B&T~記憶喪失の転生者、伝説級の暗殺術で異世界ディストピアをぶっ壊す~   作:五島七夫

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大いなる前哨戦

「くっ……凄い揺れてるけど、大丈夫なのかい!?」

 

 誰にともなくそう叫ぶと、激しく揺れる船体などもろともせず、アズラエルが席を立って自分の横まで来た。

 

「問題ない……モノリスを活用したバリアがある。だが、内部に入られたら危険だ……迎撃のため、先に出るぞ」

 

 そう言い残し、アズラエルはブリッジから颯爽と抜け出していった。彼の役目は艦内に侵入する敵機を倒すことだ。そして視線を横に移すと、アシモフが立ち上がるアランに向かって声を掛けているのが見えた。

 

「アラン・スミス。アナタは周囲の殲滅が終わってから出撃してください」

「しかし……」

「アナタがもっとも熾烈な戦いをするのですから、消耗は抑えておきなさい」

「あぁ……分かった」

 

 アシモフに窘められ、アランは渋々、という調子で椅子に座りなおした。対して自分は立ち上がり――本来ならすぐにでも他の者たちの後を追うべきなのだろうが、それより前に彼に声を掛けに行くことにする。

 

「アラン君」

「ティア……」

 

 こちらを見上げる彼の顔には、申し訳なさそうな表情が浮かんでいた。恐らく、自身が切り込んでいけないことを申し訳なく思っているのだろうが――。

 

「いつも、ボクらは君に護られてばかりだったんだ。今は、ボクのことを頼りにして欲しいな」

「あぁ、そうだな……ティア、必ず生き残ってくれ」

「ふっ……そう言いたいのはボクの方だよ、アラン君。君は本当に無茶ばかりするんだから」

 

 頼りにしてとは言ったものの、それは原初の虎という切り札を温存するため自分たちは露払いをするに過ぎない――時が来れば、自分たちの中で最も熾烈な戦いを繰り広げるのは彼なのだ。

 

 先日、ナナコと船内で話したように、アランが大怪我を負った後は眠る時間が増えてきているという事実を思い出し――もう、もう一度大きな傷を負ってしまったら、もう彼に次は無いのかもしれない。そんな不安が胸をよぎる。その不安に押しつぶされないように――少しでも彼の生を実感するため、自分は膝まづいてアランの手を取って強く握った。

 

「お願いだよ、アラン君。どうか生き残って……クラウを取り戻す道を一緒に探してほしい」

「あぁ、そうだな。俺はアイツに約束したんだ。迷ったら、必ず俺が探し出してやるって。もし、アイツの魂が迷子になってるなら……助け出してやらないとな」

「うん、約束だよ」

 

 握る手を緩めて、代わりに彼の右の手の小指に自分の小指を絡ませた。神妙な表情をしていた彼が表情を和らげて「約束だ」と言ってくれたことに対し、少しばかり安堵を覚え――自分も立ち上がり、ブリッジを後にした。

 

 艦内の廊下を過ぎ、入口の所まで来ると、外から激しい戦闘音が聞こえだした。ベルトから新しい機械仕掛けのトンファーを取り出して自分も戦闘に参加しようと思った矢先、扉のすぐそばでアガタが腕を組んで立っているのが見えた。

 

「ティア、司教クラスまでの魔法を使えるようにしたと、レムから通信が入りました」

 

 そう言われても、何の変化もなかったのだが――試しに自分の身に司教クラスの補助魔法を掛けてみることにする。すると、確かに魔法は発動し、身体にいつも以上の力が溢れるのを実感できた。

 

 こちらが魔法を使えたのを確認し、アガタ・ペトラルカは正面に立てていた鉄のこん棒の柄を握り、勢いよく振り回し――眼前で繰り広げられている戦いに目を向けたようだった。

 

「ティア、見えますか。空中の庭園におわす天使たちが……」

 

 アガタに並び、自分も正面を真っすぐ見る。片目が使えないので視覚による距離感こそ掴めないものの、第五世代型アンドロイドの存在は気配で感知できる。ホークウィンドの鍛錬の成果が魔法によって更に引き上げられ、より鮮烈に不可視の存在の気配を感じられるようになっていた。

