B&T~記憶喪失の転生者、伝説級の暗殺術で異世界ディストピアをぶっ壊す~   作:五島七夫

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怒りの炎

 大空洞に蔓延る第五世代たちを倒すのには随分と時間が掛かってしまった。誘爆を警戒してか、アンドロイドの間接攻撃が緩かったせいで危なげなく戦うことは出来たし、時々下にいるソフィアを確認しながら殲滅を進めていたのだが、少女の援護に周れるほどの余裕はなかった。

 

 ようやっと合流できるとなった時には、ソフィアの腕が吹き飛ばされていた――可哀そうにと思うと同時に、少女に迫る男の存在が許せなくなり、下に爆弾があることも忘れてパイロキネシスを発現し、アレイスター・ディックの身体を目掛けて炎を照射した。

 

 しかし、男は左腕を上部に掲げて結界を発動させる――テレサ曰く、七柱の創造神たちはすべて強力なバリアを持っているのだとか。遠距離攻撃は容易に無効化されるというのなら、相手の苦手とする接近戦に持ち込むまで。相手のその身が魔術師であるというのなら、鍛え抜かれた剣士の剣戟に耐えられる道理は無いはずであり、今はこの手に神剣もあるのだから、決して不利な戦いにはならないはずだ。

 

 自らの放った炎が晴れると同時に一気に男の背後へと着地し、そのまま振り向きざまに翡翠色の太刀を浴びせかける――しかし、アウローラの刃は男の背中には届かなかった。アルジャーノンは片腕を上げたままで、もう片方の腕では杖を握っているものの、魔術をいつの間にか発現させていたのだろう、真空の厚い風の断層に剣筋が阻まれたのだ。

 

「……ちぃ!?」

「危ない危ない……というか、まさかアンドロイドたちを全滅させてきたのか、流石は魔人グロリアと言うべきか!? はは、笑える!」

 

 男は口元を釣り上げながら振り返り、同時に背後に飛びながら魔術の光弾を三発撃ちだしてきた。テレサの持つ身体能力なら、対処は容易――それらの光弾を神剣で弾き、すぐに背から羽を出して加速し、男の頭上を目掛けて剣を大上段から振りかぶった。

 

 その一撃は、再度突き出された男の腕から現れているバリアに阻まれるが――今はこれでいい。この一撃自体が目くらましだ。

 

「ソフィア、引きなさい! ここは、私が……!」

 

 そう言いながら男の背後に居るはずのソフィアを見ると、既にそこには彼女の影はなく――ただ、無残に割かれた腕だけが転がっていた。恐らく、杖だけ回収して、どこかでチャンスを探っているのだろう。

 

 それならそれで、自分は彼女があの強力な魔術を放てるようにするだけの隙を作るだけだ。わざと結界に弾かれる振りをして距離を取り――案の定、自分が居た場所を目掛けて四方八方から氷の刃が集まり、男の腕の先でモーニングスターの先端のようなオブジェを創り出している。

 

 そしてその氷結晶を目掛けて、右腕から炎を照射する。しかし、炎は男の正面で二股に別れてしまい――恐らく空気を操って、炎の流れを変えているのだ――敵を燃やすことが出来なかった。

 

 もう一度剣を両手で握り、向こうから迫りくる光弾を弾きながら相手に肉薄し、再度剣を振り下ろす。しかし、今度は結界すら張ることなく、男の目の前に現れた風の刃にこちらの一撃は阻まれてしまった。

 

「旧世界でアナタに敗れた雪辱、今ここで晴らしてくれる!」

「はは、怖い怖い……そうかそうか、そう言えばそんなこともあったね。君の飛翔能力には興味はあったが、個人には興味が無かったからね。すっかり忘れていたよ」

「このっ、屑がぁあああああああ!!」

 

 怒りのおかげで腕に更なる力が籠ったおかげか、はたまたアウローラの切れ味のおかげか、壮年の前に張られていた真空の層を断ち切ることに成功する。アルジャーノンも一歩下がってはいたが、剣の切っ先は男の肉を胸から腹に掛けて幾分か裂くことには成功した。

 

 もう一撃浴びせれば、勝てる――剣の柄を握る手に力が籠るが、鮮血の噴き出す向こう側で、男が狂気の笑みを浮かべているのに、テレサの剣士の本能が反応してくれたおかげで、自分の体は前ではなく上へと飛んだ。

 

 上から見下ろすと、アルジャーノンの手前で床が隆起し、巨大な杭となって打ち出されているのが視界に入った。あのまま前に出ていたら、文字通りに串刺しになっていただろう――そして先ほど与えたダメージも、男が傷口をなぞる様になでると、出血が止まるどころか、傷も塞がっているようだった。

 

『あれは、神聖魔法……!?』

「……なんなら、回復や補助、結界などの神聖魔法と言われる魔術を作ったのは僕だ。これくらい朝飯前だよ」

 

