B&T~記憶喪失の転生者、伝説級の暗殺術で異世界ディストピアをぶっ壊す~   作:五島七夫

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夢野七瀬との思い出

「ナナセのことを聞かせて欲しい?」

 

 イスラーフィールがアシモフの元へ腕の調整へ行ったタイミングで、セブンスがそう切り出してきた。

 

「はい! 以前、魔族の方にお話を聞けたのですが……T3さんから見たナナセが、どんなだったか教えて欲しいんです!」

 

 

 基地での料理配膳の件で懐かれたのか、はたまた懇意にしていたソフィア・オーウェルが居なくなったせいか、近頃はセブンスが自分に付きまとってくることが増えたように思う。どれだけ邪険に扱っても犬のように着いてくるので、もはや距離を取ることは諦めている部分はあるのだが――あまり過去の話をしたくないのが正直なところだ。

 

「話す理由がない。それに、それを知ったところでどうするつもりだ?」

「えぇっと、それは……とくに、どうもしないですけど……でも、気になるんです。T3さんから見た夢野七瀬はどんな人だったのか。もちろん、話したくないというのなら、無理には話さなくても大丈夫なんですけど……」

 

 食い気味だったセブンスは、徐々に椅子の方へと下がっていき、段々と口調も大人しくなっていく。そして最後には視線を落として黙り込んでしまった。

 

 一応、彼女としても軽はずみに聞いてきたというわけではなさそうだ。それに、セブンスにしょぼくれられると、こちらもどうにもモヤモヤとした気持ちになる部分はある。互いに気がまぎれるのなら、少し程度なら話しても良いのだが――。

 

「先に言っておく。貴様とナナセは別の存在だ。だから仮に私の話を聞いても……変に意識をするんじゃないぞ」

 

 恐らくだが、自分がセブンスに過去の話をしたくない一番の理由がこれだろう。クローンであるセブンスが、夢野七瀬になろうとすること――ナナセは死んだ。その事実を覆されたくないのだ。

 

 セブンスとナナセが似ている、これは事実だ。同じ遺伝子情報を有しているのだから外見が似ているのは当たり前で、近頃は性格まで似てきている。だが、三百年前に共に苦難を切り抜け、自分を護って散った高潔な勇者はもういない――それが自分にとってのただ一つの真実である。

 

 もしセブンスがナナセになり替わろうとするのなら、それはナナセに対する冒涜だ。だからこそ、下手にセブンスにナナセのことを教えてしまい、意識させるのは避けるべきと自分は直感的に思っていたのだろう。

 

 とはいえ、全く話さなくてもセブンスは納得しないだろうし、過去の客観的な事実くらいなら調べれば分かることであるし、話しても問題はないか。セブンスの方はと言えば、こちらが話す意識を少し見せたせいか、下がっていた顔を上げて瞳をキラキラと輝かせていた。

 

「はい、大丈夫です!」

「何が大丈夫なのかは良く分からんが……さて、どこから話すべきか」

「それじゃあ……出会った時からお願いします!」

「そんなところから話をしていたら、日が暮れそうだな」

「え、えへへぇ……ともかく、T3さんが話しても良いってラインだけでも大丈夫ですよ?」

「私がナナセと出会ったのは……」

「あ、そこから話してくれるんですね!?」

 

 別段、出会った当初の話くらいしても良いと思って切り出したのだが、話に割り込まれるのは癪に障る――こちらが黙ったのをマズいと思ったのか、盛り上がっていたセブンスは再び小さくなり、機嫌を伺うようにこちらを覗き込んできた。

 

「は、話の腰を折ってごめんなさい……続けてください」

「ふぅ……三百年前の世界樹だ。南大陸での移動中、魔獣に囲まれて魔術師の仲間を失っていた穴を埋めるため、レア……ファラ・アシモフから同行するように提案されたのだ」

「なるほど……ちなみに、三百年前の仲間はどんな人たちだったんですか?」

「先に亡くなった魔術師は面識が無いから割愛するぞ。一人はルドルフ・フォン・ハインライン。エリザベートの先祖であり、優秀で寡黙な剣士だった。

 もう一人はラウラ・ペトラルカ。彼女もアガタ・ペトラルカの先祖にあたるな。アガタと同様、どことなく独特な語感で話す女だったが……また同様に、使命に燃える乙女でもあった」

「はへぇ……皆さん、由緒正しきお家の方々なんですねぇ」

「そうだな……」

 

 セブンスとしてはほとんど何も考えないで言ったことだったのだろう、相槌を返してもとくに少女の方から話を発展させてくることもなかった。しばしそのまま沈黙が続き――その雰囲気に耐えられなかったのか、セブンスは両手を振りながら慌てた様子で口を開いた。

 

「えとえとえと! T3さんから見たナナセのことを改めて教えてください!」

「最初は変な奴だと思っていた」

「変な奴、ですか?」

 

 先ほどまで慌てていたのが嘘のように、少女の表情はキョトンとしたものに変わる。さて、ここからは言葉も選ばなければ――下手に自分の感情を悟られたくはない。すでにぬるくなったコーヒーを一啜りし、ゆっくりと話を続けることにする。

 

