B&T~記憶喪失の転生者、伝説級の暗殺術で異世界ディストピアをぶっ壊す~   作:五島七夫

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アラン・スミスの修行

 出会いの映像は比較的長めに上映されたが、その後は矢継ぎ早に画面が切り替わっていった。べスターなりに印象的なシーンや、こちらが知っておくべき点を映像として映しつつ、べスターが補足を入れてくれている形である。

 

 まずは改造手術の完成――四肢から飛び出ていた配管などは間接や人工筋肉に収納されて、よりレッドタイガーに近い姿になっていた。もしかすると、フレデリック・キーツは記憶の中に符合するオリジナルに合わせて変身後の姿を作成していたのかもしれない。

 

 施術が完成してからは、椅子にかける白衣と仮面が映し出された。ひとまず共有できる範囲で――当時のべスターの知る範囲かつ、一介の暗殺者に共有しても良い範囲で情報を共有したと説明を受けた。もちろん、同時に皮肉にもだが、オリジナルには話せなかった部分も合わせてクローンの自分は共有を受けることはできる。

 

 オリジナルが目覚めた時には、DAPAの目的は旧政府連合内でも分かってはいなかったらしい。高次元存在の降臨やモノリスに関する情報は、ちょうどこの時チェン・ジュンダーとホークウィンドの潜入工作は並行されており、そこから徐々に明かされていったようだ。

 

 画面の中の仮面に共有された事と言えば、戦後社会においてDAPAの技術により世界が管理されていること――とくに誰もが身体につけているマルチファンクション端末、多くの場合はMFウォッチ、MFグラスなどにより位置情報や信用情報、健康状態が管理されていることや、第五世代型アンドロイドを秘密裏に制作していることなどが語られた。とくにDAPAによる様々な工作は、組織を纏め上げたカリスマであるデイビット・クラークの台頭から始まっていたようだ。

 

 今はゆっくりと――画面が落ち着いているという意味でも、以前のように興奮状態でないという意味でも――話すことが出来るので、映像が流れるのに合わせて気になる点を画面外のべスターに色々と質問してみることにする。

 

「何度か名前は聞いているが……デイビット・クラークってのは何者なんだ?」

「細かいことはそのうち説明するよ……この後、何度も出てくる、ある意味では原初の虎にとっては因縁の相手だからな。軽く概要を話しておくとするなら、デイビット・クラークは急進的な進歩主義者だった」

 

 曰く、彼は世間に蔓延る人類の停滞感を払拭するために最先端技術であるアンドロイド開発やクローン技術、それに通信業を牛耳るそれぞれの企業を一つに纏め上げ、さらに宇宙開発など政府の強かった分野まで勢力を拡大していたということらしい。

 

 大戦については、前世の記憶を持っている自分にも知識はあった。前大戦から一世紀の時を経て勃発した世界を巻き込んだ大戦争だが、同時に最も人道的な戦争とも呼ばれた――あくまでも勃発当初の呼称であり、終結時には大きな災厄を招いたのだが――奇妙な戦争だ。

 

 その実態は、コンピューターで制御された兵器同士での代理戦争だった。空ではAIに管理された無人の戦闘機が激突し、陸では第三世代型アンドロイド達が鉄火を交える――人と人とが戦う戦争は終わったと同時に、前世紀のイデオロギーにおける小国同士の代理戦争が機械化されただけとも言える。

 

 しかし、最も人道的と言われた代理戦争は、結局は国力差によるマネーゲームの延長戦とも言える。要するに、人同士が争った戦争においては兵站や補給などが重視された代わりに、戦闘で消耗したアンドロイドや戦闘機を供給し続けられるだけの国力を有する国が最終的な勝利者となるだけ――大戦を始めた時の二大国は表面上の国力が拮抗しており、また独自の生産ラインを有していたため、相手を出し抜けると思っての開戦だったのだろう。

 

 だが、結局はその独自の生産ラインは、DAPAを有する連合国側の方がパイプが太かった。それも某国の想像を遥かに超えてだ――そうなると結局、陸地を制覇するアンドロイドたちに対し、生産の追いつかない某国では人間が――場合によってはサイボーグが――レジスタンス運動を始めることになる。最終的には人道的と呼ばれた戦争は、アンドロイドが人を制圧し、人がアンドロイドに抵抗するという人類史上でも類を見ない凄惨な消耗戦へと突入したのだ。

 

「……ちなみに、某国へ第三世代型を供給していたのは、結局DAPAだった……ということは知っていたか?」

 