 

 眼ではなく、この身が捕らえる蠢く無数の影たちは、天使などという厳かな存在ではなく――。

 

「ここに居るのは天使などではなく……薙ぎ払うべき敵だ!」

「上等ですわ!」

 

 二人で檄を飛ばし合いながら、一気に前へと走り始める。アガタもレムの助力により、完全迷彩を感知できるようになったのだろう、その細腕で迷うことなく振りぬかれた鉄棒の先には不可視の敵が確かに存在し――強大な臂力《ひりょく》で振りぬかれたアンドロイドは、姿を表すのと同時に大きくへしゃげて動かなくなった。

 

「まだまだ……!」

 

 アガタは鉄棒を振り回して一回転、そのままの勢いで迫ってきている一体を吹き飛ばし、今度は踏み込んで「かっとばせですわ!」と叫びながら更にもう一体のアンドロイドを吹き飛ばす。鉄の塊は敵陣にまで吹き飛ばされ、天使どもはその隊列を大きく乱した。

 

 こちらも負けてはいられない。大空の要塞、その石畳を駆け抜け、自分はアガタが乱した敵陣の真中へ突っ込んだ。

 

「神薙流奥義、四の型……煉獄火炎!」

 

 ベルトからクラウが作っていた炸薬を取り出し、それを敵が密集しているところに投げつける。言ってしまえば神薙流でも何でもない、爆薬を投げつけているだけなのだが、それっぽい名前が付けばきっと威力も上がる――大切なのはそういうことなのだろう。

 

 炸薬は燃え上がりはするものの、確かなダメージを与えられたのは爆心地に居た一体だけだった。流石は七柱の尖兵、簡単な攻撃では倒れてはくれないか。

 

 だが、敵陣に突っ込んだのには他にも理由がある。補助魔法と結界のある今ならやれる――第五世代型達が近距武器を構えてこちらへ向かってくる気配を察知し、そのまま低姿勢に構えて足元で結界を発動させ、煙の渦巻く正面へと一気に突き進む。

 

 僅かな隙間を縫って敵陣を抜けると、背後で轟音が鳴り響いた。自分が一気に駆け抜けたことで第五世代型達が互いの獲物を誤ってぶつけ合い、破壊し合っているのだろう。

 

 ともかく、やはり本来レムリアに存在する武器では第五世代型アンドロイドを破壊するのはかなり厳しいことは分かった。アガタのように質量にモノを言わせればいけるのだろうが、自分としてはもう少しスマートに敵を殲滅したいところだ。また、足を止めて全力で蹴り飛ばせば破壊も可能だろうが、この乱戦の中で足を止めること自体が自殺行為だ。

 

「それなら……これで!」

 

 先ほど取り出したトンファーについているトリガーを引きながら、そのまま透明の敵に対してすれ違いざまに拳を振り抜く――機械仕掛けのトンファーから、ナナコの持つ剣のような光の刃が発生し、それが確かな熱をもって天使の首を跳ね飛ばした。

 

 この武器ならば、天使に対して確かなダメージを与えられる。そのまま気配の感じるまま、こちらへ向かってくるアンドロイドたちの隙間を縫いながら――同時に敵の頭部と四肢を切断しながら――拓けた場所で大太刀回りをしている巨躯の元へと合流した。

 

「ホークウィンド!」

「来たか……セブンスとゲンブの準備が出来るまでは、時間を稼ぐぞ」

「あぁ、了解だ……うん?」

 

 自分たちを取り囲んでいた第五世代たちが一斉に姿を現し、正面の建物の前で整列を始める。こちらへの攻撃が止んでいるせいか、またその様子がある種異様なせいか――自分たちも一度攻撃の手を止めてしまった。

 

 そして天使たちが建物の前で一列十三体ほど、さらに複数の列で密集したタイミングで、背後の建物の丸い屋根の上に、一人の少女の姿をした悪魔が現れた。

 

「妾《わらわ》は大変にむしゃくしゃしておる。こんな埃っぽい所に連れて来られた挙句、下郎共の相手をしなくてはならないなどと……この大罪、貴様らの命で償ってもらうぞ!」

