B&T~記憶喪失の転生者、伝説級の暗殺術で異世界ディストピアをぶっ壊す~   作:五島七夫

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八章:散り行く花、あるいは極地の激戦
基地への空路にて


 横開きになった自動ドアを一歩、二歩と踏み入れてから振り返り、自分は一緒に艦内を見て周っているティアの方へと振り返った。

 

「それでこちらが……キッチンです!!」

 

 宇宙船ピークォド号に乗り込んでから、すでに丸一日が経過していた。船に乗ってからしばらくの間は各々が前日の疲れや傷を癒すのに休んでいたのだが、今は落ち着いており、気晴らしのためにティアに船内を案内することになったのだ。

 

「あぁ、ありがとうナナコ……しかし記憶喪失だって言うのに、船の中のことを覚えているものなんだね」

 

 緑色の髪を振りかざしながらティアがキッチンの中へと入ってきて、辺りを見回してから自分の方へと振り返って真紅の瞳でこちらを見つめてきた。

 

「えぇ、そうですね……私も扉に近づくと何となく、何の部屋だったか脳裏に浮かんでくると言いますか……ともかく、以前に私がここにいたことがあるのは、間違いないみたいです」

「なるほどねぇ……しかし、キッチンと言っても見たことのない機材ばかり……いや、そうでもないかな? 海と月の塔の部屋に割り当てられてたキッチンに近い感じがするね」

 

 ティアはコンロの前に移動すると、つまみを回して火をつけたり消したり、シンクの水を流したりしている。

 

「そう言えば、ティアさんは料理出来るんですか?」

「あぁ、出来るよ。何なら、クラウに料理を教えたのは半分はボクさ。もう半分がステラ院長……彼女の技を見てボクが出来るようになって、それをクラウに教えた形だね」

「なるほど……なんだか話を聞いていると、ティアさんはクラウさんのお姉さんみたいですね」

「あはは、なるほど、お姉さんか……あんまり気にしたことはなかったけれど、確かにそういう部分もあるかもしれないね」

 

 シンクから視線を離してこちらを向いたティアは、そう言いながら寂しげに口元に微笑みを浮かべた。あぁ、そうだった――こんな話はしないほうが良かったかもしれない。気晴らしに船内を散歩していたというのに。

 

 キッチンを出てしばらくの間、ティアは物憂げな表情をしたまま黙ってしまった。事態が好転していないのは火を見るよりも明らかなのだが、他に良い話題も思い浮かばず――それに、やはり自分もクラウのことが心配であるのだし、彼女の容体を聞いてみることにする。

 

「あの……クラウさんの調子は……?」

「相変わらずだね。退行してしまって、とても普通に話せる状況じゃない」

「その、ティアさんのことは……」

「……やはり、忘れてしまっているみたいだ」

 

 ティアは目をつぶりながら頭を振る。物心ついた時から一緒にいた相手が自分のことを覚えていない、それはきっと凄く辛いことだ。もちろん、起こってしまった事実は変えようが無いし、自分がティアにできることと言えば気晴らしに付き合うことくらいだが――そんな風に思っていると、ティアは困ったように眉をひそめながらも笑ってくれた。

 

「あはは、そんな顔をしないでおくれよ……確かにクラウがボクのことを忘れてしまっているのは喜ばしいことじゃないけれど、彼女はボクのことを敵視しているわけじゃないからね……こればかりは不幸中の幸いと言ったところか。敵視さえされてなければ、また関係性を作っていけばいい。

 だけど……ボクはルーナのことを絶対に許しはしないよ」

 

 途中までは穏かな調子だったのに、最後の一言は静かで、同時に凄まじい怒気がこもっており――それこそ、味方であるはずの自分すらも怯んでしまうくらいのものだった。思わず固唾を飲み込むと、ティアはこちらが引いてしまっているのを察知したのか、鼻の頭を掻きながらいつもの柔らかい雰囲気を取り戻した。

 

「えぇっと、変な雰囲気にして悪かったね……所で、ここが艦内の最奥かな?」

 

