B&T~記憶喪失の転生者、伝説級の暗殺術で異世界ディストピアをぶっ壊す~ 作:五島七夫
次話を誤って投稿して調整をしていたらこちらの話も誤って投稿していました。不注意でご迷惑をおかけしてすいませんでした。
集落の跡地では、未だに激しい戦闘が行われていた。ホークウィンド一人では劣勢だったものの、今はジブリールに対しては二対一の構図になっており、こちらに戦局が傾いて来ている。
「アズラエル! 婆の犬めがぁ!!」
ジブリールに名を呼ばれたラバースーツのアンドロイドは鎌を振り回し、羽型のビットから射出される光線を無言のまま防いでいる。
「はっ、何とか言い返したらどうなのぉ!?」
「犬と呼びたければそう呼べばいい。絶大なる力を与えられて、それに振り回されているだけの貴様に何を言われようとも、我が忠義は揺るがぬのだから」
「ほざけぇ!!」
桃色の髪の少女は癇癪を起したような声を上げ、命令を出して四つのビットで優男風のアンドロイドの言葉を取り囲む。対するアズラエルも流石は熾天使と言うべきなのか、ビットを見ずに軌道を読んでいるようで、照射されるレーザーを涼しげにいなしている。
「とある指摘が非常にクリティカルである場合、反論の余地が無く激昂するしかないことがあるというが……なるほど、これが図星というものか」
「うるさいうるさいうるさい! 壊れろ!!」
「壊れるのは貴様だ! ついでに、我が主君への侮辱を訂正してもらおうか!」
アズラエルは攻撃の隙間を縫うように中空へと跳び出して攻撃を仕掛けるが、やはり直線的な動きしか出来ないのに対してジブリールは三次元的に動き回れる分、余裕で躱されてしまう。
「ははっ、終わりだ犬め!!」
「……やらせん!」
ジブリールは再度腕を変形させてロングバレルから弾丸が射出される前に、いつの間にか回収していたのだろう、ホークウィンドの大八方手裏剣が下から投げ出されていたため、ジブリールは回避行動を取った。
先ほどから、こんな調子の応戦が続いている――ジブリールは相変わらず中空に居るので、アズラエルとホークウィンドだけでは一押しが足らない、そんな状況が続いていた。
その均衡を崩すためには自分が応援に行ければいいのだが、それは出来ない理由がある。こちらは援護のために射出した七聖結界付の札を、水色の髪の少女が作り出す強力な反物質バリアによって防がれているところだった。
「行かせない……」
そう小声で呟く少女型のアンドロイドこそ、音に聞くイスラーフィールだろう。幸いにして守りに特化した機体なのか、積極的にこちらに攻撃を仕掛けてくるわけでもないが、同時に確かなスピードと防御力を持っており、こちらも攻めあぐねているといった状態だった。
「レア様、ジブリールの非礼は私から詫びます……なので、思い直してこちらへ戻ってくれはしませんか?」
イスラーフィールはこちらの攻撃を防ぎながらエルフの老婆にそう問いかけた。確かに、この場の均衡はどれか一つだけでも欠け落ちれば崩壊する。もしレアが向こうへと寝返ってアズラエルが敵対したら、一瞬でこちらが打ち負かされてしまうだろう。
実際の所、レアが急進派と反りが合わないのは事実だろうが、リスクを負ってまで旧敵である自分たちに手を貸してくれるかどうかはまだ不明瞭だ。そうなれば、もう少し事態を整えてから熾天使とは事を構えたかったが――しかし、ファラ・アシモフは毅然とした態度で一歩前に出て、イスラーフィールに向かって首を振った。
「いいえ、イスラーフィール……賽は投げられました。私は惑星レムの存続のため、アナタの主君であるルーナを討たなければなりません」
「そうですか……ですが、その言葉を待っていました。今から、私がアナタに危害を加えないとは思わないことですよ?」
そう言いながら、イスラーフィールは真っ白なローブの袖からビームを刃とするチャクラムを取り出し、それを指で回しながらこちらへ向き直った。
「アンドロイドの三原則は、とある動機付けで突破することは可能……私はチェン・ジュンダーに洗脳されたアナタを安全な場所へと連れ返すべく、戦闘行動に入ります」
「馬鹿な、その動機づけが不可能でないとしても……仮に事故で私が死んでしまった場合、アナタは自分の行動に自己矛盾を起こして崩壊を……」
「いいえ、アズラエルの最優先要綱がアナタの防衛であるのと同時に、私の最優先はルーナ様の守護です。
もちろん、本当にアナタがチェン・ジュンダーに洗脳されているなどとは判断していませんが……可能性としては払しょくしきれません。そうなれば、私の優先順位は第一はルーナ様の敵対者を倒すこと、第二がアナタの身柄を確保すること……第一優先がある限り、ルーナ様と敵対しうる者を排除したということで、私は私の守るべき制約とアイデンティティを守ることが出来るのです。」
