何よりソルダールはじっと自分のことを見つめたまま黙っている。

 

「……何の用かしら?」

 

 そう言いながら自分の方から廊下へ出て扉を閉める。

 

「そう警戒するな……私は、そなたに用があってきたのだ、エリザベート・フォン・ハインライン」

「へぇ……それなら、昼間に言ってくれれば良かったんじゃないの? それか、明日の朝に呼んでくれれば良かったのに」

「昼間は失念していただけだ。それに、十人目の勇者が私のことを警戒しているからな……改めて来いと言っても、来てくれない可能性を考えたまでだ」

 

 ソルダールはなんだかそれらしい御託を並べてきているが、どれもそんなに腑に落ちるものではない。仮にも賢人と言われる者が要件を失念していたのも違和感があるし、いくら警戒していると言っても呼び出されればアランだって応じたはずだ。

 

 とはいえ、自分への要件というのなら話は聞いてしまえば早いだろう。伝えられた内容をどうするかは、聞いてから考えれば良い――彼が邪神に似ているとか、なんなら生まれ変わりと言われるくらいの覚悟を決めて、ソルダールの方を見る。

 

「……それで、何の用かしら?」

「ハインラインの力を解放する術《すべ》を伝えに来たのだ」

「ハインラインの力?」

「うむ。ハインラインの血族は武神の血を引いている……その力を解放できるようにしに来たのだ」

「何を言っているの? 私は、あくまでも養子で……」

「そなたも気付いておるのだろう? そなたはテオドール・フォン・ハインラインの実の娘であるということに」

 

 ソルダールに言われたことは、あくまでも自分の推測の範囲のことであり、貴族間で噂にはなっていたことだが、事実として確定はしていなかったことだ。その事実を何故この男が知っているのかは分からないが――ともかく、推測が確信に変わった。

 

 自分が王族でなかったことは確定したものの、別段ショックはない。それよりは、敬愛するテオドール・フォン・ハインラインが実の父であると分かって誇りに感じるくらいだが、同時に一つ疑問が生じる。

 

「……ハインラインの力なんてものがあるのを知らなかったわ」

「それに関しては、テオドールも知らなかったはずだ。武神の力の解放は、本来なら魔王征伐の際に勇者と共にハインラインの血族が世界樹を訪れた時に初めて伝えられるものだ。今回はハインラインの血族がブラッドベリを倒すときにここに来なかったので、伝えられていなかったのだ」

「なぜ、その力をへカトグラムと一緒に継承しないの?」

「武神の力は強大だ。そも、ハインラインは邪神ティグリスを倒すべく二対の神剣を携えた戦いの神……その力は邪神にも匹敵する。

 それを歴代の辺境伯に継承することは、レムリアのヒエラルキーの崩壊を招きかねない……それ故、魔王征伐の時のみ、武神の力を解放しているのだ」

「へぇ……それじゃあ、私のご先祖様は皆、謙虚でご立派だったのね。魔王征伐に参加して武神の力を解放する術を知っていても、国家転覆を計らなかったのだから」

「……そうだな」

 

 今まで無表情だった老人は、突然に目尻に皺を寄せて、口髭の奥で笑ったように見えた。その表情が異様に不気味でゾッとしてしまう。ややあってソルダールは元の無表情に戻り、改めてこちらに目線を合わせて一歩前へ進んできた。

 

「それでは、力の解放を行うぞ」

「ちょ、ちょっと待って。それ、大丈夫なモノなんでしょうね?」

「武神の力を起動するには、二つの手順が必要だ……一つはそなたの中にある封印を解いておくこと、もう一つは解放の呪文を唱えることだ。呪文を唱えなければ発動しないのだから、使うかどうかはそなたが決めればいい……危険だと思うのなら使わなければいいだけだ」

「……そういうことなら」

 

 自分で力を使うかどうか選択できるのなら、どうしようもない窮地に陥ったときにダメで元々で呪文を唱えるという選択肢はある。

 

