B&T~記憶喪失の転生者、伝説級の暗殺術で異世界ディストピアをぶっ壊す~   作:五島七夫

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摩天楼からの脱出

「なっ……超能力者!?」

 

 本物の超能力者が目の前に居たことに驚きを隠せなかったのか、アラン・スミスは素っ頓狂な声を上げた。炎が映像を映し出している壁を燃やしたせいで、デイビット・クラークの姿は見えなくなり――代わりにスクリーンの端に映っていたファラ・アシモフが、表情を険しくしながら口を開いた。

 

「グロリア、止めなさい!」

「アナタの言うことなんて聞かないわ! 私のことなんか、どうなってもいいと思っている癖に! こういう時だけ親の顔をしないで!」

 

 グロリアが怒声と共に腕を振ると、炎の鞭が横薙ぎにされた。その炎に巻き込まれ、二体の第五世代型アンドロイドの胴に線が走り、切断面が溶けだして上半身が崩れ落ちた。

 

 しかし、それが良くなかったのだろう、攻撃を受けたことで自衛プログラムが働いたのか――同時に、グロリアは彼らの保護対象になっていないせいか――アンドロイドたちは少女に対して銃口を向けた。

 

 虎の舌打ちが聞こえるのとほぼ同時に、再び映像が一気に動いた。次に視界が安定した時には、室内の柱に身を隠し、目を瞑っているグロリアを抱きかかえている状況が映る。アラン・スミスはすぐに立ち上がり、乱暴にリュックサックを床に投げ捨てた。叩きつけられたそれからは煙が立ち昇っており、どうやらグロリアを救出する際にブラスターが掠ってしまったようだった。

 

「おいアラン、大丈夫か!?」

「あぁ、俺は問題ないが……落下傘がやられた」

「脱出はどうするつもりだ?」

「そんなことは、なるようになるさ……まずは、目の前の状況を打破しないとな!」

 

 ブラスターの発射音がけたたましく鳴り響く室内に、一層大きなソニックブームの破裂音が鳴り響き――カメラが安定した時には、残っていた三体の第五世代型達がその場で崩れ落ちるのが映し出された。

 

 しかし、息をつく暇もない。鳥かごへ増援を送るためだろう、すでにエレベーターが動き始めていた。一度に送り出されるアンドロイドの数はせいぜい五体程度であろうから、オリジナルが生き残るだけならそう難しくはないだろうが――グロリアを守りながらとなれば戦う難易度も上がるし、何より少女の安全を確保し続けるのは厳しいだろう。

 

 画面内の虎もそれを懸念したのか、グロリアの方へと振り返ると、少女は柱の後ろから身を乗り出し、キラキラとした目線を虎へと向けていた。

 

「ねぇアナタ、さっき約束したでしょう? 私を連れ出してくれるって!」

「いや、そんな約束をした覚えは……」

「四の五の言わないの!」

 

 期待のまなざしはどこへやら、少女は頬を膨らませて人差し指を突き出してきている。

 

「とはいえ、さっきと状況はまるで違う。クラークの言うことが本当なら、俺にあのシャッターを破れるだけの力は……」

「それなら、こうよ!」

 

 グロリアは部屋の中央へと移動し、左手を広げて上へと突き出した。その掌から炎の渦が巻き起こり、鳥かごを閉ざしている鉄の格子に突き刺さった。アンドロイドのボディを焼ききるほどの高温は、分厚い鉄を部屋を照らしていた照明ごと焼き焦がし――真っ暗になった部屋の中、天井の中央に、暗い空を映す穴がぽっかりと空いたのだった。

 

「さぁ、あとは天窓を割って頂戴! 私はあのガラスを破れないの!」

「しかし、落下傘が!」

「大丈夫、私は飛べるんだから!」

 

 グロリアは両手を握りながら、自信満々にそう告げた。

 

「グロリア、待ちなさい!」

「口を開けばダメとしか言わない! ママなんかだいっきらいよ!!」

 

