B&T~記憶喪失の転生者、伝説級の暗殺術で異世界ディストピアをぶっ壊す~ 作:五島七夫
作戦の決行日までは各々の時間を過ごしていたようだ。とはいえ作戦決行までの残り時間は短く、できることはそう多くはない――そんな中で頭脳組はヘイムダル攻略の作戦を練り、ティアはホークウィンドから師事を受け、アガタはレムとの交信に努め、ナナコは艦内における軽作業を――意外と家庭的なT3のフォローが入っているので何とかなっているようだ――担当しているようだった。
自分はと言えば、相変わらずピークォド号から離れて各地を襲撃する第五世代型との戦闘を繰り広げていた。先日T3に殴られ、ティアと話したことで少しは落ち着いたが――かといって艦内に居たところで何かが改善されるわけでもないし、自分が役に立つこともない。そうなれば、一人でも多く犠牲者が出ないように戦う方が有意義だとも思ったし、同時にこの方が無駄に頭を使わずに済む。
戦闘を通じて何度かべスターとも会話をできたが、やはり瞬間的な音速戦闘ではそこまで多く言葉を交わせたわけではない。しかし、旧世界においても、DAPAはこのように各地において第五世代型を活用したテロ活動を起こしており、原初の虎は要人暗殺をする傍らでそれらの鎮圧活動も行っていたことは聞かされた。
その上で、旧世界で自分が活用していた武器についても情報を得ることができた。第五世代型を相手にする際はADAMsを利用した速度と高周波ブレードを活用していたということであり、今とそんなに変わりはないが――やはり敵の数が多ければ、近接戦闘だけでは手数に限界もある。
そんな中で、ゲンブには自分が旧世界で使っていた投擲武器の制作を依頼していた。パワードスーツT2で戦っていたべスターも同じ物を利用していたので、ゲンブとしても知識はあり、再現は不可能ではないということだった。
そして作戦決行当日の朝、艦内に戻ったタイミングですぐにゲンブより声が掛かり、自分はすぐにブリッジへと向かった。
「おはようございます、アラン・スミス……こちらが、ご依頼いただいていたEMPナイフです」
人形は念動力でブリッジの一角に置いてあった巨大な箱を自身の前に取り寄せ、そのまま超能力で蓋を開いて見せると、中には三十本ほどの短剣が収められていた。そのうちの一本を取り出して眺めてみる。見た目は普通の短剣ではあるが、普段使っているものと重さはそう変わらず、先端は鋭利で刃は特殊な合金でできているようであり、これなら第五世代型の装甲にも突き刺せる硬度はありそうだった。
「電子パルスを発生する特殊なナイフ……第五世代のメインコンピューター、つまり頭部に突き刺すことができれば管理システムからの指令を妨害できるのはもちろん、第五世代が搭載している電脳にも作用し、生物でいうところの気絶状態にすることが可能です。
第五世代をそのまま破壊するほどの威力はありませんが、同時に一時的に通信不能のスタン状態にするだけに留まるので、潜入工作向けではありますね……今回のアナタの役割にはピッタリですよ。
それにどの道、この世界の稚拙な冶金術《やきんじゅつ》で作られたナイフよりは、威力も期待できるでしょう」
「そう言うなよ。これはこれで気に入ってたんだからな」
ベルトやコートに仕込んでいた店売りの短剣を取り出し、代わりにゲンブ特製のEMPナイフを仕込んでいく。旧世界の技術と比較したら稚拙であっても、この世界の住民が持てる技術の粋で作ったものであり――何よりエルが自分のために選んでくれた武器でもある。
もちろん、投擲用のナイフは消耗品であり、最初から使っていた物を今でも所持していた訳でもないのだが。それでもなんとなく、この世界の無骨な短剣に愛着があったのは間違いない。
しかし、こだわりだけで戦える状況などとうに過ぎている。そうなればより実践的で、戦う相手の規格に合わせた武器が必要になるのも必然だった。高威力な武装ではないが、それは超音速からの接近戦とバーニングブライトがあれば事足りる――必要なのは間接武装の強化であり、当たれば相手を無力化できるのならば、不要な消耗を避けることもできるだろう。
「……俺の役割にぴったりと言ったな? 作戦は?」
ナイフの入れ替えが済んでからそう質問すると、ゲンブは「直に全員集まりますので、それからお伝えしますよ」と言いながら扉の方を見た。そのタイミングに合わせて扉が開くと、まずファラ・アシモフとアズラエルがブリッジに入ってきた。それを皮切りに艦内のメンバーが集結していき――全員が集まるのを見計らって、中央に鎮座する人形が辺りを見回しながら口を開いた。
