B&T~記憶喪失の転生者、伝説級の暗殺術で異世界ディストピアをぶっ壊す~   作:五島七夫

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市街地の救出劇

「こういう時のために、衣服に探知機をつけておいて正解だったな」

 

 爆発が起きた場所へと向かうトラックの中で、ハンドルの隣に取り付けられているナビの液晶を見ながらべスターはそう呟いた。本来なら探知機の類を持たせるのも逆探知のリスクが上がるのだが、グロリアは飛行できるがゆえに鉄格子の中にでも入れておかなければ居所が分からなくなる可能性もある。そのため、監視の必要がある期間は探知機を衣服に忍ばせておいたのが功を奏した形だ。

 

 とはいえ、状況はあまりよろしくない。恐らくはDAPAによるテロ活動が行われている現場に、グロリアは向かってしまっているらしかったのだから。

 

「ケイス、監視カメラにあの子は映ってないか?」

「いいや……探知機の動きから見ても、恐らく上を飛んでいるんだろう」

 

 助手席にいる虎の質問に対し、コンテナハウスにいる右京から――ケイスというのは、右京のコードネームらしい――通信によって返答がきた。確かに少年の言うよう、少女の位置を知らせる点は今のところはせわしなく動いている。

 

 つまり、まだ捕獲されている訳ではなさそうだが――ただでさえ危険な場所なうえ、現場には第五世代型アンドロイドないしDAPAの職員が居ることを想定すると、グロリアが爆発地点にいるのは望ましいことではないだろう。

 

 現場に近づいてくると、爆発地点から逃れるように人や車も多くなってきた。ここからは、虎の足で向かった方が早い。べスターが路地に近い場所にトラックを停止させると、オリジナルは帽子を深くかぶりながらトラックの扉を開けた。

 

「アラン……もし万が一、あそこにあの子が居たらどうするつもりだ?」

「どうもこうもしない。危険に巻き込まれていたら助けるだけだし、怒っているならその怒りを受け止めるだけだ」

「逃げられそうになったら?」

「そん時は、飛び立つ前に捕まえさせてもらうよ……お前は俺があの子を連れて来たら、すぐに帰れる場所に車を移動させておいてくれ」

 

 アラン・スミスはそれだけ言い残して外へと飛びだし、やや乱暴に車の扉を閉めた。べスターは言われた通りに車を切り返し、右京の指示でなるべく空いている道を通って現場から離れていくのと同時に、路地を走って進むオリジナルの動向を見守っていた。

 

 そして、グロリアがいる位置にオリジナルが大分近づいたタイミングで、右京より「タイガーマスク」と連絡が入った。

 

「監視カメラに映った……どうやら爆発地点の近くだ」

「はぁ!? どうしてそんなところに!?」

「どうやら、小さい女の子が逃げ遅れていたのを助けようと降りたみたいなんだが……ちょっと待って、誰かがあの子に近づいてる」

「ちっ……!」

 

 舌打ちするのと同時に虎は路地から飛びだし、瓦礫が散乱し炎が立ち昇る広めの路面へと躍り出る。そこには、グロリアの服の裾を掴んでいるリーゼロッテ・ハインラインの姿があった。

 

「……リーズ、離して!」

「落ち着いて。どうしてこんなところにいるのか分からないし、救助をしているのは立派だけれど、ここはアナタのような子供が居ていい場所じゃない。さぁ、帰りましょう?」

「何を言ってるの! あの場所に帰ったら、私はママに殺されてしまうわ!」

「ふぅ……困ったわね。ともかく、アシモフに連絡を……」

 

 リーゼロッテは右手でグロリアを抑えながら、左腕のMFウォッチを口元に移動させ――しかし女が応援を呼ぶ前に、虎は瓦礫を蹴り飛ばして自らの存在をアピールしたことで、リーゼロッテは時計を顔から離した。

 

「……この襲撃は、アンタの差し金か?」

「あっ……」

 

 グロリアは虎の名前を言いそうになるが、あわてて言葉を呑み込み――さっきの今で気まずさもあるようだが、オリジナルを見て少し安心したようにも見える。

 

 それに対し、リーゼロッテ・ハインラインは険しい表情をしている。ヘイムダルで見た時の彼女を思えば、もっと嬉々として虎と対峙しそうだが――この時はまだ、オリジナルに対してそこまで執着していなかったのかもしれない。とはいえ、こんな鉄火場で出会ってしまったのだ、女はジャケットの裏手から銃を取り出した。

 

「まさか、こんな所で会うなんてね。今日はオフだけれど、ここで会ったが百年目、今日こそ借りを……」

「この襲撃はお前の指金かと聞いているんだ!」

 

 虎の怒声に、リーゼロッテ・ハインラインは驚いたような表情を浮かべた。

 

「……何を言っているの?」

「なんだ、何も知らないのか……それならそれで呑気なことだぜ」

 

 困惑する女をよそに、アラン・スミスはベルトから投擲用の短剣を取り出して、刃の方を持って柄の先端をリーゼロッテに方へと突き出した。

 

「その子は返してもらう……さっきグロリアが言っていたのは嘘じゃない。鳥を籠に戻すことは、もはや出来ないんだ」

「……やっとその気になってくれたみたいね。アナタには色々聞きたいことがある。悪いけど、容赦はしないわよ」

「それはこっちのセリフだ!」

 