 テレサの声など聞こえないはずなのに、アルジャーノンはこちらを見て不敵に笑う――いけない、この男を前に惚けている時間などないはずだ。テレサの勘のおかげで身をよじらすと、体の横から稲妻が一本、上から下へと落ちてきた。

 

 魔術神アルジャーノン、本体であるダニエル・ゴードンは、確かに旧世界でも色々な魔術を扱っていた。だが、結界や回復魔法などは無かったはずだし、攻撃魔術に関するバリエーションも、以前とは比較にならない程に増えている。恐らく、まだ見せていないだけで、まだまだ厄介な魔術を多く隠し持っているに違いない。

 

 それなら、やはり近接にて、可能な限り難しい魔術を扱わせないようにしなければ。上から一気に落下して剣を振り下ろすと、また結界に刃は阻まれるが、こちらもお構いなしに乱暴に剣を叩きつけ、こちらも猛攻を仕掛ける続けることにする。

 

 向こうは魔術と結界を上手く使い分け、こちらの攻撃をいなしている。魔術師の身でよくここまでやれると思う反面、やはり攻撃が激しい中だと高等な魔術を使うことが出来ないようで、今の自分でも十二分に押せていた。

 

『グロリアさん、どうか……どうにか、アレイスターさんを元に戻す方法はないでしょうか?』

『悠長なことを言ってる場合じゃないわ! それに、簡単にどうにかできるなら私やソフィアが既にやっている!』

『そうですよね……』

 

 優しいのは全く結構なことだが、自分としてはアレイスター・ディックとやらとの接点は無いし、湧き上がる情も憐憫もない――もちろんテレサの立場だとまた違うのだろうが、自分としては自分が旧世界でやられたこと以上に、ソフィアを傷つけたこの男のことが許せないのだから。仮に師匠であるとするのなら、その身を操られることに抗って、弟子を救って見せろとすら思う。

 

 その怒りを剣に載せて攻撃を繰り返していると、流石の魔術神も耐えがたいのか、忌々し気にその表情を歪めているのが見えた。

 

「ちぃ……やっぱり盾が居ないとしんどいね……」

 

 アルジャーノンはこちらの剣戟をいなしながら空洞の上部をきょろきょろと眺め、大声で叫びだした。

 

「おぉい、さっきのアレだがね、僕は君に言ったんだぞ? 今は良い所なんだ。それに、コイツの相手は君こそが相応しいだろう!?」

 

 アルジャーノンの乱暴な要求に対し、しばし誰も答えなかったが――少ししてから、上の方から「テレサ」と宿主を呼ぶ声が大空洞に響き渡った。

 

「……シンイチさん!?」

 

 宿主の感情が前面に出てしまったせいか、身体のコントロールがテレサに持っていかれてしまう――テレサは追撃を止めて辺りを見回し、声がしたほうを探しているようだった。

 

『テレサ、今はそれどころじゃない! アルジャーノンを倒すことが優先よ!』

『でも、でも……!』

 

 宿主の視線の先――連絡橋の続く施設の扉の影に一人の少年の姿があった。それを見た途端、テレサはアルジャーノンの追撃の手を止めて飛翔し、少年が居た場所へと一目散へと向かっていってしまう。

 

『テレサ! 戻りなさい!』

『いいえ、ソフィアさんは離脱しましたし……シンイチさんが敵なのなら、挟撃されることを避けなければならないはずです!』

『それらしいことを言って! アナタはアイツに会いたいだけでしょう!?』

『そうです! それに、私の言うことだって間違えてないはずです!』

 

 確かに、アルジャーノンを攻めている間に背後から攻撃されたらひとたまりもないが――それでも、二兎を追う者は一兎をも得ず、生半可に戦力を分散させるべき時でもないだろう。

 

 しかし、宿主は止まってくれない――しかし、少年の姿があった高さまで移動しても、その影はすっかりと消え失せてしまっていた。

 

「テレサ……」

 

 そして、もう一度声が聞こえる――今度は更に上だ。突如として移動しているのは、一体どういうことなのか。施設のスピーカーやホログラムをジャックして、それらしく見せることなど、あの男になら容易だろうが――完全にただの直感だが、今のは紛れもない肉声だったようには思う。

 

 もし、仮に今聞こえた声が肉声であったとするのなら――自分は、そのことに一つだけ心当たりがある。元々彼が使えた能力ではなかったはずではあるが、もしその可能性が当たっているとするのなら、彼を放置するのも相当に危険と言える。

 

『……確かに、イヤな予感がするわね。一瞬で右京を片づけてすぐに戻りましょう!』

『はい!』

 

 不思議な幻術を見せる少年に対して警戒心を高めた自分と、少年に会いたい一心の宿主との意見が合致し、誘う声に導かれるまま、自分は大空洞の最上部を目指して片翼の羽を羽ばたかせた。