 何より、宝剣へカトグラムが修復した今でも、古の神々と戦うには力が足りていないと思っていたところだ。ソフィアは持ち前の聡明さと魔術杖の改造で、古の神々の一角であったセブンスを打ち破るほどに成長したのに、自分は二対の神剣を持った以上の成長はない。それならば、彼の役に立つためにも――新しい力は必要かもしれない。

 

 自分の返答に老人は頷き返し、再び何故だか楽しそうに目尻に皺を寄せた。そして、老人は自分の前に立ち、こちらの眉間に向けてしわがれた人差し指を伸ばしてくる。

 

「女神レアに代わり、権限を代行す……セーフティロック解除」

 

 聞き馴染みは無いが、セーフティを外すというのは危険なものなような気がするが――老人の指先が淡く光るのと同時に、脳に電流が流れたような衝撃が走る。とはいえ、それは僅かな違和感で、数秒後にはすぐに元の違和感は喪失した。

 

 無意識に自分は手で額を覆っていたらしい――落ち着いてから手を降ろすと、ソルダールはまた不気味に笑いながら一歩後ずさった。

 

「後は、解放の呪文を唱えれば、武神の力を引き出すことが出来る……解放の呪文は、戦狼の目覚め、ヴェアヴォルフエアヴァッフェンだ。復唱は止めて、どこかにメモを取っておくといい……セーフティの外れた今のお主が唱えたら、力が解放されてしまうからな」

「……分かったわ」

「それでは、武運を祈っているぞ、ハインラインよ」

 

 ソルダールはそう言い残し、杖を突きながら廊下の奥へと消えていった。それを見送ってから室内に戻ると、ソフィアとクラウは寝ているものの、ナナコだけは上半身を起こし、眠気眼を擦りながらこちらを見ていた。

 

「……エルさん? 何かありました?」

「いいえ、何もないわ」

「うぅん……分かった、トイレですね?」

 

 ナナコは寝ぼけたような口調でありながら、分かってます、という調子でこちらを見ている。その呑気さと先ほどの緊張感とギャップがなんだかおかしくて、つい笑ってしまった。

 

「……そんなところよ。さ、寝なさいな」

「はぁい……おやすみなさい、エルさん」

 

 返事をして後、ナナコは布団をかぶって三秒で寝息を立て始めた。あまりの寝つきの良さがまたおもしろかった。セブンスと名乗っていた時分には手を焼かされたが、今の彼女を見ていると護りたくなるような、幸せになって欲しい様な、不思議な気持ちになってくる。

 

 同時に、この子だけ起きたのは気配に敏感だからだろう。記憶がないと言えども、この少女は間違いなく武人なのだ。

 

 さて、今晩のことをアランに話すべきか否か。恐らく、明日の朝にでも昨晩は何かなかったか聞いてくるだろうが――少し悩んだ挙句、正直に話すことにした。

 

 実際の所、武神の力を引き出せるような処置を受けたことは、少々安易だった気がする――ソルダールの雰囲気や、実際に解放の処置を受けた時の感覚的に、あまり良い力ではないような気がしたからだ。

 

 もちろん、先ほど考えたように、ハインラインの血脈に誇りを持っていないわけではない――ただそれは、脈々と受け継がれてきた領民やレムリアの民を護るという貴族的な誇りであって、未知の力を簡単に受容できるほど自分は柔軟ではないということらしい。

 

 しかし――。

 

(この子たちを護るのに、アイツの役に立つのに、もっと強い力が必要なのも確か……)

 

 きっとこの先、もっと熾烈な戦いが起こることもあるはずだ。そう言った時に、誰かに――彼に護られるだけの自分ではいたくない。ただ、自分だけの中に留めておくのも危険な力な気がするから、そう言う意味ではアランに共有しておいた方が良いと判断した。

 

 きっと言えば使うなとか言われるだろうが――キチンと話をしておくことは、秘密主義者の彼に対して良い当てつけになるだろう。そもそも、ADAMsだとか変身だとか、謎で無茶な力を使って皆を心配させてるのはアランなのだから。

 

 そんな風に考えて、先ほどあったことを自分の中で納得させ、今晩は眠りにつくことにした。

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