B&T~記憶喪失の転生者、伝説級の暗殺術で異世界ディストピアをぶっ壊す~   作:五島七夫

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散り行く者たち

 第七階層魔術の直撃を受けてなお、顔を上げて抵抗の意思を見せる熾天使の姿を見て、空中に浮かぶアルジャーノンも「ほう」と感心したように眼を見開いていた。

 

「まだ原型があるのか! 君の装甲を余裕でぶち抜けるだけの魔術は選んだつもりだったんだが!」

「まだ……だ……私は、レア様の……ために……」

「ははは、君の忠義、あっぱれだよ。だけど、もう一撃は耐えられないだろう。一思いに終わらせて……うん?」

 

 魔術神は異常事態を察知したのか、今度は驚いたように眼を見開いて、ルーナの方へと振り返る。

 

「……おいルーナ、死にたくなければ全力で結界を張ることをおすすめするよ」

「……なんじゃと?」

 

 自分には何が起こるか分からないし、ルーナはキョトンとした表情を浮かべるが、すぐに彼女の方は事態を察知したようだ――慌てて目の前に七星結界を出すと同時に、盾にするつもりなのか、残っている第五世代型達を自身の前に展開させた。

 

 同時に、アルジャーノンは高速で飛行して距離を取ったようだ。そして自分はアガタに肩を引かれた瞬間――アズラエルが不敵に笑ったのが見えた。

 

「生きていればこそ、死にも意味があるというもの……約束を守ることは出来そうにありませんが……!」

 

 アガタに連れられてドンドンと声が遠ざかっていくが、アズラエルが何か大いなる覚悟を持って事を成そうとしていることだけは理解できる――そして建物の物陰に身を潜めたと同時に、アガタが自分の前に立ち、両の腕を前へと突き出した。

 

「アガタ? 結界は使えないはずじゃ……」

 

 自分の声は、下で起こった大爆発によってかき消されてしまった。恐らく、アズラエルが巻き起こしたのだろう。ただ見えるのは、赤々と燃ゆる炎と、アガタの手のひらの先にある結界だけ。しかも、第六天結界――レムの助力が無いはずなのに、彼女がなぜ神聖魔法を使えているのだろうか。

 

 ともかく、アガタのおかげで爆風に吹き飛ばされずに済んだのは間違いない。同時に、かなりの爆発であったから、あの一帯にいた第五世代たちの大多数は、恐らく倒すことには成功しただろう。

 

 しかし、アズラエルが犠牲になったのも確か――しかし、なんだかまだ彼が居なくなったということに実感が沸かなかった。彼に対しては妙なシンパシーを感じていたし、本来なら彼を追い詰めたアルジャーノンに憤りを覚えるべきとも思うのだが、恐らくホークウィンドやアランのこともあり、感情の整理が追いついていないのだろう。

 

 そのせいだろうか、ただ唖然と立ちゆく土煙を眺めていると――その先の遠い空で、魔術神がこちらへ向けて杖を突き出しているのが見えた。

 

「……ティア!!」

 

 アガタに身体を抱きしめられた瞬間、彼女は恐ろしい力で背後へと跳躍した。都合、自分の体も一緒に飛ぶことになるが――彼女の膂力《りょりょく》から察するに、恐らく補助魔法による身体強化と結界の跳躍をしようしたはずだ。

 

 アガタと自分の体は地面に着地しなかった。空中要塞が作る僅かな隙間――つまり、空へと自分たちの身体は吸い込まれ、そのまま重力に引かれるまま落下を始めたのだった。

 

「ごめんなさい、ティア。アランさんの元へとアナタを届けられずに……ですが、私はアナタまで失うことには、耐えられそうにありませんから……」

 

 アガタが自分を抑える力が弱まり――代わりに彼女はこちらの右手を掴んできた。それを軸にして空中で振り返ると、彼女の胸にある十字架が淡く光っているのが確認できた。

 

「アガタ、それは……?」

「まだ終わった訳ではありません。私も、アナタも……そしてレムも」

 

 アガタが自分の両手を強く握ってくる。そして雲海を突き抜けた先、遥か彼方の海上に、世界中から集まってくる金色の粒子が見え――その先には両腕を広げて天を見つめる金色の巨人の姿があった。

 

 ◆

 

 ヘイムダルの内部へと侵入し、自分が先行して最深部を目指して走る。自分はこの要塞の内部構造を覚えてきたので、どこに何があるのかは認識できる。そのため、時には床を弓で打ち抜き、一気に下っていくことで、通常のルートを進むよりもかなり早く下層まで到達することが出来た。

 

 セブンスは自分の後ろにぴたりと着いて来ており――むしろ、ADAMsを起動していない状態なら彼女の方が早いくらいではあるのだが、基地内に残存している第五世代を殲滅しながらの移動になるので、離れずに互いを援護しながら進み続けている形だ。

 

 移動の傍ら、上部から激しい爆発音が聞こえるのと共に、ヘイムダルの内部が大いに振動した。アルジャーノンの魔術だろうか――何となくだが、恐らく別の要因のように思われた。

 

 ホークウィンドは大爆発を起こす様な技は持っていないはずだし、レムの助力のない二人の少女が引き起こしたとも考えにくい。そうなれば、アズラエルか――イスラーフィールが以前、自爆しようとしていたことを想定すれば、もしかすると彼がその身を賭して敵を巻き込んだのかもしれない。

 

「命が……散っていく……」

 