 ティアが指さした方向には、通路の果ての部分――黄色と黒の警戒色で囲まれている扉があった。

 

「そうですね……あの扉も何となく覚えはあるのですが……」

 

 二人でその扉の前へと立ってみるが、センサーは動かないようだった。扉の横にある装置を動かせば開くのかもしれないが、どう操作すればいいのかも皆目見当もつかないし――。

 

「……こんな厳重に保管されている所、入ったのがバレたら怒られちゃいそうですし、確認するのは止めておきましょうか」

「ふぅん……そんな風に言われると、つい中を見たくなるね」

 

 そう言いながら、ティアは装置の前に立って、適当にボタンを押し始めた。とはいっても、やはり簡単には操作できないようになっているのだろう、少ししてティアは両手を上げて「お手上げだ」と呟いた。

 

「ここには何か大切な物が保管されているのかな?」

「恐らくは……それに、残りの部屋もエンジンルームとか、私が見ても機能が全然分からないところばかりなので、案内しても意味不明かと」

「それじゃあ、一旦アラン君達の所へ戻ろうか。もしかしたら、彼も目を覚ましているかもしれないし」

「そうですね……そうしましょうか」

 

 二人で踵を返し、アランの眠る医務室の方へと向かう。アランは先日の戦いによる怪我が原因なのか、未だに意識を取り戻していない。怪我は既に完治しており、またピークォド号にある様々な医療機器から命に別状は無さそうとは判明しているのだが、それでも丸一日眠ってしまっている。

 

 彼の体についてはエルフの長であるレア――ファラ・アシモフがある程度理解しているとのことだが、彼を蘇らせたのはレムであり、正確なことはアシモフにも分からないとのこと。肝心のレムは通信できない状態らしく、ひとまずは手の打ちようもなく、彼が起きるのを待つことしかできないのが現状だった。

 

「アランさんって、以前にもこんな風に目を覚まさないことってあったんですか?」

「うぅん、どうだろう……何度も死んでおかしくない重症を負っていたけど……そう言えば、あくまでも気持ち程度だけど、大怪我をするたびに意識を失って、段々と眠る時間が増えていっていたような気もするね」

 

 龍と戦った後は比較的すぐ、魔王と戦った後は数時間で目を覚ましていたが、王都襲撃の後は半日は目を覚まさなかったとか。

 

「……そう考えると、アランさんにこれ以上の無茶はさせられないかもしれないですね」

「そうだね……次は目を覚まさない、なんてこともありうるかもしれない。それに、最悪の場合は……いや、止めておこうか」

 

 ティアは途中で言葉を止めたが、彼女の言いたいことは分かる。最悪の場合、もう次は無いのかもしれない――それは自分も考えていたことだ。とはいえ、あくまでも可能性の一つとして検討しただけで、もう少し待てばひょっこりと目覚めてくれるという予感もある。

 

 何にしても、不安なことが山積みな状態でマイナス思考で居ても仕方がない。自分は両手を握って笑顔に努めた。

 

「きっと大丈夫ですよ! アランさん、頑丈ですし!」

「あぁ、そうだね……ボクもなんだかそんな気がするよ。何せ、アラン君だしね」

「はい!」

 

 ちょうどティアに相槌を打ったタイミングで、医務室の前まで戻ってきた。そして自動ドアが開かれ、何の気なしに足を室内に一歩踏み入れた瞬間、そもそも自分たちが何故に気分転換に外に出ていたのかを思い出した。

 

「……ティアにナナコ、おかえりなさいませ」

 

 その声は、扉の横から聞こえた。そちらを見ると、アガタ・ペトラルカがベッドに腰かけ、なんだか疲れたような表情でこちらを見ていた。

 

「あぁ、ただいまアガタ……それで、アラン君の様子は?」

「見ての通り、まだ眠ったまま……ついでに、あの二人も大体あんな調子ですわ」

 

 アガタが顎で指し示したほうを見ると、二つの金髪が一つのベッドを挟むように対峙しているのが見える。二人とも、目の下にクマを作って、片時もそこからを離れようとせず――眠っている青年の顔を見るとき以外は、彼の体の上で視線の火花を散らしている状態が続いていた。