 グロリアはスクリーンの端に映っている母に対してそう吐き捨てた。虎は飛べるという少女の言葉を信じかねていたようだが、先ほどのパイロキネシスとファラの必死の声に確信を得たらしい、少女の方を見つめて頷いた。

 

「グロリア、お前を信じるぞ!」

「えっ……えぇ、任せて!」

 

 グロリアは一瞬、驚いたように眼を見開き、しかしすぐに真剣な面持ちでアラン・スミスに頷き返した。そして音速の壁を超える破裂音が聞こえ――視界には地上の光を反射する薄暗い空が映し出され、同時にガラスが砕けるような音が聞こえてきた。

 

 壁を蹴って上昇し、一気に強化ガラスを蹴り破ったのだろう、虎は突き出していた脚を起点に翻り――次第に宙へと跳び出した推進力を失っていき、最後には視点が下へと引かれ始めた。

 

「おぉ……おぉぉおおおおお!?」

 

 重力に引かれて落下を始めるのに合わせて、アラン・スミスは間抜けな叫び声を上げ始めた。着地点を探すためか、虎は下を見るが、そこには人工の灯りが煌めく、巨大な人工物の海が横たわっているだけだった。

 

 そして一点、先ほど突き破ってきた鳥かごの穴から、何か明るいものが飛び出し――赤々と燃える炎の両翼が近づいて来るのが見えた。

 

「……さぁ、私の手を!」

 

 少女が必死に突き出した細い手を、厳ついグローブが握り返す。その瞬間、視点の落下が緩やかになり――オリジナルが上を見上げると、両手で外套を必死の形相でつかむ少女の姿があった。

 

「うぬぬ……重い!」

「お、おい、離さないでくれよ!?」

「ちょ、ちょっと待って。多分、調整すれば飛べるから……」

 

 サイボーグであるオリジナルの体重は、恐らくかなりの重量があるはずだ。そうなれば、グロリアの細い腕では本来なら持てないのだろう。それでもなんとか空中で姿勢を保てているのは、彼女の浮遊能力は鳥のように羽ばたいて飛んでいるというよりは、恐らくは重力や浮力を調整して飛んでいるからのように思われる。

 

 最終的に重力に対する調整が上手くいったのか、落下も収まり――グロリアは両手でアラン・スミスの手を握ったまま、母なる大地の月を背景に微笑んだ。

 

「ふぅ……アナタ、なかなか無茶苦茶ね。もちろん、出してって言ったのは私な訳だけど……」

「こっちは頭の整理が追いつかないんだが……炎を出したり空を飛んだり、一体全体どういうことなんだ?」

「炎に関しては、超能力開発をされた結果ね。空を飛ぶ能力に関しては……不思議な黒い板に触れた時に、不思議な光景を見て……」

「……不思議な黒い板、か。その話、詳しく聞きたいな」

 

 黒い板に食い付いたのは、オリジナルでなくべスターだった。ひとまず鳥かごからの脱出が済んだのを見届けて落ち着こうとしているのか、男は箱から煙草を一本取りだして咥えた。

 

「おいヴィクター。物騒なことを考えてるんじゃないだろうな?」

「どの道、かごの中の鳥は放たれてしまったんだ。確約もできないが、可能な限り彼女の身柄の安全は確保できるようにする」

「もし連れ帰ってエグイことするようなら、俺はボイコットを決行するからな」

「その辺りは、お前がクラークよりマシと言ってくれたオレ達のボスを信じるしかないが……グロリアの持っている情報は、今回のミスを帳消しにする材料にはなるだろう。まぁ、そもそもの情報が間違えていた訳だし、お前に落ち度は無い……」

 

 べスターはそこで煙草に火をつけて、ゆっくりと煙を吐き出した。男はフィルターを指先につまんだまま無言になる――こういう時のべスターは、何か考え事をしていることが多い。

 

 恐らく、「そもそもの情報が間違えていた」という点に違和感があったのだろう。今回のミッションは、今までのものとは比にならないほど高難易度であったはず。潜入の難易度という点でもそうだが、一度潜入すれば対策が施されてしまい、二度目は無い――そうなれば、ファラ・アシモフを暗殺できる機会はほとんど永久に失われるはずなのだ。

