B&T~記憶喪失の転生者、伝説級の暗殺術で異世界ディストピアをぶっ壊す~   作:五島七夫

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幕間:魔術神の帰還

 海と月の塔の最上階、モニター越しにエルフの旧集落での顛末を――我が熾天使二体の撤退を――見届ける。まさか、ヴェアヴォルフエアヴァッフェンと熾天使二体を使っても奴らのうち一人も仕留められなかったのは想定外だった。

 

 恐らく、初撃を躱されたのが致命的だったのだ。本来なら、セレスティアルバスターで敵の戦力を削いだ後、ジブリールとイスラーフィール、それにハインラインの器をぶつければ勝てると踏んでいたのに――まさか、いち早く勘づかれて結界を張られ、チェン一派も原初の虎も落とせなかったのが運の尽きだったのかもしれない。

 

「……どうするつもりじゃ、ルーナ」

 

 その声と共に、モニターの端にソルダールが映る。それを皮切りに他のハイエルフたちも次々と画面に現れはじめ、代わる代わるこちらに対して今後の是非を問う形で責任転嫁をしてきた。

 

 実際の所、世界樹に居るハイエルフたちは長生きしているだけの有象無象だ。遥か過去には優秀な研究者であったはずだが、悠久の時の中で向上心を失い、ただアンドロイドたちの上位に存在するという優越感から傲慢さだけが残る取るに足らない存在になり下がっている。

 

 そんな奴らでも上手く扱えば多少の役に立つと思って結託したのだが――アルジャーノンが、そして恐らくだがアルファルドも眠っている間に他の七柱共を倒してしまおうという計画に、こいつらも幾分か使えると思ったのだ。

 

 王都襲撃の後、レムとレアが自分たちを裏切る可能性は自分にだけは伝えられていた。それを上手く逆手に取り、チェン一派とレア、原初の虎が一同に介する所を襲撃する。これで自分に対する武力的な脅威はほとんどなくなるはずだった。

 

 ヴァルカン自身は武力を持たないし、ハインラインはアルファルドが居なければ起きることは無い。レムだけは厄介だが、それも海と月の塔の上層から通信を遮断すれば、外での暗躍は避けられる――電脳戦を継続しないといけないので互いにあまり身動きは取れないが、こちらは熾天使が二体居る分有利であり、ジブリールとイスラーフィールを戻せばいつでも制圧できるだろう。

 

 そしてアルファルドだが――先日の王都襲撃から魔族の神聖魔法の処理をオートメーション化していることから疑問を持ち調査をしてみたが、恐らくアルジャーノンと並んで休眠しているに違いないはずだ。レムの裏切りのタイミングも、奴だけは事前にアルファルドの転写先を認知しており、それ故にレムはアルファルドが動けないタイミングを見計らって行動に移したと予想できる。

 

 ともかく、アルファルドとアルジャーノンが倒れている今が全てを独占するチャンスなのだ。アルファルドとアルジャーノンの二柱は頭も切れて強力だが、高次元存在を手中に収めた後に何をしでかすか分からない不穏さがあり、出来れば排除しておきたいとはずっと思っていた。

 

 それに、レムとレア、それにハインラインも気に食わなかった。奴らは容姿が整っているほうであったし、ずっと自分のことを蔑んでいたに違いない。

 

 ともかく、諸々の感情を抜きにしても、高次元存在を活用するのは独り占めできた方が良い。そのため、ずっと他の七柱を出し抜けるチャンスを待っていたのであり、今がまさにその時だと踏んで自分も行動に出たのだ。

 

 しかし、アルファルドとアルジャーノンの本体は月にあるものの、セキュリティが強力で安易に手出しは出来ない――とはいえ、まだ復活までに三か月程度の時間がある。それ故に地上の連中を始末してから熾天使を送り込んで始末すればいいと思っていたのだが――。

 

「……ルーナ、どうするつもりなのじゃ?」

「えぇい五月蠅《うるさ》い! 考えておる所じゃ!」

 

 ハイエルフの連中は神格を持つほどの功績もなく、ただ我々の慈悲でこの星まで着いてこさせてやっただけの存在――それ故、こいつらは七柱に対しての劣等感が強い。とくにずっと近くにいたレアに対する悪感情は強力だ。その感情を上手く利用してやろうと思ったのだが、こいつらがやったことと言えばせいぜいハインラインのリミッターを外した程度に過ぎない。

 

 それでこんな風に狼狽し、責任転嫁をしてくるだけなのなら、最初から手など組まなければ良かった――そんな風に思っていると、ハイエルフの爺どもが集まる部屋の扉が開き、暗い通路から何者かが入ってくるのが見えた。

 

「……お邪魔しますよ、ハイエルフの皆さん」

「アレイスター・ディック……? 貴様、いつの間に……」

 

 こちらからはよく見えないが、ソルダールの視線の先にはアレイスター・ディックがいるらしい――しかし、何故彼がこんなところにいるのか、その理由が分からない。つい先日まで彼は王都で学院再建のために奔走していたはずだ。

 

 そうなれば、アレイスターがここに居ることは物理的にありえない。自分たちのように旧世界の移動手段でも使えれば話は別だが、王都から世界樹までは赤道を挟んで対象の位置にある――レムリアの技術を使えば、それこそ最短で踏破してもニか月程度の時間はかかるはずなのだ。

 

「飛んできたんですよ、特急便で……貴様らのようなくだらない連中を残しておくと、余計なことばかりしそうだからね」

 

 暗闇の向こうで、月明かりに男の眼鏡が反射する。画面の向こうからレバーを引く音が響いたのとほぼ同時に、風が吹き抜けるような音が聞こえ――モニターに映っている男達の顔に幾重にも線が入ったかと思うと、すぐに画面が真っ赤に染まった。