つまり、先ほどレアがルーナを討つと宣誓してしてしまったことで、イスラーフィールの優先順位が書き変わったのだ。逆に、先ほどまでイスラーフィールが攻めあぐねていたのは、レアを巻き込むことが三原則上不可能だったから――要するに、レアの不用意な一言でイスラーフィールは戦闘態勢に入ってしまったということになる。
唯一の疑問としては、ジブリールの最初の一撃はレアも問答無用で巻き込むモノだったが――それも恐らくある種の動機付けて突破したのだろう。ジブリールに対しては、この場にレアがいることを敢えて通達しなければ、こちらを攻撃することは可能――そのような形で突破したに違いない。
ともかく、ファラ・アシモフの一言で状況が悪化したのは間違いない。こういったことに関しては、彼女が専門だったはずだが――。
「……アンドロイド心理学者のアナタが、へまを踏みましたね」
「えぇ、そうですね……」
「まぁ、そう申し訳なさそうな顔をしないでください。どの道……!」
人形の人差し指と中指を上げ、周囲の瓦礫を一気に押し上げ、それらをイスラーフィールに目掛けて射出する。三百六十度全方位、これなら防ぎきれまい――などというのは、甘い算段だったらしい。イスラーフィールの居た場所は瓦礫に埋まったが、一瞬でそれらは全て吹き飛ばされ、後には全方位に膜を張って涼し気にしている少女が立っている――やはり最高傑作の熾天使に対する攻撃としては甘かったか。
「どこかで彼女たちを倒さなければならない、と言って慰めようと思ったのですが……これだと格好がつきませんねぇ」
「チェン・ジュンダー、油断のならない男……しかし、それもここまで。排除を開始する」
イスラーフィールの投げてきたチャクラムに対し、こちら側も結界を貼って応戦する。本来なら飛翔してやり過ごしたいところだが、七星結界を出す以外に戦闘能力のないファラ・アシモフを放っておくわけにはいかない――彼女は精霊魔法の使い手と言えども、戦闘向きの素体に宿っているわけではない。老いた体では熾天使の高速戦闘についてくることは出来ないだろう。
イスラーフィールの投擲に対しては、こちらとしては防戦一方になる。どれ程の数を仕込んでいるのか、袖から無限に出てくる円月輪に対し、可能な限りはこちらもサイコキネシスで対応はするが、全てを迎撃は仕切らない。その度に結界札を一枚、また一枚と消費していく中で、イスラーフィールは無表情のまま無慈悲に攻撃を続けてくる。
「……ガングヘイムの戦闘データを見る限り、アナタの結界もそろそろ限界のはず」
「ふふ、どうでしょう……これを見越して、もっと数を用意してきているかもしれませんよ?」
まったくもってハッタリなのだが、素直に「そろそろ危険です」と言ってやる義理もない――しかし、イスラーフィールの言う通り、これ以上の長期戦になればこちらが不利になる。この場を切り抜けるには、何かチャンスが必要――そう思っていると、遠方で飛び交っていた六枚のリフレクターが一か所に集まって飛んでいくのが見えた。
「……猪口才なゴミ虫どもめ!!」
ジブリールは叫ぶと、六枚の翼を自分の元へと戻し、一気に上空へと登っていった。そしてそのまま、月明かりを一身に受けて、背中の羽を輝かせ始める。
「月の光よ!」
「それを待っていた……!」
赫焉《かくえん》の熾天使は上を取れば安心だと判断したのだろうが――ひとたび見た技に対応するのはアンドロイドだけの特権ではない。むしろ、原初の虎やホークウィンドのように、優れた戦士ならば当たり前のように備わっている本能――ホークウィンドは待っていたのだ。ジブリールが上空で慢心し、攻撃の手を休めるのを。
装束の上からでも分かるほど、ホークウィンドは肩の筋肉を隆起させ、巨大手裏剣を上空に向かって投げつけた。
「アズラエル!」
手裏剣を投げた後、ホークウィンドはレアの従者の名を呼びながら、男性型アンドロイドの方へと跳んだ。そして、アズラエルもホークウィンドの意図を察したのか、拳を引き――そして突き出した瞬間、丁度黒装束の足裏がアズラエルの拳に当たり、そのまま黒装束は弾丸を超える速度で上空へと打ち出された。
ジブリールの不運は二つ。一つはあまりに上空に移動していたせいで、男二人が滅茶苦茶なことをしていることに気が付かなった点。そしてもう一つは、我々を――ホークウィンドという男を侮っていた点だろう。
「なっ……!?」
ホークウィンドと共有されている視界の中で、ジブリールの目が驚愕に見開かれているのが確認できた。素晴らしい反応速度で大八方を避けたまでは良かったが、まさか巨大手裏剣の影から巨漢が迫ってきているなど、合理的な判断をする第五世代型アンドロイドは夢にも思わなかったのだろう。
