B&T~記憶喪失の転生者、伝説級の暗殺術で異世界ディストピアをぶっ壊す~   作:五島七夫

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虎の選択

 振り下ろしたカランビットナイフの刃は、人形の小さな掌から生じる陣によって止められてしまった。

 

「ふぅ……間に合いました。どうしてこう、アナタ達は血の気が多いんですか?」

 

 展開される結界の奥、人形の掌の向こう側で、T3は銀髪の間から鋭い視線でこちらを睨み続けている。

 

「T3、刃を収めなさい。アラン・スミス、アナタも収めてくれると助かります」

「手を出してきたのはソイツだ……先にひっこめてくれなきゃ、怖くてこっちも爪を引っ込めらんねぇ」

「はは、仰る通り……T3、早く引くのです」

 

 ゲンブに繰り返したしなめられて、T3は手斧で結界を弾いて距離を取り、外套へそのまま斧をしまい込んだ。それを確認してからこちらも同じように武器を収める。

 

「それで? わざわざ止めに入ってきたんだ、話をする気はあるってことだろうな?」

「えぇ、えぇ、仰る通り。端的に言いましょう、我々はレムとレア、二柱と手を組むことになりました」

「……なんだと?」

「細かいことは、合流してから話せば良いでしょう……セブンスも連れてきてください。それに、三人のお嬢さん方も。大丈夫、ピークォド号に居る間はルーナの精神干渉も受けませんし、彼女たちの脳内に埋められた生体チップの機能を抑えるのもレアが居れば可能ですよ。

 それに何より、思考を読むレムがこちらに居るのですから、移動中の危険もありません」

 

 なんだか唐突なことで、一瞬人形が何を言っているのか理解できなかった。しかし、コイツが言っていることが真実であるとするならば、事態としては大分シンプルになる――要するに、自分が想定していたように倒すべき七柱と手を組める七柱が居て、それらが剪定《せんてい》できているのなら、一旦はゲンブたちと手を組んで倒すべき相手と戦うのは悪くない。

 

 何より、一番の懸念である三人の少女たちの身柄の安全が確保できるのは相当にありがたい。もちろん、T3やゲンブの今までの所業を考えれば単純に手を組むのもどうかという考えもあるが、それは敵対する七柱を倒してから考えたっていいはずだ。

 

 だが、この人形が言っていることが本当とは限らない。ハイエルフ達の話を聞く限りでは、コイツがアガタたちの身柄を拘束しているのだけは確実だが、本当にレムと手を組んだという確証はない――そう考えれば、この話を鵜呑みにするのは危険とも言えるだろう。

 

「お前の言うことが本当だという確証が欲しい。そうでなければ、俺たちはむざむざと敵地に招かれるリスクを背負うことになる」

「そう言うと思っていましたよ。そのために、アガタ・ペトラルカに御同行を願っているのです……待っていてください、今彼女を呼んできます」

 

 ゲンブが振り返ると、腕を組んで佇んでいたホークウィンドが頷き、一足飛びで先ほど何かが光った建物の方へと跳躍していった。

 

「私たちも移動しましょうか。ここは誰かさん達が無駄に暴れたせいで何かと誇りっぽいですし」

 

 確かにゲンブの言うよう、自分が近くの建物を破壊してきたせいで、この辺りは粉塵も舞っている。もう少しすれば落ち着くだろうが、向こうがこちらに来るのに合わせてこっちも移動してもいいだろう――背後からT3に睨まれる気配を感じながら集落の中央部分の方へと移動していると、向こうから三人分の人影が移動してきた。

 

 先頭に立つのはホークウィンド、その背後にはアガタ・ペトラルカともう一人、初めて見る老婆がいる。老婆と言えども背筋はピンとしており、スラっと長いシルエットに長い髪、そして長い耳――恐らく、彼女が噂に聞くレア神だろう。

 

「アガタ、大丈夫か?」

「えぇ、問題ございませんわ……ゲンブから聞いているとは思いますが、捕らえられて居た訳ではございませんから」

「本当か? その、疑うわけじゃないんだが……」

 

