B&T~記憶喪失の転生者、伝説級の暗殺術で異世界ディストピアをぶっ壊す~   作:五島七夫

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共同生活の始まり

「これが、星右京とオリジナルとの出会いだった」

 

 ブラウン管の外側で、べスターは気だるげに煙を吐き出しながらそう言った。

 

「……何か、思うところはあったか?」

「唐突だな……まぁ、何点かある。まず、シンイチと右京の顔は思ったほど似ていないが、所作はそっくりだって所かな」

 

 細かく見れば右京譲りの部分もあるようだが、どちらかと言えばシンイチは晴子に似ているのだろう。これならば、シンイチと右京は親子と言われないと気付かないレベルかもしれない。所作に関しても自分はシンイチに右京が宿っていたことを知っているので気付けたが、まさか人格の転写や脳の移植などべスターは知らなかった訳であり、少なくとも魔王征伐や王都の時点では気付かなかったのは彼の落ち度では無いと言えるだろう。

 

 所作の他にも思ったことがある。それを伝えるため、相変わらず顎を椅子の背の上に乗せている男の方へと向き直る。

 

「あとは……この時の右京は、善意から俺とグロリアを救ってくれたように思う」

「ほぅ、なんでだ?」

「もちろん勘が先行するんだが、それらしい理由をつけることはできる。もしアイツが単純な二重スパイでクラークに傾倒していたのなら、むしろあの時がオリジナルを倒す絶好のチャンスだったからだ。

 それに、さっきお前自身が言っていたよな? この時の右京は、まだスパイをしてたわけじゃないんだろうって……それなら、この時は単純に善意から俺たちを誘導してくれたんじゃないか?」

 

 べスターは吸い込んだ煙を吐き出し終えてから、こちらの意見に対して首を振った。

 

「オレは右京がACOに接近してきた目的を把握している。アイツは、デイビット・クラークを倒せる可能性を探していたんだ。恐らく、DAPAという組織を想いのままに操るのに、クラークの存在が大きすぎるから、排除できるだけの力を持つ者の到来を待っていたんだろう。

 そして原初の虎はJaUNTに対して反応して見せた……恐らくそれを見て、右京はアラン・スミスを利用して、クラークを倒そうと閃いた。だから助けたんだ」

 

 べスターの仮説はもっともらしく、未来の立場から俯瞰して見た時には――同時に、星右京という男がこの後に取った選択から見れば、自分の考えよりべスターの考えの方が自然な様にすら思う。

 

 右京からしてみれば、いずれクラークを倒すことを想定するのならば、瞬間移動に対処した虎を生かしておいた方がチャンスが広がる訳だ。しかし――。

 

「お前の言うことはもっともだよべスター。でも、この時の右京が善意を持っていたというのは、お前の意見と矛盾せずに並立できると思う。

 あんまり良い言い方じゃないが、利用しようって相手に対して、同情や共感しちゃならないって理由にはならないからな」

 

 自分の考えとしてはこうだ。恐らく、べスターの意見は、右京の実利という観点からして見ると正しい。だが、感情の部分としては、二人の脱出を手助けしたいという考えも共存していたのだと。

 

 こちらの想像に対し、べスターは無表情に煙を吸い込み、また気だるげに吐き出しながら首を横に振った。

 

「……仮にお前の意見が正しかったとしてもだ。利用しようって相手に同情するなんて、傲慢だとは思うがな」

「あぁ、その通り……そしてそれは、きっとアイツ自身が痛いほど分かってるんだ」

 

 そしてそれこそが、星右京という人物の難しさを言い表しているのだ。彼の中には標準的な倫理観や正義感が確かに存在する様に思う。しかし、彼の目指すところにはそれらが障害となるケースが往々としてあり、彼は悩んだ挙句に実利を取って心を痛めている――そんな風に思うのだ。

 

「随分とアイツの肩を持つんだな」

「一つ断っておくが、アイツを許せないって気持ちは間違いなくあるぜ。仮にアイツの性根が悪いもんじゃないって言うのが事実だったとしても、それは星右京の選択を擁護できる範疇を遥かに超えてしまっているからな」

 

 仮に現世に戻れたとしたら、自分は間違いなく星右京を止めに行くだろう。だが、それとは別にアイツは難しい奴だと同情することは、また矛盾なく並立しうる、それだけの話だ。

 

