B&T~記憶喪失の転生者、伝説級の暗殺術で異世界ディストピアをぶっ壊す~   作:五島七夫

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女神との再会

 気が付くと、ほの暗い場所にいた。辺りをボンヤリと見回すと、キラキラと輝く星のようなものが見える――。

 

「……最初はトラック、次は龍、この後は一体何に轢かれるんでしょう?」

 

 その声に振り向くと、黒髪の女神、レムがいた。

 

「いや、もう轢かれたくはないな……俺、死んだのか?」

「そうですねぇ……死んだような、死んでないような……?」

 

 相手の答えも適当だが、こちらも頭がぼぅ、としており、思考が回らない。レムは何と言っていたか、次は何に轢かれる――そうだ、俺は龍にやられて――!

 

「レム! 俺は死んでる場合じゃないんだ! すぐに戻してくれ!!」

「……仮に戻ったところで、アナタに何が出来るんですか?」

 

 こちらの熱量に対して、レムは落ち着き払った様子で、そして冷たく言い放った。

 

「た、確かに、戻ったところで何が出来るわけでもないかもしれないが……」

 

 言いながら、何故こんなに自分が必死なのか、自分の心に問いかけてみる。少し考えても、答えは出ない。ただ、漠然とした焦りが、胸のあたりにもやもやと巣くっている。

 

「私は言ったはずです。別にアナタに戦って欲しいわけではないと。もちろん、アナタが冒険者になることは織り込み済みでした……しかし、あのような化け物と、戦う義理なんか無いのです。それこそ、相応の力を持つものに任せれば良い」

「だ、だが、しかし……」

 

 そうだ、あんな化け物と戦う必要なんかない。それこそ、勇者の役目だろう――そう思って、理屈では分かっても、どうしても胸のつっかえは取れない。

 

 ふと、ソフィアの顔が思い浮かんだ。自分が貫かれた時の、唖然とした、しかしすぐに泣きそうになっていたあの表情。それだけじゃない、まだエルに、この世界に来てからの借りは返せていない。クラウは――うん、まぁ、なんか良い奴な気がするし。

 

 そこまで思って、戻りたい理由が固まった。改めて女神と向き合うと、彼女はこちらの答えを待っているようだった。

 

「俺だって、別に化け物と戦いたい訳じゃない……ただ、あの子たちが心配なんだ。それは、戻る理由にならないか?」

 

 なんとか必死に紡ぎだした答え、それを聞いて、女神は微笑んだ。

 

「ふふ、ごめんなさい、意地悪しましたね……アナタは、そういう人です。そういう人だから、私はアナタを選んだのですから」

「そ、それなら……!」

「落ち着いてください……まず、龍はソフィアの魔術で撃破されました。それに、そもそもアナタは元から死んでますからね。言ったでしょう? アナタは不死身に近いと。体は……クラウディアが治してくれたので、大体復帰できますよ。ただ、血を多く失っているので、起きたらまず、肉でも食べて血を作ることをおすすめします」

「え、えーっと、つまり?」

「もうじき、アナタは目が覚めるってことです」

「そうか、それなら良かった……」

 

 戻れると聞いて胸を撫でおろすと、諸々の疑問が浮かんできた。そういえば、レムに対しては色々と確認したいことがあったのだ。

 

「そうだ、レム。俺の経歴とか、スキルのことなんだが……」

「ふふふ、色々悩んでましたね……自分が暗殺者だったとか、実は転生も妄想なんじゃないかとか?」

 

 そういえば、コイツはこちらの思考を読むんだった。というか、常時監視しているのか――。

 

「暇だな、とは失礼ですね。疑問にお答えしませんよ?」

「はい、失礼なことを思ってすいませんでした……それで、教えてくれないか?」

「……その前に、私からの質問にお答えください。この世界の所感、ひとまずお答えいただければと思うんですが」

 

 唐突すぎる質問で、正直何も思い浮かばない。なんとか頭を捻って、思い付きを述べることにする。

 