 

 ◆

 

 テレサ姫が飛翔して去って後、自分の体を操る男は呼吸を整えてから背後へと振り返った。

 

「さて、邪魔者は去ったな。それではソフィア君、続きを……」

 

 魔術神はそこで言葉を切った。恐らく、予想通りの光景がそこに無かったことに驚いたのだろう――自分も、そこに我が弟子の姿が無いことに驚いたとともに、幾分か安堵の気持ちを覚えていた。

 

「……逃げたか。しかし、見上げた精神力だな。あの年頃の子供じゃ、失神してもおかしくないだろうに……うぅん、実に惜しい! 思春期特有の恋愛脳になど犯されていなければと思うと、惜しくてたまらないね!」

 

 男は魔術杖のレバーを操作しながら、無残に投げ出された少女の片腕を超え、大空洞を抜けて暗い通路の方へと歩いていく。少女がたどった道は、血痕が示してしまっている。このままいけば、この男の手によって想像するのもおぞましい処置がソフィアに対して行われる――なんとか、それは避けたかった。

 

『アルジャーノン様……どうか、お願いです。彼女を見逃してあげてください』

「ははは、何を言っているんだいアレイスター君。もし逃げおおせたとしても、爆弾が起爆して基地もろとも彼女もズドン! なだけだよ? それなら、脳だけでも持ち帰ってやろうというのが、せめてもの優しさじゃあないかね?」

『私は……私は、彼女の人としての尊厳を守ってあげたいのです』

「それじゃあ、この場でトドメをさせと? 嫌だなぁ、そしたらわざわざここまで出向いたのが骨折り損のくたびれ儲けじゃないか……それこそ、ルーナの尻ぬぐいのためだけに来たことになる……うん?」

 

 アルジャーノンは言葉を切り、十字路の中心にしゃがみ込んだ。

 

「血がここで途絶えている……氷の魔術か何かで無理やり止血したか……なるほど! 年甲斐もなくかくれんぼの鬼にさせられるとはな! 少し付き合ってあげるよ……最悪、彼に聞けば居場所は分かるしね」

 

 身体の主はそこで一気に立ち上がり、杖を両手で持って正面の道を歩き出したのだった。

 

 

 魔獣の保管室に閉じ込められて、しばらく時間が経った。いや、実時間にすればそんなに経っていないのかもしれないが、体感としては既に数時間は待たされているような心地がしていた。

 

 クラウの薬が効いてくれているおかげか、身体の調子は悪くない。だが、強固に密閉されたこの空間では、基地内の動向を探ることも難しい。何なら第五世代をここに送り込んでくれればADAMsを起動できるので、無理やりにでも扉を突破できるのだが――恐らく、自分が緊急事態でないと加速装置を起動できないのはあの男にはバレているように思う。そうなればアイツもこちらに塩を送るようなマネはしてくれないだろう。

 

 ともかく、四方を白い壁に囲まれた静寂の支配するだだっぴろい空間においては、ただただ不安ばかりが増大していく――ゲンブがこちらへ救援を出してくれているとは言っていたが、それを待っていては手遅れになるかもしれないのだ。

 

 そんな折、ふと一つの可能性を閃いた。以前、崖から落ちるジャンヌを助けようと身を投げ出した時、ADAMsを起動できた――そうなれば、無理やり自分の身体を極限状態に持っていけば今回もいけるかもしれない。

 

 腰から虎の爪を取り出し、自分の首元へと運ぶ――まだ薬は効いているから、動脈の一本くらいやってもなんとか止血できるだろう――そう思った瞬間、扉の側から何か物音がし、分厚い扉に横一文字に線が入り、ついで「どっせぇぇいですわ!」という異様に気合が入った、しかし聞いている側の気が抜けるような掛け声と共に金属の扉が吹き飛んでいき、すぐに巨大な武器を持った二人の小柄な少女が部屋の中へと入ってきた。

 

「アランさん! 助けに来ましたよ!」

「ナナコ、アガタ……すまない。それで、ソフィアとスザクは……?」

 

 二人が破壊した扉の方へと移動して通路の奥を確認するが、どうやらソフィアとスザクは着いて来ていないようだった。やはり、先ほど第五世代型アンドロイド達がソフィアを攻撃していなかったことが気にかかる。

 

 自分の質問に対し、ナナコが「ソフィアとスザクさんは……」と切り出そうとした瞬間、入り口近くのモニターに電気が流れ始めた。ナナコも言葉を切り、アガタも自分もモニターの方を注視する。画面は砂嵐になっており、映像は流れないのだが――。

 

「アランさん……聞こえてるかな?」

 

 モニターから聞こえてきたのは、今しがた気にかけている少女の声だった。声色にはいつものような快活さは無く――まるで、最後の力をふり絞ってこちらへ話しかけているようだった。

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