B&T~記憶喪失の転生者、伝説級の暗殺術で異世界ディストピアをぶっ壊す~   作:五島七夫

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旧世界の顛末と生きる海について

「さて、ここからがDAPAの出番です。宇宙開発を推進していたDAPAは三つのモノリスを発見し、それらの解析を進めました。モノリスの解析に大いに貢献したのが魔術神アルジャーノン……本名ダニエル・ゴードンです。

 彼は元々知的障害者でありましたが、それを解消する手術により高い知能を得て、モノリス解析に尽力したと言います……そして解析の結果、いくつかのことが判明しました。

 一つは先ほど話したように、この世界の意味を究明するために知的生命体の進化を高次元存在が推進していること。そして、ある一定の進化を遂げた生物は高次元存在から自立することが分かりました。

 逆に、高次元存在が魂を分けた存在である生物が進化を遂げなかった時の顛末も判明しましてしまったのです」

「……どうなるんだ?」

 

 こちらの質問に対し、人形は意味深に頷いて後、一拍置いてから続ける。

 

「ある知的生命体が進化を遂げなかった場合、それらの生物は失敗作として役割を終えます。進化することが意味を更新し続けることを意味し、一方で知的生命体の停滞は意味を生み出さないからです。

 モノリスにより知能をもたらされた知的生命体はとくに高次元存在との連結が強く、その魂は主神の高次元存在の分霊のような存在……人が長らく肉体に宿る魂と考えていたものは、部分的に間違いではありません。魂というものは、モノリスを通じて肉の器に宿った高次元存在の一部だからです。

 それらの魂は一体一体は微細でも、群体としては影響力も小さくなく、そう言った意味で進化をやめた種族の魂を高次元存在は回収しに来ます……DAPAはむしろそちらに目を付けました。

 知的生命体がある一定の進化を完了してしまうと、親が子を離れるように、知的生命体は高次元存在から独立した道を歩まなければならない。それは逆説的には、一定の進化をなした生物は永久に三次元の檻に拘留されることを意味します。

 逆に三次元の檻を破り、人類が次元を超えた進化をするのなら、高次元存在と同等か、それ以上の存在にならなければならない……それが、DAPAの創設者、デイビット・クラークの提唱した理論でした。

 それ故に、DAPAは……クラークは、敢えて旧世界の人類を高度な情報戦略でもって形骸化し、進化を抑制することで高次元存在を母なる大地に降ろし、次元の壁を突破する術を手中に収めようとした……これがDAPAが旧世界において行おうとしたことです」

「またなんだか頭の痛くなる話だが……とりあえず、知的生命体の一定の進化ってのはどういったラインになるんだ?」

 

 質問すると、人形が首を回してエルフの老婆の方を見る――アシモフは頷き、こちらへと向き直った。

 

「端的に言えば、宇宙開発が出来るレベルの技術力を持つことです。三次元存在としての進化の一つの到達点として、恒星系の中に三つのモノリスを発見することが求められます。

 旧世界の人類で言えば、まずは月のモノリスを、次いで地中深くに埋まっていた母なる大地のモノリスを発見し……またその解析結果でもって、最後のモノリスを発見したことで、旧世界の人類は進化の臨界点に到達する寸前までいったのです」

「そこまで進化してたのに、旧世界の人類は停滞していると判断されたのか?」

「えぇ……進化と言うのは技術力レベルもそうだけれど、知的生命体においては精神的な要素も大きいのです。むしろ、技術的な面は高次元存在からしたら取るに足らない部分ですからね。そして、我々は……」

 

 アシモフはそこで言葉を切って目を伏せてしまう――旧世界で行った自分の行為を言葉にするのが憚られているのかもしれない。黙ってしまった老婆の代わりに、人形がこちらを向いて口を開いた。

 

「DAPA産のアンドロイドとAI開発による雇用減……社会管理においても、AIによる管理は無くてはならないレベルになっていました。そうでなくとも、国際化により世界的に文化、知識レベルがある程度画一化されていき、多くの地域で少子高齢化が進み、旧世界の人類は文字通りに若さと情熱を失っていたのです。