 

「テレサ様、なんだか眠たそうですよ?」

「何回も言っているけれど、テレサではないわ。そう言うアナタも、先ほどからうつらうつらしてるんじゃない?」

「むっ……グロリアさん、その体はテレサ様の物です。我が物顔でいるのもどうかと思いますが?」

「別に、我が物顔でいる気はない……気が付いたら、この体に宿っていたというだけなんだから」

 

 ソフィアとグロリアが、ずっとこんな調子でバチバチしており、その空気に耐えられなくなってティアを案内しに出ていたのをすっかり忘れてしまっていた。

 

「そもそも、アナタはアランさんの何なんですか?」

「人に質問するときは、まずは自分のことから説明するべきじゃない? と言いたいところだけれど……そうね……将来を誓いあった仲、かしら」

「……えぇ!? ど、どいうことですか!?」

「どうもこうも、言葉通りの意味、だけど……?」

 

 グロリアは最初の内こそ得意げな調子であったのだが、段々と気まずそうに視線をソフィアからずらしていく。そして、それを見逃すソフィア・オーウェルではない。少女はじっとした視線を亜麻色の髪の女性に投げかけた。

 

「怪しいです。何かちょっとしたことを拡大解釈してるんじゃないですか?」

「そ、そんなことないわ。全部終わったら一緒に暮らすって約束したもの」

「む、むぅ……それはそれで確かに結構重大な約束をしているようですけど……でも、雰囲気的には結婚とか、そういう意味合いではなさそうですね?」

「そ、それは……そうだけど……」

「きっと、止むに止まれぬ事情があって、行く当てのないアナタをアランさんが養ってくれるとか、そんな感じの約束なんじゃないですか?」

「あ、うぅ……」

 

 ソフィアの怒涛の質問ラッシュに、グロリアは反論することが出来なくなっているようだ。しかし、最初の印象ではグロリアという人格は攻撃的で少々きつそうと思ったが、こう見るとなんだか可愛げがあるようにも感じられる。

 

 むしろ、ソフィアの方が怖いかも――そんな風に思っていると、自分の隣でティアが小さく手をあげて、ソフィアの攻撃を遮った。

 

「ちょっといいかいソフィアちゃん。テレサ姫の中にいるグロリアという人格は、アラン君と旧知だっていうのかい?」

「あ、うん。多分そうだよ。まぁ、本人から聞いた方が早いと思うけれど……ダンさんが言っていたことは事実だった、ということになるのかなと」

「えぇっと、それはつまり……アラン君の前世は本当に邪神ティグリスだった……ということかな?」

 

 ティアの質問に対し、ソフィアは小さく頷いた。

 

「レム神の真意は分からないけれど、可能性としては十分にあり得ると思ってたよ。卓越した危機察知スキルやADAMsを利用した戦闘能力もそうだけど、それ以上に……レム神が何か重大なことを任せる相手なら、それ相応の格は必要になるから」

「はぁ……クラウは大分動揺していたけれど、ソフィアちゃんはアラン君がティグリスでも構わないって思ってた訳か」

「うん。だって、旧世界においては、七柱も古の神々も、互いに自らを正義と思って戦ってただけなはずなんだ。

 そうなれば、仮にアランさんの前世が邪神と呼ばれる存在であっても、それは勝者側が敗者にそう烙印を押し付けただけで……アランさんの存在そのものが邪悪であることの証明にはならないもの」

「確かに、アラン君はアラン君だしね。同時に、ソフィアちゃんは七柱の創造神達に対して疑問を持っていた、ということになるのかな?」

「ジャンヌさんの顛末を見たら、ね」

 

 ソフィアがそう言うと、場は一気に静かになってしまった。ジャンヌとやらの顛末を自分は知らないが、何か重大なことがその人の身に起こったということなのだろう。そしてややあって、ティアが頷き口を開いた。

 