「うーん、そうだなぁ……なんとなくだが。世界は確かに、中世ファンタジーっぽい。だが、技術や知識がちぐはぐというか……特に軍に関しては、結構近代っぽい感じがしたな」

「はい、そうですね。最初に言った通り、この世界は有史以来、アナタの世界とは違う独自の進化を遂げてきましたから。前世のソレが丸々当てはまるわけではありませんね。他には?」

「ほ、他ぁ? うーん……」

 

 とは言っても、他に思い返すことと言えば、三人の少女との冒険のことくらいしかない。

 

「そうですよね、あの三人と一緒の時間が多かったと思いますから……しかし、運命とは皮肉ですね。どれだけ我々が緻密に糸を織り込んできたつもりでも、やはりすり抜けるモノは出てくるということですか」

「うん、どういうことだ?」

「よりにもよって、凄い子たちを集めましたね、ってことです……さて、そろそろ時間ですよ」

 

 何のことだ、そう思っているうちに、女神は最初の時と同じように一歩横に退いた。その先には、あの世界に降り立ったのと同様に、光の扉がある。

 

「いや、まだ俺の質問に答えてもらってないぞ?」

「ですが、もう時間なのですよ……アナタの体が目覚めてしまうのですから。私でもどうしようもないです」

 

 笑顔で言われた瞬間、光の扉の方に体が――魂がという方が正確なのかもしれないが――強制的に吸い寄せられる。図られた、この女神、こちらの質問に答える気など無かったのだ。

 

「失敬な。ただ、あまりアレコレ教えてしまうと、ちょっと問題があるのです。時がくれば、順々に明かしていきますよ……一個だけ、この場が妄想という疑念だけ晴らしてあげます。起きたら、手のひらを見てみてください。私が実在するという証拠に、メッセージを残しておきますから」

「お、おいレム! そんなんで俺は……!」

 

 納得しないぞ、そう言い切る前に光の扉に完全に吸い寄せられてしまう。そして、世界が白く反転した。

 

 今度は、視界に黒が広がる。黒いカンバスに浮かぶのは、文字通りの星々に、青白い満月、そして――。

 

「……アランさん! 良かったぁ……!」

 

 目に涙を一杯に溜めて微笑む、ソフィア・オーウェルの美しい碧眼があった。

 

「……なかなか、しぶといわね。実はアナタ、ゾンビかなんかなんじゃない?」

 

 声のした方を見ると、木を背に腕を組んで笑っているエルがいる。「そう言えば、アラン・スミスって名前がもうアレよね……」とか続けているのに対し、なんとか返答したいのだが、いかんせん体に全く力が入らない。

 

「……うん? アラン君どうしました、口をパクパクさせて……魚みたいですよ?」

 

 そう言ってクラウが近づいて来てくれ、こちらの口元に耳を近づけてくれたので、なんとか「ニク」と伝えた。

 

「あー……魚というより、ホントにゾンビみたいですね、アラン君」

 

 クラウはそのまま、あきれ顔で荷物の方へと歩いて行った。

 

 そういえば、手のひらに妄想ではないという証拠をメッセージとして残す、とかレムが言っていたのを思い出し、少女たちが荷物のほうへ移動している隙に、なんとか握っていた右の手のひらを開いてみる。すると、そこは前世の言葉で縦二行に分かれて、次の文字が痣のような形で刻まれていた。

 

『バカがみる』

 

 視認した瞬間、その文字は小さく煙を立てて消え去ってしまった。異様に達筆なのがまた、怒ればいいのか呆れればいいのか――ともかく、この世界に存在しない文字でメッセージが送られて、そしてそれを自分は解読できたのだから、転生した、レムが存在する、このあたりは嘘ではなかったという確証ができた。

 

 勝利の余韻に安堵が加わり、気分だけはすこぶる良い。夜風が頬を撫で――本来は寒いくらいなのだが、熱くなっていた心を落ち着けるのには丁度良いくらいだった。

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