 世界規模で蔓延する停滞感に付随して、戦争を起因とする各国政府に対する旧勢力に対する人々の不信感や、環境破壊に上乗せして、同じくDAPAの情報技術の占有による世界的な情報統制に人々は厭世感を抱き、未来に対する希望もなく、ただ老いた犬のように静かに朽ちるのを待つだけになっていました。

 仮にDAPAがモノリスの情報を開示し、その解析結果を以て更なる技術発達……たとえば恒星系を抜け出せるような宇宙技術の発達を見せれば、人は更なるフロンティア精神を持ち直したかもしれませんがね」

 

 要するに、本来なら三次元存在として進化の最終形態に立つはずだった旧人類は、DAPAが情報を秘匿したことにより、精神的に停滞した状態に陥ってしまったということか。

 

「ふぅん……逆に、進化の停滞って言うのはどういう風に判断されるんだ?」

「ある知的生命体が一定の知能を持ち……すなわち生産を開始し、言語を操るようになってから三千年を目途に、技術の発展をさせず、また精神的な成長も見込めない状況が一定の期間続くことです。

 旧世界においても技術が停滞する時期はありましたが、地域ごとに独自性があり、ある地域が停滞しても別の地域が進歩する、ということはありましたから、全人類が同一に停滞するということは無かったのです。

 しかし、情報技術が発展すると、世界規模で技術レベルや文化レベルが画一化されるので、一斉に進化が止まる……ということがあり得てしまうのです」

 

 なるほど、確かにそうなるのか――と同時に、三千年と言う数字になんとなくだが感じる所がある。それは自分と同様だったのか、ソフィアが椅子から少し身を乗り出した。

 

「三千年となると、ちょうど惑星レムの歴史にも一致しますね」

 

 そうだ、ソフィアの言う通り――ブラッドベリがおよそ三百年に一度復活するのであれば、すでに九回魔王征伐が行われた今の状況では三千年近い時間が経過していることになる。

 

「えぇ、その通りです。ソフィアは賢いですね」

「アナタに言われると、なんだか含みを感じますが……」

「他意はありませんよ。本当に感心しているのです……まぁ、その辺りは旧世界での顛末を話し終えたら説明しますよ」

 

 人形はわざとらしく我らが准将殿に手を振ってから、姿勢を正した。

 

「さて、我々旧政府軍は諜報活動により……潜入工作をしていたのは私とホークウィンドですが……DAPAの目的を知りました。元より、戦争により信頼は失墜していたものの、国家レベルの力を凌ぐ力を持つ複合産業には各国が警戒を示していたこともあり、対応が行われたのです。

 その一環が、虎によるDAPA要人の暗殺……彼らも手を焼いたからこそ、惑星レムにおいても邪神ティグリスという名前だけ残った形ですね。

 そして実際、虎の活躍でデイビット・クラークの暗殺にまではなりました。DAPAはクラークのカリスマで纏め上げられていた部分もあり、その彼が暗殺されたとなれば我々の勝利も目前だったのです。

 しかし、クラークが没するのと同時に虎も殺され、急速にDAPAを纏め上げた人物がいます。その者こそが……」

「アルファルド……右京か」

 

 自分の呟きに対し、ゲンブの代わりにアシモフが小さく頷いた。

 

「はい。彼はクラークを倒した原初の虎の首と引き換えに、DAPA幹部の席を要求してきました。

 元々、DAPA側の厳重なシステムをハッキングしてくる彼の手腕は高く評価されていたし、敵対し続けるくらいなら引き抜けた方が良いだろうとその要求を飲んだのですが……その後は彼がクラークに代わって裏から指示を出すことで、DAPAは瓦解の危機から脱したのです」

「今にして思えば、彼は最初からその時を狙っていたように思いますね。クラークと言う絶対のカリスマが居る状態では組織を乗っ取ることが出来ない。それ故に、同じくコントロールの効かない原初の虎を差し向けてクラークを暗殺させ、虎も葬ってのち、組織が崩壊しかけたところに潜入する……自分の意のままに操れるように、ね」

 

 続くゲンブの言葉が本当なら、右京とやらは相当にやり手ということになる。むしろ、旧世界の二大組織を手玉に取り、掌の上で転がしていたというのか。

 

