B&T~記憶喪失の転生者、伝説級の暗殺術で異世界ディストピアをぶっ壊す~   作:五島七夫

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二章:レヴァル攻防戦
宿屋にて ソフィア・オーウェルの場合


 龍型の魔獣を倒した次の日の午後、俺は宿屋のベッドで寝っ転がっていた。昨晩、三人の少女たちと一緒に行動をすることを決めたのだが、ひとまず自分は体力の回復をしなければならない。それにエル、ソフィア、クラウの三人は各々準備があるとのことで、正式にパーティーが稼働するのは明後日の朝からという運びになっている。

 

 実際、昨晩は一人で歩けなかったので、最終的には軍人に担架で詰所まで運ばれた。一夜明ければ少し元気になっていたが、それでもまだ体力が戻っていないので、馬車に揺られてレヴァルの街まで戻ってきた。その後は少女たちは各々自分のレヴァルでの住処に戻っていったと、それが午前中の話。そして自分はまだまだ動けないので、ベッドでゴロゴロとして居た訳であった。

 

 しかし、一人の時間は退屈ではあるものの、必要な時間であるとも思う。何せ、昨日までバタバタしていたので、一旦状況を整理する時間が欲しかったのだ。

 

 さて、自分はこの世界に、女神レムの力で転生してきた。しかし、記憶喪失のため、自分が前世で何をしていたのか分からない。女神から授かったのは、この世界を生きていくために必要な言語系のスキルと、基本的な疫病の抗体、あとはしぶとさのみ。そのはずなのに、何故だか敵の気配を感じたり、投げナイフが得意だったりと、女神が授けた以外の能力も備わっている。

 

 とはいえ、すでにあまりこの辺りは気にしていない。一瞬、自分の能力に違和感を持つこともあったが、そのおかげでこの世界でもやれることは見つかったし、どうせ全く新しい世界にいるのに、前世の記憶が無いこともあまり気にはならない。もちろん、完全に興味がないと言えば嘘になるが――追々、レムから聞け出せればいいだろう。

 

 そして転生させた女神からの依頼は、この世界を見て回ってくれ、それだけだった。何をどのように見てくれば良いかは特に指定されていない、まぁ無理に戦闘をすることもないとは言われているが、この辺りは自分の好きにやればいい。

 

 それに、戦闘が必要ないとか言う割に、暗黒大陸とかいう物騒なところで目覚めさせるのもどうかと思う。実際、ここは人間界の防衛線、魔王軍のお膝元、普通の仕事もあるにはあるが、稼ぐには戦闘は避けて通れない。戦ってほしくないなら、もっと緑が豊富で温かくて、スライムとかゴブリンとか、そういう敵がいるところに転生させるべきだ。

 

 何はともあれ、紆余曲折あって、三人の少女たちとパーティーを組むことになった。目的は、第三勢力の調査。この世界は人類と魔族の戦争中で、それはおよそ三百年の周期で起こり、異世界の勇者によって鎮められるが、この人類の勢力でもない魔族の勢力でもない者たちが暗躍している可能性があると。

 

 ここまで考えて、横になっているのに飽きてきた。少し体を動かすか――ベッドから体を起こし、少し腕を回してみる。昨日の晩から先ほどまでゆっくりしていたおかげで、体調はだいぶ良くなってきたようだ。

 

 そのまま、窓のほうへと移動する。時刻は午後三時と言ったところで、眼下のメインストリートはまだ人の行き来が激しい。通りを挟んで向こう側が、正規軍の駐屯地、あそこでパーティーを組むことになった少女、ソフィアが働いているはずだ。

 

 ふと、外の景色をぼぅっと眺めている時、部屋のドアがノックされた。

 

「あの、アランさん、私です、ソフィアです」

 

 噂をすればなんとやら、というか対面の建物の中に居ると思っていた矢先に、ソフィアが訪問してきたようだ。

 

「あぁ、開いているよ」

「それじゃあ、失礼しますね」

 

 控えめに、ゆっくりと扉が開かれ、ソフィアが部屋の中に入ってきた。手にはお盆を持っており、その上にはカップと菓子が乗っているようだった。

 

「アランさん、お体の調子はどうですか?」

 

 この部屋は一人用なので、一人用の机と椅子、それに一人用のベッドしかない。ベッドを一つの椅子代わりにすべく、まずは机を持ち上げてベッド側に移動させる。

 

