B&T~記憶喪失の転生者、伝説級の暗殺術で異世界ディストピアをぶっ壊す~   作:五島七夫

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氷炎の花

 狭い通路での攻防は長らく続き――とは言っても実時間にすれば一分程度だろうが――戦局は停滞気味だった。むしろ、諸々加味すると不利と言っても差し支えないかもしれない。こちらは変身とADAMsの利用時間が伸びれば伸びるほど限界に近づいてくるし、何より敵側の物量が多い。少女たちが如何に強力な力を有していると言えども、一瞬の油断が命取りのこの戦局において、長く戦えば長く戦うほど彼女たちの集中力だって切れてくる。

 

 そう思いながら不可視の敵と闘っている少女たちを見るが――今のところはそんな心配はむしろ杞憂だったかもしれない。ソフィアが妨害魔法で敵のシルエットを顕わにしてくれているおかげで、上手く三人とも対応してくれている。

 

 というより、中々に三人の連携が取れているのだ。第八代勇者パーティー再結成と言っていたように、彼女たちはかつて一緒に戦った経験がある。スザク――その中に居るテレサがアウローラと炎を操る前衛で、アガタが中衛で二人の援護と取りこぼした敵の撃破をこなし、ソフィアが後衛で妨害と攻撃をしている。狭い通路と言えども、問題なく連携を取れている彼女たちは、大変心強い存在だ。

 

 同時に、少々違和感もある。第五世代型アンドロイド達の攻め手がやや緩いようにも感じられるのだ。より正確に言えば――。

 

『おいべスター、気付いているか?』

『……何にだ?』

『敵のアンドロイドが、ソフィアを狙っていないんだ』

『オレはお前の視界が共有されているだけだからな……背後に目がある訳じゃないんだから分からん』

 

 脳内の友は気付いていないらしいが――自分の違和感の理由として、第五世代型アンドロイド達は散弾などの遠距離武装を利用するのを避けているようにしているように見えた。

 

 もちろん、飛び道具を使っていない訳ではないのだが、それはあくまでも直線的で且つ範囲の狭い光線などに限られる――そして、それはアガタやスザクを狙っているようで、ソフィアを狙っているように見えなかった。

 

 敵として真っ先に落とすべきは間違いなくソフィア・オーウェルなはずだ。高威力の間接攻撃に加え、この中でもっとも思考も切れるのだから、放置しておけば向こうの被害は広がるばかりなはずだからだ。

 

 とはいえ、敵がそのような動きをしている理由は考えても分からないだろう。それに、あまり余計なことを考えている余裕もない。ウリエルたちはソフィアに対しては忖度をしているようにも見えるが、それ以外の者たちに対しては容赦なく襲い掛かってきているのだから。

 

 奥歯を噛み、超音速で襲い掛かってくるウリエルを迎撃する姿勢を取る――加速した世界の中に現れた熾天使が三挺目になる拳銃を腰から取り出してトリガーを引き、自分は撃ちだされた弾丸を切りつけながら、再び近接戦闘に入る。

 

 だが、やはり機械の演算速度はなかなか凄まじいものがあり、こちらの爪はまた盾に弾かれてしまう。このままいけば不利と判断した理由はこれだ。高速戦闘に関しては練度の差からこちらに分があるが、向こうは妨害と防御に徹しており、なおかつこちらは向こうの装甲とバリアを貫けるだけの一撃を放つことが出来ないからだ。

 

『……くそっ、このままいけばジリ貧か!?』

 

 そう思い前へと出るが、焦りが見透かされたかのようにウリエルのシールドチャージによって後方へと吹き飛ばされてしまう――超音速同士が確かな質量でぶつかり合ったのだからその衝撃は凄まじく、一度の着地では威力を相殺しきらない。そのため、数度のステップを踏みながら威力を相殺し、ついでにすり抜け様に何体かの第五世代型アンドロイドの動力を断ち切った。

 

