B&T~記憶喪失の転生者、伝説級の暗殺術で異世界ディストピアをぶっ壊す~   作:五島七夫

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創造された魂たちの共演

 作戦開始してからしばらくの間は、ピークォド号のある格納庫までは敵は来なかった。自分とアズラエルが船の外に備え――主に戦闘は天使を識別できるアズラエルに任せ、自分は入口付近で撃ち漏らした敵を迎撃する係として敵襲を待ち構える形になっていた。

 

 ゲンブの声がスピーカーから聞こえてきてから、予告通りにまばらに襲撃が始まった。とはいえ、まばらであればこそ、なおのこと自分の出番はなく、アズラエルは彼の武器である巨大な鎌で容易に敵を殲滅していた。

 

 自分としては、不可視の襲撃者を少しでも認識できるようにしたい。そしてそれは恐らく不可能ではない――同じ第五世代であるアズラエルは置いておいても、アランやT3、ホークウィンド、前者三名ほどではないがナナコもある程度の気配を認知できるようだ。

 

 つまり逆説的に言えば、目では見えなくても、音にもほとんど感じなくても、天使たちは確実にそこに存在する。それを他の者に識別できるのだから、自分にだってやって不可能なことはないはずなのだ。

 

 ここ数日間のホークウィンドとの鍛錬のおかげで、気配で敵を察知するということも少し掴みかけてきているようにも思う。呼吸を整え、全身に気を張り巡らせる――アシモフとしては気などというものは非科学的で信じられないらしいが、実際に気を研ぎ澄ますと神経が敏感になり、周りの気配が一層感じ取れるような気持ちになってくる。

 

 何よりも、師曰く出来ると思うことが大切らしい。それは、自分としても全く同意見だ。自分の大切な友、今は眠っている魂の同居人には、間違いなく世界を切り拓いていけるだけの強い意志がある――それは、かつて古の神であるゲンブを一度は追い詰めたあの爆発力を考えれば疑うこともないはずだ。

 

(クラウ……力を貸してくれ)

 

 目を瞑りながら少女の名で験《げん》を担ぎ、再度呼吸を整える。研ぎ澄ました神経が感じとるのは、アズラエルの戦う激しい物音、それとは別の僅かな物音、同時にそれがこちらへと向かってきている――微少だが、しかし確実に存在する殺気をもって――振り下ろされる何かの凶器を身を捻じって躱し、腹部に貯めた気を足元へと流し――。

 

「……そこ!」

 

 左足を軸に右の回し蹴りを放つと、確かな手ごたえが踵から身体に伝わってくる。そのまま一気に右足を振り抜くと、何かが思いっきり吹き飛んでいき、格納庫の壁に激突し――吹き飛ばされた何かの周りの壁が歪んで見え、そのまま歪みはアズラエルの追撃により両断され、自分が蹴り飛ばした天使は断面から何かの配線を飛びださせて動かなかくなった。

 

 しかし、七柱の御使いたる天使を蹴り飛ばしたとなれば、記憶が戻った後にクラウには怒られてしまうかもしれないな――いや、流石にきちんと状況を説明すれば理解してくれるか。そんなことを思っていると、アズラエルが鎌を一振りしながらこちらへと振り返った。

 

「ティアとかいうの……やるな。まさか見えたのか?」

 

 彼も敵対する第五世代型に対する警戒を解いてはいないようだが、ひとまず直近では周りに敵がいなくなったようだで、アズラエルは武器を降ろしてこちらを見つめてきた。自分も一度目を閉じて、辺りの気配を感じてみるが、自分とアズラエル以外の者は周囲に居なさそうだ――それならば、少しくらい会話に興じても問題ないか。

 

「見えたというのはちょっと違うかな。感じた、と言うのが正しいんだと思う」

「成程……虎達も見えずとも、完全迷彩にて世界を欺いてる我々を感じているようだからな。それが、肉の器にある者しかもちえない霊的な何かなのだろう」

「そう言う君は、なんだか哀し気だ」

 

 こちらの言葉に対し、アズラエルは俯いてしまい――表情の変化には乏しい彼だが、何となくだがその顔には哀愁が漂って見える。

 

「哀しい……私の胸に浮かび上がる疑問が哀しいという人特有の感情に直結しているとは思い難いが……強いてを言うなら羨望だろうな、これは」

「……羨ましいのかい? ボクから見たら、君だってすごいのだけれど」

 

 今の自分の言葉はおべっかでも何でもない、嘘偽りない言葉だ。しかしアズラエルは納得いかないのか、ゆっくりと首を横に振った。

 

「我ら第五世代型アンドロイドは……とくに我らセラフシリーズは、改良に改良を重ねた完全無欠の存在として昇華されていると自負している。だが、我らは創造主の最後の望みを叶えるには能わなかった……」

「その最後の望みって言うのは、高次元存在を降ろす器にはなれなかった、ということかな?」

「あぁ。だから我々は、お前たち第六世代のことを認めきれずにいるのだ。力は弱く、有限で、確固たる信念ももたずに惑い、過ちを犯す脆弱な弟、妹達……それが、たとえただ唯一、器としての使命という点のみ劣るという事実であったとしても、いやその一点のみだからこそ、認められないのだろうな……どうしてレア様が肉の器にある貴様らを大切にするのか、それを理解できぬのだ」

 

 なるほど、彼の言うことはなんとなくだが理解できる。最初に羨望と言ったアズラエルの想いは――それを彼自身は言語化出来なかったが――どちらかと言えば嫉妬なのだと思われる。自分より劣る相手が優遇されていることに対する妬みが、自分たちのように肉の器にある持つ感情に近い物なのだろう。

 自分の考察の証拠と言うように、アズラエルはこちらに対してどこか鋭い視線を浴びせかけている。だがそれもすぐに止めて、黒衣の熾天使はどこか遠い目で格納庫の天井を見つめだした。

