B&T~記憶喪失の転生者、伝説級の暗殺術で異世界ディストピアをぶっ壊す~   作:五島七夫

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暗中の火花

 男性型のアンドロイドの放つある種特有の殺気に――生物的なものではないが、しかし機械的とも言い難い鋭い気配――備え、自分は少女たちの前に立ってバックルに手をかけ、いつでも変身を出来る準備を整えた。

 

 少女たちも臨戦態勢を取り、背後で各々が武器を構える音が聞こえる。とくに長いソフィアの魔術杖が自分の横から伸び、その先端を瓦礫の上で佇む機人へと向いた。

 

「最後の熾天使ウリエル……確か、アルジャーノンの護衛だったはず。どうしてアナタがこんなところに……?」

「答える必要は……」

 

 無い、と言いたいのだろうが、その言葉が音として聞こえることは無かった。ウリエルの脚部が僅かに動いたのに合わせ、こちらも奥歯を噛んで迎撃へと向かう――バックルが回転して自分の身体を黒い装甲が覆うのと同時に、ウリエルは背から盾を取り出し、その中央に収められていた片手剣を抜き出してこちらへと向かってきた。

 

 相手はこちらの速度とほとんど変わり無い。つまり、ウリエルも超音速戦闘が出来るということになる。振り下ろされた長剣を右手のカランビットナイフでいなし――超音速なので恐ろしい衝撃だが、変身と補助魔法、それにアウローラの加護がある今なら耐えられる――更に一歩踏み込んで、左手の爪で切り上げるように斬撃を繰り出す。

 

 しかし、こちらの一撃は相手の盾から発されるバリアによって弾かれてしまう。その斥力で後方へと吹き飛ばされてしまうが――どうやらウリエルが使うのは全身を覆うようなバリアでなく、盾の周辺のみに現れるバリアらしい。

 

 それなら、更に速度を上げて相手の背後を取れば良い。そう思って前に出ようとした瞬間、ウリエルは後ろへ大きく跳躍し、元来た瓦礫の上へと姿を決して行った。一旦加速を解くと、先ほど互いの刃がぶつかり合った衝撃波と轟音とが遅れて辺りに響き渡った。

 

「お前、待ちやがれ!」

「待ってアランさん! これはアランさんをおびき出すための罠だよ!」

 

 音が止んでからすぐに奥歯を噛みなおそうとした瞬間、既に遥か後方にいるソフィアの大声が背中に刺さった。言われてみれば、ウリエルは余りにも簡単に引き下がっていった。それを安易に追いかけるのも、確かに危険かもしれない。

 

 ここは一旦追撃の手を止めてソフィアの意見を聞くべきだろう。自分があれこれ考えるよりもソフィアの推測の方がきっと正しい――彼女はいつだって正しかったのだから。

 

「ソフィア、罠ってどういうことだ?」

「単純に言えば、以前ゲンブさんがガングヘイムでアランさんにやったのと同じことをやろうとしてるんだと思う。今、基地内は停電中で、迎撃のシステムが使えない……そうなると、相手からしてみると一番厄介なのはアランさんになるから」

「なるほど、それで俺さえどこか遠くへ誘導すれば、敵としても動きやすくなるってことだな?」

「うん。この通路内なら、魔術で第五世代型はあぶり出せるけれど、それでも全部を看過するのは多分厳しいし……とくに停電による暗さに加えて、この辺りは瓦礫で散らかっちゃって、通路の水滴で判別は出来なくなってしまっているから。

 そこで、アランさんがいなくなってから天使たちをここに一挙に押しかけさせれば……」

「確かに、敵の思うつぼだ」

「そうでなくとも、アランさんはいつも敵に突っ込んで行っちゃうんだから!」

 

 日ごろの何かが溜まっていたのか、ソフィアは少々語気を強めてそう言って後、少しのあいだ頬を膨らませた。とはいえ、今はそんな余裕はないことを思い出したのか、すぐに咳ばらいを一つして真剣な面持ちになった。

 

「ともかく、ウリエルは一度音速戦闘が出来ることを見せつけることで、アランさんに『自分しか相手に出来ない』と思わせて、追いかけさせようとしたんだよ。

 でも、それに乗っちゃダメ。もちろん、ウリエルを相手にするのはアランさんに任せることになっちゃうけど、エルさんを護るなら、一人でもここから離れるべきじゃない……それに、今の襲撃のタイミングも余りに狙いすませていたようだった。だって、停電と同時に襲い掛かってきたんだから」

「あぁ、ソフィアの言う通りだ」

 

 自分の目的は第五世代型の殲滅ではなく、エルの安全の確保――それに、今自分と一緒にいる三人の少女たちを無事にピークォド号まで連れていくことだ。

 