 

 要するに、今回のミッションは上層部から与えられた情報を基に慎重に準備されているものであり、そもそもファラ・アシモフが最上階に居るという情報そのものが間違えていたということなど、あってはならないのだ。

 

 それも、ファラ・アシモフが一時的に部屋を離れていたというのならまだ仕方ない部分もあるだろう。しかし、実際の最上階はグロリア・アシモフの牢獄であり、かなり高い可能性でファラ・アシモフはあの部屋を訪れることは無い――ともなれば、情報は間違えていたというより、もしかすると意図的に間違えた情報を流された、という考え方もできる。

 

「……敵はどこに潜んでいるか分からんな」

 

 思考がまとまったのだろう、べスターは灰を切って紫煙を吸い込んだ。そこで改めてモニターを注視すると、小首を傾げている少女の可愛らしい顔が映っていた。

 

「アナタ、さっきからぶつくさと独り言を言っているわね。誰かと通信しているの?」

「あぁ、サンタクロース本部と連絡を取っていてな」

「まだその設定を引っ張るの? でもまぁ、自由という名のプレゼントをくれた訳だし、良しとするわ。ありがとうね、サンタさん。ついでに、外の世界を案内してくれると嬉しいのだけれど」

「ダイナミックに家出したっていうのに、なかなか呑気だね君も……!?」

 

 虎の声が最後に上擦ったのは、恐らくだが殺気を感じたためだ。オリジナルは少女を右腕で抱き寄せのと同時に、下から発射された光線が夜の闇を切り裂き――射線の先を見ると、脱出してきた鳥かごの周りに複数体、第五世代型アンドロイド達の機影があるのが見えた。

 

「ちょっと!? アナタ、大丈夫!?」

「あぁ、こう見えて頑丈なんだ」

「馬鹿、腕が無くなってるじゃない!」

「便利な体なんでね。その気になれば痛覚はシャットアウトできる」

「そういう問題じゃないでしょう!?」

「押し問答は後……それより、俺を放せば離脱できそうか?」

 

 グロリアが先ほど重そうにしていたことを懸念しての質問だったのだろう。今もふらふらと空中を蛇行はしているものの、先ほど鳥かごを抜けてきた時の速度は出せていないようだった。

 

 下からの攻撃に上乗せして、更にはヘリまで飛ばして追跡してくる気らしい、摩天楼のヘリポートでプロペラを回し始めている。このままでは二人とも生き残れないかもしれない、そう思ってオリジナルは自分を放せと言ったのだろうが――虎の胸の内にいる少女は涙目になりながら首を横に振った。

 

「ダメよ……怪我をしているアナタを、見捨てるなんてできない」

「大丈夫だ、どうにかする……一人で行けそうか?」

「私、外に出たことが無いのよ? 一人じゃ、どこへ行けばいいか分からないわ」

「だよな……ひとまず、ヘリからは離れるんだ……しかし、どうしたものか……」

 

 片腕が落とされてしまっては迎撃も出来ないし、何よりオリジナルには数百メートル離れた場所への有効な攻撃手段は無いどころか、ヘリコプターを撃墜できるような強力な武装もない。ひとまずブラスターによる攻撃は距離さえ離せば何とかなるだろうが、今の速度ではヘリを振り切れないし、況や振り切れたとしても場所を捕捉されてしまっているのだ、迎撃の手は緩まらないだろうし、べスターと合流することも出来ないはずだ。

 

 その上――屋上から距離が離れてきたことで光線による攻撃は数は減ってきたが――今度はスナイパーライフルで二人を狙ってきているらしい。それに関してはオリジナルがグロリアに指示を出し、軌道を変えることで対処は出来ているが、最終的にヘリが動き始め、二人の方へと接近し始めてきていた。

 

「くそ、ここまで来たら返ってはぐれるのは危険だな……グロリア、俺をヘリに投げられるか!?」

「む、無理に決まってるでしょう!?」

 

