B&T~記憶喪失の転生者、伝説級の暗殺術で異世界ディストピアをぶっ壊す~   作:五島七夫

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眠り姫の防衛線戦

 エルの眠る冷凍室に着くまでには、一体の第五世代型アンドロイドとも接敵せずにたどり着くことが出来た。逆を言えばここに来るまでにADAMsを使うこともなかったわけであり、同時に不要な消耗を抑えられたとも言える。

 

 部屋に入ってすぐ、改めてガラスの中で横たわるエルの元へと駆け寄る――先ほど見た時と変わり無く、彼女は腕を胸の上に置いて静かに眠っているようだった。

 

 まるで眠り姫のようだ、なんとなしにそんな言葉が脳裏をよぎった。しかし実際、彼女は世間的には王の子であり――実際にはテオドールの子であったわけだが――眠り姫と言うのもあながち間違いではないか。

 

 ともかく、彼女を敵に奪われないように行動せねばならない。眠り姫を起こすのが王子の接吻ではなくて勝利の知らせと言うのも味気ないかもしれないが。

 

 しかし、このシリンダーはどうすれば動くのだろうか。操作方法が分からないため、分かりそうな者に連絡を取ることにする。

 

「おい、ゲンブ。聞こえているか?」

「はい、はい……聞こえておりますよ」

 

 こちらの問いかけに対し、天井にあるスピーカーから声が発せられた。ゲンブも外でも戦闘をしているはずだが、なおこちらへも意識を向けられるとは、チェン・ジュンダーの精神力は凄まじいな――そんなことを思っている間に、自分の近くにある壁の一部が動いてモニターとキーボードとが現れた。

 

「そちらのコンソールを使って、シリンダーを移送させて下さい……コマンドプロンプトは分かりますか?」

 

 コマンドプロンプトとはなんだか良く分からないが、モニターを見てもプログラムの言語がずらっと並んでいるだけで、マウスやアイコンなどで直感的に操作できるものではなさそうだった。

 

 もしかすると、オリジナルの記憶で――本能的なものだが――何とかなるかもと思い、旧世界と同じ規格のキーボードへと手を伸ばしてみる。しかし、自分の指はうんともすんとも動いてくれなかった。

 

「……残念ながら、身体も覚えていなさそうだ」

「べスターの声は聞こえませんか?」

「ここに来るまでにまだ接敵していないからな……」

「なるほど、それでしたらスザクをそちらに回したのは僥倖かもしれませんね。彼女なら基本的なプログラムは理解できるはずですから」

 

 それにどの道、べスターの声が聞こえる状況ではアナタはコンソールを動かしている場合ではないでしょう、そう付け足された。

 

 ゲンブの言う通り、自分は身体を動かす方が向いている。そう思っている間に、廊下の奥から不穏な気配を感じ始める。個々の空間が密閉されたこの基地において、扉の向こうの空気の動きが分かる、というのも我ながらおかしな感じはするが――。

 

「しかし、第五世代型も侵入を始めています。そろそろそちらも……」

『ドンパチ賑やかになるな』

 

 べスターの声を聞きながら移動し、扉を開けて通路の奥を見る。まだ向こうはこちらを補足できているわけではなさそうだが、複数体の第五世代型アンドロイドが向かってきている気配を感じた。

 

『どうするアラン、変身するか?』

『一気に押し寄せられたら使わざるを得ないが……数体ずつなら、なるべく温存したいな』

『それなら、ADAMsも使わずに?』

『いいや……』 

 

 鞄から劇薬を取り出し、その蓋を開けて一気に飲み干す。ひとまず、ソフィアたちと合流するまではこれで間に合うだろうし、合流したらアガタに回復と補助をかけてもらえば、劇薬の消耗も誤魔化すことができるだろう。

 

 瓶を投げ捨てた瞬間、廊下の曲がり角から銃口を向けられる気配を感じる――こちらの頭を狙ったレーザーを、半歩ズレて首を傾けて躱し、ベルトから虎の爪を取り出して構えて見せた。

 

「ゲンブ、この部屋に入ってくるルートはこの扉以外には無いか!?」

「そこ以外にはルートはありません。後は運搬用のエレベーターに乗ってくる……この場合、二体以上は一気に降りてこれないでしょう。もしくは、壁を破ってくるかです」

「了解だ、この扉は開けっ放しにしておいてくれ!」

 

