B&T~記憶喪失の転生者、伝説級の暗殺術で異世界ディストピアをぶっ壊す~   作:五島七夫

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無限絶色の魔術

 エレベーターが使えないため、階段を駆け上がって格納庫を目指す。先ほど自分が捕らえられていた場所は比較的上層に位置していたため、格納庫に辿り着くまでにはそこまで時間は掛からず、同時に移動中は敵に襲撃されることは無かった。

 

 格納庫に到着すると辺りには無数の残骸が散らばっており――同時にピークォド号も健在だった。ハッチはT3が精霊弓で無理やり開けたのだろう、ちょうど船が飛びだせる程度の円形の穴が天井に開いており、そこから青い空が覗いていた。

 

 自分たちがピークォド号に乗るのに合わせ――恐らく殿《しんがり》として最後まで戦ってくれていたのだろう――上部の穴から黒装束の大男が飛び降りてきた。そしてそのままホークウィンドを先頭に自分とナナコ、アガタの四人で船へと乗り込み、皆無言のままデッキを目指した。

 

 デッキの中には、既にほとんど全員が揃っていた。自分が認識する範囲で、合流できない二人を除いて――いや、あと一人足らない。その者の行方を聞くため、たまたま目が合ったアシモフの方へと近づいて質問することにする。

 

「おい、シモンは!?」

「フレディ……ヴァルカンと一緒にハッキングの対処に出て、そのまま……」

「……くそっ!!」

 

 思わず乱暴に握った拳でアシモフの前にある機材を叩いてしまう。まさか、他にも犠牲者が居たとは。もちろん、シモンとダンがやられたことを聞いても動揺するだけでプラスもなかっただろうし、あれだけの規模の襲撃を寡兵で切り抜けてこれだけ生き残っているというのは上出来なのだろうが――それでも、やはり自分としては一人の犠牲者も出したくなかったのが本音だ。

 

 手に伝わる痛みが自分を少し冷静にしてくれる――乱暴なマネをして申し訳なかったとアシモフに謝罪をしようと思ったが、彼女も彼女でどこかうわの空のようだ。そんな彼女の横顔を見ていると、アズラエルがその更に横から「席に着け、発進するぞ」とこちらに声を掛けてきたため、自分も空いている席に腰かけてシートベルトを腰に巻いた。

 

 しかし、こういう乗り物の操縦はシモンが得意そうだが、居なくてもなんとかなるのか――そもそも、自動操縦でもいけるのかもしれないが、近くに右京が居る状態でのオートパイロットは危険そうだ。自分の予測が当たっているのか、アズラエルとT3、更にはホークウィンドですらもキーボードをひたすらに打ち込んでいた。

 

 一つ違和感があるとすれば、ゲンブが何も操作をしていない点か。この中ではアシモフと並んで機械の操作に精通していそうだが――アシモフもまだどこか気の抜けた様子で、虚ろな瞳で目の前のモニターをじっと眺めていた。

 

「レア様、お気を確かに。アナタの操作も必要です」

「え、えぇ、そうね……ごめんなさいアズラエル、すぐに発進させるわ」

 

 臣下の熾天使に窘《たしな》められ、アシモフはようやっと両の手を動かし始める。それからすぐに宇宙船は浮上を始め――最初こそは静かな立ち上がりだったが、天井に無理やり開けた穴を通り抜ける時は、障害物に当たっているせいか激しい音と振動が巻き起こった。

 

 そして、機体が完全に外へと出てある程度の高度にまで達すると、地面から空に向かって角度をつけて一気に機体が推進し始めた。その加速によるGが強く、身体がシートに背に強く引っ張られ――しばらく進むと慣性に乗ったのか、身体は平衡感覚を保っていつも通りに戻った。

 

「ひとまず、これで落ち着いたんでしょうか……?」

 

 ナナコが周囲を見回しながらそう声を上げた瞬間――またしても勘だが――ピークォド号が発進した地点の方からイヤな気配を感じた。既にかなりの距離もあるはずだし、この密閉された機内では外の様子など流石にわかりようもないのだが――直度、デッキ内に不安をあおるようなブザー音が響き、真っ赤な蛍光灯が瞬き始める。

 

「くそ、今度は何だ!?」

「ハッチの方から、強大なエネルギーの収束を感知……これは、アルジャーノンの第八階層魔術!?」

「おい、それは大丈夫なんだろうな!?」

 

 呟くアシモフに問うと、彼女は機材に視線を落としたまま小さく頭を振った。

 

「彼の魔術を受けては、いかなる物質もバリアも持ちはしないでしょう」

 

 アルジャーノンを知る、しかも科学者の彼女がそう言うのだから、少なくとも彼女の知る範囲では対処のしようもないのだろうが――しかし、同時にソフィアがあのような決断を取った理由もやっと頷けた。あの場には七柱が、それも最も厄介な手合いが二柱いたのだから。

 

 そして、先ほどアシモフが呟いた第八階層魔術は、本来なら人の身では演算できない超高等な魔術であると以前に学長ウイルドが言っていた。魔術は階層が一つ上がれば指数関数的に難易度が上がり、それに比例して威力を増すというのなら――ソフィアのシルヴァリオン・ゼロですら恐ろしい破壊力があるのだから、確かに第八階層ともなればいかなる手段をもってしても防ぎようもなさそうだ。

 

 とはいえ、ソフィアたちが繋いでくれたチャンスを無駄にするわけにはいかない。ここで潰えるわけにはいかない。なんとかこのピンチを脱する方法を考えてみるが、自分にできることと言えばせいぜい走り回ることくらいで、鉄の匣の中に居ては自分にできることなど何もない。