 話している感じではいつものアガタであるように見えるモノの、彼女が現在、正気かどうかが若干怪しい――実際、ナナコはゲンブたちに操られていた訳だし、恐らくその原因であったサークレットがアガタの頭にあるのだ。そうなると、今の彼女は正気ではなく、操られていている可能性を考慮しなければならない。

 

 そう思っていると、アガタはサークレットを叩き始めた。

 

「……レムが言っています。今、アランさんはこのサークレットのせいで私が操られていると懸念していらっしゃると。これは、何かあった時の一応の対策です。この密会がおファックなルーナに見られたときに、操られていたという言い訳が立ちますからね」

「はぁ、なるほど……いや、確かに操られていないみたいだな」

 

 自分の思考をぴたりと言い当ててきたのはレムと通信している証拠だろうし、口調も元々の彼女らしいものだ。何より、眼の光が本物だと言っている――髪と同じ薄紫の瞳、その奥に煌めく光が、以前に見た彼女の意志の強さと一緒だった。

 

「ふぅ……それでアガタ、レムの奴はなんでゲンブたちと組むことにしたんだ?」

「それを決めたのは他ならぬアランさん、アナタだと伺っていますが?」

「……はぁ?」

「そうですね、少々誤解のある言い方だったかもしれません。レムがアナタを蘇らせたのは元々、ゲンブと……チェン・ジュンダーと手を組むかを決めるためだったのです。この世界の歪みは、かつて敵であったゲンブたちと組んででも正すべきものなのか否か……レムはその裁定をアナタにしてもらおうと思っていたのですよ」

「確かに、何度も悩んだよ。ゲンブたちと手を組んで、七柱と戦うってことをな。ただ、決断はしていなかったはずだが……」

「えぇ、その通り。ですが、アナタは王都襲撃や魔族の間引きが無ければ、おそらくすぐにゲンブ達と手を組んでいたはずです。

 そうなった時に、この星に生きとし生ける者達を救うのであるならば、レムはゲンブたちと手を組むほか無いと考えたのです……この星の人々を世界の歪みから救い出したいという気持ちは、アナタもレムも変わらないのではないですか?」

「あぁ、その通りだ」

 

 アガタの、そしてその背後にいるレムの言葉に対して自分は頷き返す。しかし、それはゲンブたちと直ちに手を組めるということを意味しない。こいつらの真意が分からなきゃな――そう思いながら人形の方へと振り返ると、ゲンブ人形はこくこくと頷いていた。

 

「アナタの言いたいことは分かっていますよ、アラン・スミス。ですが、以前言ったように優先順位を考えて欲しいのです。高次元存在を我が物にしようとしている急進派の七柱を倒し終えたら、私もしかるべき処置を受けるつもりです」

「はぁ……なんだかそんなに謙虚なのも信用できないんだがな」

「ともかく、私たちはこの星に生きる者たちをどうこうするつもりはありません。ただ、世界を揺るがしかねない実験を阻止しようとしているだけ……そうなれば、我々の道はきちんと交わるはずですよ」

「そうだな……だが、残りの二人はどうだ?」

 

 そう、憂慮すべきはこの人形だけではない。残りの二人――とくにT3には問題がある。ここまでの所業ももちろんだが、何よりチェンがこちらと組む気なのに、独断で攻撃を仕掛けてきたからだ。

 

 せめて、コイツは詫びの一つでもよこさないか。そう思いながら銀髪のエルフを睨め続けるが、男は腕を組みながらどこ吹く風といった調子で夜空を見上げている。そしてホークウィンドもT3と全く同じポーズを取りながら押し黙っていた。

 

「ははは、ホークウィンド卿とT3は無口ですからね……ですが、彼らが弱き者を利用するような卑劣な輩でないことは、アナタも理解しているのでは?」

 