「見ての通り、普通に動けるくらいには回復したよ」

「そうですか、良かったです!」

 

 次いで椅子も移動させ、椅子のほうへソフィアを座るよう施す。ソフィアはお盆を机に置き、施されるままに椅子に座り、自分はベッドの端に腰かけた。

 

「お、フルーツタルトか。そういえば、無事に帰ったらお菓子を食べるって約束したもんな」

「はい! ……あれ? でも、アランさんのお返事、聞いてましたっけ?」

「そういえば、こちらからは何も言ってなかったかな……それじゃあ一晩越しに、喜んで、と返答するよ」

「はい! ありがとうございます!」

 

 現在目の前で、はふぅ、とか言いながら目を輝かせている少女、ソフィア・オーウェルは、こう見えて龍さえ屠る最高位の魔術師であり、併せて正規軍の准将という肩書を持っている。色々無茶をする性格のためか、勇者パーティーから外され、今は最前線の指揮官――と言えば聞こえはいいが、実際は色々動き回らないように臨時の最高職という枷をつけられていた形だ。

 

「そういえばソフィア、軍を離れて調査なんてして大丈夫なのか?」

 

 こちらもデザートを口に運びながら准将に問うた。ソフィアはカップに入った紅茶を一啜り、落ち着いてからこちらに向き直る。

 

「はい、私の権限は、フィリップ大佐に多くを委譲する手続きを進めてます。レヴァル陥落の危機があることをお伝えしたので、本土からも私直々の調査にOKも出ると思います。あの龍レベルが出た場合、対処できるのは勇者様のパーティーか、私達くらいのものなので……現在は連絡待ちですが、おそらく明日中には決まるかと」

 

 私たち、とまとめてはくれたが、悲しいかな、自分は戦闘の実力が高くない。そのため、龍レベルと戦えるのは実質は三人の少女達、という方が正しい。

 

「えぇっと、本土と連絡って取れるのか?」

「はい、通信魔術というものがあります。学院で製造された魔術盤というものがあって、これが全世界の魔術盤と相互に繋がっています。こちらに伝えたい文字を送り合うことで、遠方地とも連絡が取れるようになってるのですね」

 

 ちなみに、魔術盤を使えるのは魔術師と神官職、いわゆるスペルキャスター達のみと補足があった。成程、電信よりもう少し使い勝手が良い、前世の感覚から言うと電子メールに近い感じか。

 

 しかし、通信技術があるとなれば、ますます軍隊は近現代にのそれに近いように思われる。同時に、一般の――魔術や魔法に関わる者たちと、それ以外のインフラ格差や知識の差は非常に大きいとも見て取れる。

 

「ちなみに、もし本土側からNGが出たらどうするんだ?」

「うーん、その場合は、主にクラウさんに相談ですね。報奨金が出せなくなってしまいますので」

「つまり、調査自体は、NGが出てもするってことか?」

「はい、どうせ書類に判子を押してるだけですから。別に、この立場が惜しいわけでもありませんし……ただ、NGが出た場合は、なるべく街からは離れないようにはします。緊急の時に、私が対応できないとマズイこともあると思うので」

 

 そこまで話して、ソフィアが最後の一切れを口に含んでふにゃけた表情をした後、再び紅茶を口に運んでいる。

 

「はふぅ……ごちそうさまでした……それで、街中の結界に関しては、大急ぎでジャンヌさんたちが修復にあたってくれてます。街道側は、まだ手が回らないので……しばらくは、軍のほうで警戒を強め、魔獣討伐するしかなさそうです」

「うん、そうか」

 

 返事をしてから少しの間、無言の時間が続く。色々手続きもあるだろうし、ソフィアも忙しいだろう――なんて返すのは流石に無粋か。忙しい中で、敢えて時間を取ってきてくれたのだろうし。

 

 なんて声を掛けたものか、いっそ趣味でも聞こうか、そんなことを考えていると、もじもじしていたソフィアが意を決したように顔を上げる。

 

「あ、あの、アランさん。本当に、昨日はありがとうございました……私の命の恩人です」

「いやいや、気にしないでくれ。結果オーライだったし、それに痛みも感じる暇もなかったし」

 

 言い方が良くなかったかもしれない、それだけ大怪我させてしまったことに対して、ソフィアは「ぴぇ」と小さく喚いた。

 