 ふと、背後から呟くような声が聞こえた。振り返ると、セブンスが瞳に涙を浮かべており――彼女自身、自らが泣いていることに視界がぼやけて気付いたのだろう、少女はハッとした表情で目元を拭った。

 

 互いに別のことに気を取られていたのが油断に繋がったのだろう、背後から迫ってきている第五世代型の対応に一瞬後れを取った。セブンスも察知したようだったが、背後からの攻撃を完全に回避出来ず、銃弾が少女の左腕を掠めてしまった。

 

 すぐに弓での迎撃を行い、強襲してきたアンドロイドを破壊し、左腕から血を流す少女の側へと歩いていく。精霊魔法が使えれば、簡易な回復魔法が使えるのだが、今の自分にはそれは出来ない――代わりに自らの外套の端を千切り、それを止血のために細い腕に結びつけた。

 

「大丈夫か?」

「はい、すいません、油断して……」

「私も警戒を怠っていた……それで、分かるのか?」

「えぇ、なんとなくですが……ホークウィンドさんとアズラエルさんが、今旅立ったようです……」

「……そうか」

 

 先ほどの爆発は、やはりアズラエルだったか。奴のクイーンを守るという騎士精神は本物だったということだろう。元々は刃を交えた間柄ではあったものの、最後まで任務をやり遂げたその精神は賞賛に値する物だ。

 

 ホークウィンドとは長い付き合いだった。外宇宙で待機するピークォド号と時おり交信をする程度ではあり、会話をする頻度は高くなかったし、互いに口数も多くなかったが故、それほど互いのことを知る機会は無かったが――それでも三百年来の付き合いである。並のレムリアの民の寿命に換算すれば、一生分以上は語らった時間があったに違いない。

 

 元より自分と比べると、ホークウィンドには復讐心であるとか、怒りの感情は控えめであったように思う。それは、この星に辿り着く一万年近い月日の中で怒りを摩耗していったのか、それとも彼の戦う理由の中には怒りという感情が希薄だったのか――どちらかと言えば後者であるように思う。

 

 単純に、彼は旧世界での任務が終わっていないと判断していただけなのだ。その身が――いや、魂が果てるまではDAPAと戦い続ける、それが彼が自分自身に課した最後の任務であったのだろう。ただ、宇宙の趨勢を七柱の手に握らせないためにホークウィンドは戦い続けていたのだ。

 

(……貴様らの任務は、私が引き継ごう)

 

 それが、友に出来るせめてもの花向けだ――悲しんでいる暇などないし、元より自分のような輩に死を悼まれるのは彼らも喜びはするまい。それなら、ただ彼らが果たしきれなかった任務を、自分が引き継ぐだけだ。

 

 しかし、全力で戦うには一つ気がかりなことがある。第七世代型である彼女が先ほどの怪我程度でパフォーマンスを落とすことは無いのは分かっているが、そこが重要なわけではない。そういった気がかりを解消するため、自分はセブンスをとある場所へと誘導していた。そこに寄っても最深部へは遠回りにはならないし、時間的にはそこまで掛からない。

 

 ただ、自分の真意に気付いた時、この少女が怒るさまだけは眼に浮かぶ――いや、それは自意識過剰か。それに想像通りに彼女の顰蹙《ひんしゅく》を買ったとしても、恨まれることには慣れている。

 

 そんなことを考えていると、ちょうど目的地に到着した。そこはヘイムダルの最下層の一角で、いくつもの機械が立ち並ぶ倉庫のような場所だった。

 

「T3さん、ここは……?」

 

 振り返ろうとする少女の首に手刀を入れる。予想外の一撃だったせいか、少女は「何を……」小さく声をあげ、そのまま意識を失って倒れた。

 

 そのままセブンスの体を運び、脱出装置の中にその小さな身体と機構剣とを押し込み、蓋を閉め――そして隣にあるコンソールを操作して、彼女の乗るポッドを陸地に近い海面へと向けて射出した。

 

(……これで良い)

 

 別に、自分自身が脱出を諦めているわけではない。むしろ、自分一人の方が行動するにはスムーズだから――ヘイムダル最深部の機材に七星結界でも仕掛けられていれば話は別だが、機械を破壊するには精霊弓だけでも十分なはずだ。

 

 いかに身体能力に優れた第七世代型アンドロイドである彼女でも、音速を超えて移動することは出来ない。もし最深部を破壊してからの脱出では、彼女の足では間に合わない可能性がある。

 

 逆に自分ひとりなら、破壊工作から脱出まで、かなりのスピードでこなすことが出来る――そもそも、セブンスのことを捨ておいても良かったはずなのではあるが、それをすることはどうしても出来なかった。

 

 結局、自分はセブンスにナナセを重ねることから逃れられなかったのだ。だが、それならそれでいい。何故なら――。

 

(……あの時は、お前に救われることしか出来なかった。今度は……私の番だ)

 

 あの日、海と月の塔で自分を逃してくれたナナセと、今度は逆転した訳だ。それに、自分はここで果てるつもりはない――必ずこの空中要塞を破壊し、脱出して、残りの七柱共をこの手で葬ってやる。

 

(ホークウィンド、アズラエル……貴様らの仇は、私が必ず晴らす。奴らを絶命させるまでは……私は死なん)

 

 覚悟を新たにし、精霊弓を握って振り返り――奥歯を噛んで音速の壁を超え、ヘイムダルの最深部へ向けて走り出した。

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