 最終的にはずり下がるように衝撃が減衰し、落ちついたタイミングで加速を切ると、ちょうど少女たちの後方まで押し出されてしまう形になった。すぐに視線を上げて状況を確認するが、ウリエルも一度加速を切って排熱をしているようだった。

 

『おい、べスター。変身はあとどれくらい持つ?』

『いくら排熱していると言えども、かなり高密度にADAMsを乱発しているからな……まだ加速二回分ほどは持つだろうが、それ以上は……』

 

 後二回か――それは自分にとって厳しい現実だった。結局、近接戦闘だけでウリエルを突破できるイメージがわかない。バーニングブライトを撃てれば突破できるように思うが、それが撃てない今では限界が近いというのは芳しくないことだった。

 

『変身はピンチになってからが本番じゃなかったのか?』

『うるせぇ! 時と場合に寄るんだ!』

 

 言葉というものは、いつかブーメランのように跳ね返ってくるものだ。ともかく、何とか熾天使を突破する方法を考えなくてはならない。一か八か、アイツを上へと誘い出してバーニングブライトを撃つか――ここ数回分の加速エネルギーは貯めているので、一度なら撃つことも可能だろう。

 

 しかし、上手くエネルギーを逃がすことが出来なければ、少女たちを巻き込むという最悪の結果を招くことになる。それは万が一にも避けたい事態だ。

 

 どうする、どうする――そう考えているうちにも、時間は確実に進んでいる。床につけていた掌で強く握り拳を作り、何か策は無いかと考えていると、自分の上から力強くレバーを操作する音が聞こえた。

 

「第七魔術弾装填……アランさん!」

 

 通路に凛と響く声に、その主の方を見上げると、そこには凛とした佇まいの少女の顔があった。ソフィア・オーウェルはこちらを見て頷き、魔術杖の先端である一点を指し示した。そこは、積み重なった機械人達の墓標であり――恐らく、そこを着弾点にするという彼女からのアイコンタクトだったに違いない。

 

 なるほど、確かにソフィアの魔術なら、シールドを打ち破って熾天使を倒すことも可能かもしれない。試す価値は十二分にある、そう思って頷き返すと、ソフィアは口元に一瞬だけ微笑を浮かべて詠唱を続けた。

 

 肝心なのはタイミングだ。彼女の魔術が発動した瞬間に、ウリエルを着弾点に落とし、自分はそこから離脱するという精密さが求められる。だが、それも面白い――きっとソフィアは自分ならそれが出来ると信じてくれているのだ。それなら、その期待に応えなければならない。

 

(……後二回だ!)

 

 少女が魔術を紡いでいる間に、一度ADAMsを起動する。案の定、第七階層を妨害するためか、ウリエルが再びこちらへ突貫してきた。

 

『今度は立場逆転だな!?』

 

 相手の攻撃は予想通り、ソフィアの魔術を妨害するために前に出てきた。先ほどまでは向こうが時間を稼いでいた訳だが、今度はこちらが時間を稼ぐ番だ。ウリエルは判断こそ早いが、高速戦闘においては動き自体は単調で読みやすい――超音速戦闘の腕前は、T3やエルと比べたら赤子の手を捻るようなものだ。

 

 剣による突進を二本の爪でいなすと、熾天使は銃を取り出しながら距離を取ろうとするが――それも想定済みだ。相手の後退に合わせてこちらも前進し、抜き出した銃身を爪で両断する。

 

 これで相手の間接攻撃を封じた。ウリエルは体制を立て直すために銃のグリップから手を離し、再び盾を突き出してこちらを吹き飛ばそうとする。しかし、その動きは読んでいる――うまくいったことを最適行動としてしまうAIの性なのだろう――繰り出されるシールドチャージを躱し、突き出された左腕に爪を突き立てた。

 

 切断こそ敵わなかったものの、振動剣は熾天使の装甲を抉り、深々と突き刺さる――ウリエルが腕を引っ込められたせいで爪を持っていかれてしまうが、同時に形勢不利と判断したのか、熾天使は後方へと下がっていった。