 超音速戦闘を少女たちの近くで行うのにリスクはあるだろうが、それ以上に敵の策にはまらないようにしなければならない。自分が安易な行動を取れば、全滅だってありうる――もうこれ以上、誰かを失うことが無いよう、慎重に対処をするべきだ。

 

 そうなれば、変身の時間だって可能な限り残しておくべきか――つまり、変身を解除すべきか。しかし、それはどうやら得策では無さそうだ。何故なら、天上の穴から再び天使が――とはいっても神々しさのかけらもない筋骨隆々な男性の姿だが――降りてきたからだ。

 

「へっ、格好悪いなウリエルとやら! 俺が追いかけてこないんで、のこのこと舞い戻ってきやがったか!」

 

 こちらが指をさして挑発すると、ウリエルは無表情の中に幾分か不快の色を浮かべる。アズラエルやイスラーフィールの時も思ったが、熾天使は外見を人に似せているせいか、幾分か感情だとか情動みたいなものがあるのかもしれない。

 

「否定はしない。だが、それならそれでやりようはある」

 

 相手が腰を落としたのに合わせて、こちらも再び音速を超えて相手に接近し始める。こちらの爪が敵に届くよりも遠くから、ウリエルは剣を盾に納めて腰から大口径の拳銃を取り出してトリガーを引く――そこから出てくるものを避けること自体は容易だが、後方に居る少女たちを護るのならば弾丸そのものを迎撃をする必要がある。

 

 諸々強化されている今なら行けるはずだ。転がっていた大きめの瓦礫を下から蹴り上げて弾避けにする――衝撃で瓦礫にはヒビが入るが、銃弾を数発受け止める壁くらいにはなるだろう。

 

 そして、自分は蹴り上げた瓦礫が巻き上がるよりも早く動ける。蹴り上げた足をすぐに降ろし、そのまま飛び上がり始めている障害物の上を抜けて、天上スレスレでウリエルに接近する――スローモーションで打ち出された六発の弾丸が通路を進んでいるのを下に見ながら。

 

 さらに天井を蹴って一気に降下する時には、ウリエルは銃から手を離して――これもまたスローモーションで落ちている――左手の盾をかざしてこちらの攻撃に備えているようだ。こちらの爪の軌跡がその盾に吸い込まれ、弾かれ、弾丸を背後に数歩分距離を取った。

 

『こいつ、結構色々なことが出来るな……』

『恐らく、ウリエルとやらはバランスに優れた熾天使なのだろう。アルジャーノン……ダニエル・ゴードンを護るためのシリーズということは、後方に最強の砲台が控えているのに等しいからな』

『つまり、その砲台を護るだけのバランス感覚が重要ってことか』

 

 確か、王都を襲撃したゲンブたちが連れてきた魔獣たちを一気に薙ぎ払ったのはアルジャーノンだ。そうなれば、確かにソフィアに並ぶか――いや、魔術神は万年生きているのだ、我らが准将殿以上の魔術師であることは想像に難くない。

 

 ともかく、ウリエル本来の戦闘スタイルは、レヴァルの冒険者たちと同じ構造と言うわけだ。魔術師を護るために前衛が前に出て戦う――ウリエルはそれを一人でこなすために設計された機体であろうから、距離を選ばない攻撃に優れた防御力まで兼ね揃えているバランス型ということなのだろう。

 

 幾許か互いの攻撃をいなし合った後、再びウリエルの方が大きく距離を取ると、暗い通路の奥へ消えていった。ソフィアの魔術による光の下で視認できた時には、ウリエルの身体の表面は赤くなっていた――自分が視神経に限界が来るのに対し、第五世代型の加速は機体に限界が来ると言ったとことか。

 

 とはいえ、こちらもこれ以上の迎撃は厳しい。加速を解くと、背後で巻き上がった瓦礫に銃弾が突き刺さる音が通路に鳴り響いた。ついで、アガタが「なんですの!?」と叫んでいたが、彼女からしたら突然に瓦礫が宙を舞って前が見えず、轟音を立てていればそう言いたくなる気持ちも理解できる。

 

 ともかく、音が鳴りやんだタイミングで、こちらは再び迎撃の構えを取り――相手に遠距離攻撃があることを想定すれば、飛び込んで背後の少女たちがやられるのは防がなければならない。そしてこちらの思考を読んだように、ウリエルが暗闇の向こうからこちらを指さす気配を感じた。

 

「そうだ。貴様は少女たちを守りながら戦わなければならない……そこにハンディキャップがある」

「そうかい? 音を超えた世界での戦いには、お前の方が不慣れに見えたがな」

 