 

「だから私は、肉の器にある者たちの語る物語を研究した。所謂、人の感情というものが理解できれば、貴様らを超えることが出来るのではないかと思ったのだ。とくに、旧世界の物語は豊富にアーカイブがあったからな。

 肉の器にある者達が、物語においては筋道や合理性、矛盾のなさよりも、より劇的で、感情が動かされるモノを好むことは理解していた……だが、それに自身が共感できるかと言えば別だ。

 最初は、かつて数世紀にわたって傑作と呼ばれた物語を読んだとて、かつての人々はここに面白さを感じたのであろうと分析は出来ても、本質的な理解をするには至らなかった。

 要するに、我々はインプットされた良さや正しさは理解できても、人の持つ感情というものを完全に理解できるわけではなかったのだ」

「……ボクは何となくだけど、君の気持は分かるよアズラエル。何て言っても、君は怒ってしまうかもしれないけれど」

「怒る? この私が? まさか、安易な共感やこちらの複雑な知能アルゴリズムを理解した気になっていることに私が憤りを覚えると?」

「ははは、半分は何を言っているか分からないけれど……さすがたくさん物語を読んできただけあって、それらしいことを言うじゃないか」

 

 ともかく、彼の言い分が分かるというのは本当だ。彼は所謂「良さ」というものを、自分で生み出すことが出来ないのだ。それは、自分も同じ――何者かになろうという意志は、本来の身体の主であるクラウのものであり、ティアという人格は彼女の創り出した虚像に過ぎず、新しい物を想像する力が無いのだから。

 

 思えば、自分と第五世代型アンドロイドは似ているのかもしれない。ある者が特定の目的をこなすために作られた擬似人格――自分たちはその目的を設定することはなく、ただひたすらに主のための手段となる。

 

 結局のところ、ゲンブが言っていたように、自分たちは新しいモノを生み出すことが出来ないのだ。世界に意味を生み出すことが出来ない。乱暴な言葉で言えば、目的を達するために練り上げられた道具と言っても差し支えないのかもしれないが――。

 

「……でも、本当に君は、世界に意味を見いだせなかったのかい?」

 

 自分がそう言ったのは、悲観的な意味からではない。元々、道具として作られた存在かもしれなくても、我々は道具以上の者になることだって出来るのではないか? 意味を見出すために作られた人間だって、ある意味では高次元存在の道具であり――しかし、人は新たな価値を創造することが出来るのだから。

 

 そして、アズラエルもきっと近い境地に居るのだろう、彼は僅かにだが微笑んだように見えた。

 

「あぁ……今はそこまで悲観はしていない。物語で語られる騎士のように、誰かを護ることには意味があるような気がするからな」

「そうかい。君はつまり、物語の登場人物に共感を覚えたということじゃないか……それは、肉の器にある者たちと同じなんじゃないかな?」

「ならば、私はお前たちを超えた存在だな。唯一の欠点を克服したのだから」

「ははは、ジョークまで言えるんだったら、確かに上等だね」

「……ジョーク?」

 

 人の感情を理解しかけているアズラエルではあるが、残念ながら皮肉までは解してくれなかったらしい。確かに熾天使の存在は凄まじいが、こちらを超えた存在と断言されれば、こちらだって幾分か癪な気持ちにはなる訳で――皮肉の一つでも言いたくなるのは許してほしい所だ。とはいえ、それを解説するのもナンセンスだろう。

 

 それに、わざわざ解説している余裕もなくなってしまった。先ほどまで格納庫を照らしていた照明が落ちてしまい、再び数体の気配が通路の方から近づいてきたのだ。闇の中で刃が閃き、接近してきた敵を切り落とす気配を感じる。アズラエルが再び交戦に入ったということなのだろう。

 

「くっ……気配を感じないわけではないけど、こう暗いと流石にしんどいね……」

「視覚に頼っている貴様ではそうだろうな。ここは私一人で十分だ。貴様は船の中へ……停電に関して、レア様に現状を聞いてくれ」

 

 確かに、ここは彼に任せた方が良いだろうし、状況を早く確認したい。そのため、「ここは任せたよ」とだけ言い残して船の中へ入って、艦首部分を目指すことにする。

 

 ピークォド号も大きな船だが――空を飛ぶ鉄の塊を船と言うのは自分にとっては違和感があるが――小走りに進めば艦首部分まではすぐについた。ピークォド号は施設とは別の動力で動いているので中は明るいし、扉もいつものように自動で開く。その中では、シモンとレアが艦首の機械に向かって何か高速で指を動かしていた。

 

「シモンさん、レア様、どうにかなりそうかな?」

「いや……くそっ、基地内のシステムがハッキングされてるんだ!」

 

 シモンはそう言いながらひじ掛けを拳で叩いた。普段はナイーブな感じの彼だが、機械をいじっている時は――とりわけ上手くいかない時は、なんとなくだが彼の父親に似ているような気がする。

 

 しかし、シモンが言っていることは理解できない。そう思っていると、アシモフが椅子を回してシモンの方を向き、顎に手を当てながら何か考え込むように口を開く。

 

「チェンが作ったプロテクトが、そう簡単に突破されるとは考えにくい。これを突破できるレベルのハッキングとなると、ウリエルか……こんな時にフレディがいれば……」

 

 フレディと言うのは、ダンに宿っているフレデリック・キーツの愛称か。そう言えば、彼との連絡はどうなっていたのだろうか。自分には詳細は伝えられていないが――とはいえ、この場に居ない者を頼ることもできず、同時に自分はハッキングとやらの対処法も分からないため、機材に向かってひたすら手を動かし続けるエルフとドワーフを見守ることしかできなかった。

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