 

 それも予想済みだ。恐らくこの通路から離脱し、形成を立て直そうとするだろうが、こいつはここで必ず倒す――自分も限界まで加速を続けてウリエルを低姿勢で追いかけ、瓦礫の上にある穴から逃れて跳躍しようとする相手の足を残った爪で切り付けた。

 

 虎の爪が傷をつけたことで、電脳からの指令を上手く足に伝達できなかったのだろう、ウリエルは跳躍することに敵わずにその場にしゃがみ込んだ。こちらは還す刃で逆手に持った左の爪を相手の頭上に向けて振り下ろすように見せかけ――相手の反撃は読んでいる――身を引いてシールドチャージを躱した。

 

 少し距離を取って一旦加速を切ると、通路の奥から六つの魔法陣がこちらへ飛んできた。見ると、ソフィアが通路の真ん中で――少女を護るように、アガタとスザクがその脇を固め――正面にある巨大な魔法陣に向かってまさに杖を突き出そうとして居る所だった。

 

「シルヴァリオン……」

 

 少女の魔術が放たれる直前に再び奥歯のスイッチを入れ――同じく高速で開けてきた天井の穴の向こうへ離脱しようとするウリエルを追いかける。本来なら五分の速度だが、ウリエル側が足を損傷しているのだから追いつくのは容易だ。

 

『……返してもらうぜ。代わりに、コイツをくれてやる!』

 

 追いついたウリエルの腕に刺さっているタイガークローを引き抜き、盾を構えられるよりも早く魔術の着弾箇所に向けてウリエルを蹴り飛ばす。そして加速をしたまま敵陣を駆け抜け、魔術杖が陣に接触する瞬間、自分は少女達より背後へと移動して加速を切った。

 

「ゼロ!」

 

 ソフィアの術式が完成した瞬間、ウリエルの身体が吹き飛ぶ音が聞こえ――熾天使の体は指定された箇所に轟音を立てて叩きつけられた。それと同時に、少女の放った絶対零度の青白い光線が螺旋を描いて辺りの機械人たちを巻き込んでいく。

 

 魔法陣が反射し合い、ウリエルが落ちた瓦礫に七本の光線が降り注ぐ。すぐに瓦礫は巨大な氷塊と化し――それは彼ら第五世代型達の墓標のように見えた。後にはソフィアが魔術杖を一回転させる音だけが響き渡り、蒸気が噴出した瞬間に機械たちの墓標は塵となって崩れ出した。

 

「ふぅ……何とかなりましたわね」

 

 アガタが大きなため息とともに巨大こん棒を床へと叩きつける。その衝撃のせい、と言うわけでもないのだが、べスターの予告通りに二回の加速により変身の限界が来たようで、自分の硬化した皮膚がボロボロと崩れ落ち始めていた。

 

「あぁ……俺の方もどうやら限界みたいだ。だが、流石にソフィアのアレをくらっちゃ……!?」

 

 終わりだろう、そう言いかけた瞬間に、塵の奥に一つの気配を感じ取った。それは、随分と弱弱しくなっているが――氷の墓標が一気に吹き飛び、粉塵が一気に晴れ上がると同時に、ボロボロになった盾を携えたウリエルが、膝をつきながらも姿を現したのだった。

 

『まさか、アレをくらって無事で済んだというのか!?』

『恐らくだが、持ち前のバリアと、倒れていた他の第五世代たちの電力を使ってギリギリ耐えたのだろうが……』

 

 見たところ、相手にもう闘う力も残っていなさそうだが――加速されたら今度こそ少女たちが危ない。変身なしでADAMsを使うのは良いとしても、相手の力次第では押し負けるかもしれない。

 

 そう思いながら奥歯を噛もうとした瞬間、ソフィアの横にスザクが並び立ち、左腕から巨大な炎熱の渦を放射し――その炎が盾をかざすウリエルのシルエットを突き抜けていった。

