B&T~記憶喪失の転生者、伝説級の暗殺術で異世界ディストピアをぶっ壊す~   作:五島七夫

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船内の二人部屋

 ホークウィンドとの鍛錬が終わってから自室に戻ると、アガタが先に戻っていた。彼女はこちらを見るなり先ほど一件について――アランとの件を邪魔してしまったと思ったらしい――謝罪をしてきた。

 

 とはいえ、自分としてもアレで良かったように思う。自分自身も雰囲気に流されてしまった部分もあるし、クラウに対して申し訳ない気持ちがあったのも確かだ。もちろん、肝心な彼がヘタレなのも相変わらずだったことだけは納得いかないが、それでもその場の勢いで何とかなってしまうより良かったかもしれない。

 

 実際の所は男女の情事なんか、その場の勢いが大切なのかもしれないが――ともかく気にしてない旨をアガタに伝え、備え付けのシャワーで汗を流した後、ベッドに腰かけて先ほどホークウィンドに共有されたことをアガタには話しておくことにした。

 

「成程……それは、アランさんとナナコさんには言わない方が良いでしょうね」

「まぁ、本当は君にも言うかは悩んだんだけどね」

「それって、どういう意味ですの?」

「何って、文字通りの意味だけれど……深い意味は無いよ」

 

 恐らく、彼女自身は感情を上手く抑え、ポーカーフェイスに徹せられると認識しているのだろうが――なんやかんやで顔には結構出るタイプだ。教会を追放されるときも、レヴァルで再会した時も、彼女はいつも申し訳なさそうな表情をしていたから、自分はクラウと比べて彼女に対する不信感は少なかったという事情がある。

 

 とはいえ、同時にかなり口が堅いのも間違いない。様々な事情があったものの、彼女はそれらを匂わせることすらしないで、レムの詔《みことのり》を実行し続けていたのだから。そういう意味では話して問題ないと判断して共有した形だ。

 

「ふぅ……まぁ良いですわ。アナタなりに、私のことを信頼してくれているって証拠なのでしょうし。来るべき時が来るまでは、私もそのことは胸の内に止めておくことにします」

「あぁ、そうしてくれ」

「ところで……これは、ゲンブたちには共有済みですが……先ほど、一度だけレムの声をキャッチできました。ヘイムダルへの侵入作戦はレムも賛成であり……同時に、これが最後の戦いになるだろうとも。

 右京達は我々の襲撃に備えて海と月の塔とヘイムダルにそれぞれ第五世代型を配置しているようですが、主力であるアルジャーノンやハインラインは右京のJaUNTで瞬時に移動できるので、どちらを攻めても奇襲として成立しないようです」

「えぇっと、JaUNTって言うのは何なんだい?」

 

 こちらの質問に対し、アガタは「私もあまり細かいことは共有されてはいませんが」と前置きを置いた。

 

「JaUNTは元々、旧世界でデイビット・クラークなる人物がモノリスに接触することで扱っていた能力のようです。端的に言えば瞬間移動をする能力であり、接触している物体と合わせて、術者を瞬時に別の空間へと移動させる能力のようですわね」

「厄介そうだね……欠点は無いのかい?」

「JaUNTは、転送先の空間を思い描かなければならない……そのため、知らない所への瞬間移動は出来ないようです。

 また同時に、空や海中など風景の変わらない場所への移動は難しいようですわ」

「なるほど、攻めには使えなさそうな能力だけれど……」

「えぇ、構造を知る空間内、つまり自分たちのテリトリーにおける防衛戦においてでは、かなり強力な能力と言わざるを得ませんわね」

 

 海と月の塔では七年ほど生活していたが、多くのフロアは立ち入り禁止であり、自分ですら把握していない場所は多い。ヘイムダルについては言わずもがな――それに対して塔も空中要塞も敵にとっては勝手知ったる自分の庭だ。地の利は完全に向こうにあると言える。

 

 一応、アシモフによりある程度の内部構造はゲンブに共有はされているらしいものの、それでも自分たちの襲撃に合わせてどこかしら改修していたり、罠を設置したりしている可能性も否めない。

 

 そもそも、本来戦いというものは圧倒的な物量で押しつぶせる場合を除いて、守るより攻めるほうが難しい。物量で負けている自分たちが攻め戦をすること自体に大分無理がある訳だが――とはいってもこれが恐らく最後のチャンス、やり切るしかない。

 

 アガタの話を聞きながらそんな風に思考が周るが、ネガティブなことをいうこともない。ひとまずJaUNTとは何かは理解したので「なるほど」と言いながら頷き返すと、アガタも頷き返して話を続ける。

 

「さて、ヘイムダル襲撃時にはレムの助力も受けられるそうです。そうなれば、私も第五世代型アンドロイドを認識できるようになりますから……極地基地のように、足は引っ張らないで済むと思います」