 質問に対して首を振ると、画面の中でオリジナルに対して何某かを説明している白衣の男と同様に、画面外のべスターは紫煙を吐き出した。要するに、某国が独自に生産していたと思っていたラインにもDAPAの息がかかっており、結局は主要国の趨勢はDAPAによってコントロールされていた、ということらしい。

 

「戦争は技術を飛躍的に進歩させる……ある意味では自由経済の競争原理の頂点にある訳だからな。とくにクラークとしては、宇宙技術を発展させたかったようだ……実際、大国はそれぞれ核ミサイルを搭載した軌道衛星を打ち上げて……後は分かるな?」

 

 二つ目の質問に対して、自分はべスターに頷き返す。結局は互いの宇宙からの核攻撃を恐れるあまりに、某国は敵国の軌道衛星を撃ち落とすという暴挙に出たのだ。一度攻撃が始まってしまえば、後は応酬が起こるだけ――大国は互いに大気圏の外で核攻撃を打ち合うという最悪の結果を招いてしまったのだった。

 

 大気圏内での爆発でなかったが故に地表に降り注ぐ放射能は限定的であり、ただちに地上に人が住めなくなるというほどの致命的な被害にはならなかったものの――電磁パルスとインフラとして活用されていた多くの人工衛星の破壊により、地上ではしばらく通信や電気の使えないという、二世紀前の生活水準に戻るという大混乱が発生したと聞く。

 

 また、衛星軌道上で無数の人工衛星が爆弾を打ち合った結果、大量の放射能汚染されたスペースデブリが生成される形になった。スペースデブリの多くは地表に引かれても燃え尽きてしまうが、一部地表に到達する時には落下の被害と放射能の被害の両方をもたらしたのだった。

 

 その結果として戦争どころの話ではなくなり、大戦は終結したのだが――終戦後、すぐに各国はインフラの再整備と放射能の除染に取り組まざるを得なくなった。とくに人が住む居住区が優先してその対象になり――平野部には除染のための大規模なメガロポリスが作られ、人々はそこに密集して生活することになった。

 

 同時に、除染作業の出来ない多くの地域は立ち入り禁止区域となってしまった。とくに、オリジナルの出身国は島国であるものの、海を挟んで大国の隣であったが故に放射線汚染が酷く、山地が多い国土に対してかなりの地域が閉鎖されてしまった。

 

 食糧に関しては放射能の被害が少なかった地域を農地として転用しつつ、クローン技術など前時代で言えば推奨されなかった方法で食糧生産をすることで、何とか人類は滅亡の危機から逃れたのだった。

 

 さて、泥沼の戦争の結果、星の環境を汚染するというだけで終わった各国政府から、人心が離れていくのは当然の帰結だっただろう。ただでさえ通信技術が発達しており、各国は情報を統制することが困難になっていた世情に戦争の失敗が上乗せされてしまい、人々は数々の革命により勝ち取った民主主義を人々は半ば放棄してしまったのだ。

 

 旧世界の人々からは何かを生み出そうという気概が薄れた、というのが正確かもしれない。人は生きる上で政府による統治を消極的に享受するのみになり、仕事の多くも発達したAIによって置き換えられていき――移動の自由もなく、ただ屋内でWEBから提供される即物的な娯楽に没頭するだけの人々が多くなっていったのだから。

 

 しかし、その事態の裏側にDAPAの手引きがあったとなれば、信用を失った各国政府が対策を講じたのも頷ける話だろう。通信も、情報も、AIも、アンドロイドも――更に言えば先の戦争の帰結すらコントロールしていたのが企業連合であり、世界の趨勢は営利団体に委ねられている状態になっていたのだから。

 

「確かに、各国政府は愚かだっただろう。凄惨な戦争を引き起こし、世界に甚大な被害を与えたのだから。とはいえ、DAPAによる世界のコントロールは、それ以上の脅威であると考え……元々敵同士だった各国の政府は連携し、Anti-Conglomerate Organization【反コングロマリット組織】、通称ACOを設立したんだ。

 情報が統制されている以上、世論によってDAPAを倒すことはできない。世界各地に支部を持ち、同時に最大の圧力団体でもある最大企業を規制する法律を作ることもできず……」

「……辿り着いた先が、DAPAの要人暗殺だったってわけか」

 

 こちらの言葉に対し、べスターはゆっくりと頷いた。彼の言うよう、旧政府連合も大概な連中ではあるが――今として考えれば、確かに自分の暗殺対象者が「悪い奴ら」であったことは一定の事実と言える。

 

 もちろん、悪い奴だからと言って殺して良い理由にはならない訳だが、それ以外に世界を牛耳る連中を相手に他に手段は無かったのだろう。交渉などは無理としても、そうでなくとももう少し穏便な手段はなかったのかなど、色々と思うところはあるが――自分より頭のいい連中が出した結論がそれであったことを考えれば、もはや穏便な手段では解決できない所まで来ていたということに違いない。