「しかし……アイツ、なんであんな所に居たんだ?」

「逆探知されるリスクを考慮して、仕事をする時にはあんな風に空き家を使っていたらしい。ネットには、死んでいるとされていたいくつかの衛星を利用していたようだな……ついでに、この後の任務にも、アイツはオレとは別行動で、どこかの廃墟からお前の潜入を手助けしていたんだ……特殊なケースの場合には、オレと同行することもあったがな」

 

 さて、右京と合流した後の顛末は以下のようなものであったらしい。右京の言う通りに廃墟内で夜が更けるのを待ち、その後はべスターのトラックでグロリアと右京と共に基地へと帰投した。

 

 右京に関しては、そこから二課の正式な協力者となった。正式な配属にならなかったのは、偏に彼が組織に所属するのを嫌うからだった。秘密組織が機密を知る者を自由にしておくのには違和感もあったが――。

 

「後から知ったが……その辺りは、アイツが一部のお偉いさんの弱みを握って上手くやっていたらしいな」

 

 要するに、バラされたくない情報と引き換えに交渉したということなのだろう。とはいえ、名目上はDAPAからの保護という名目でACOを頼ってきたのであり、右京も基本的には基地内で生活をしていたとのこと。同時に、正式な所属でないので、頻繁に外にも出ている姿も目撃されていたらしい。

 

「しかし、普段は別行動を取っているせいで、アイツの暗躍に気付けなかったんだが……それはおいおい話そう」

 

 グロリアの処遇に関しては、かなり厳重な稟議が行われたらしい。というのも、敵側要人の子息を拉致してきたのであり、その扱いは慎重に行う必要があるのは当然のことだった。同時に、表向きには行方不明者となっていたのであり、DAPA側は逃亡するグロリアを回収するのではなく、消す様な動きを取っていた――そうなると、彼女の存在を世に出したくないという思惑があるがあったに違いない。その証拠として、DAPA側からグロリアを返す様にという要望は終ぞなかったとのことだ。

 

 ACO側も秘密組織であり、グロリア・アシモフの存在を公にすることもできない。そうなれば、出来ることと言えば保護くらいであり――もちろん超能力の解明に人体実験をしたいという意見もあったようだが、組織内で虎しかミッションをこなせないということを材料に発言力を高めていたべスターの交渉により、その邪悪な目論みの回避はできた。

 

 最終的には、グロリアは飛行能力を与えたという物体の情報提供をするだけで――とはいえ、彼女にはそれが何であるかは分からなかったのであり、簡単な説明をするしか出来なかったわけだが――あとは彼女自身の強い要望により、オリジナルとべスターが面倒を見ることになったということだった。

 

 そしてオリジナルが失った腕を修理した後は、グロリアとの共同生活の映像が流れ始めた。今までは地下の一角を利用していたのに対し、二課は今までの功績が認められて追加でもう何室か利用できるようになったらしい。

 

 そのうち、地上のコンテナの一室はべスターの、もう一室はグロリアの私室となり、キッチンや水回りのある部屋がリビングとして活用されるようになった。一般的な通信はDAPAに傍受される可能性があるので、ネットやテレビなどは使えない一世紀以上前の生活ではあったのもの、グロリアは軟禁生活でネットのない生活に慣れていたため、とくに文句も出なかったようだ。

 

 また、リビングでは禁煙をグロリアから言い渡され、今まで通り地下の研究室を私室にしていたオリジナルの元に退避するようにべスターは煙草を吸いに来ていた。そのため、べスターの私室として明け渡された部屋は寝るときくらいにしか活用されず、普段は頻繁にくる右京が利用するケースが多かったらしい。

 

 せっかく自由になったのだからと、グロリアは外に出たがることが多かった。とはいえ、一人で居る所を監視カメラに映すと問題が起きることが想定されるので、外出するならべスターの同伴が必須とされた。それも、基本的には車の外に出ないようにすることと、必ず帽子を被って監視カメラに顔を見せないようになどの条件をつけられた。

 

 しかしグロリアは、外に出るならばオリジナルと一緒に出たいと駄々をこねたらしい。初めて一緒に外を歩いた時には路地裏ばかりで楽しくもなかったし、今度は楽しい所に連れて言って欲しいと――しかし、存在が機密であるオリジナルはミッション以外で基地の外に出ることも叶わないことを伝えると、彼女はしぶしぶながら読書にふけるようになった。

 

 そんな生活を続けて数日して、オリジナルからべスターにとある相談が持ちかけられたらしい。おりしも深夜でグロリアが眠っているタイミングで、ちょうどその時には右京も尋ねてきている時だったようだ。

 