 

 炎が過ぎ去った後、辺りを一層の静寂が包んだ。見たところウリエルはまだ健在だ。超音速戦闘に耐えられるだけのボディなのだから、かなりの耐熱素材で作られているのは想像に難くないが――。

 

「……私は、ここまでのようです……アルジャーノン様、後は……」

 

 熾天使はうなだれながらそう呟くと、今度こそ最後を迎えたようだ。その身体は溶けるのではなく一気に破裂し、飛び交う部品から身を護るためにアガタが前に出て結界を貼ってくれ――辺りから第五世代型達の気配が消失した。

 

「……今度こそ終りね」

 

 スザクは翡翠色の刀を回転させながら鞘へと納め、亜麻色の後ろ髪を涼し気にかき上げた。

 

「あぁ……しかし、ウリエルはなんで破裂したんだ?」

「熱衝撃よ。極限まで冷やされた物質は、原子の動きをほとんど停滞させる。そこを一気に過熱することで、原子が急激に動き出して物体に歪が生じて破裂してしまうの」

「な、なるほど……いや、知ってたぞ?」

「嘘おっしゃい、知らなかったくせに」

 

 スザクは腕を組みながら呆れたような目でこちらを見て嘆息を吐き――今度は微笑を浮かべて自分の後ろの方を覗き見始めた。自分も振り返ってみると、ソフィアが少し寂しそうに目を伏せている――スザクはこれを見て、少女を宥めるために声を掛けようとしていると推察された。

 

「お疲れ様、ソフィア。アナタ、凄いのね」

「い、いえ、スザクさんこそ! 私の魔術では、トドメにならなかったわけですし……」

「いいえ、私の方が追撃の手が早かっただけよ。アナタの稲妻の魔術でもトドメを刺すことは可能だったでしょうし……逆に、あの氷の魔術なしにはあの熾天使の装甲を貫けなかったでしょうから」

 

 スザクはそこで言葉を切って、視線をこちらへ戻して「ほら、アランも。ソフィアのことを褒めてあげて?」と続けた。とはいえ、みんな頑張ったことに違いはない。そう言う意味では、三人の少女たち全員を労いたい気持ちが自分の中にはある。

 

「三人ともお疲れ様。アガタは皆をよく援護してくれたし、スザクは前面に立って敵をさばいてくれたしな……そして、俺がどうしようか困っている時に真っ先に道を指し示してくれたのはソフィアだ。だからソフィア、ありがとう」

「アランさん……うん! アランさんもお疲れ様!」

 

 自分の言葉にソフィアは満面の笑みを浮かべ、大きく頷いてくれた。自分としても今の言葉に偽りはない。現にウリエルの術中にはまって押され気味だったのに対し、ソフィアが方向性を示してくれた瞬間から一気に戦局がこちらへ傾いたのだから。

 

 それに、一緒に戦ったからこそ友情が芽生えたのかもしれない――今、ソフィアとスザクは互いに実力を認め合うように楽し気に話をしていた。自分のセンサーにも敵の反応は無いし、少しくらい穏かな時間があっても良いだろう。そんな風に思っているとアガタが腕を組みつつ、なんだか呆れたような雰囲気で自分の横に立った。

 

「朴念仁のくせに、ここぞという時に上手いこと言って正解を引き当てるから性質が悪いんでしょうね、アランさんは」

「なんだアガタ、藪から棒に」

「いえ、おかげで皆さん苦労なさるなと、同情の念を禁じ得ないだけですわ」

 

 アガタがそう言いながらため息を吐き――その瞬間、辺りの照明に光が戻り、通路の全体が一気に明るくなった。次いで、先ほどゲンブの声が聞こえてきていたスピーカーから僅かなノイズが聞こえて後、「マイクテスマイクテス」というどこかとぼけた声が聞こえ始めた。

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