 実際、シンイチはどうであったか――涼し気で頭が切れ、思慮深く慎重、時に大胆だったが、世界を欺けるほどであったかと言えば疑問は残る。ブラッドベリがT2を手にしたときは本気で焦っているように見えたし――しかしそう思ってしまうのは、逆に彼がそれだけ自分のことを警戒させないよう上手く演じていた可能性もあるか。

 

 今となっては、実際の所は分からないが――やはり何となくだが、自分は右京という男を、正確にはシンイチのことを疑いきれていないのだろう。なるべく客観的に判断しようと努めてはいるが、どうしても心のどこかでフォローを入れてしまう。

 

 そんな風に思考をぐるぐると回していると、人形の口から出るカタカタという音に引き戻され、自分は改めて正面を向いた。

 

「ともかく、原初の虎亡き後は、私やホークウィンド、べスターにグロリア達が戦いを続けましたが……泥沼の戦いの果て、終には高次元存在が母なる大地に降り立ちました。ですが、DAPAにも誤算がありました。旧人類の魂を回収しに母なる大地に降り立った高次元存在をコントロール出来なかったのです」

 

 ゲンブがそこで言葉を切って横を見ると、視線の先の老婆が頷いた。

 

「元々、降臨する高次元存在は、モノリスを連結した超巨大サーバーに封印する予定でした。高次元存在と言えど肉体を持たない彼らは、言ってしまえば超巨大データの蓄積……人が作った規格に収まるかはゴードンは疑問視していましたが、どの程度の容量ならば捉えられるかは試してみないと分からなかったのです。

 そしてゴードンの懸念の通り、高次元存在を捉えきることはできませんでした。それは、旧政府軍によって母なるモノリスが奪取され、処理できるデータ量が規定値を下回っていたこともありますが……恐らく、モノリスがあと一つある程度では処理しきれなかったでしょう。

 そして捕らえきれなかった高次元存在は巨大な金色の光の粒子となって、旧世界を覆ったのです」

「巨大な光の粒子……光の巨人?」

 

 ティアの呟きに対し、アシモフは頷き返した。

 

「教会の聖典は、幾分か歴史的な事実に依拠して作られています……アナタの言う通り、聖典に語られる主神が金色の光を纏う巨人として記載されたのは、旧世界を覆った高次元存在が世界に降臨した姿のことなのです。

 制御しきれなくなった高次元存在は進化を止めた全ての人類を取り込み……そしてその際に生じたエネルギーにより母なる大地は人の住めない惑星になってしまいました。私たちDAPAの幹部陣は有事に備えて用意していた恒星間移民船……これは現在では魔王城として残っていますが、それで宇宙に逃れて……」

「……逆に、旧政府軍の僅かに残った残党は、月に逃れてDAPAを追う外宇宙航空艦を作成するのに時間を取られました。旧政府軍の宇宙技術は無人探査機などを打ち上げるのが主で、有人の宇宙船を外宇宙にまで飛ばす様な技術はありませんでしたから……DAPAを追う船を造ることに関しては、ほとんどゼロスタートという状態でした。

 宇宙船ピークォド号が完成するまでにはゆうに百年はかかり、多くの同胞は寿命により亡くなってしまったか、すでに戦う意志も削がれて月の海に眠り……こうして私とホークウィンドだけが、恐らくもう一度同じ実験をするであろうDAPAを止めるために彼らを追って長い旅に出たのです」

 

 ゲンブがそこで言葉を切って一息つくと、代わってアシモフが話し始める。

 

「チェンの言う通り、もう一度高次元存在を降ろすための実験をするために宇宙を彷徨っていた私たちは、新たな知的生命体と、その者たちが停滞の三千年間をおくる箱庭を求めました。

 まず、新たな箱庭としては、母なる大地に条件が近いこと……豊富な水分があり、同時に惑星の規模感が近いこと。そして……降臨する高次元存在を閉じ込められる檻とすることが可能という点を考慮しました。

 この惑星レムは、そのすべての条件に合致していました。海そのものが生きており、この海の情報処理能力を活用すれば、高次元存在を海に閉じ込めることが出来る……」

「レムの海が生きてるってのは、どういうことなんだ?」

「この星の海の底には、とある強大な装置が最初から存在していました……その装置が海をコントロールし、有機的な動きを示していた、が正しいですね」

「まどろっこしいな、つまり?」

「海底に無数のモノリスが埋まっているのです」

 