「……自分が父を殺したという事実を、グロリアに伝えるかどうか滅茶苦茶に悩んでいると。オレと右京は、言ったところでどうにもならないし、面倒になるだけなのだから止めておけといったのだが……」

 

 べスターの視線に誘導されるよう、自分もブラウン管に視線を戻す。そこには、コンテナハウスに戻ろうとしている所で勢いよく扉が開け放たれ、そこからグロリアが飛びだしていく所が映し出されていた。

 

 ◆

 

「おい、グロリア待て!」

 

 視線の主は一度振り向いて少女の背中に声を掛けるが、対するグロリアは制止の声も聞かずに走り去っていったしまった。一度状況を確認するためだろう、画面内のべスターは開け放たれたままのコンテナハウスの中へと入り、呑気にソファーで寝っ転がっている右京の方へと視点を定めた。

 

「おい、何が起きたんだ?」

「僕よりも、アランさんに聞いた方が早いんじゃないかな?」

 

 右京の視線の先にいるオリジナルは、表情こそ仮面で見えないが、見るからに肩を落としていた。それで事態を察したのだろう、べスターは改めて右京の方へと視線を戻した。

 

「右京、グロリアを追いかけてくれないか?」

「何とかしてあげたい気持ちもなくは無いけど、僕は女の子が苦手でさ。とくにああいう時は何を言っても聞かないし、遠慮願いたいんだけど」

「あのなぁ……人がいるだけで落ち着く場合もあるだろう?」

「それこそ、アランさんが行った方が良いんじゃないかい? 二人の問題なわけだしさ」

「それは少し落ち着いてからの方が良いだろう。別に説得をしてくれなくたっていい、ただここに呼び戻してさえくれれば……あの子が飛行能力で脱走するを避けたいんだ」

「それは確かに……分かった、ひとまずここに戻るようには声をかけてくるよ」

 

 右京はソファーから立ち上がって、べスターの横を小走りに通り抜けていった。男はそこでポケットから煙草を取り出し――禁煙だったことを思い出したのだろう、掴みかけていたフィルターを元に戻すと、そのまま扉を閉めて落ち込んでいる虎の方に向き直った。

 

「どうして話したんだ?」

「お前の言い分も分かる……でも、あの子の父を奪っておいて、それを黙ったまま一緒には笑えない……そう思ったんだ」

「仮に許されないとしてもか?」

「あぁ……確かに、ローレンス・アシモフを暗殺した時にはその覚悟があった訳じゃないが、本来は人を殺すっていうのはこういうことなんだ」

「はぁ……お前は馬鹿だと言いたいところだが、その罪を背負わせたのは他でもないオレだからな……」

 

 べスターはキッチンの方へと移動し、手に持っていた紙袋をカウンターの上に置いた。そしてその中から缶コーヒーを取り出し、プルタブを開けて口へと運んだ。

 

「一応聞く、今後どうするつもりだ?」

「さぁ……ただ、俺も始めたことにはけじめをつけたい。だから、この戦いが終わるまではやりとげるつもりだ。その後に、グロリアが俺のことを殺してやりたいというのなら、その時は……それでも良いかと思っている」

「オレが聞きたいのはそういうことじゃない。グロリアとの関係をどうするつもりかって聞いてるんだ」

「謝って済む問題じゃないからな。なるべく顔を合わせないようにするよ」

「はぁ……それに挟まれるオレと右京の気持ちも考えてくれよ」

 

 喉が乾いていたのか、はたまた口寂しさを紛らわすためか、べスターはちびちびと小さなコーヒー缶をあおり続けてコンテナハウスについている窓の外へと視線をやった。

 

「しかし、正直意外だった。あの子は両親を嫌っていると思っていたからな。まさか、あそこまで取り乱すとは」

「その辺は両立するってだけだろう。親を嫌う感情があっても、どうやったって親は親だ……それが他人に命を奪われたとなれば、納得できないのも頷ける」

「確かに……その辺りは、オレも人のことは言えないな」

 

 べスターも、元々父のことをそこまで好意的に思っていた訳ではないが故、グロリアの気持ちを理解できたのだろう――男はそのまま缶を一気にあおり、飲み終わったそれをゴミ箱に捨てたタイミングで、コンテナハウスの扉が勢いよく開け放たれた。

 

「……残念ながら、べスターさんの言う通りになってしまったようだよ」

 

 神妙な表情を浮かべる右京の後ろには、馬鹿みたいな晴天と、遠景に見える都市部の摩天楼群が映し出され――そこには僅かにだが、黒い煙の筋が立ち上がっているのが見えた。

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