 以前に飛んでいるスザクにクローンである自分は放り投げられた経験はあるが、より重いオリジナルを、グロリアの細腕で投げるのは確かに無理そうだ――しかしオリジナルの言う通りで、恐らくここでオリジナルを見捨てて逃げたとしても、グロリアに対する追跡は続くことになるだろう。

 

 それなら、グロリアの発火能力で迎撃するのが良いのかもしれないが、パニックを起こしている少女に戦ってくれとはオリジナルも言えないはずだ。そのため、徐々にヘリが近づいてくるのを見守ることしかできないのが――ふと、ヘリが空中で切り返し、全く別の方向へと飛び去って行ってしまった。

 

「……何が起こった?」

「……アランさん、僕が誘導する」

 

 べスターが待機している車内にも聞こえてきたその声に、自分は聞き覚えがあった。もちろん、肉体は別だから声そのものは厳密に言えば違うのだが――喋り方や雰囲気がアイツのものに酷似している。

 

 とはいえ、画面内のオリジナルはこの時に初めて彼の声を聞いたのであり、「お前、誰だ?」と声の主に返事を返していた。

 

「細かいことは後だ……どの道捕捉されているし、今のまま飛んでいったところで絶体絶命。それなら、僕の言うことに賭けてみる価値はあると思わないかい?」

 

 正体不明の通信主ともなれば、当然罠の可能性も考えるべきなのだろうが――ヘリが離脱し、また虎のコードネームを知っているとなれば、声の主の正体は一人しかいないだろう、オリジナルもそれを察したのか、「そうだな」と返して頷いたようだった。

 

「それで、どっちへ行けばいい? 凄腕さんよ」

「その呼び方を変えてくれたら、キチンとナビゲートするよ……ひとまず南の方、ヘリと反対方向へゆっくりと下降していってくれ。衛星や着地先の監視カメラの映像を偽装して、奴らから追跡されないようにするから」

「了解だ……後で名前を教えてくれよ。そうしないと凄腕としか呼べないからな」

「……あぁ、こちらも了解だ」

 

 通信の動向を見守るべスターも、とくに口を差し挟みはしなかった。彼もまた、この状況を打破するにはハッカーのナビゲートに頼らざるを得ないことを承知しており、またこの土壇場で彼が裏切らないことに賭けるしかなかったからだろう。

 

 ともかく、オリジナルたちはゆっくりと下降を始め、同じくらいの高さが連なるビル群の屋上に着地した。その後はオリジナルが少女を抱えて――腕に抱えている時は結構わめいていたが――建物の隙間をワイヤーで下り、狭い路地裏へと降り立つことに成功した。

 

 時刻としてはすでに日を跨いでおり、人通りもかなり少ないことも助けとなり、虎と少女は誰にも見られないように路地を歩き回って移動を続けた。その間も、ハッカーからの通信は続いており――彼らの行く先の監視カメラの映像を改竄しながら、どこかへとナビゲートをしてくれていた。

 

 そのため移動中にDAPAによって襲撃される可能性は低いのだが、別の意味でまだ危険は伴っていた。というのも、深夜に少女を連れている仮面の男だなんて印象に残るし、カメラには残らないと言っても誰かに目撃されるのはマズい。その上――。

 

「ふぅ……ふぅ……もう、歩けないわ……飛んでいったらダメ?」

「あのな、一人で飛んでいったら速攻で捕捉されるぞ?」

「うぅ……臭いし汚いし、外ってあんまり良い所じゃないわね」

 

 路地裏を先行する虎の背後で、グロリアが壁に手をついて肩で息をしている。もう一つの課題はこれで、グロリアの体力では長距離の移動に手こずるというのがあった。彼女の祖国の慣習のおかげか、私室内でも靴だけは履いていてくれたのは幸いだが、薄い寝間着は既にほこりにまみれて汚れており――少女は壁に寄りかかって動けなくなってしまった。

 

「もう歩けない……」

「仕方ない……ほら」

 