 実際、機能としてはADAMsに並ぶ加速が可能でも、それを実戦で使うことはウリエルには無かったはずだ。こちらの速度に最低限の対応はして来ていたが――それはデータに残る自分やべスターのT2の動きを研究し、アルゴリズム的に対応したに過ぎないのだろう。彼ら第五世代型が電子の海の中でなく、大気中で音速の壁を超えたのは、恐らく今日が初めてなのだ。

 

『ちなみに、旧世界では第五世代型は加速装置を使っていたのか?』

『いや、それならばハインラインが虎の檻を……へカトグラムを用意する必要は無かったはずだ。DAPAの技術的には第五世代に超音速機能を実装すること自体は不可能ではなかったのだろうが、今ウリエルが見せたように素材的な問題の他、複数のアンドロイドが一斉に音速で動くことによる隊列の乱れを懸念したのだろう』

『はっ、確かに……音速同士でぶつかったら、いくら頑丈な第五世代型と言えどもぺちゃんこにならぁな!』

 

 べスターに返答をしてから奥歯を噛み、今度は暗闇の中にいるウリエルに向かって肉薄する。闇の中で互いの刃が音速でぶつかり合い、火花だけが見える――しかし相手が防御に専念しているためか、戦闘は膠着状態に陥ってしまった。

 

 ウリエルは音速戦闘に不慣れではあるが、防御に徹されればこちらも決め手に欠ける。対するこちらは少女たちに攻撃が飛ばないように意識せねばならないため、離脱を繰り返すウリエルを追うことが出来ないのだから。

 

『……ソフィアの言うことも一理あるのだろうが、奴の狙いはお前を誘導することではなさそうだな』

『あん? どういうことだ?』

『ウリエルはお前の無力化に切り替えたってことだ。元々はお前をどこかに隔離することだったのだろうが、そうでなくとも時間的な限界はある』

『なるほど……俺の変身の限界まで粘ろうって算段か』

『それだけではない……お前、ここでバーニングブライトを使えるか?』

 

 言われてみれば、あの技は威力があり過ぎる。広い空間ならエネルギーを逃がせるが、ここでバーニングブライトを放ってしまえば味方を巻き込みかねない。アガタの第六天結界に、アウローラの加護があればもつかもしれないが――しかし、エルが眠っているシリンダーを破壊してしまう可能性はある。

 

 取れる手段としては二つ。一つはバーニングブライトを使わないでウリエルを倒すことだが、それは少々厳しいだろう。威力的な面と言うより、ADAMsで溜まったエネルギーを解放しなければ自分の体がもたない。現に、既に腕は赤くなりつつある。このままいけば、ウリエルを倒しきる前に変身時間に限界が来るだろう。

 

 残りの内の一つは、ソフィアたちにエルの所まで下がってもらい、アガタの結界で全員を護ってもらう間に必殺の一撃を熾天使に叩き込むという手段。とりあえず三人の少女たちを生き残らせるなら現実的だが、バーニングブライトを放てば冷凍保存に連結する装置や運搬用エレベーターを破壊しかねない。そうなればエルの生命や移送に問題が出てくる。

 

 どちらも良い手段とは言えないが、ひとまず後者は最後の手段だ。変身の限界まで粘ることは出来るし、それまでの間に何か勝算が立つかもしれない――とはいえ、このまま戦い続ければ蓄えられたエネルギーが行き場を失い、自分の体を焼き焦がしてしまいそうだ。

 

 そう言えば、シモンがベルトの解析をしたときに排熱する手段があると言っていた――ウリエルが離脱している今がそのチャンスだろう。一度少女たちの方へと戻りながら、シモンに言われたようにボタンを長押しすると、ベルト中央の機構が周りだして熱が抜けていくのを感じた。実際、魔術による光の下で自分の体を見ると、赤くなっていた皮膚は黒に戻り始めている。

 

 排熱に合わせて一度加速を切るが、相手がいつ動き始めるかも分からず、変身まで解くことは出来ない。虎の爪を構えて待っていると、また大勢の第五世代達が押しかけてきている気配を感じ――今度はウリエルが空けた穴から、第五世代たちが下ってきているようだった。

 

「アランさん、ウリエルは!?」

「上に控えている。どうやら、徹底的に俺の変身時間が切れるまで時間稼ぎをする算段みたいだ。変わりに、今第五世代どもが押し寄せて……」

 

 言いかけている途中で、自分を挟むように炎と稲妻が駆け抜けていき――暗い通路が少女たちの放った一撃に一瞬明るく照らされると同時に、通路を進んで来ていた先遣隊が破壊され、ソフィアとスザクが自分よりも一歩前に出た。

 

「それなら、アナタはウリエルに備えて温存しておきなさい」

「うん! 露払いは私たちに任せて!」

 

 少女たちの凛とした声が通路に響くと同時に、もう一度炎と稲妻が自分を挟むように通路を駆け抜けていった。

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