「えと、それで、その……昨日はさわりだけお伝えしましたけど、私のこと……誰かから伺ってます?」

 

 恐らく、勇者パーティーを追放されたことに関してだろう。彼女の口から出るまでは知らないふりをしておこうかと思ったが、当の本人が切り出してきたのだから、わざわざとぼける必要もないだろう。

 

「あぁ、ジャンヌさんから聞いたよ」

「そうですか……えと、アランさん、まだお時間は大丈夫ですか?」

「見ての通り抜群に暇だ」

「ば、抜群に……えと、それじゃあ、少し私の話聞いてください」

 

 頷き返すと、ソフィアのほうも小さく会釈した。ただ、なんとなく何か不安なのか、すでに空になったカップを両手でしっかりと包み込んでいる。

 

「……結論から言えば、こうなって良かったんだって……追放されてたことに、意味があったんだって、やっと思えました。シンイチさんがいない時、きちんと自分にやるべきことがある。もしシンイチさんにずっと着いてっていたら、レヴァルの街を狙って暗躍する影に気付く人はいなかったでしょうから……」

 

 もちろん、ソフィアが追放されることなく、他の誰かが気付くに越したことはなかったのかもしれないが――しかしソフィアがいてくれたからこそ、と言えることが自分にはある。

 

「ソフィアがこの街にいてくれなかったら、俺は今頃牢屋の中で放置されてたかもしれないしな。感謝してるよ」

「……ふふ、感謝されちゃいました」

 

 こちらの適当に気分もほぐれたのか、少女は微笑を浮かべたまま、空のカップを覗き込んでいる。

 

「……魔術師って、氷の魔術を修める人は少ないんです。野戦では炎のほうが好まれます。炎は知性の低い魔族や魔獣を恐れさせる効果もありますし、継続的に相手を混乱させる効果もあります。それに、冷気の方が、炎より扱いそのものも難しいんです」

 

 相反する属性は修めにくい、と続いた。また、そのため氷の魔術を修めるのは変わり者が多いとも。

 

「でも、ソフィアは氷を選んだんだよな?」

「はい……私は、生まれた時から、勇者様のお供になるべく、教育されてきましたから……勇者様の戦場は、野戦だけではありません。攻城戦や、ダンジョンでも戦います。狭い空間では、酸素を奪う炎の魔術は味方の行動を阻害してしまうんです。

 だから、私は学院に入ってすぐ、氷と、後は瞬発力の高い稲妻の術を学び始めました……それが、六歳の時です」

 

 確か、魔王が出現したのが十五年前、ソフィアは十三歳だから、魔王が復活してから生まれたことになる。そうなれば、勇者のお供に特化して魔術を修めることも不可能ではないのだろうが――。

 

「なぁ、参考までになんだが、学院って本来、何歳から入学できるもんなんだ?」

「えと、上も下も年齢制限はありません。ただ、早くても十八とかでしょうか。中々合格できない人や、ある程度成長してから学院を目指す人も居るので、平均の入学年齢でいえば二十五歳か、下手すればもっと上かと思います」

「うへぇ……そこに六歳で入学したのか。ソフィアは凄いな」

「そんな……お父様に、たくさんの家庭教師をつけていただきましたし。それに私自身、勉強は好きでしたから……」

 

 謙遜して少女は苦笑いしているが、実際はそう単純な話ではないだろう。たくさん家庭教師をつけられるということは、それだけオーウェル家は裕福な家柄とは推察できるが――そういえば、ジャンヌがオーウェルは豪商とか言っていたか――逆を言えばこの子は、大変な詰め込み教育を受けてきたとも推察できる。もちろん、彼女自身がそれに見合うだけの天才であったというのも言うまでもないのだろうが。

 

 とはいえ自分のいた世界なら、そのうちでもある程度発展している国なら、十三歳なんて鼻水垂らしながら遊んでいたっておかしくはない。それをこの子はもっと幼いうちから、その青春の全てを勉学につぎ込んできたのだ。ただ、勇者のお供になるためだけに。

 

 つまり、逆を言えば――。

 

「……私の存在意義は、勇者様と、シンイチさんと共にあることでした。だから、追放を言い渡されてから……私は、自分の生きる意味を失くしてしまっていたんです」

 

 その声は、か細く小さかった。

 