「そんな……君はやれることをやったじゃないか、アガタ」

「いいえ……もっと私に力があれば、護れたものもあるはずですわ」

「……やれやれ、クラウの言っていた通りだね」

 

 アガタはクラウがその魂を賭して皆を護ったことを心苦しく思っているのだろう。むしろ、あの状況をどうにか出来ただけでも奇跡だし、アガタに落ち度は全くないと言っていい。

 

 そんな中でも彼女が心を痛めているのは、責任感が強く――同時に、確かな優しさを持っているから。だから、クラウはアガタを頼むと言ったのだろう。放っておけば後悔に押しつぶされてしまうに違いないから。

 

 自分がそんな風に得心していると、アガタは訝しむ様な表情をこちらへ向けていた。

 

「……どういうことですの?」

「いいや、こっちの話さ……でも、そうだな。今更だけれど、君とレムのことについてもう少し教えてくれよ」

「話を逸らそうとしていませんか?」

「いいや、そんなことはないよ? 知っておきたいんだ……改めて、友人である君のことをね」

 

 今なら彼女が隠していたことを――正確には、その小さな身に余る重責について――色々と聞くこともできるだろう。アガタの方も話す気になったのか、一度大きく息を吸い――とはいえ後ろ暗いものがあるせいか、すぐに申し訳なさそうに視線を伏せた。

 

「そうですわね……まずは謝らせてください。いえ、謝るには遅すぎたかもしれませんが……私はアナタとクラウに対し、多くを隠し、そして教会から追放されるという憂き目に会わせてしまいました」

「まぁ、その辺りに関しては気を使わないで大丈夫だよ。言えなかった理由も分かるし……同時に、実態を知った今なら、むしろ追放されてせいせいしたって所だからね。もちろん、神聖魔法を使えなくなったことだけはいただけないけれど」

 

 そこまで言って、先ほどアガタが言っていたことを思い出す。クラウはルーナの加護を失った後も、司祭級までレムの助力で使うことが出来た。それならば――。

 

「少し話は脱線するけれど……レムがボクに神聖魔法を取り戻させてくれたりはしないかな?」

「恐らく、部分的には可能かと思いますわ。まだルーナと裏で電脳戦を繰り返しているのですぐには無理で、正式にレムと契約しないと枢機卿クラスまでは扱えませんが……とはいえ、以前クラウに……というより、クラウディア・アリギエーリという個体に許可していた領域があるので、司教クラス程度まではヘイムダル襲撃時には取り戻せるかと」

「決戦だというのに心もとないけど、贅沢は言えないね。それでも簡易な回復魔法と結界、補助魔法が使えるだけでも、大分動きやすくはなりそうだし、使えるだけでもありがたいよ」

 

 とくに結界が使えれば、防御は元より移動や速度が強化される。そこが強化があわされば、攻撃力だって増す――その上にホークウィンドとの鍛錬と合わせれば、敵の主力級と戦えるとまではいかなくても、並の第五世代相手なら遅れを取ることもなくなるだろう。

 

 ひとまずレムの助力が得られそうということに安心し、「話の腰を折ってすまなかったね。話を続けてくれ」と伝えると、アガタは改めて真面目な顔つきになって頷いた。

 

「そうですわね……まずは、私の家のことからお話しましょうか。ペトラルカ家はレムに仕える一族であり、その目的は外界においてレムの指令をこなすのを主としています。

 レムは己の肉体をもちませんから、己の力で外界に影響力を持つことは出来ません。もちろん、乱暴な手段はありますが……彼女はそれを良しとはしませんでした」

 

 乱暴な手段と言うのは、第六世代型アンドロイドである我々の生体チップとやらに働きかけ、思考を無理やり書き換えることを指すのだろう。恐らく、緊急時にはその利用も辞さないこともあるのだろうが、逐一書き換えを行っていては解脱症に罹る人も増える――というより、レム自身の善性から、我々を意のままに操るのを好まないのだろう。

 

「そういえば、レムは熾天使を持っていないのかい?」

「アナタにはまだ言っていませんでしたね。レムにはミカエルという熾天使がいます。ただ、ミカエルは原則として海と月の塔から外には出ません……ルーナが敵愾心を抱いているのはレムも知っていることですし、自衛のために常に近くに置いておく必要があるのです。

 それにどの道、熾天使はあくまで七柱の創造神を護るための影のような存在です。人の世に影響を及ぼすなら、人の方が都合も良いですから。ですから、レムは我々のような一族を用意したのですよ」

「なるほどね」

 

 熾天使の話を終えると、アガタは咳ばらいを一つ挟み――ここからが彼女とレムとの関係性が明かされるのだろう。自分も少し姿勢を正して改めてアガタの方へと向き直った。

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