「さて、それでは作戦を通達します……とはいっても、今回の作戦は非常にシンプルです。作戦の目的はただ一つ、ヘイムダルに存在する敵勢力の殲滅です。一番の目的は七柱の虚構をアシモフに暴いてもらうことですが、それをするには必ず配置されている第五世代型アンドロイドとジブリール、ルーナ、アルジャーノン、そして右京と……リーゼロッテ・ハインラインと戦う必要があります」
「ルーナには戦闘力はあるのか?」
人形の言葉に自分が割り込むと、ゲンブがアガタの方を一瞥した。確かに、ルーナのことならレムやアガタの方が詳しいだろう。
「ルーナの宿るセレナという器は、枢機卿クラスの神聖魔法に加えて七星結界、それに高度な……えぇと、確か戦闘プログラムがインストールされています。彼女自身に戦闘経験はほとんどありませんが、その戦闘力自体は折り紙付きです」
「とはいえ、旧世界でローザ・オールディスの戦闘記録はない。プログラムに即した技術のみで実戦経験が無いのならば恐れるに足らぬ。知っていることと出来ることは別物であるからな」
補足したのはホークウィンドだ。自分も彼の意見には賛成だ――戦闘中に頭を使っていない訳ではないが、そう精密且つ緻密に思考している時間がないのも確か。常に経験則で動くのも危険なのかもしれないが、同時に刻々と変化する戦況に対して直感から反射で身体を動かすことも大事である。戦闘経験が無いということは、理論はしっかりしていたとしても、迅速に身体を動かすには必ずラグが出るだろう。
ともかくルーナの戦闘力についての共有は終わり、再びゲンブに主導権が返された。
「続けましょう。我々がやるべきことは、戦力を分散させずヘイムダルで暴れまわり、敵を殲滅することです。とはいえ、第五世代型アンドロイドまで相手にしていれば、それだけ消耗も激しい。そこで……」
人形はそこで言葉を切り、ガラスの瞳をこちらへと向けてきた。
「アラン・スミス。アナタには単身で管制室を制覇してもらいます。管制室から右京の影響を排除できれば、レムが直接コントロールを奪い、中に居る第五世代型アンドロイド達を無力化出来る……それまでの間、他の者たちは一か所に集まり、敵の攻撃を凌ぐことに専念します。
管理室へ潜入するのは、ADAMsによる移動の速さと第五世代型を見分ける能力を持つ貴方がうってつけ、という判断です」
「軍師チェン・ジュンダーにしては、随分と短絡的な策なんだな」
「というより、そう言った策しか通用しない、というのが正直なところですね。下手に戦力を分散させれば、右京のJaUNTで強力な敵が瞬間移動で送り込まれ、こちらが各個撃破されてしまう。
そう言う意味では、互いにフォローしやすいように一か所に集まるのが、上策でもなければ下策でもないというラインに落ち着く……時間をかけて考えても、結局これしか出てこなかったのは申し訳ないことではありますがね」
申し訳ない、という割にゲンブの声は軽い。もちろん、気軽に構えているわけでもないだろう。戦略面で見ても星右京がいる以上、奇策も通じにくい――そうなれば、彼我の戦力差が大きくても、少しでも敗因を減らせる無難な策に落ち着いた、そんなところか。
「懸念事項としては、アルジャーノンもそうですが、やはりジブリールとハインラインですね。この二体に対しては、ADAMsが必須になりますから……」
「……とはいえ、リーズは必ず原初の虎を狙うでしょう。そうなると必然的に、ジブリールの相手はアナタにしてもらうことになります、T3」
老婆の言葉に対してT3は無言のまま頷き返す傍らで、ゲンブはナナコの方を見ながら話を続ける。
「アルジャーノンに関しては、先日のように第八階層を撃ってくることは無いでしょう……アレは長大な演算を要するので撃つのに時間が掛かりすぎますし、威力がありすぎますからね。向こうもヘイムダルを吐きでない以上、あの火力を懸念することは無いと思います。
それでもなお、飛翔の魔術に七星結界まで扱う強敵ではありますが、ミストルテインがあれば仕留めることは可能なはずです」
「……ソフィアの仇、私が討って見せます」
ナナコは傍らに置いてある大剣を一瞥しながら人形の言葉に対して頷き返した。
「最後に、右京の戦闘力に関しては未知数ですが、先日の動きを見る感じであれば、JaUNTを利用できる以外はそこまで高い戦闘力はなさそうです……というより、そうであると祈るしかありませんね。
もし彼に熾天使級の戦闘力があるとしたら、正直かなり厳しい戦いになります」
「……それくらいの戦闘力は、あると思って挑んだ方が良さそうだと思うがな」
「そうですね……その場合、対処できるのはアナタしかいません、アラン・スミス。アナタの身体に宿る遺伝子には、デイビット・クラークとの戦闘経験が眠っている……JaUNTをいなせるとするなら、アナタをおいてほかはありません」
「俺の仕事が多いな」
「不服ですか?」
「いいや……やるしかないんだ。文句は無いさ」
