B&T~記憶喪失の転生者、伝説級の暗殺術で異世界ディストピアをぶっ壊す~   作:五島七夫

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T1vsT3

 精霊弓から排熱の蒸気が吹き出すのと同時に、こちらも奥歯を噛んで迎撃に備える。窓の外を見ると、原初の虎は建物を脱出すると同時に、漆黒の鎧に身を包んでいた。アレが、ゲンブの報告にあった変身か――そして、奴は退くどころかこちらへ向かい始めているようだった。

 

 相手から死角になるよう、別の窓から外に飛び出して距離を取る。それと同時に、脳内にゲンブの声が響き始めた。

 

『T3、ぶっ放した後に連絡するのも大変恐縮なのですが、先ほどアガタ・ペトラルカを通じてレムから連絡がありました。丁度、アナタが狙い撃った方角に原初の虎が来ていたらしいのですが……』

『あぁ、分かっている』

 

 元々、セブンスに埋め込まれている生体チップのおかげで、アラン・スミス一行が近くに来ているのは分かっていた。そして、ヤツなら一人でこの場に乗り込んでくることも織り込み済みだ。

 

 そうともなれば、建物の中でこそこそしている者など、アラン・スミス以外にあり得ない――そう推理したまでのこと。

 

『あの、分かっていて撃ったんですか?』

『あぁ、分かっていて撃った』

『何故に?』

『奴には以前にしてやられたからな……その意趣返しだ』

 

 本音を言えば、もう少し深い意図はある。一つは、自分の力試しをしたいということ――更なる加速に耐えられるようになった身体と、精霊弓という新たな武器があれば、原初の虎とも渡り合えるのか確認してみたいという思惑があった。

 

 そしてもう一つは――子供じみた理由だが――やはりアイツのことが気に食わないという理由だ。せめてもう一度勝負をして、こちらが上ということが認識出来れば――ないし引き分けることが出来れば――まだ幾分か胸がすくというのもある。それ故に仕掛けた勝負だ。

 

 だが、それをゲンブにわざわざ言うこともない。そう思いながら屋根の上を移動していると、脳内に呆れたようなため息が響き渡った。

 

『はぁ……それで彼がやられてしまったらどうするつもりなのですか?』

『この程度でやられる虎ではない……それに、安易な奇襲で死ぬような輩と貴様は手を組みたいのか?』

『まぁ、それは確かに……いや、そういうことではなくてで……』

 

 頭の中が姦しくては狩りに集中できない――そう思ってゲンブからの通信を一方的に切り、こちらを補足して接近してくる黒い異形に向かって弓を構えた。

 

 ◆

 

 T3からの通信を切られてしまい、彼を説得する術を失ってしまった。やはり、T3はアラン・スミスとは組みたくないというのが本音か。しかし、第五世代を相手にできる二人の虎を、どちらか片方ですら失うことは出来ない。

 

 見張り台から外を見ると――今の自分は生身の体でなく、演算器によって世界を観れるので、彼らのドッグファイトを視認することも可能だ――アラン・スミスも戦闘態勢に入っており、屋根を飛び移るT3を追いかけ始めている。

 

 こうなれば、自分たちが割って二人の戦闘を止めなければならない。人形の首をまわすと、頭巾の間から覗く赤い瞳が確認できた。

 

「……ホークウィンド!」

「あい分かった」

 

 男の名を呼んだ瞬間、巨大な掌が人形の頭をむんず、と掴んだ。

 

「……はい? あの、もう少し丁重に扱ったりは……」

「囀《さえず》るな、舌を噛むぞ」

「いや、人形なので噛む様な舌は持ち合わせて……おぉ!?」

 

 すべてを言う前に、ホークウィンドは窓から外へと飛び出していた。これが生身の身体だったら、確かに舌を噛んでいただろう――そう思えば人形の依り代も悪くはない、忍び装束の隙間から見える星空を眺めながらそんなことを考えていた。

 

 

 ◆

 

 変身が完了し、改めて光線が発射されたほうの気配を手繰る。音こそしないものの、気配は感じる。それも、滅茶苦茶に鋭いヤツだ。

 

『殺気がむき出しすぎるぜ……アイツ、狩人としては二流なんじゃねぇのか!?』

 

 先ほどゲンブたちとは会話が出来るかもしれないとか考えたが、どうやら自分が呑気だったらしい。いや、T3の独断という可能性はあるだろうが、少なくともアイツは自分のことを歓迎してはいないのだ。

 

『おいアラン、退くんじゃなかったのか?』

『あんな光線で狙い打たれたんじゃ、背中を向けるのは危険だろ?』

『まぁ、それ確かに……いや、そう言う問題か?』

 

 そう言う問題だ、と返している余裕はなさそうだ。移動を続ける中で、集落の屋根に躍り出たT3を発見する――弓のような物をこちらへと向け、矢をつがえずにその弦を引いていた。先ほどの光線はアレから発射されたものだろう。光学兵器ともなれば速度は折り紙つきだが、曲がりでもしない限り射線を見切ることは不可能ではない。

 

 T3は真っすぐに自分を狙っているが――アイツも修羅場を潜ってきた戦士だ。生半可な射撃をしてくるわけではないと予想される。相手から目を逸らさぬまま、一射目は加速を強化して着弾点をずらし、ニ射目が放たれるタイミングの直前で加速を切った。