 

 こうなってくると、自分の無力さをイヤでも痛感する――物理的な法則の中でしか、しかも力技でしか事態に向かっていけない自分の力なさを認めざるを得ない。

 

 クソ、と自分に対して心の中で悪態ついたタイミングで、アガタがアシモフに向かって話しかけ始めた。

 

「彼らは、母なる大地のモノリスを求めているんじゃなかったんですか!?」

「元々、母なる大地のモノリスは無くても計画には支障がないとされていました。レムのモノリス群さえあれば事足りる計算なのです。そうなれば……」

「……別に、この船もろとも破壊してしまっても構わないということですか」

「むしろ、アルジャーノンは実験したいのかもしれませんね……高次元存在が作成したモノリスを、自らの魔術で破壊できるのかどうか……」

「呼んでる……」

 

 最後の声は、突然自分の真後ろから聞こえた。ちょうど反対側に座っていたティアがシートベルトを外してやおら立ち上がり、そしてデッキの扉へふらふらと歩き始めた。

 

 何となくだが、今の彼女はティアでないような気がする――性格は全く違うが、クラウとティアの気配は自分の中ではほとんど一致するため、その差を感じるのは困難なのだが――なんとなくだが、今クラウディア・アリギエーリの身体をコントロールしているのはクラウな気がしたのだ。

 

「……クラウ? おい、どこへ行くんだ!?」

 

 なんだか妙な感じがする。自分もシートベルトを外して立ち上がると、緑髪の少女は再び「呼んでる」とうわごとの様に呟き――扉が開くと同時に走り始め、その後ろ姿もすぐに見えなくなってしまった。

 

「おい、クラウ、待て!」

「クラウ、お待ちなさい! アランさん、あの子がどちらへ行ったか分かりますか!?」

「あぁ、気配で分かる……俺に着いてきてくれ!」

 

 自分と同時にアガタも立ち上がり、二人でデッキを出てクラウを追いかけるために走り出した。

 

 ◆

 

 空飛ぶ鉄の船が急激なスピードで飛び去って行くのに合わせ、魔術神は極地の丘に立ち――ここまでは、勇者シンイチに瓜二つな少年が瞬間移動で運んでくれた――アルジャーノンは魔術杖のレバーに手をかけた。

 

「さて、これで仕上げだ。これを使うのは実に三千年ぶりだよ、アレイスター君。君は唯一これを見て……同時に、唯一生き残れる個体となる。

 第八階層魔術弾に代わり、第一から第七までの全ての強化弾を装填、発火……構成、炎、光、大地、風、冷気、闇、収束、そしてそれらを全て強化……基礎演算完了、残りを最後のモノリスへ譲渡」

 

 話しながらもアルジャーノンはシフトレバーを高速で動かし続け、同時に魔術弾を燃焼させて排莢していく――後は、耳で聞き取れないほどの高速な詠唱が元々自分の物だった口から紡ぎ出されると、雪の上に一つ、また一つと陣が生成され始めた。

 

 その魔術陣が異様なのは、一つ一つが超巨大という点だった。扱う魔術によってその大きさが異なるのは不思議なことでないのだが、半径一メートルほどに収まるのが一般的だ。それに対し、魔術神が紡いでいる陣はその何倍もあり、目視で見ると一つ辺りの半径は百メートルに及ぶように見える。

 

 詠唱が完了するには、実に数分の時間を要した。あの飛行物体の速度を考えれば、すでに魔術の有効射程から外れていてもおかしくはないはずだ。しかし魔術神は口元を吊り上げ、周囲に浮かんだ魔法陣を見つめた。

 

「我開く、七つの門、七つの力……そして我はその全ての本質を知る者! 千紫万紅たる創世の絶光、三千世界の彼方より出で、全てを破壊する理となりて、森羅万象に降り注げ!」

 

 男が魔術杖を天に掲げると、雪の上に浮かんでいた陣が一つを除いて宙へと浮かび、それぞれ回転して収束し始める――そして最終的には空一面を覆うほどの強大な魔法陣となり、禍々しくも七色に輝きだした。

 

「目的を果たせずにむしゃくしゃしているんだ……それに、王都での借りもある。今度は君の番だぞ、チェン・ジュンダー!!

 往け、無限絶色の破壊光線【ジェネシス・レインボウ】!!」

 

 男が最後に残った足元の白い陣を杖の底で突くと、そこから一気に無数の白雷が立ち昇り――空に浮かぶ魔法陣にそれらが到達した瞬間、世界が文字通りに一変した。

 

 青く澄んでいたはずの空は、陣から吹き出る何千、何万――いや何百万もの色彩を持つ光線が吹き出し――不可視の光彩まで含めれば、それこそ無限の色相を持っていると言えそうだ――それらの複雑な色に影響を受け、言葉では言い表せない色に染め上げられている。

 

 辺りの雪もそれらの光線を乱反射し――それも束の間、魔術神の魔術の反動か、辺りの雪も一瞬で吹き飛ばされてしまった。大気が大きく揺れ、同時に大地すらも揺れ始める。

 

 これはまさしく天災だった。惑星レムと、そこに生きとし生ける者を創り上げた神が編み上げた、破壊と創世の光。これほどの力が働けば、星の至る所で天変地異が起こっていてもおかしくはない――それほど壊滅的なエネルギーが、空を駆けて行った鉄の船を目掛けて照射されたのだった。

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