「成程……しかしそれにしても、七柱の創造神と敵対していた者を蘇らせるは、少々腑に落ちないけれど……」

「うぅん、そんなことないよ。レア神……アシモフさんを筆頭に、七柱の創造神の間で内部分裂が起こってるんだ。そうなれば、敵の敵は味方……ということで、邪神ティグリスを蘇らせてもおかしくはないかなって」

「ふむ……それなら、記憶を持ったまま蘇らせれば良かったように思うけれど……アガタ?」

 

 ティアはソフィアから視線を離し、変わらずベッドに腰かけているアガタの方を見た。

 

「私も何故記憶をもたない状態で復活させたのか、その辺りの事情は細かくは聞かされておりません。ただ、元々レムはアランさんがこのような渦中に身を投じることを前提にはしていなかったようです……魔王と対峙し、ADAMsを取り戻したのは想定外だったようです」

 

 その言葉に、ソフィアもライバルから視線を放し、アガタの方へと振り返った。

 

「そうなんですか? それだと、私の仮説は崩れてしまうかも……」

「ソフィアさん、私に対して敬語は止めてくださいな。ともかく、レムがアランさんに依頼した、この世界を見て欲しいは何の表裏もない事実……そのうえで前世の記憶が無い方が、フラットな意見を聞けると思っていたのは本当のようです」

「……アガタさんは、アランさんを蘇らせた理由は聞いてるの?」

 

 恐らく、ずっと敬語で接していた相手に慣れていないのだろう、ソフィアの口調はなんだか少したどたどしかった。しかし、ソフィアが敬語を崩せる相手は、結構信頼している相手との印象がある――それをアガタも感じているためか、たどたどしい敬語に対しても柔和な笑みを浮かべて少女の方へと視線を移した。

 

「えぇ。レムがアランさんを蘇らせたのは、ゲンブ達と手を組むか決めるため……この世界の在り方が彼の感性から言って間違えているのなら、レムはゲンブ達と協力し、可能ならレアとヴァルカンと手を組んで、急進派の七柱と戦うように考えていたようです。

 そして、彼はこの世界が歪んでいると判断し……それに合わせて、レムはゲンブたちと手を組むことを決めたのです」

「……それは、私たちを守るため、だったのかな」

「そうですわね……彼は七柱の創造神たちが管理するこの世界の在り方に疑問を持ち、アナタ達の心を守るための最善は何かを常に考えていたと聞いています。ゲンブたちと敵対行動を取っていたのも、戦うポーズをとっておかないと、アナタ達に何をされるか分からないからであったとも」

「そっか……やっぱり見えないところでも、アランさんはずっと戦ってたんだね……」

 

 ソフィアはまたベッドに視線を戻し、泣きそうな表情で眠る青年の顔をじっと眺めた。対面にグロリアは、なんだか腑に落ちない、という表情でアランやアガタの方へと視線を行ったり来たりさせている。

 

「……ちょっと、話についていけないのだけれど?」

「アガタ、グロリアには事情を説明していないのかい?」

 

 押し黙ってしまったソフィアに代わって、ティアがアガタに質問をした。

 

「はい。ピークォド号に乗るまではルーナの監視がありましたから。テレサ姫にもグロリアにも説明はしていませんでした。

 また、南大陸を移動している間は、今ほどグロリアさんの人格が前に出てるわけでもなかったですし……というかグロリアさん、テレサ様は今どうされているのですか?」

「アナタ達の感覚で言えば、ちょうど目が覚めた、と言うべきなのかもしれないけれど……」

 

 そこでグロリアは一旦言葉を切って、静かに目をつぶる――次に瞼を開いた時には、なんとなくだが暖かい印象に変わっていた。恐らくだが、テレサ姫の人格が現れたということなのだろう。

 

「段々と、互いの人格の境界が曖昧になってきている感じがするんです。私はテレサなのか、グロリアなのか……今はまだ、彼我の差はあるんですが……徐々に記憶と感情が混同し始めているんです」

「……それは、大丈夫なのかい?」

 

 ティアが心配そうに声を掛けると、テレサは苦笑いを浮かべた。

 

「あはは、大丈夫か大丈夫じゃないかも良く分からないですね……ただ、別に後悔はしていません。あのまま王城に籠っていたとしても、きっと何も変わらなかったし、気分も晴れなかったから……ただ……一つだけ、恐ろしいことがあります。