 アシモフの言葉には、自分はなんだかピンとこなかった。そもそも、モノリスというものすら自分の目で見ていないのに、それがどれ程すごいのかはあまり実感も沸かない。何より、先ほどの話によれば ――。

 

「アナタはこう思っていますね、アラン・スミス……この星には我々を除く知的生命体は存在しないのではないかと。それは今となっては正しいですが、過去には違ったであろう、ということです。

 先ほどチェンが説明した通り、モノリスは知的生命体を生み出すために作られる……そしてその目的は、宇宙開発が出来るレベルまで生命が進化することです」

「つまり、この星は遥か昔に他の知的生命体が居て、そいつらは一定以上の進化を成して、星の海に出ていったってことか?」

「そういうことです。それも、数千万年も前に行われていたようです。惑星レムに元々存在した知的生命体が残した遺物は、長い長い時間の経過による浸食と、人工の月を作成したことによるテラフォーミングによる影響で、ほとんど跡形もなく消失してしまいましたが。

 ともかく、この星にはただ知識のない原生生物と、持ち運ぶことのできないほどのモノリスとが存在する、我々の実験を続けるにはこの上なく都合の良い星だったのです。

 さて、初めて我々がこの星に降り立った時、レムの海は……正確にはレムのモノリス群は、我々に対して消極的な対応を取っていました。しかし月を作り環境そのものを変えようとしたとき、レムの海は怒り、我々を排除しにかかりました」

「それはなんでなんだ?」

「一つの仮説としては、原生生物の中に進化の兆しがあり、テラフォーミングがそれを阻害してしまうという説。とはいえ、テラフォーミングの事前調査では、知的生命体に進化しそうな生物はいませんでした。

 もう一つの仮説としては、この星を発った古の種族が、いつか戻ってくるのをモノリス達は待っていたから……先住民が住めない環境になるのを阻止しようとしたのではないかというもので、こちらの説の方がまだ幾分か説得力もあるように思いますね。

 とはいえ、我々もモノリスを完全に解析できているわけではないので、その真意は不明です」

「なるほど……それで、どうやってレムのモノリスを鎮めたんだ?」

「我々が運んできた最後のモノリスと、その管理者を海底に送り込み、海との対話を図ったのです。モノリス同士の共鳴により、レムのモノリスをコントロールしようとしたのですね。

 その目論見は功を奏し、レムのモノリスを活用できるようになった我々は、旧世界の技術を凌ぐ莫大な情報量をそのコントロール出来るようになり……その管理者こそが、アナタの知る女神レムです。

 彼女はおよそ一人の人間が持つはずの何兆倍という情報量の中で自己を喪失させ、今残っているのは管理AIの人格のみですが、記憶としてはオリジナルの物を持っています。その断片的な記憶の一部が、DAPAの所業に関して違和感を持ち、今回の行動に繋がったわけですね。

 次に、高次元存在の降臨に利用する新たな知的生命体に関してですが……最初は第五世代型か第四世代型の改良で代用しようとしていました。しかし、第五世代までのアンドロイドはモノリスに接続が出来なかったのです」

「はぁ……なんでだ?」

「これは右京の仮説ですが、宇宙に意味を生み出す知的生命体には、肉の器が必要なのではないかと……事実、旧世界の人類、つまり我々はアミノ酸からなる肉の器を持っていました。

 対する旧型のアンドロイドは、演算能力の高さから来る能力への自認や、自己保存の原則からくる消失への恐怖など、一部人間に近い感情や独自の思考を持つものの、高次元存在の望む意味の創設までには至らない。

 情報や知識が並立化され、ある程度決まった規格で身体を作成される第五世代までのアンドロイドは、すでに我々旧人類によって規程された倫理観を元に行動してしまいます。そのため、新たな意味を生み出すのには足らないのではないかと……」

 

 アシモフはそこで一度言葉を切り、改めてこちらを――ソフィアからアガタまでを流し見て息を吸い込んだ。

 

「そして、その仮説を元に作られたのがアナタ達……第六世代型アンドロイド、通称レムリアの民……チェン・ジュンダーがアシモフの子と称した者たちの正体です」

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