B&T~記憶喪失の転生者、伝説級の暗殺術で異世界ディストピアをぶっ壊す~   作:五島七夫

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キーツの無敵艦隊

 作戦会議が終わり、ピークォド号はヘイムダルに向けて出発した。敵からの襲撃を防ぐために船体に迷彩を施して進んでおりスピードを落としているため、到着までにはまだしばらくかかる見込みだった。

 

 ブリッジに一同買集まっているが――恐らく決戦のイメージを脳内で描いているのだろう――緊張のせいからか皆黙っている。ただ一人、自分の隣に座る少女を除いて。

 

「T3さん! 緊張してますか!? ちなみに、私は凄く緊張してます!」

 

 確かに珍しく、セブンスは緊張した面持ちでこちらを見つめていた。

 

「貴様のような能天気でも緊張するのだな」

「むっ……私だって緊張はしますよ! だってこの一戦に、この星の……宇宙の命運が掛かってるんですから」

 

 成程、そう考えれば緊張するのも頷けるか。対する自分はと言えば、そこまで緊張しているわけではなかった。危険な作戦と言うのはいつものことだし、最初からこの星を創った絶対者を相手に戦うと誓ってきたのだから、今までと何ら変わりないのだから。

 

 逆に、セブンスが緊張してしまっている要因は、誰とも知らぬ者たちのことまで考えてしまっているのが原因だろう。お人好しな彼女らしいと言えばそれまでだが、重要な場面で緊張により力が発揮できなかったでは困る――いや、能天気なセブンスは少しくらい緊張しているほうが良いのかもしれないが、ともかく重い雰囲気で横に居られるのもこちらの調子が狂うのも間違いなかった。

 

「そんなに難しく考えるな」

「うぅ、でも……」

「なまじ見知らぬ者たちのことまで背負おうとするから身体に無駄な力が入るのだ。いつも通りで良い」

「いつも通り……はい、そうですね!」

 

 自分の言葉に少女は正面を向き、自己暗示を掛けるかのように「いつも通り、いつも通り」を繰り返した。しかしピンとこなかったのだろう、再び不安そうな表情を浮かべながらこちらへ向き直った。

 

「あの、私のいつも通りってどういう感じでしょう?」

「どうも何も、そういう感じだ」

「えぇっと、それってどういう……?」

「……来る!?」

 

 セブンスの質問は、アラン・スミスの声でかき消された。自分もセブンスも、それどこかブリッジに居る全員の視線がアラン・スミスに集まった。

 

「来るって……はぅ!?」

 

 セブンスの語尾が上擦ったのは、左舷からの衝撃に艦隊が揺れたせいだ。「バリアを展開」とすぐに動いたのはイスラーフィールで、併せてアズラエルが被害状況を確認し、艦内の機材で消火活動を開始しはじめた。

 

「損傷は軽微ですが……レア様、これは……」

「この反応は……フレディの無敵艦隊!?」

 

 レーダーに一瞬だけ、無数の点が映し出され、そしてすぐに消えた。フレデリック・キーツの無敵艦隊に関しては、ゲンブから共有は受けていた。数百の無人ステルス戦闘機と五つの艦隊からなる鋼鉄の黒翼団――元々は惑星レムの先史文明時代を築いた者たちやその他の知的生命体の来襲に備えるために作られた大気圏内外両用の艦隊にして、熾天使を持たない代わりに彼が持っていた独自戦力だ。

 

 しかし、ダン・ヒュペリオンが亡き今、肉の器を持たないフレデリック・キーツの艦隊がどうして出てきたのか――同様に疑問に思ったのだろう、アランが「どういうことだ!?」とアシモフに荒げた声で質問をぶつけている。

 

「フレデリック・キーツが俺たちを裏切ったというのか!?」

「いいえ……右京が艦隊のコントロールを奪っているのでしょう。無敵艦隊の起動は本体であるフレデリック・キーツのDNA認証が必要です。右京はフレディの本体を回収し、それで無理やり起動し、百の戦闘機と五つの艦隊をハッキングして動かしているのかと」

「くそ……何でもありだな、アイツは!」

 

 アラン・スミスはそう怒鳴りつけて、すぐさま人形の方へと向き直った。

 

「ゲンブ! ピークォド号の装備で抜けられるんだろうな!?」

「いいえ、かなり厳しいと言わざるを得ないでしょう。我が艦を護るバリアは母なる大地のモノリスと直結しているためかなり頑丈と言えますが、ダメージが蓄積すればエネルギーの充填よりも消費の方が早い……せめて、戦闘機を撃墜できれば……」