 この子は必死だったのだろう。新しい自分の存在意義を見つけるために。この子はずっと、大人の中で囲まれて生きてきた子で、周りを安心させるために頑張ってきたに違いない。だから、このレヴァルの街に来てからも、必死に働いていたのだ――自分の居場所を探すために。

 

「……俺だったらグレてるな」

 

 気が付けば自分は天井を眺めていたらしい。視界の外からソフィアの「えっ……」という感嘆の声が聞こえてきて、それに反応して視線を下す。

 

「俺がソフィアの立場だったら、勉強しろって言われても嫌で投げ出してたと思うぜ……もっともっと、好きに生きたいってな」

「でも……今は、そういう時代では、ありませんから」

 

 そう呟く少女の笑顔は、どことなく力ないものだった。確かに、自分とは文字通りに生きてきた世界が違うのだ、こちらの倫理観というか、主観を押し付けるのもお門違いかもしれない。それでも、こんな健気な子が、周りの大人に、時代に、世界に翻弄されていると思うと、やるせないものがある。

 

「……ありがとうございます、アランさん。私の代わりに、怒ってくれてるんですよね?」

 

 今度の笑顔も、心からのものとは少し違うようだった。少女はフォークを手に取り、タルトの乗っていた皿を小さく叩いて見せる。

 

「私はつい先日まで、お菓子の味を知りませんでした……時代が時代なら、お友達と一緒に、こういうのを食べて……もう少し自由に、年相応に生きていたのかもしれません」

 

 フォークを丁寧にお皿の上に置きなおし――こちらを見る目は、真剣なもの、年相応とはかけ離れた、覚悟の決まった眼差しだ。

 

「でも、私はソフィア・オーウェルです。この手には、戦う力がある……今がそういう時代でないなら、平和のために、私は戦います」

「……凄いな、ソフィアは」

 

 そう言うしかなかった。記憶はないが、自分が十三歳だった時に、ここまで覚悟を決められるような肝っ玉があったとは到底思えない。

 

 こちらのボヤキに、ソフィアはまた笑顔を浮かべた。しかし今度の笑顔は、本物だった。

 

「そんなことありませんよ。私は、アランさんこそ凄いと思います。こんなことを言ったら失礼かもですが……アランさんは、魔王と戦うために訓練していたわけではないと思います。それなのに、あの龍を相手に、二度も私を守ってくれました。凄く、勇気があると思うんです」

「いやぁ、気付いたら勝手に体が動いてただけだからな」

「だからこそ、凄いんです。考えるより先に、損得なんか考えないで、誰かのために一生懸命になれる……それは、凄く素敵なことだと思います」

 

 素敵とか褒められると、流石にむずがゆくなる。

 

「……エルやクラウがいたら、馬鹿なだけでしょ、とか言いそうだけどな」

「ふふ、そうかもしれません……私も正直、賢いなぁとは思わないです」

「おぉ、言ったな?」

「ご、ごめんなさい、失礼なことを言いました……」

「いや、むしろさっきみたいな返しは大満足なんだが……」

 

 委縮してしまったソフィアを見ながら、どうしたものかと考える。邪推だが、この子は同世代の知り合いもいない環境で、ずっと大人を満足させるように――怒らせないように生きてきたのではないか。

 

 だから、何があってもすぐに自分のせいにしてしまうし、委縮してしまう。すぐに謝ってしまう。良く言えば謙虚なのだが、悪く言えば卑屈が過ぎる。これで自己犠牲精神の塊でかつ、渦中に簡単に身を投げてしまう性質なのだから、ある意味では勇者の判断も間違えていなかったのかもしれない。

 

 とはいえ、自分は少女から恩を受けた側である。彼女を自分からも、彼女が戦いを望むその渦中からも、無為に遠ざけるようなことはしたくない。

 

(……そもそも、こんな年端もいかない子が、最前線に立たなきゃいけないのが、きっと違うんだよな)

 

 ソフィア自身の覚悟は分かった。それを、君は子供だからと突っぱねるのは簡単だけれど、それは生まれてからの十三年間、研鑽を積んできた彼女に失礼というもの。元はと言えば、覚悟を持たなければならないような環境が悪いのだ。レムにこの世界を見てくれと言われたが――まぁ、オーウェル家の親父とやらが決めたことで、レムが悪いわけでないのだが――この世界はちょっと違うんじゃないか、と文句を言うべき点が出てきた。

 