「あぁ。魔族を倒すために召還された勇者なのに、魔族に情けをかける……もちろん、レムリアの民を救うことを優先していたし、敵をまったく殺さないほど甘い訳でもなかったが。それでも、話が通じそうなときや、見逃しても問題なさそうなときは、無理に命を奪うこともしなかった……それが矛盾しているように感じられたのだ。

 ナナセへの同行はアシモフから提案されたというのも事実だが、同時に若かった私は、世界を救うという使命に浮足立っていた。だから、魔族に情けをかけるというのも最初は理解できず、ナナセとは衝突していたものだ」

「なるほど、なんとなく目に浮かびますねぇ……」

「それはどういう意味だ?」

 

 一瞥すると、しみじみと情景を浮かべているであろう少女は気まずそうに苦笑いを浮かべた。

 

「あ、あははぁ……続けてください」

「……最初こそ衝突したものの、ナナセと共に歩む時間が増えるにつれ……ある種の筋が通っているように感じられてきた」

「筋、ですか?」

「そうだな……綺麗ごとを言っているのは確かだが、安全な所から他人に指示を出しているわけではないし、人の生き方や意見を否定することはしなかった。何より、理想の実現のためには自ら率先して道を拓いていた。

 むしろ、自分の身など顧みない危なっかしさがあった……誰かを護るためには自らの命を平気で危険に晒せる、ある種の覚悟があるように見えた」

 

 まったく、見ていてハラハラしたものだが。同時に、誰かのために戦い続ける彼女の魂を美しいと思ったのも事実だ。普通に見ていれば底抜けに明るい、どこにでも居るような少女なのに――渦中に身を投じれば自分ではなく誰かのために戦える彼女のその在り方に、自分が惹かれていたのだ。

 

 だが、この胸中までセブンスに話す必要は無いだろう。そう思いながら少女の方を見ると、セブンスは腕を組みながら何かを考え込んでいるようだった。

 

「うぅん……ナナセさんは、どうしてそんな風に危なっかしかったんでしょう?」

「貴様も大概危なっかしいが……そうだな。ナナセはこう言っていた。自分の命は、本来なら故郷で事故により失われていたはずだった……その事故から救うために身を投げ出した人が居るから、自分は生き残っている。自分は、その人と同じように、危機にある人を救うためにこの命を使っていきたいのだと。

 同時に私は、命を賭してナナセを護ってくれた者に感謝した。その者がいたから、惑星レムは救われると……そしてその者がいたから、自分はナナセと出会えたのだから」

「ふふ、感謝をするのは良いことですね!」

 

 セブンスに笑いかけられ、ふと我に返る――ナナセが言っていたことを思い出そうとしながら話しているせいで、無駄なことまで話してしまったのではないか。そんな自分の心配などどこ吹く風で、セブンスは思考にふけるように首を傾けていた。

 

「でも、同時に……うーん、不思議ですねぇ」

「何がだ?」

「いえ、私は頭がよくないのでアレなんですが……夢野七瀬って、多分七柱の創造神に造られた人ですよね? それなのに、故郷の記憶があるって、不思議だなぁって」

「その辺りは私も詳しくはないが……聖剣の勇者は旧世界の素質のある人物の細胞と記録から再現された存在らしいからな。記憶……というより、本人を形成する情報が無いと人格に整合性を保てないから、DAPAの知りうる素体の実際の経験を脳内チップを利用して再現したのではないか?」

「なるほど、そうかもしれないですね……それじゃあ旧世界において、オリジナルの夢野七瀬を事故から救った誰かが居たのは、きっと間違いないことなんですね。

 ちなみに、その事故から救ってくれた方がどんな人だったかって、ナナセは言っていたんですか?」

「あぁ、聞いてはいるが……誰かまでは分からないそうだ。ナナセを事故から救ったのは、どこの誰とも分からない赤の他人だったそうだからな」

「えと、その事故の後は……」

「間違いなく即死だっただろうと。だから、礼を言いたくても会えなかったと聞いている」

 

 今にしても思えば、ナナセはある種の贖罪のために戦っていたのかもしれない――もちろん、オリジナルの彼女は一万年前に亡くなっているのだろうから、自分の知るクローンのナナセには何の罪も無いのだが。しかし、自分を救って死んでいった者に対する贖いを、ナナセは無意識的にしようとしていたのではないか――なんとなくだがそんな風に思うのだ。

 

 そして、その贖罪の意志は、同じ遺伝子を持つセブンスにも受け継がれているように見える。以前はナナセを救った者に感謝したものであるが、同時にその者は幼い少女になんと重い枷を授けてしまったのだろうか。

 

「……T3さん、難しい顔をしていますね」

 

 思考に耽《ふけ》てしまっていたのだろう、ふと上がった少女の声で現実に引き戻される。

 

「……いつものことだろう」

「あ、あははぁ……いつも難し顔をしている自覚はあるんですね?」

「ふぅ……ここまでにするか?」

「し、失礼しました! 続けてください!」

 

 続けると言っても、どこの話を切り出したものか。ひとまず魔王征伐の旅について話を続けることにした。

 

 ルドルフやラウラなど仲間の話や、道中にあった他愛のない話など――セブンスはそのどれも、変わらず妙な合いの手でこちらの話を中断させては、同時に真剣にナナセを理解しようと耳を傾けているようだった。

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