 確かにそうかもしれない――思い返せばゲンブの言うよう、二人は向かって来る者の迎撃はするが、不要な殺戮をするようなタイプではなかった。T3に関してはシンイチの件があるものの、ホークウィンドに関しては自分の見ている範囲での殺人は無かったように思う。

 

 最初にハインライン辺境伯領で出会った時はエルを狙っていたが、レアと組んでハインラインの器としての役目を抑えられるなら――つまり、自分たちとの敵対行動を抑えられるなら、恐らくエルに対してもこれ以上手出しをしてくることはないはずだ。

 

 そうなると、後は少女たちの生体チップとやらをきちんと除去できるかどうかが問題になってくる。その技を持っているらしいエルフの老婆の方を見ると、彼女は何やら冷たい目でこちらを見つめていた。

 

「アンタがレアか」

「えぇ……お久しぶりですね、原初の虎」

「俺の方は覚えが無いんだが……アンタは俺のことを恨んでいたりしないのか?」

 

 レアがこちらに関して煮え切らない表情をしているのは、自分のオリジナルが彼女に何かをしでかしたせいかもしれない――思い返せばダン、その本体であるフレデリック・キーツもそうだった。

 

 何にしても、レムに蘇らせられた今の自分としては過去のことは知らないし、何なら過去のことは水に流して欲しいのだが――その辺りはレアも分かってくれてるのか、諦めたようにため息をつきながら首を横に振った。

 

「アナタに対しては、複雑な感情がありますが……それを、クローンであるアナタに言っても仕方のないことですね。それよりも、この星に生ける者たちが自らの力で生きていけるようにしたいという想いがあることは、私もアナタと一緒です」

「……こちらから疑ってかかって悪いんだがな。元々、高次元存在を降ろすための触媒として、レムに生ける人々を利用しようとしてたんだろう? なんだって心変わりしたんだ?」

「この星に生ける者たちを作り出したのは私です。長い時を経て、自らの子供たちに愛着が生まれた……と言っても、説得力はありませんか?」

 

 説得力があるかないかなどは自分には判別できないが、この星に渡って三千年もの間、自分が創造した種族を見続けてきたのなら愛着が沸くのもおかしくはないか――そう思っていると、人形が浮遊してきて自分とレアの間に入り、その小さな手で老婆の方を指し示した。

 

「彼女の旧世界での名はファラ・アシモフ……第五世代アンドロイドや、アシモフの子供たち……レムリアの民を作り出したのは彼女です」

「ふぅん……いや、どういうことだ? 第五世代アンドロイドって機械だろう? レムリアの民は生身だし、両方作ったって言われても違和感があるが……」

 

 機械と生物となれば、必要な専門知識が異なるのではないか。とはいえ、悠久の時の中を生きてきた彼女たちには、それを学ぶ十二分な時間があったというだけかもしれないが。

 

 ともかく、細かいことは合流してから聞いてもいいかもしれない。何より、レアと組めれば少女たちを事実上人質に取られているという制約が無くなるのは大分ありがたい。この先どうなるかはひとまず置いておいても、一旦はゲンブたちに合流するのも悪くなさそうだ。

 

 とはいえ、少女たちからしてみれば倒すべき邪神の使途と言われているゲンブたちと合流するのは、説得に苦心しそうではありそうだが――レアとアガタが居ればなんとかなるか。そうと決まれば早速少女たち――。

 

「……イヤな感じがする」

「何……?」

 

 音も気配も感じるわけではないが、急激に自分の神経を襲った不穏な感じ。T3は何も感じていないのか、腕を組みながら自分の言葉に眉をひそめた。

 

 しかし、突如耳元を手で抑えていたアガタが血相を変えた。

 

「アランさんの言う通りです! 皆さん、私の側へ! レア様、チェン、七聖結界の準備を!!」

  

 アガタの言う通りに一同は広場の中央に集まり、結界を張れる三人が周囲に立って両手をかざす――北の空に何かが煌めいたと思うと、その光は瞬く間にこちらへ飛来してきてエルフの古都に直撃し、結界の外で巨大な火柱を巻き上げ始めたのだった。

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