 

『甘ぇ!!』

 

 予想通り、光線は自分の目の前に着弾した。そしてすぐさま再び加速し、屋根の上を飛び回る銀の流線を追い始める。しかし、その距離は一向に縮まらない。こちらはレッドタイガーの力で以前よりも速度が増しているはずだが、それは向こうも同様ということか――恐らく、王都襲撃の後に更なる改造を受けたということなのだろう。

 

 それどころか、若干ずつだが距離は離れてしまっている。というのは、自分は向こうの攻撃に対応できるだけの足場があるルートを選ばざるを得ないのに上乗せして、回避行動を取らなければならない分、向こうの進行スピードの方が早いのだ。

 

 如何せん、間合いを詰められなければ自分の攻撃は届かない――緩急をつけながら着弾点はずらしているが、向こうも段々とこちらの動きに対応してきている。このままではじり貧か――三度目の加速を切り、身体が熱くなってきたタイミングで、再びべスターの声が聞こえだした。

 

『威勢よく啖呵を切ったのは良いが、追いつくのも難しそうだな、アラン……どうするつもりだ?』

『それを今考えてるんだ! というか、いつもいつもどうするって聞いてきて、たまには建設的なアイディアの一つでも出したらどうだ!?』

『概ね、貴様の出す滅茶苦茶な行動の方が最終的に良い結果になることが多いから黙っていただけなのだが……そうだな、アレを出したらどうだ?』

 

 アレ、というのはゲンブの鉄巨人を葬ったアレか。確かに、あの爆発力を推進力に代えれば、一気に接近することも可能かもしれない。そう思いながらベルトについているボタンに指をかけた。

 

『良いアイディアだべスター……採用させてもらうぜ!』

『これも滅茶苦茶な案ではあるがな。誰かさんの無茶が移ったか……』

 

 既に数度の加速、それに相手に詰め寄ろうとしてかなり速度を出していたので、身体の熱さは十分だ。再びバックルに指をかけてボタンを押すと、エネルギー解放のためのゲートが目の前に現れたのだった。

 

 ◆

 

 移動速度は五分、こちらは精霊弓を射るために振り返る必要があるが、牽制による足止めを想定すれば、差し引きで安定した距離は稼げる――ひとまず互いに決定打こそ打てないものの、これならば原初の虎とも渡り合えている形だ。

 

 再び弓を射るために振り向いた瞬間、アラン・スミスの前に何かゲートのようなものが現れているのが見えた。アレは、ゲンブの報告にあった加速エネルギーの解放か――かなり高威力の一撃と聞いてはいるし、アレでこちらに一気に接近してくるつもりなのだろうが――。

 

(制御は難しいはずだ……!)

 

 速度が上がれば上がるほど、微細な動きはしにくくなるはず。精霊弓を撃つのを止め、建物の後ろに移動し、ADAMsは切らないまま足を止める。相手としてはこちらが加速を落とさずに進む距離を目指して突っ込んでくるはず。

 

 弓を構えて弦を引き、虎が飛び込んでくるのを待つ――加速した時の中では一瞬、しかし極限まで張り詰めた神経で感じる体感時間はかなり遅く感じる――来い、来い、来い――次こそ貴様に煮え湯を呑ませてやる――!

 

 しかし、殺気は唐突に、正面からでなく上から来た。瓦礫が堕ちるよりも早く、急に自分の上部の壁を突き抜けてきた黒いシルエットから――先ほどまで赤かったエネルギーを解放して黒に戻ったのだろう――煌めく刃が投擲されている。

 

『ちっ……!』

 

 判断が遅れたため、射出された短剣は避けざるを得なかった。以前のように毒が仕込まれていることを想定すれば、かすりすらする訳にはいかない――そしtげこちらの回避行動の隙に、虎が壁を蹴ってまた落下してきたので、安易な接近を許してしまう結果となる。

 

 この距離では弓での迎撃が難しい。すぐにマントからヒートホークを取り出し、振り下ろされるカランビット・ナイフを受け止める。互いにマッハ3を超え、4に近づくほどの速度であり、刃をぶつけ合うだけで軽くトン単位のエネルギーが発生し、重い衝撃が義体の手足に掛かる。

 

 ともかく、この距離では不利だ――自分の直感がそう告げている。この距離では相手が何をしでかしてくるか見当もつかない。まずは距離を離さなければ。

 

 ヒートホークを力一杯に押し出して相手の刃を弾き、一度互いに距離を取る。そして同時に、互いの神経が限界に到達して加速が切れる――世界に音が戻ってきた結果、アラン・スミスが突貫してきた建物が崩れる轟音が響き渡った。

 

 そして、上部から落下してくる瓦礫の隙間を縫うように、黒い虎がこちらへ接近してきているのが見える――再加速をする前に、一気にけりを付けようという算段か。

 

 退くか、いや――ここで退いては永久にこの男を超えられない。それならば――!!

 

「うらぁああああああ!!」

「おぉおおおおおおお!!」

「……そこまで」

 

 二つの咆哮の間を縫うように、乾いた男の声が挟まる――何かが勢いよく空を切って接近する音が聞こえ――自分が振り上げたヒートホークと、原初の虎が振り下ろしたカランビットナイフは、互いに巨大な斥力を発生させる薄い膜によってせき止められてしまったのだった。

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