「……私が出よう」

 

 そう言いながら自分は席を立ち、扉の方へと向かった。ピークォド号にも迎撃システムが搭載されていると言っても、さすがに百を超える戦闘機が同時に仕掛けてくることは想定しないはず。そして、音速を超える戦闘機に対し、遠距離攻撃を仕掛けられるのはこの中で自分しかいない。

 

 しかし、どう足掻いても足場は欲しい――それなら、準備をさせればいいか。

 

「ゲンブ、ピークォド号には超音速の偵察機が搭載されていたな?」

「えぇ……ですが、アナタはそれを操縦できますか? 偵察機の操作は教えていなかったと思いますが」

「何を言う。弓を引くのに機械の操作などしていられるものか……適当な人物を選んで発進させてくれ」

 

 それだけ言い残し、自分はブリッジを抜けだしてピークォド号の入口部分へと移動を始めた。扉を占めるバルブを回し、扉を開き――艦を護るように淡い膜が貼られており、その外側で爆発が起こっているのが見える。外界からの攻撃を防ぐためのバリアにぶつかっては、自分の体が消滅してしまうだろう。

 

『ゲンブ、私が飛び降りる間だけ艦のバリアを解除してくれ』

 

 脳内の通信機でそう告げて、自分は背から精霊弓を取り出し、ADAMsを起動するべく顎を降ろし――ふとその時、自分が来た通路の方から足音がこちらへ近づいてくるのが聞こえた。

 

「T3さん! 待ってください!」

 

 声のしたほうを見ると、後ろで結わえた銀髪を揺らしながら、セブンスがこちらへ向かってくるのが見えた。

 

「戦闘機と生身で戦うなんて無茶です! それも、足場のない空の上でなんて!」

「セブンス。私は必ず合流する……そして、恐らくヘイムダルに到着するのには貴様の力も必要だ。頼むぞ」

「あ、ちょっ……!」

 

 少女の声が聞こえなくなったのは、自分が奥歯を噛んで神経伝達を加速させたからだ。改めて神経を研ぎ澄ませ、眼下を――いや、この空一帯の気配を手繰る。付近にはすでに五機ほどの戦闘機が飛び交っているようだ。

 

 敵の攻撃が止んだ一瞬の隙をついて、自分は大空という大海へとこの身を投げ出した。落下速度は非情に遅く――もちろん、自分の体感時間が遅いだけだが――これなら音速を超える戦闘機を狙撃することも十二分に可能だろう。

 

 一瞬だけ途切れたバリアの膜を通り抜け、改めて空に蠢くノイズを探りあてる――まずは自分の左斜め下方を通り過ぎようとする戦闘機に向けて偏差射撃を仕掛ける。自分の狙った場所を戦闘機がちょうど通り過ぎた瞬間、光速で発射される熱線がその翼を穿つ。そして射抜いた機体の爆発を見届けるまでもなく、次の一機に向けて矢を放つ。

 

 最初の一撃と合わせ、計三機を穿ってのち、一度精霊弓を真下に向けて放ち、その反動で少しだけ身体を上昇させる。そしてすぐに四機目の進路を読み、時間差で着弾するように弦を引く。

 

 そろそろ、加速も限界か――その時、上部から何かが急速に落下してくる気配を感じた。空中で身体を翻して上を向くと、ちょうど燃え盛る太陽が描く円の中に、黒い点のようなものが見え――目を凝らし、迫りくる二つの点の内、片方に向けて光の矢を放った。

 

 加速を切ったタイミングで空に五つの花火が上がった。あえて狙わなかった最後の一機は、轟音を立てながら自分の真横を通り過ぎて後、自分の落下に合わせて空中で旋回し、落下をすくうようにこちらへ接近してきた。

 

 それに合わせるよう、再び精霊弓を下へ向けて照射してホバリングすると、偵察機は速度を落とし――ほとんど落下の衝撃もなく自分を拾い上げてくれた。

 

『まったく、無茶が過ぎますね』

『貴様……イスラーフィールか』

 

 少女の声は、普段ゲンブとやり取りしている回線から聞こえた。確かに、イスラーフィールなら偵察機の操作をするのに適任と言えるだろう。機械操作に関しては正確無比、さらに超音速のGにも耐えられるだけの頑丈さもあるのだから。

 

『えぇ……先日の礼を返しに来ました』

『貴様を見逃したことに対する礼か?』

『まぁ、そういうことにしておきましょう』

 