 運搬用エレベーターから来るのが一、二体程度なら、ADAMsを使えばすぐに戻ってくることは出来る。それに、ソフィアたちが来るまでに少しでも敵を殲滅しておいた方が合流もしやすいだろう。

 

 とはいえ、ADAMsを変身せずに使えば消耗が激しいのも確かだ。そのため、こちらから接近はせずに向かってくる敵を迎撃する形が良いだろう。遠距離武装を積んでいる敵に対して待ちの姿勢で臨むのは危険かもしれないが、向こうもエルを回収するために前進せざるを得ないはず――予想通り、二体の透明な敵はブラスターの引き金を引きながら、徐々にこちらへと向かってきている。

 

「カモン、カモン……うん?」

 

 一見すると透明な空間から放たれる光線を避けながら待っていると、天上や壁から音が聞こえ始め――そこから巨大な銃口が現れたと思うと、第五世代型アンドロイド達に向かって実弾の弾幕が張られる。

 

 天上や壁から薬莢が飛び、廊下に落ちて乾いた音を響かせ――大口径の実弾の掃射に逃げ場のなかった二体のアンドロイドはその身を徐々に弾丸に抉られ、次第に迷彩を維持することもできなくなり、最終的には動かぬ鉄塊と化した。

 

「ブラスターを撃たれれば、敵の位置は把握できますからね。施設内の迎撃装置でも、標準的な第五世代型アンドロイドならば十分に太刀打ちできますよ」

「それなら、俺が居なくてもなんとなかったかもしれないな」

「いいえ、第五世代型アンドロイドはセンサーにもカメラにも反応しませんから、アナタが囮になったおかげで位置を把握できたのです。とはいえ、こんなものもありますが……」

 

 敵の増援が来るのに合わせ、天上のスプリンクラーからシャワーが噴き出し始める。進軍してくる第五世代型アンドロイドの姿は水の中では見えない――雨程度は想定しているのだろう、水滴によってはほとんど視認性は変わらないが、その代わりに足元に溜まった水たまりが多少跳ね返るので位置は把握できる。そこを目掛けて再び弾薬が飛び始め、水と薬莢の雨が通路を覆った。

 

「……音も光も反射せずとも、迎撃できる立ち位置ならこのように見分ける手段はいくらか存在します」

「なるほど……それが、この大がかりな基地を作った理由か」

「とはいえ、弾薬の消費も多少は抑えたほうが良いでしょうから……二体程度ならアナタにお任せしても?」

「あぁ、問題ない」

 

 ゲンブ製のガトリングガンで鉄屑になった六体の第五世代型を眺めながら、誰にともなく頷いた。

 

 その後は自分一人で時間差で一体ずつ来た計三体の第五世代をADAMsを使わずに撃破すると、状況が少し落ち着いた。いや、変わらず通路上に敵が居る感じはするのだが――。

 

『……攻撃が止んだな』

 

 そう、べスターの言う通り、結局数体がこちらへ来ただけで敵の攻撃は止まったのだ。

 

『安心は出来ないな……あの突き当りを曲がった先に集結している感じがする』

『成程、少人数で来ても各個撃破されるのを学習したのかもしれないな。しかしそれならどうする? 打って出るか?』

『いや、既に十体は集まっている……ADAMsを使わなきゃ切り抜けられないだろう』

『珍しく出し惜しみしているな。まぁ、それ自体は悪いことではないが……それなら、チェンに曲がり角の向こうのスプリンクラーを作動させるように言っておけ』

 

 一瞬、べスターの狙いが分からなかったものの、すぐに言わんとすることを理解し、チェンにその通りの指示を出した。通路の奥で水が跳ねる音がし――少しして、巨大な氷柱が一気に突き当りを駆け抜けて壁に衝突するのが見えた。丁度通路の大きさ分の面積を占有する攻撃だったのだ、第五世代型達も逃げ場なく――氷柱が霧散する時には、L字の交差する場所に圧殺された鉄屑が積みあがっていた。

 

「……アランさん!」

 

 氷を打ち出した我らが准将殿の声が曲がり角の奥から聞こえると、すぐに通路の奥から三人の少女たちの姿が現れた。ソフィアの魔術のおかげでここいら一帯の敵はひとまず殲滅できたようだから、少しは気も抜けるだろう。

 

「ソフィア、スザク、アガタ。大丈夫か?」

「うん! アガタさんが結界で護ってくれたから!」

 

 ソフィアは自分の横に立ち、魔術杖のレバーを引いて通路の方へと振り返った。いつでも敵の迎撃準備はOKということなのだろう。

 