 それより、ひとまず目の前の問題だ。彼女の卑屈な態度を、少し緩和させたい。恐らく原因は、本心をさらけ出せるような環境になかった、常に誰かに試されているようなストレスが問題だったのだろうから――。

 

「……なぁ、ソフィア」

「は、はい、なんでしょう?」

「息を大きく吸って」

「は、はい……すぅー……」

「吐いてー」

「はぁー……」

「肩の力を抜いてー」

「はふぅ……えと、アランさん、これどういう意味が?」

「……俺にもわからん」

 

 とりあえず、大人と接する緊張感的なものをほぐしたかったのだが、それにしても肩の力を抜いては直接的すぎる。こちらの意図が分からず、余計に緊張させてしまうのではないか――そう思っていると、反対にソフィアは笑ってくれた。

 

「ふふ、アランさん、面白いです」

「そいつはどうも……そうだ、それだ、敬語を止めてみたらどうかな?」

「え……? でも、アランさん、年上の方ですし……」

 

 思い付きで言ってみたものの、ソフィアに即難儀を示された。とはいえ、至極簡単なものだが、ひとまずの策としては悪くない気もする。そもそも、誰に対しても敬意を表しすぎなのだ。遠慮の要らない相手が出来れば、少しは彼女の卑屈も解消されるかもしれない。

 

「いいんだよ、俺なんか歳が上なだけで、ソフィアより上等な人生は歩んでないんだ。そんな奴に敬語を使うこともないんだぞ?」

「い、いや、そんな自分を卑下しなくても……というか、アランさん記憶喪失だから、どんな人生だったのか分からないのでは……?」

「うーん、そうだなぁ、ソフィアより年上って確証もないし、もしかしたら俺はソフィアより年下かもしれない」

「そ、それも無いと思いますが……!」

「えーい面倒くさい! 敬語禁止!」

「えー!?」

 

 恐らく、強引にいかないと延々と平行線が続いていただろうから、強硬策に出た。ソフィアはしばらく俯きながら「うーあー」とうめき声をあげていたが、少しして顔を赤くして顔を上げた。

 

「……アランさん?」

「うん、なんだいソフィア」

「うー……何を話せばいいか分からないよ……」

 

 その言葉は、いやその態度は、こちらの父性とでもいう言うべきモノか、はたまた庇護欲とも言うべきモノを、光の速さで突き刺してきた。「恥ずかしい……」とか言いながら顔を真っ赤にしてもじもじしている金髪碧眼の美少女、これでご飯を食べられない紳士はいるのだろうか?

 

 こちらが謎の高揚感を得ている真ん前で、少女は未だに頬を染めて恥ずかしそうにしている。まさか、主食だけでなく主菜、副菜まで提供してくれる気か――そう思っていると、少女は顔を赤らめたまま顔を上げた。

 

「え、えと……その……練習しておきます!!」

「あ、あぁ……うん、練習頑張れ」

 

 そもそも練習という時点で最初の意図とはズレている気がするのだが、まぁそれはそれ、こちらもこの破壊力を受け止めるだけの心の準備が必要かもしれない。

 

「あ、あの、アランさん。それでなんですけど、エルさんとクラウさんにどの宿が良いか、考えておいてほしいと、私が言っていたと伝えてもらっていいですか?」

「それは構わないが……ソフィアから直接でもいいのでは?」

「いえ、多分お二人とも、アランさんのお見舞いに来ると思いますので。早めに考えていただいた方がスムーズかなと。私は、宿の情報などに詳しくありませんので……」

「そういうことなら分かった。確実に来るかは分からないが、来たら伝えておくよ」

「はい、それではそろそろ、お暇しますね」

「あぁ、ソフィアも色々忙しいだろうから、頑張ってな」

「はい! ありがとうございます!」

 

 ソフィアはお盆を持ちながら立ち上がる。そのままでは扉も開けにくいだろう、こちらも立ち上がり、扉を開けて見送ることにする。

 

「あ、わざわざすいません……あの、アランさん?」

「うん?」

「……またね」

 

 扉の外で、少し頬を染めてはにかんでお辞儀をして、ソフィア・オーウェルは廊下の奥へと消えていった。敬語抜きは破壊力がやばいかもしれない――。

 

 ◆

 

「……ということがあったんだよ」

「うわ、アラン君変態です、事案です、事件です。衛兵さんこちらです」

 

 昨日のことを嬉々としてクラウに話すと、汚物を見るような目で見られてしまったのであった。

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