 イスラーフィールの真意は分からないが、今はそんなことを気にしている暇はない。上空に浮かぶピークォド号の方を見ると、未だ正面から攻撃を受けているようだ――そうなれば、いち早く敵機の撃墜に戻らなければならない。

 

『しかし、その偵察機を右京にハッキングされる危険性はないのか?』

『その可能性を考慮し、機体の全てはマニュアル操作に切り替えています』

『その状態で、敵機の位置は分かるか』

『もちろん、私を何だと思ってるんですか? 私は第五世代型アンドロイドの頂点である熾天使……DAPAのデータベースに繋げない今でも、搭載されているCPUは最高の性能を持つものの一つ。無理やり動かされているステルス機の位置など、見破るのは容易い』

『では、もっとも効率的に私が狙撃できる道筋を見つけて飛んでいくがいい』

『アナタのような無茶苦茶な人が納得する軌跡になるかは分かりませんが……振り落とされないようにしてくださいよ』

 

 直後、空中を浮遊していた戦闘機が、再び一気に加速を始めた。こちらも奥歯を噛んで、敵機の気配を探り始める――イスラーフィールが進む先に敵機はあるのだろうが、自分はレーダーなど敵機を把握できる情報を共有されていないので、彼女とは別に自分自身で雲海に潜む敵機を認識し、その起動を読む必要がある。

 

 イスラーフィールが描く航空機道は、中々に荒々しいモノだった。急な旋回や蛇行を繰り返すのは、敵からのロックオンを外す意味合いもあるのだろうが、それ以上に――。

 

『狙いやすい軌道だ……悪くない!』

『当然です……私が操縦しているのですから。頑張ってくださいよ』

 

 イスラーフィールの言葉に返答する代わりに弓を弾き、敵機を撃墜することで応える。自分を乗せた偵察機は無茶苦茶な軌道で、爆発の光の揺らめく雲海を飛び回るのだった。

 

 ◆

 

 T3を見送ってからブリッジへ戻ると、ガラスの向こう側で銀の流線が動き回っているのが視界に入る。そして、そこから伸びる光の矢の先で、幾つもの花火が上がっていた。

 

「これで、ひとまず戦闘機からのダメージは軽減できますね。しかし、まだ戦艦に搭載されている主砲をどうするか……」

「そこに関しては、策がありますよ……ちょうど戻ってきてくれました」

 

 アシモフと会話をしていたゲンブが、戻ってきた自分の方へと首を回してくる。

 

「セブンス、甲板へ出る準備を」

「ミストルテインで主砲を相殺しようってことですね?」

「えぇ、その通りです。敵が主砲を再装填している間に、一気に加速してその横を抜けてヘイムダルに接近します。こちらが防衛網の内側に入れば、無敵艦隊も攻撃が出来なくなるはずですから」

「了解です! T3さんが頑張ってるんです……私にお任せください!」

 

 ゲンブに対して敬礼を返し、自分の席の横に立てかけてあるミストルテインの柄を握る。そのタイミングで、アランの 「おい、あんまりナナコに無茶は……」という声が耳に入った。

 

「そうは言っても、他に方法はありません……無駄口を叩いている暇があったら、砲撃に集中してください」

「あぁ、くそっ……そうかよ!」

 

 アランは彼の目の前にあるモニターなど見ず、代わりにブリッジのガラスの外にある空を注視している。レーダーに敵機が映らないから目視しているのだろうが――そしてタイミングを見計らったかのようにボタンを押すと、ガラスの向こう側でまた一つ花火が上がった。射撃は慣れない等と言いつつも、的確に敵機をレーダー無しで補足して落としているのだから、あの人も大概だと思う。

 

 そんな彼を眺めていると、再びゲンブの方から「セブンス」と名を呼ばれて、自分は人形の方へと向き直った。

 

「今回はアンカーで必ず身体を固定してください。主砲を相殺してからは、全速力で加速をします……一応、援護はあった方が良いでしょう。ホークウィンド、アガタ」

「うむ、任せるがいい」

「一応、補助魔法があるに越したことはありませんものね」

 

 ホークウィンドとアガタが自分の背後から付いて来てくれ、三人で艦内のエレベーターに乗って甲板へと移動する。空高い位置にいるせいだろう、艦の外は先日の極地並みに寒く、冷たい空気が自分の頬にあたるが――すくんでいる暇なんてない。そう思いながら甲板の先頭部分、ブリッジのちょうど上に陣取ることにした。

 

『セブンス、聞こえていますか……すぐにミストルテインの起動を。発射のタイミングは、追って知らせます』

「えぇっと、全力で問題ありませんか?」

『えぇ、全力で問題ありません。五機の主砲を相殺するには、それだけのエネルギーが必要です』

「分かりました!」

 