 言葉と共にアラン・スミスのアイカメラの位置が下がった。どうやら少女をおぶるためにしゃがみ込んだようだ。

 

「……けが人におんぶされるほど、落ちぶれちゃいないわ」

「それより、動けなくなる方が困る」

「うぅ……いいの、頑張るから!」

 

 アラン・スミスが立ち上がって振り返ると、グロリアは壁から身体を離してオリジナルの隣に並んだ。

 

「……そっか。それなら、頑張ろうな、グロリア」

 

 オリジナルが残っている右手で癖っ毛を撫でると、グロリアは「もう……子ども扱いして!」と頬を膨らませる。そのまましばらく無言で歩き続けると、少女の方から「ねぇ」と小さく声が上がった。

 

「アナタ、名前は何て言うの?」

「どうもこうも、ご存じサンタクロースさ」

「あのねぇ……いい加減にしないと怒るわよ?」

 

 更に不機嫌を加速させる少女に対し、流石にふざけすぎたと反省したのか、オリジナルは「アラン・スミスと名乗っている」と返した。

 

「名乗っているって……本名じゃないの?」

「あぁ。悪いけど本名は機密でね。本当は、アラン・スミスっていうのもあんまり広めちゃいけないというか……俺の存在自体が、世間的には無いことになってるからな」

「そう……私と同じね」

「知っていたのか?」

「えぇ……確かにあのビルに閉じ込められて長いし、世間知らずでなことを自覚してない訳じゃないけれど、代わりにたくさん本を読んできたから……ある程度の分別はあるつもりよ。

 だから、世間的には私がいないことになっているのは理解しているつもり」

「そうか……」

「……アナタはそれでもいいの?」

「難しいな……まぁ、思うところがない訳でもないが、ひとまず納得してない訳じゃない、くらいではあるな」

 

 会話を続けながらもゆっくりと、しかし着実に進み、最終的には二人は旧市街の一角にある廃ビルにまで移動してきていた。長いあいだ放置されているせいだろう、老朽化も進んでおり、足場には瓦礫やゴミが散乱している。

 

 アラン・スミスが先行し、床の状態や周りの気配を感知しながら建物の中を進んでいき、最後にはエレベーターの扉の前まで辿り着いたタイミングで、ナビゲーターからの通信が入った。

 

「そのエレベーターに乗ってくれ」

「それは良いんだが……電気は来ているのか?」

「あぁ、問題なく乗れるよ……今だけ電気を拝借しているからね」

 

 虎がエレベーターのボタンを操作すると、確かにエレベーターは作動して扉が開かれた。グロリアと共に乗り込むと、自動でエレベーターは最上階へと移動を始め――扉が開かれた先は元々どこかのオフィスだったのだろう、机や椅子が散乱している広い部屋だった。

 

 長時間の移動のために夜が明けたらしく、窓の外は明るくなり始めている。そして、僅かにした物音の方へとオリジナルが視線を向けると、広い部屋の中の端っこでノートパソコンを閉じている一つのシルエットがあった。

 

 そこに居たのは、一見すると高校生といった感じの少年だった。顔立ちは繊細そうで整っているが、一方であどけなくも見えるので、十代後半と言う印象ではある。しかし同時に、どことなく底の知れない雰囲気もあるせいか、実のところはもう少し歳はいっているのかもしれないという気もしてくる。

 

 ここまで誘導してくれたナビゲーターは、虎と視線が合うと立ち上がり、椅子に掛けていた上着を手に取った。

 

「二人とも、お疲れ様。ここで一晩休んで、夜になったらべスターさんに迎えに来てもらおう……大丈夫、ここは安全さ。僕は買い物に行ってくることにするよ」

「あぁ、そうさせてもらおう……それで? お前のことは何て呼べばいいんだ?」

「僕は星右京……本名だよ。これからよろしくね、先輩」

 

 朝日を受けて輝く少年の顔には、この時より遥か未来に見たあの涼し気な微笑みが浮かんでいるのだった。

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