 

「……要人暗殺の最大の障害になるのが、その護衛たる第五世代型アンドロイドだった。大戦で兵器として扱われた第三世代、そして戦後の労働力として誕生した第四世代の裏側で、DAPAによって製造された不可視の鋼鉄騎兵……人の目はもちろん、レーダーにも映し出されない第五世代に対し、我々政府連合は様々な施策を講じて対策を練った。

 当時、もっとも有力視されていたのは、我々独自のアンドロイドを作りあげることだった。しかし、開発に何年も費やしたものの、DAPA産のアンドロイドに並ぶだけの性能を出すことは愚か、完全迷彩を見破ることすら出来なかった。

 せめて完全迷彩を見破る機械だけでも作れればと開発も進んだのだが……水蒸気などを浴びせることで無理やり見破る手段は考案されたものの、まずどこにそれを浴びせれば良いかも分からないし、何よりそんなものを散布しては今から襲撃しますと宣言しているようなものだ。

 そこで、一つの可能性として考案されたのが……生物的な感覚で以て、不可視の存在を看過し、それらの防衛をすり抜けてターゲットを排除する暗殺者を作り上げることだったんだ」

 

 べスターはそこで言葉を切って、視線をブラウン管へと向けた。自分もそれに合わせて 画面を見ると、そこには仮面の男が様々な鍛錬をするさまが早送りで映し出されているのが見えた。

 

 べスターによる武器や潜入工作に関する座学や、近接戦闘や投擲の訓練――最初の頃はオリジナルも下手糞だったらしく、的の中心はおろか、手から短剣がすっぽ抜けていることもあったようだ。もちろん、機械化されたが故に力の加減やコントロールが難しいのもあったのだろうが。

 

 しかし、映し出される訓練の中でも最も印象的だったのは、仮面の男が真っ暗な部屋で――白衣の男が見つめるモニターは暗視がなされており内部の様子は見えるが――見えないはずの的に向かって斬撃や投擲を繰り返している光景だった。

 

「アラン・スミスが初めてのミッションに出るようになるまでには、実に二年間の訓練を要した。課題は山積みだった……いくら身体を機械化したところで、電脳を積める訳じゃない。積んだところで、通信技術に優れるDAPAを相手にしてはハッキングの恐れもあるし、同時に脳や視神経などを残すことにより、機械で見えない相手を識別しようという計画だった訳だからな。電脳を積んでは本末転倒だ。

 そうなれば、素人が前線に出るようになるまでに、機械の体を自在に扱えるようになり、戦闘行動をこなせるようになるまでの訓練が必要だった。

 同時に、他のテストケースよりも有用であるということを立証できなければ、ミッションが降りてこないからな……第五世代型を看過できるということを、お偉いさん方に証明する必要があった」

「その間、晴子はどうしていたんだ?」

 

 一向に暗闇の中で的に攻撃を当てられていない仮面をしり目に、べスターにそう問うた。DAPAの動向に対して二年の訓練期間が長いとも思ったが、それよりも二年の間、孤独にいたであろう妹のことが気にかかったのだ。

 

 こちらの質問に対し、黒いワイシャツの方のべスターは気まずげに視線を下げながら煙を吸い込み始めた。

 

「この頃のオレは、晴子のことなど気にしていなかった……悪い言い方にはなるが、彼女はアラン・スミスに頑張ってもらうための餌でもあったからな。

 伝聞にはなるが、移植手術を拒絶して、病院のベッドで寝たきりだった様だ。本当なら食事も拒絶して衰弱していたのを、点滴で延命するようにオレが依頼をしていたんだ」

「ふぅ……お前のしたことは褒められたことじゃないだろうが、今更それを責めたりはしないよ。それより、お前はどうして対DAPAのための作戦なんかに参加していたんだ?」

「そうだな……タイミングが来たら話す。オレのことも、晴子のこともな」

「了解だ。しかし、一向にオリジナルは成長しないな」

 

 流れ続ける映像に視線を戻すと、投擲や身体の動き自体は様になってきたようだが、肝心の暗闇の中で標的に攻撃を当てることには大分苦戦をしているようだった。投擲の訓練ではほとんど命中させることが出来ておらず――稀に当たっている場合でも、狙ったというよりもまぐれ当たりのように見えた。

 