 剣を構えるのと同時に、身体に一層力を込める――身体を淡い光が包んでくれいるのを見るに、アガタが補助魔法を掛けてくれたのだろう。そしてすぐさまアンカーを射出し、甲板の装甲を抉ってこの身を固定した。

 

「ソードライン誤差修正……って、正面で大丈夫でしょうか!?」

『えぇ、正面で問題ありません……熱源反応確認、十秒後に来ますよ!』

 

 そう言われて、改めて空の先を注視する。雲に隠れているせいだろう、まだ肉眼では何も見えないのだが、確かに――正面からこちらへ敵意が向いているのを感じ取ることは出来た。

 

 ピークォド号の前進速度が下がり――恐らく、着弾点をずらそうとしているのだろう。そして自分は虚空のある一点を見据え、そこに魔剣の一撃を差し込めるように両腕を引く――既にエネルギーはいつでも解放できる。目掛けるは――全ての敵意が交錯するその一点。

 

「いくよ、ミストルテイン! 御舟流奥義、専心一点稲妻突き!!」

 

 突き出した剣の先端から、紫紺のエネルギーが照射される。同時に、眼前の雲が晴れ、扇状に五本の巨大な光がこちらへ向かって接近してくるのが見えた。そして五本の線が交わる一点を目掛けて魔剣の一撃がぶつかり――直後、力のぶつかり合った点を中心にして球体の強大な衝撃波が発生した。

 

 アンカーで身体を固定していたおかげで吹き飛ばされこそしなかったものの、身体は後方へと吹き飛ばされて、同時に四肢を激しく締め付けられてしまう。このままでは、身体が引きちぎられてしまうかも――。

 

「……セブンス!」

 

 後方から自分の名を呼ぶ声が聞こえたのと同時に、四本の苦無が鎖を断ち切り――そして身体が吹き飛ばされる前に後ろから巨大な腕に抱きしめられて、そのまま自分の体は艦内へと戻っていた。

 

 しばらく艦内は激しく揺れ――そして落ち着いたかと思うと、今度は一気に前進を始めたのだろう、加速の慣性が働いた。アガタは壁に手を当てて踏ん張っており、自分は抱きかかえてくれているホークウィンドのおかげで吹き飛ばされずに済んだ。

 

「ホークウィンドさん、ありがとうございます!」

「いや、礼を言うのはこちらの方だ。そなたが主砲を相殺しなければ、我々は空という大海の藻屑と化していただろうからな」

 

 加速が終わると、アガタがすぐさまこちらへ来て、屈みこんで自分の腕――鎖で締め付けられていた場所に手をかざした。

 

「酷い痣です。骨は……大丈夫のようですわね」

 

 回復魔法のおかげで皮膚は元通りになり、筋肉にあった痛みも引いてきた。アガタは丁寧に、自分の四肢を回復してくれ――治療が終わったのと同時に、壁のスピーカーからゲンブの声が聞こえ始めた。

 

『三人とも、お疲れ様です……安全圏への侵入に成功しました。セブンスは一度、下層へ来てください、モノリスから放出したエネルギーの充填をしましょう』

「はい! ただ、私はあの部屋に入れませんが……」

『私も一緒に行きますので大丈夫です。とはいえ、ミストルテインのエネルギーを空になるまで使った訳ですから、充填には少し時間が掛かるでしょう。

 ホークウィンドとアガタは戦闘に備えてください。ヘイムダルに着艦するのと同時に、アンドロイド達からの攻撃が予想されますから』

「あぁ、分かった」

 

 三人でエレベーターに乗り、一階に降りた所でホークウィンドとアガタを見送り、自分は更に一階分下へと移動する。そして封印されている扉の前に着いたタイミングで重大なことを思い出した。

 

「あ、そうだ! T3さんは大丈夫でしょうか!?」

 

 誰に言うわけでもなくそう叫ぶと、ちょうど降りてきたのだろう、背後から「彼なら大丈夫ですよ」という声が聞こえる。

 

「彼を乗せている偵察機は依然無事です。イスラーフィールと共に露払いをしてくれていますから……ヘイムダルで合流出来るでしょう」

「ほっ……それなら良かったです!」

「とはいえ、見事にトリニティ・バーストが使える面々は分断されてしまいましたね……まさか、これを狙っていたとは思いたくはないですが……」

 

 そのままゲンブは自分の隣を通り過ぎ、モノリスが収められている部屋の扉の隣にある機材を操作し始めたのだった。

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