「ルーナぁああああ!!」

 

 クラウが苦しんだのはアイツが全ての元凶だ。忌々し気に、それも本当に塵でも見るかのような表情でこちらを見下ろしているアイツの顔を見ると、思わず頭に血が上ってしまう。

 

 結界を踏み、正面から敵陣を瓦解しようと怒りに身を任せて突撃して、最前列にいる第五世代を目掛けて拳を振り抜く――しかし、トンファーから出る光刃は、左右から交差するように振り下ろされた、これまた光の刃にぴたり、と止められてしまった。

 

「何!?」

「ふん……そやつらを先ほどまでの木偶の坊と思うな。妾が直接そやつらの電脳に干渉し、限界までその性能を引き出し、一糸乱れぬ鋼の軍隊として統率されておるのだからな……それに!」

 

 ルーナが掌を正面へと突き出すと、その手前で何個かの火花が散った。背後からホークウィンドがクナイとやらを数発撃ちだしたのだろうが、それを結界で弾いたのだろう。

 

「妾自身も精神力、肉体共に最高クラスの素体を用意しておるのじゃ! 貴様らのような雑魚など、赤子の手をひねるより容易よ!

 さぁ、往くがよい天使ども! 我らに歯向かう愚かな者どもを、征服し、蹂躙し、塵芥としてくれようぞ……突撃体制!!」

 

 ルーナの号令にアンドロイドたちは一斉に反応し、自分の正面にいる一体が飛び道具の口をこちらへ向けてくる。腕を引き、すぐに足元に出した結界で背後へと飛び――空中で翻ると、眼下では最前列にいる天使たちの一斉掃射が始まっていた。

 

 そして、後列の天使たちがこちらへ向けて銃口を向けてくる――だが、退路はある。以前、龍と戦った時にエルとアランがやった、空中に無理やり足場を作る戦法だ――ホークウィンドが自分のために空中に撃ち出してくれた苦無、アレを利用する。

 

 宙を舞う刃に向けて結界を作動させ、自分は空中をジグザグに移動し、そのまま屋根の上でふんぞり返っているルーナの方へと跳んでいく。

 

「ルーナ、覚悟!!」

「第六世代の小娘が……神の御前だぞ、身の程を弁《わきま》えよ!」

 

 落下に合わせて呼吸を大きく吸い、渾身の力を込めて拳を振り下ろす。対するルーナは端正な顔に怒りを顕わにさせ、掌をこちらへ突き出して七枚の結界を繰り出した。

 

 冷静になれば、彼女は神聖魔法を統べる者なのだ、七星結界を出すことは想像できたはずだ。とはいえ、逆上した自分は、ともかく相手を倒すことに意識がいって、その事実が抜け落ちていた――当然、強力な斥力に押し出され、自分の体は無防備な状態で空中に戻されてしまう。

 

 今度こそは退路はない。もう空中で軌道を変えることは出来ないのだから――下から向けられた銃口に対し、せめて二枚の結界で抗おうと腕を動かした瞬間、黒い豪風が自分の体をすくい上げた。

 

「ホークウィンド、すまない……!」

「ティア、心を惑わされるな……呼吸を整えよ。怒りに感情を塗りつぶされて明鏡止水の境地を失えば、直ちに敵の気配を感ずることが出来なくなるぞ」

「しかし!」

「ルーナを見よ。どんな者を相手にしたとて、慢心せぬが一流の戦士……どんなに優れた器に宿ろうとも、敵を侮るような輩など恐れることは無い。戦い続ければ必ずぼろが出る」

 

 ホークウィンドは敵に射線を合わされないように辺りの屋根や壁を蹴りながら立体的に移動をし、最終的にアガタの近くに着地をした。もちろん、着地の瞬間を銃撃されるが、それはアガタの第六天結界が阻んでくれた。

 

「それに、ナナコさんが合流すれば、七星結界を打ち破る一撃が放てますから……合流するまでは無理はせずに、チャンスを待ちましょう」

「……あぁ、分かった」

 

 アガタの意見に頷き返し、三人で背中を守り合うように密集し――そして整然と襲い掛かってくる天使たちに対し、各々武器を構えて迎撃を始めるのだった。

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