B&T~記憶喪失の転生者、伝説級の暗殺術で異世界ディストピアをぶっ壊す~   作:五島七夫

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高次元存在の目的について

 会議が長引いたことにより、少し休憩時間が取られることになった。席を立つ者や隣席と会話する者など様々にいるが――自分としては右隣で俯いているスザクのことが気にかかった。

 

「スザク、大丈夫か?」

「半分はね……アランさん、シンイチさんは本当に悪い人なのでしょうか?」

 

 喋っている途中でスザクの雰囲気が変わった。こちらの呼び方的に、今はテレサの人格が前面に出ているということだろうか。シンイチは彼女の想い人でもあった訳で、先ほどの話で彼が敵側と知った今は複雑な心境であろうと察することができる。

 

「そうだな……少なくともソフィアの記憶を改竄したのはアイツみたいだから、良い奴とは言い難いだろうが……アイツを疑いたくない気持ちは分かるよ」

「……何故、ですか?」

「うーん、そうだな……勘でしかないが。アイツと話をしていた感じが、かな。別に人の心が分からないやつではないし、逆に気を使ってしんどそうにしていたというか……頭は少しばっかり良いけど、後はどこにでもいる青少年って感じと言うか……」

 

 こちらの言葉に対し、スザクは視線を落として悲し気な表情を浮かべる。

 

「そうですか……むしろ、私はあの人のことを全然見れていなかったんでしょうね。寡黙で、高潔な方だと私の目には映っていましたから……きっと勇者様としての側面しか私には見えていなかったのでしょう」

「そんな……見れてなかったってことは無いんじゃないか? 人によって接し方も変わるし、見え方も違うってだけの話だろ?」

「そうかもしれません。でも……私はアランさんが羨ましいですよ。シンイチさんは、ただアナタにだけ、気を許していた部分があると思いますから……」

 

 スザクはそこで言葉を切って、静かに目を閉じ――再び瞼が開いた時には、先ほどの少々勝気な雰囲気に切り替わっていた。

 

「……実際、シンイチさんとやらが右京であるとするなら、アナタに懐いていたのも納得するけれどね」

「今度はグロリアか……どういうことだ?」

「アイツはアナタを先輩と呼んで慕っていたから……傍から見たら、アレは演技には見えなかった。本心から、アナタのことを信頼していたように思うの」

「……なるほどな」

 

 逆を言えば、アイツはかなり早い段階でこちらの正体に気づいていたのだろう。それこそレムの記憶を見ていたのか、自分の立ち居振る舞いを見て判断したのか――どちらかと言えば後者のように思う。

 

 つまり、アイツの言う「先輩に似ている」はある意味では言葉通りの意味だったのだ。自分とオリジナルは正確には別人なのかもしれないが、それでもこの身を構成するDNAはオリジナルの物であり、ある程度は人格も似通っているのだろうから。

 

 そう思えばこそ、自分としてはやはり混乱してしまうのが本音だ。あの夜――魔族によるレヴァル襲撃があった後、城塞都市で語らったことを思い出すと、シンイチは自分に対して悪意を持っていたとは思えない。

 

 もちろん、その悪意は自分に対しては無かっただけで、他の者に対して向いていたのなら問題なのだが――そんな風に思っていると、スザクは机を見つめながら眉をひそめて口を開く。

 

「でも、私はアイツを許さないわ。右京の本心がどうであったかなんて分からないし、知ろうとも思わない……けどね、アイツが裏切って、私の大切なものを奪っていったのもまた事実」

「難しい奴だな、お前はさ」

「そうね、難しいわ、我ながらね……でも、アナタが一番アイツに対して怒る権利があると思うわよ? 何せ、アナタの信頼を裏切ったのはアイツだもの」

「……そうかもな。でも残念ながら、裏切られたことも覚えてないし……何なら、この世界の俺は裏切られてないからな」

 

 そう、オリジナルは裏切られたのかもしれないが、クローンである自分はまだ裏切られていない――それがアイツを恨めない理由かもしれない。そう思ったタイミングでゲンブが人形の小さな手を叩き、それに合わせて各自が元々座っていた席に戻り始める。

 

「……と、時間だな。良かったら、また色々と聞かせてくれよ」

「構わないけれど……私はあまり、右京の話はしたくないわね」

「そうか……そうだよな。でもまぁ、聞きたいことは色々あるんだ。右京以外のことでも構わないからさ」

「えぇ……そうね。私もアナタと色々話したいし」

 

 自分とスザクは会話を切り上げ、円卓そのものに座す人形の方を見つめる。そしてゲンブも全員が着席したのを見てから口をカタカタと鳴らし始めた。

 