「アランさんが敵の位置の指示をくれれば、見えなくても魔術で迎撃できるよ!」

「あぁ、心強い」

「えへへ、うん! 任せて!」

 

 ソフィアは一度こちらを向きながら、満面の笑顔を見せてくれる――もしかすると、最近はこういう緊急事態だと常に自分が先行してしまっていたから、頼られること自体が嬉しいのかもしれない。

 

 今にして思えば、ソフィアは出会った時からずっとそうだった。俺のために色々と考えて、常に協力してくれる――そんな彼女の存在がありがたかった。今までは彼女を護るためにと必死になってきたつもりであったが、もはや七柱に精神を操られる心配が無いのなら、もっと彼女を頼ってもいいのかもしれない。

 

 そんなことを思っていると、自分の体を暖かな緑色の光が包み始める――アガタがこちらに補助魔法をかけてくれたようだ。

 

「アランさん、どこかお怪我はありませんか?」

「いや、皆が来るのが早かったし、なんなら大半はゲンブが施設のトラップで迎撃してくれたからな」

「そうですか……珍しいですね、アランさんが無傷でいるだなんて。まぁ、悪いことでないので良しとしましょうか」

 

 そう言いながら、アガタは巨大な鉄棒の先端を床へと叩きつけ、ソフィアの隣に並んだ。防御力と瞬発力の劣るソフィアの側でアガタが控えてくれるのなら、これもまた心強い。

 

 通路側に、自分を含めて三人も居れば進行を阻止するには何とかなるはずだ。四方八方から来られれば辛いが、一方通行であるこの道上であれば、ソフィアの魔術が猛威を振るうはず――そうなれば、あと一人には予定通りに機材を動かしてもらうのが良いだろう。

 

「スザク、悪いんだが……部屋の中にあるコンソールを操作して、エルを上へと運んでくれないか?」

「それ、私が使えるもの?」

「ゲンブが……チェンがお前なら使えると言っていたから、恐らく大丈夫だと思う」

「そういうことなら了解よ……うん?」

 

 スザクが扉の前に立った瞬間、基地内に一気に暗闇が落ちてくる――日の光も届かない、密閉された遥か地下のこの場所は、文字通りに一面の闇で一寸先すらも見えなくなってしまう。

 

 少しして予備電力が回ってきたのか、足元の非常灯はすぐに点灯した。とはいえ、この僅かな明かりだけでは、自分はともかく少女たちは戦いにくいだろう。

 

「アランさん、魔術で灯りを出しても?」

「あぁ、問題ない。どの道、第五世代型はセンサーでこちらの位置を特定してくるはず……暗闇がこちらの有利になることもなければ、灯りが邪魔になることもないはずだ」

 

 ソフィアが頷いてすぐ、彼女の杖の先端から通路を照らす灯りの光が放たれる。

 

「しかし、こんな時に停電……? 嫌な予感がするけれど……」

 

 振り返ると、開いたままになっている扉の前でスザクがそう呟いた。確かに、これは自然な停電ではなく、恐らく襲撃者によってもたらされたものだろう。

 

 施設内の電源が落ちるなどということ自体、尋常でないことのようにも思う――元々、ここはチェンとT3の二人しかいなかった施設であり、迎撃の大部分は機械によるオートメーションでなければならない。つまり、停電になるような事態は避けなければならないのであって、そこに対するセキュリティはかなり慎重に準備をしているはずではないか。

 

 ふと、エルのことが気にかかる――停電など起こったら、冷凍保存の装置にも問題が出るのではないか。イヤな予感がしてスザクの立つ場所の奥を見ると、どうやらあの装置は別の電源で動いているらしい。エルの眠るシリンダーは青白く光っており、彼女の生命維持装置も問題なく作動しているようだった。

 

 そして、そんな風に安心したのも束の間だった。今度は背後――ソフィアが巨大な氷柱を突き刺した踊り場の天井が大きな音を立てて崩落し始めたのだ。

 

 全身に一気に緊張が戻ってくる。天井を崩して降り立ったソイツは、初めて感じる気配――見た目は人間のようだが、第五世代型、それもアズラエルと同じ――。

 

「お初にお目にかかる、原初の虎。私はウリエル……熾天使と言えば、アナタにも理解できるだろうか?」

 

 ウリエルと名乗った第五世代型アンドロイドは、紳士然とした調子でこちらへ会釈をしてきたのだった。

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