 私は、果たして誰に好意を寄せていたのか……私は、シンイチさんのために魔人の力を受け入れました。でも、魔人はアランさんを想っていて、私は変わらずシンイチさんを想っています……この想いが曖昧に霧散してしまうのが、何よりも恐ろしいのです」

 

 そう、絞り出すように紡ぎ出された言葉はなんだか痛ましく、先ほどまでつんけんしていたソフィアも申し訳なさそうに俯いていた。

 

 人格が融合していく、記憶や感情が自分だけのモノでなくなる――それはどんな感じがするのか。なんとなくだが、恐ろしいことのように思う。つい先日までは自分で思い通りにしてきた身体と心が、自分だけのモノでなくなるという感覚――記憶喪失の自分がそんな想像をするのもおかしな話なのかもしれないが、自分が自分でなくなるような恐怖感というのは味わいたくはない。

 

 テレサという女性は、そんな恐怖感と戦っているのか――いや、彼女の言葉を借りるなら、それすらも良く分からなくなっているのか。ともかく渦中の本人であるテレサは、またなんだか申し訳なさそうに笑い、ソフィアの方を見た。

 

「ソフィアさん、ごめんなさい。私がアナタの邪魔をしてしまったようで……」

「あ、いえ、テレサ様が謝ることでは……」

「いいえ、アナタがアランさんを大切に想っているのは、イヤと言うほど分かりました。それは、私の内の魔人も理解してます……ともかく、私は少し眠ります。意識は覚醒してても、身体に疲れが溜まっているようなので……」

 

 テレサはそう言いながら、空いているベッドの方へとフラフラとした足取りで向かい、そのまま倒れ込むように横になった。

 

「……ソフィアさんも、眠っておいた方が良いですよ。アランさんが起きた時に、目の下にクマを作ってたら、心配させてしまうでしょうから」

 

 それだけ言い残し、テレサ姫は枕に顔を埋めてすぐに寝息を立て始めた。それを見送って後、ソフィアは再びアランの方へと向き直るが――すでにほとんど完徹しているのだから、瞼を擦ってつらそうにしている。

 

 ある程度は好きにさせてあげたいけれど、これ以上はストップをかけるべきだろう。自分はドアの前からようやっと離れてソフィアの隣にまで移動し、その小さな肩を叩いた。

 

「テレサさんの言う通りだよ、ソフィア。大丈夫、アランさんが起きたら、ソフィアのこともすぐに起こすから」

「……ほんと?」

「うん! まぁ、私が起きている内は、だけど……」

「それじゃあ、ナナコが寝るときには私を起こして」

「それは構わないけれど……そこまで無理しなくても良いんじゃ……?」

「……約束だから」

「えっ?」

 

 ソフィアは眼を擦りながら呟き、アランの眠る隣のベットの布団を持ち上げた。

 

「アランさんが戻ってきたら、一番最初にお帰りなさいって言うのが私の仕事なの。だから、本当は眠りたくないんだけど……でも確かに、私も限界だから……」

 

 呟くような声が聞こえると、またこちらからもすぐに寝息が立ち始めた。火花を散らしていた二人が寝入ったことで、ようやく医務室にも落ち着いた空気が戻り、ティアもベッドに腰かけてアガタに向かって話しかけた。

 

「……えぇっと、それで、結局ボクらはどこに向かっているんだっけ?」

「何やら、ゲンブの作ったアジトへ向かっているようですわ。この星に人形だけ降ろした際に、七柱にバレないように作った場所らしいですけれど……三百年の増築で、結構な規模間になっているらしいです」

 

 本来は単独で大気圏を突破できるピークォド号の速度であればすぐに着くらしいのだが、七柱にバレないように迷彩をほどこしながらゆっくりと移動しているので、到着までには今しばらくかかるとのこと――とアガタが説明してくれた。しかしこの場にいる全員が科学的なことにはあまり強くないので、三者ともなんだか煮え切らない表情で「なるほど……」と呟くこととなった。

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