「さて、それでは会議を続けましょうか。特に質問が無いようなら、今後の動きについて話したいと思うのですが……」

「質問だ。結局、七柱の創造神たちの狙いは何なんだ? 一応べスターから軽く聞いてはいるが、一万年前のことだしな」

「そうですね……まだ詳細を知らない人も居るはずですし、改めて話しましょうか。アシモフ、私の説明で何か齟齬や不足があったら訂正や補足をお願いします」

 

 老婆が無言で頷き、人形が改めて席についている全員を見渡した。

 

「では、彼らの目的と旧世界での顛末、そして七柱の創造神と名乗る彼らがこの星で何をするつもりだったのか、という順で話していきましょう。

 まず、七柱の創造神、旧DAPA幹部たちの目的ですが、これは高次元存在……この世界の聖典で言うところの主神の力を我が物にするのが目的です」

「高次元存在……以前、学長がアランさんに話していたね」

 

 ゲンブの話が一段落したタイミングで、ソフィアが話に割り込んでゲンブの方を見た。

 

「ちなみに少し脱線ですが、学長ギルバート・ウイルドには魔術神アルジャーノンが宿っていた……これは間違いありませんか?」

「はい、仰る通りです。我々の王都襲撃の目的はアルジャーノンの撃破であり、これはセブンスの活躍によって達成しました。

 人格が宿っている状態で器が脳死すると、記憶修復のために半年は掛かりますから……もう三か月ほどはアルジャーノンは無力化されていると思っていいでしょう」

 

 ゲンブは一旦アシモフの方を見ると、老婆は再び無言のまま頷いた。要するに、ゲンブの認識は同じ七柱のレア神から見ても間違えていないということになる。

 

 そうなると、事態としてはこちらに追い風と言ってもいいだろう。学長に宿っていたアルジャーノンが動けないということは、同時にシンイチに宿っていた右京も動けないということになる――更にアシモフとレムは味方であり、ヴァルカン神は話せば味方に引き込めそうだ。つまり――。

 

「倒さなければならないのはルーナとハインラインだけか?」

 

 自分が質問をすると、ゲンブの代わりにアシモフが口を開いた。

 

「そうですね……七柱の創造神で言えば、ルーナの対処だけで済むはずです。ハインラインの起動に関しては、アルファルドの権限が必要ですので……また、エリザベート・フォン・ハインラインの身柄がこちらにあるのも僥倖ですね。

 とはいえ、ルーナは現在各地に点在している第五世代を起こして周っていますし、戦闘力で言えばジブリールとイスラーフィールが厄介です。なので、数の上で言えばまだまだ我々が不利ですし、決して楽な戦いにはならないかと」

 

 その後、アシモフから熾天使の共有を受け――テーブルの中央にホログラムが映り、映像付きで説明をされ――同時にラバースーツの男、アズラエルの説明も受けた。

 

 説明されているアズラエル自身は、何やらこちらのことをじっと睨んでいた。恐らくだが、元々は敵対者、ある種仮想敵として設定されていた原初の虎が護るべき主君の前に居るので警戒していたのだろう。

 

 そしてアシモフの説明が一段落したタイミングで、ゲンブが再び話を始める。

 

「さて、話を戻しましょう。高次元存在の存在は、旧世界から発掘された三つのモノリスの解析から発覚しました。そもそも、高次元存在の目的は、三次現存在である知的生命体の進化にあるのです」

「……どういうことだ?」

「乱暴な言い方をすれば人形遊び、哲学的な物言いをするなら存在意義の微分です」

「はぁ?」

 

 あまりに抽象的な言い回しに要領を得ず、思わず馬鹿みたいな返事を返してしまう。とはいえ、ゲンブは笑うこともなく、人形の瞳をじっとこちらへ向けてきた。

 

「アラン・スミス。もしアナタが肉体を持たず、ありとあらゆる時空間に干渉できる存在だとして……世界に価値を見出すことが可能でしょうか?」

「いやぁ、ミスったとしても時間を巻き戻せばいいし、何なら最初からミスをしない可能性が見えてるわけだろ? というか、常に利益が出る選択をしていけばいいし……楽しくはないかもしれないが、楽なのは間違いないんじゃないか?」

「それは、肉の器にあるアナタの尺度の話でしょう? 一歩引いた目線で考えてみてください……最初から全ての可能性を取捨出来る状態にあって、何が正解で、何が間違いなんですか?