「鷹風流、裏奥義……絶影!」
少女とすれ違うさま、男は手刀に気を込めて腕を振り抜く――ホークウィンドはある種の思い込みで錬気を行い、爆発的な身体能力を発揮しているが、肝心なのは実現できると信じる心らしい。要するに絶影とは、ホークウィンドという達人が放つ全身全霊の一撃であり、巨大手裏剣の投擲の何倍もの破壊力を秘めた攻撃になる。
下から見れば、月を背後に二つのシルエットがすれ違い――ジブリール側も流石の反応速度と言うべきか、どうやら紙一重で躱したらしい。男の手刀は本体を捉えることは出来なかったが――それでも羽の一枚を破壊することには成功したようだ。
「……ちぃ!!」
ジブリールは慌てたように舌打ちをし、残り五枚の翼を捨てて落下してきた。元々六枚の羽根で月からのエネルギーを受ける繊細な機構なのだから、それが一枚欠けただけでも危険はずだ――案の定、パージした五枚の翼は空中で爆発を起こしていた。
ジブリールとホークウィンドが背中合わせに着地したのはほとんど同時だった。だが、膝を着いたのはホークウィンドの方だった。上空でのすれ違いざま、ジブリール側もホークウィンドに対してビームダガーによる攻撃を仕掛けており、それが男の脇腹を焼いたのだ。
二人のダメージ量を比較すれば、ホークウィンドの敗北と言う形になるのかもしれない。しかし、ジブリールは天使としての翼をもがれ、セレスティアルバスターを封じられたのだ。後はT3達が合流すれば――上での戦闘は落ち着いたようで、こちらへ向かってきているのは確認できている――押し切ることも可能だろう。しかし、熾天使はその事実を認められないのか、美しい顔に確かな怒気を浮かべて背後へと振り向いた。
「……クソが!!」
「いけない……!」
ジブリールが振り向いた瞬間、自分の前に居たイスラーフィールが高速で移動し、ホークウィンドとの間に立った。
「ジブリール、ここは退こう」
「何を言っているの!? このクソ雑魚ナメクジどもを皆殺しにしてやらなきゃ気が済まないのにぃ!!」
「セレスティアルバスターの使用不可に、付近から集結させた天使たちは全滅……それに、クラウディア・アリギエーリもハインラインも止められた。ここで他の者たちに合流されたら、流石に不利だよ」
「でも……!!」
「レムとレアの裏切りを確認するという、私たちのすべき最低限のことはもう済んでいるから……殲滅までは必須じゃない。それなら、私たちは自分たちの身を守らなければならない……分かって……!」
感情的なジブリールと比べると第五世代型らしいイスラーフィールだったが、僚機を説得しようとする声にはどこか熱が籠っているように聞こえる。それに押されたのか、ジブリールは振り上げていた拳を降ろして、憎々し気に巨漢の背中を見つめた。
「勝負は預けるわ、ホークウィンド……次こそは絶対に壊してあげるから」
そう言い残し、ジブリールは光の粒子に身を包んで姿を消した。言ってしまえば完全迷彩なのだが、熾天使ともなると本当に気配が見えない。イスラーフィールも姿を消し――。
「今回の敗北は、私たちの慢心。でも、アナタ達の戦闘データは取れた。次は負けないから」
その声だけが廃墟に残り、二人の熾天使の気配は完全に消え去った。もちろん、今が好機と追撃することも検討はしたいのだが、ADAMsに対抗できるだけの速度を持つ二機を、しかも完全に気配を消されている状態で追いかけるのは無理だろう。ADAMsの使い手なら追えるかもしれないが、原初の虎はハインラインの器との戦闘で気絶しており、T3も片腕を潰されている今、追撃も厳しいのが現状だ。
そうなれば、一旦は撃退できただけでも良しとするか――ともかく治療のため、膝をついたまま動かなくなっているホークウィンドの方へと向かう。
「ホークウィンド、お疲れ様です。大丈夫ですか?」
「問題ない、と言いたいところではあるが……」
巨漢の正面へと回ると、口を覆う布の下から青白い皮膚がボロボロと落ちてきているのが見えた。
「血族でないものへの人格の転写に、無理な戦闘行動がたたりましたか……その肉体は限界でしょうか?」
「いや、まだ舞える……だが、遠からぬ未来に、その時が迫っているのも確かだ」
脇腹を治療しながら、二人だけに聞こえる声で話し合う。仮にレイバーロードの肉体が朽ちようと、次の器を探せば良いだけではあるが――ホークウィンドの体術に着いて行けるだけの器は、そう簡単には見つからないだろう。
とはいえ、慌てる必要はない。今日は失った物より、得た物の方が多いのだから。無論、それは自分の立場だから言える話で合って、他の者たちがそうであるとは限らないのだが。それを証明するように、丘から降りてきた者たちは、何やら浮かない表情をしているようであった。