実際の所、右京と戦うのは自分を置いて他は無いと思っている。それは、ゲンブの言うような戦力的な意味ではない――これは、アイツと自分との因縁だからだ。
星右京という存在に対する自分の感情は複雑極まる。この星の社会構造を作り上げ、レムリアの民を道具として扱い、少女達の未来を奪った男――直接的に手を下したのはスザクに対してのみかもしれないが、間接的には全ての元凶とも言える男であり、奴に対する確かな怒りの感情もある。
しかし同時に、自分の中にある右京の宿っていた少年との思い出が、彼の本質がそこまで悪い物ではないのではないかと告げているのだ。もちろん、彼の行為そのものは許されざるものであることは間違いないし、戦うことに躊躇はないのだが――単純に首をはねて納得できるというものでもない。
ともかく一つ確実なことは、少なくとも自分以外の者が右京と対峙することは許容できそうにないということだ。その勝敗がいずれであれ――右京が負ければ彼の本心を知る機会が永久に失われるし、勝てば更なる業をアイツに背負わせることになる――その結果に納得できないだろう。
そういう意味では、自分が右京と対峙することに異論はない。JaUNTがどうだとか戦力がどうとか以前に、アイツを止めるのは自分でなくてはならない、そんな気がするのだ。
そう決意を新たに拳を握っていると、ゲンブの「とはいえ」という言葉が耳に入ってきた。
「恐らく右京は周囲の補助に徹するでしょう。一か所に固まる我々のうち、一人を狙うのは容易ですが、同時に背中を護り合っていれば簡単にこちらに手出しは出せないはずです。
なにより……彼は力での勝負より、盤上を動かすのを好む。自分の手を汚すのは、勝ちを確信した時か、自分が動かざるを得ないと判断した時……彼はそう言う男ですよ」
自分の知らない星右京をチェン・ジュンダーは知っている。同じ智謀の士として通ずる部分があるのだろうし、今の言葉は恐らく事実だろう。そして、それは自分の勘もそうだと告げている――要するに、星右京がこちらの前に姿を現したときは、常より更なる警戒をしなければならないということだ。
こちらに対する説明は終わったのだろう、ゲンブ人形は首を回してブリッジに居る全員を一瞥した。
「さて、各々に優先して対応すべき相手を通達しておきます。T3はジブリール、セブンスはアルジャーノンに集中してください。ホークウィンドは二人の補佐……主にセブンスをお願いします。
また、私も可能な限り、三人の援護にまわります。私たちのトリニティ・バーストが単純な戦闘力で言えば一番の便りですから、我々が敵の中枢を相手に大太刀回りをする必要がありますね」
初期の古神メンバーに対してそう告げて後、人形は修道服に身を包む二人の少女の方を見る。
「次に、アガタ・ペトラルカとティアの両名は、ルーナの対応をお願いします」
「あぁ……一番許せない相手だからね、異存は無いよ」
ティアは魂の同居人の尊厳を踏みにじった偽りの女神を許せないのだろう、低い声で人形の提案を受け入れた。
「アシモフは艦内に残り、他の者たちが動きやすいようサポートを、アズラエルはピークォド号に近づく第五世代型アンドロイドの迎撃に専念してください……帰りの足が無くなるのも困りますからね」
「言われるまでもない」
エルフの長とその守護者が頷いたのを見て、人形は最後に改めてこちらに視線を注いでくる。
「そして、アラン・スミス……繰り返しですが、アナタはリーゼロッテ・ハインラインの対処と管制室の制圧を。リーゼロッテが宿るその体はエリザベート・フォン・ハインラインの物ですが、手心を加えられる相手ではないということだけは理解しておいてください」
「……覚えてはおく」
エルの身体を操る者と対峙しなければならない――その対処が自分にしかできないとしても、あまり気乗りのする話ではなかった。
先日のエルフの集落における力の解放を思い返せば、ゲンブの言うように加減ができる相手でないのは百も承知だ。しかも今度はリーゼロッテの戦闘パターンを模したプログラムでなく、その戦闘技術を磨きあげた本物が出てくるとなれば、前回以上の苦戦が想定される。
しかし、その器はこの星で自分が初めて出会って、共に戦ってくれた大切な仲間の物だ。エリザベート・フォン・ハインラインの帰る場所が無くなることは絶対に避けなければならない。
決戦を前に武神を滅するという覚悟が決まっていないのも情けのない話かもしれないが、同時に自分としてはエルを取り戻すという覚悟がある。
ともなれば、人形の念押しに対しては、自分は生返事を返すことしかできなかった。ついでに、星右京も相手をするとなればかなり気が重くもあるのだが――しかし、この星の未来のために、無念に散っていった少女たちのためにもやるしかない。そう覚悟を決めたのだった。