 もっと言えば、肉体が無ければ生存本能も防衛本能もない、劣等感も優越感もない……そんな状態で、何が善で何が悪か判断できますか?」

「それは……出来なさそうだな……」

 

 言われてみれば、人が良いだの悪いだのを決められるのは、人の生と能力には限りがあり、個体差があって他者との比較があるが故かもしれない。クラウが苦しみの根源は肉の器にあるとか言っていたことを思い出す――逆を言えば、苦しみがあるから人は感情を持ち、能力に限りがあるから善悪を規程するのかもしれない。

 

 一方で、高次元存在とやらは――細かいことは分からないので恐らくだが――悠久の時を生きる肉体も無いような存在で、絶対的な力を持っている。そうなれば、何が良くて何が悪いかなど判断できないのだろう。たとえばある時、ある場所、ある個人にとっては良いことであったとしても、それは歴史の潮流と言う俯瞰した目線で見れば一長一短であるのと同時に、事実としての過去は残っても、そこに絶対的な善悪を見出すのは難しいのと同じようなものだろう。

 

 自分の中で思考をまとめると、自分の頭の中を覗き込んだかのようにゲンブは首を縦に振った。

 

「そう、高次元存在とはそういう存在なのです。人の尺度から見れば全知全能ですが、逆説的に言えば彼らには善悪を測る尺度そのものが無いのですよ。言ってしまえば始まりであり終わり、一であり全である高次元存在は、無限大に等しい可能性と時間の中で無意味な存在になり果てているのです。

 さて、そんな中で絶対者は考えた訳です……自らの存在が極大であり、世界に意味を見いだせないのなら、意味を見いだせるまで事象を細分化すればよいと。そのため、存在が活動できる次元まで世界を微分する作業……そして我々が存在する三次元空間たる宇宙が生じました。

 しかし、それだけでは宇宙には意味が生まれなかった。ただ一定の物理法則に従って、電子や素粒子が動きまわり、結合したり分離したりを繰り返すだけの世界……そこには良いも悪いもなかった。

 そこで、高次元存在はある者を生み出しました。それは物理法則に抗い、宇宙の平衡を破る存在……肉の器を持つもの、所謂《いわゆる》生物の誕生です。それらは高次元存在においてある一定の成果はあったようですが、宇宙に意味をもたらすには足りませんでした。

 なぜなら、単純な生物は物理法則に抗いはするものの、生存本能という一定のルールに帰結する……環境の変化に合わせて肉の器を適合させるような変化はするものの、長い時間の尺度で見れば細胞分裂と種の保存とを一定の規則の下で繰り返すだけです。

 そして、高次元存在は最後の介入を行いました。それは、生物の存在する環境へのモノリスの投下です……ここまでは大丈夫ですか?」

「……なんだか難しくてちんぷんかんぷんだが……」

 

 一応自分としては理解した気にはなっているが――端的でまとめると、高次元存在とやらは世界に意味を見出すため、宇宙や生物を作った。しかし、それだけでは足りなかったから、モノリスを投下したと。

 

 しかしこんな難しい話、周りは着いてこれているのだろうか――と言っても、この場にいる多くの者はすでに知っている話だったのだろう、ただ落ち着いて頷いているだけだった。恐らく、ここで宇宙の真理を初めて聞かされたであろうソフィアとティアは頭がいいから、普通についていけているようだった。ただ一人、ナナコだけがうんうん唸って居るのを見て癒され――良かった、なんだか良く分かっていないのは自分だけじゃなかったという安心感を得て――話の続きを聞くことにした。

 

「……まぁ、なんとか理解しているつもりだ。それで、モノリスってのは何なんだ?」

「はい。モノリスとは、一言で言えば生物が限定的に高次元存在に連結するシステムです。人間の尺度でそれを解析する時には、零と一とが複雑に絡み合う量子コンピューターのようなもの。超莫大なデータの集合体であり、未だに完全な解析はできておりませんが……幾分か分かっていることもあります。

 その解析結果によれば、生物はモノリスの影響により高度に知能を発達させる。中には言語を操り、経験や歴史を子孫に継承し、食糧の生産や備蓄を可能にさせ、文明を持つ高度な知的生命体も現れる。

 高次元存在が望んでいるのはそれです。有限にして生存本能を持ち、それ故に物理法則に反しながらも、高度な知性にて善悪を定義し、宇宙に意味をもたらす者たち……要するに、高次元存在は進化を促進するために、モノリスを生物の住む星に送り込んでいるのです。

 少し脱線にはなりますが、所謂魔術や神聖魔法という物も、ある知的生命体がモノリスを通して高次元存在に連結させているから可能になります。高次元存在にアクセスすることで、事象の境界面から並行世界のエネルギーや事象を発現させているわけですね」

「……つまり、私たちはモノリスを通じて、高次元存在に繋がっているのですか?」

 

 ソフィアの質問に対して、人形は頷いた。

 

「間接的に、ではありますが。その説明は、もう少し後にしましょう……ちなみに、私やグロリア、それに七柱の創造神たちは直接モノリスに触れているので、ある意味ではネイティブの魔法使いですね」

 

 ゲンブはソフィアに対して質問を返した後、改めて円卓に座る者たち全員を一瞥してから口を開いた。

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