「今のお前のように正確無比な投擲技術を得たのには、色々とエピソードがある……そのうち分かるさ。

 さて、賢明な努力のおかげで、なんとか動きは一年ほどでいっぱしになった。しかし、やはり不可視の存在を感知するのはかなり手を焼いていた。実際、最初のデモンストレーションでは良い結果を出せなかったんだ。投擲を一発も当てられなければ、サイボーグによる要人暗殺計画は中止される予定だったんだが……」

 

 ワイシャツがそう言うのに合わせて映像が切り替わり、べスターの周りに背広の男達が何人もいるシーンに切り替わった。最初のデモンストレーションの風景なのだろうが――やはり、暗室の中の仮面は的に対して攻撃を外し続けているようだった。

 

 そして、最後のナイフを投げる直前の暴投が、的を下げている鎖に当たったおかげで、的が動き始め――暗室に灯りが着いた時には、揺れる的にナイフが一本刺さっていた。

 

「一発のみしか成功しなかったが故、正式な採用にはならなかったが、ひとまず二課のテストを続行することには成功した。

 その後しばらくは、また苦戦する日々が続いたんだが……ある日オリジナルの考案でな。的を動かしてくれという意見を出されたんだ。オレとしては、動かない的にすら当てられない奴が、動く的に当てられるわけが無いとも思ったんだが、確かにデモ中に当てた一撃は、的が動いていたからな」

 

 再び画面が真っ暗に切り替わり――スピーカーから風を切るような音が聞こえ始める。そして画面が――正式には仮面のいた暗室に灯りがついた時には、訓練用の暗室で複数の的にそれぞれナイフが突き刺さっているのが映し出されたのだった。

 

「オリジナル曰く、最初から空間に存在して微動だにしない的は、気配がしないから狙えなかったんだそうだ。それを皮切りに、お前は徐々に感覚を掴んでいき……的の大きささえ分かっていれば、空気の流れから対象を認識できるようになっていった。そして、最初のデモからさらに半年後には、動かない的も狙えるようになったんだ。

 今にして思えば、お前が見えない的を狙えるようになったのは複数の要因があったのだろう……観察能力と空間把握能力の高さから、空間における違和感を察知できるというのをオレは仮説として持っていた。しかし……」

「……段々と、俺が未来予知能力を開花させていったのも要因だったと?」

 

 こちらの返答に対し、Yシャツは小さく頷いた。

 

「そう考えれば、多少筋道が立つ部分もあると思ってな……もちろん、先ほど上げた能力が高いというのも事実なはずだ。それ故、お前は的が動いてさえいれば気配を察知することが出来た訳だが……最終的には動いていない的を狙えたことや、そもそも人や機械の発する微弱な信号を感知できるようになったのは、むしろ超能力じみているとさえ思っていた」

「そこは、真面目に訓練した賜物と言って欲しい所だがな」

「もちろん、それは大前提さ。とはいえ、訓練だけではなかなか納得的ない部分もあったのは確かだ。

 今のオレの仮説としては、一年以上の必死の訓練とお前の素養に上乗せして、高次元存在という霊的な存在の加護があったという複合要因が、アラン・スミスという暗殺者を産んだのだろうと思っている」

 

 自分としては、必死にやっていたのを高次元存在のおかげと――それが霊的な存在であっても――言われるのは少々気に食わない部分はあるのだが。とはいえ、訓練していたのはオリジナルであるし、クローンの自分はその技術をそのまま流用できているのだから、自分が不機嫌になるのもお門違いか。

 

 ともかく、画面が再び切り替わり――先ほどのように背広たちがべスターを取り囲み、幾分か納得した表情をしているのが映った。同時に、その背後にいる白衣達は――べスターでなく、他の研究者だろう――どこか浮かない様子であるように見えた。

 

「二回目のデモでは優秀な成績を修め、続く二週間後の三回目では全ての的を正確に打ち抜き、訓練用のロボット相手なら近接戦闘もこなせるまでに成長していた。

 とはいえ、人の感覚が不可視の存在を見抜くなどとオカルトじみているとライバルチームからは反論があってだな……」

「はっ、超能力だとか魔術だとかモノリスだとか、そんなものが平然と存在するんだ。オカルトだなんだなんていうのは今更だな」

「あぁ、違いない……まぁ、ライバルチームとしてはお前の存在が気に食わなかったんだ。もし要人の暗殺をオレ達のチームが請け負うとことになれば、予算を縮小させられるか、最悪の場合テストチームは解散させられる訳だからな」

「はぁ……味方内でも他人の足を引っ張り合うのは、世の常なのかね」

「むしろ、組織の中だからこそだろうな……ともかく、単独にて暗殺のミッションを成功させることの難しさを指摘され……」

 

 次にブラウン管に映ったのは、白塗りの壁が四方を取り囲む広い部屋だった。

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