 

 カメラに血が付着したせいだろう、こちらとしては何が起こっているのかは視認は出来なかったが――ただ、恐ろしいことが起こっていることだけは分かった。最初の魔術で死ななかった者も何人かいたのだろう、老人たちの悲鳴と苦痛に呻く声をマイクが拾い、凄惨な地獄が向こうにカメラの向こうに広がっていることは容易に想像できた。

 

「……貴様、まさか……」

 

 最後にソルダールの声が聞こえた瞬間、何かが潰れるような音が聞こえ――そして画面が天井に取り付けられたカメラからの映像に切り替わる。部屋の中は鮮血と飛び散った臓器や四肢で床が埋め尽くされており――その中心にただ一人、その凄惨な光景の中で返り血の一つも浴びず、口角を上げるアレイスター・ディックの姿があった。

 

「ルーナ、見てるんだろう? 君が下らない謀《はかりごと》で爺どもをそそのかしたのは分かってるんだ……」

 

 アレイスターはそう言いながら、彼の姿を捕えているカメラをまっすぐに見据えながら笑った。この口ぶりに、魔術の演算の速さ、間違いない――。

 

「あ、アルジャーノン……復活しておったのか……」

 

 アルジャーノンがアレイスター・ディックに宿っているというのなら、飛翔の魔術を使うか、熾天使ウリエルを引きつれて来れば王都から世界樹まで一日で移動することも可能なはずだ。

 

 向こうから声を掛けてきたというのに、こちらの言葉に対してアルジャーノンは無反応で――先ほどの笑みは既に鳴りを潜め、ただつまらなそうな冷たい瞳で、じっとカメラの方を見つめているだけだ。

 

「ふ、復活していたというのなら、どうして連絡をよこさなかったのじゃ?」

「敵を欺くには味方からって言うだろう? ま、僕は君のことを頼れるとは思ってないけど……いや、なお性質が悪いな。恐ろしいのは無能な味方って言うのはまさしくこのことだろうね」

「くっ……舐めおってぇ!!」

 

 強烈な侮辱に対し感情を抑えられなくなり、画面の向こうにいる男に対して反論しようとした瞬間、男が手に持つ杖の先端がカメラへと向けられ――直後、光の矢が飛んできてカメラが破壊されてしまった。

 

「ひっ……!?」

 

 男の攻撃に対し、思わず小さく悲鳴を漏らしてしまう。ここに居れば安全であり、奴の魔術がここに届くわけでないのに――まるでカメラを貫通してこちらを射抜くほどの気迫があったせいだろう。それに思わずたじろんでしまった形だ。

 

 やり取りしていたカメラが破壊され、また別のカメラからアレイスター・ディックの姿が映し出される。今度は俯瞰ではなく真横、男の冷たい瞳がより近くに映し出される形になる。

 

「君達が浅知恵で無駄なことをしなければ、今しばらく勇者御一行とチェン一派の同士討ちを延長させられたんだ。それとも、君一人でチェン一派と邪神ティグリスを止められると思っていたのかい?」

「……未だ我が熾天使は健在、そのうえ各地に散らばっている第五世代達をぶつければ……」

「それは止めておきたまえよ。無駄に兵を浪費するだけさ……それこそ、量で御せる相手なら、僕らだってそこまで警戒していないさ。何より、彼らが君の思う程度の相手なら、旧世界で滅んでいたはずだよ?

 いや、浅はかすぎてそこまで知恵すら回らないのか……はは、まさにこれこそ、馬鹿の考え休むに似たりってやつだな!」

 

 アルジャーノンはそこで言葉を切り、目元を抑えながら豪快に笑い始めた。万年の付き合いがあるものの、この男の不気味さは未だに理解できない――しかし、今下手に刺激するわけにはいかない。こちらの独断は気付かれていたものの、幸いにして寝首をかこうとしていたことはバレていないからだ。

 

 それならば、ここは従順な振りをして切り抜けねば――酷い侮辱を受けて耐えきれない心地もするが、今この男を敵に回してプラスになることは何もない。

 

 アルジャーノンはひとしきり笑い終えると、またつまらなそうな表情を浮かべ、気だるそうな調子で話し出す。

 

「君みたいなやつはね、賢いって言うんじゃない。小賢しいって言うんだ……ともかく、愚かな君たちのおかげで計画も台無しだ。とくに、チェン・ジュンダーの元にハインラインの器と母なる大地のモノリスがあるのはマズい……手を打たないとな」

「どうする? ヴァルカンの手も借りるか?」

「いいや、放置で良いだろう。恐らく彼はレア側につくだろうし……あぁ見えて結構やる男だ、敵対はしたくないんだがね。

 さて、ルーナ。二人の熾天使を使わせてもらうよ? 君の尻拭いなんだ……イヤとは言わせないぞ」

 

 ジブリールとイスラーフィールを使われてしまうと、レムの制圧が出来なくなってしまうが、彼の提案は呑まざるを得ないだろう。アルジャーノンが復活しているとなれば、アルファルドも既に動けるという可能性が高い。そうなれば、今は二人を刺激しないように立ち回るのが先決になるからだ。

 

「くっ……分かった」

 

 不承不承に返事をすると、アルジャーノンは皮肉気に口元を吊り上げて手を振り――同時にカメラが切れて画面が真っ黒に染まった。




【連絡事項】
こちら、投稿時間の設定を誤って投稿してしまいました。
そのため、6/1は2話分投稿となりましたが、6/2は引き続き投稿いたします。
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