 音速を超える破裂音が響くのと同時に、また世界が目まぐるしく変わった。女の撃った銃弾が車のガラスを割った。オリジナルが女の背後を取ったからこそその光景が見えるのだが――。

 

「……なんだと!?」

 

 驚愕の声はオリジナルから上がっていた。恐らく、オリジナルは正面からナイフを投げて女の足へと命中させ、体制を崩している間に背後を取って首にナイフを突き立てて投降を促すつもりだったのだろうが――女は正面から来た投擲を左腕を払ってMFウォッチで受け止めて落とし、そのまますぐに背後へと振り向いて、虎のナイフを銃身で受け止めていたのだ。

 

「戦闘に優れたアンドロイドを差し置いて、私みたいな生身の人間はこういう時には便利なのよ……お得意のEMPナイフも生身には効かないし、アナタみたいなイレギュラーの行動も、予測で対処できるからね」

「それどころか、飛んできたナイフを叩き落とすこともできるのか?」

「予測さえしていれば……ね!」

 

 密着の姿勢から膝を放ってきたのだろう、虎のカメラが上へと浮く――サイボーグの身体を蹴り上げるというだけで滅茶苦茶な怪力だが、それよりマズいのは浮かんでいる状態ではADAMsが効力を発揮できないことだ。リーゼロッテ・ハインラインは、それを狙っていたようであり――銃口を虎へと突き出してトリガーを引いた。

 

 アラン・スミスの反射神経もなかなかであり、空中で身を捻って銃弾を躱しつつ、翻る瞬間に投擲をして、反動で上へ向かっている銃身に対して投擲ナイフを投げあてた。

 

「ちっ……!」

「流石ね……でもまだ!」

 

 リーゼロッテは使い物にならなくなった銃を投げ捨て、今度は左袖から仕込みナイフを取り出してオリジナルに肉薄してくる。とはいえ、着地さえすれば速度差で勝てる――そう踏んだのだろう、破裂音と共にカメラが再び切り替わると、左右から女の体に向かってナイフが飛んで行っており、同時に正面からもう一本を女の右足に向けてナイフを投擲した。

 

 リーゼロッテは正面からの一本には反応し、手に持っているナイフで叩き落としたものの、側面から来ているもう二本にまでは反応することが出来ず――それぞれナイフは両肩に当たったのだった。

 

 そう、当たったという表現が正しい――女の肩に突き刺さるはずだった二つのナイフは衣服の上で跳ね返り、乾いた音と共に下へと落下したのだから。

 

「まさか、お前もサイボーグか?」

「いいえ……こういう時のために、仕込んでおいているのよ」

 

 女がジャケットを襟を持って手を捻ると、布地の裏手にメッシュのようなものが編み込まれているのが見えた。

 

「プライベートでも防弾チョッキを着こんでいるのか? 仕事熱心なことで」

「まさか。好きで着ているわけじゃないわ。仕事柄、いつ呼び出しがかかるか分からないし、相応に恨みも買う仕事だからね。とはいえ……」

 

 女は引っ張っていた襟から手を放し、そのまま右手の指で己の額を叩いて見せる。

 

「私をやるなら、ターゲット以外は殺さないという信条を捨てて、ここにナイフを突き立てるしかないわよ……どうする? タイガーマスク」

「……いいや、それどころじゃなさそうだ」

 

 オリジナルはもう二本ほど投擲用のナイフを取り出すと、それをリーゼロッテ・ハインラインの背後に向けて放った。そして加速装置を作動させたのだろう、カメラが一気に反転し――次に映像が安定した時には、アラン・スミスがセラミックブレードを振り下ろしていた。

 

 そのまま虎は後ろへと飛ぶと、切った空間から何者かが現れ――視界の端に映っている計三体の機械兵が配線を飛びださせ、音を立てながらアスファルトに激突した。

 

「なっ……第五世代!? どうしてこんなところに……」

 

 音に振り向いたリーゼロッテは、倒れているアンドロイドたちを見て驚愕の表情を浮かべている。その驚き様には嘘偽りがないように見える。要するに、彼女はこの時まで、DAPAがやっていることを本当に知らなかったのだろう。

 

「これで分かっただろう。この世界に起こっているテロ活動をしているのは、旧政府の亡霊や過激な思想団体なんかじゃない……アンタらDAPAの仕業なんだって」

「そんな……いえ、近くに配備されていた個体が、事故の現場にたまたま居合わせただけかも……」

「アンタの勘は、そう言っているのか?」

「……偶然にしては、余りにも出来すぎている、か。でも、DAPAは何故そんなことをしているの?」

「そんなこと、自分で直接お前のボスに聞けばいいだろう?」

 

 オリジナルの返答に対し、リーゼロッテは左腕のMFウォッチだったものを指さした。先ほどの一投目を防いだために故障しているようであり――要するに、GPS機能や音声情報は残らないと言いたいらしい。

 

「幸運にも、私の居所は知られていないし……監視カメラの映像は、アナタ達のお抱えがどうにかしてくれるでしょう?」

「答えは変わらないさ……俺だって、クラークの意図は分からないんだ」

「アナタ、クラークに会ったのね?」

「そういうアンタは、何の知らされてないんだな」

「えぇ、癪だけれど……何なら、その子が外に出ていることすら知らされたなかったわ」

 

 オリジナルとリーゼロッテがグロリアの居る方へと視線を移すと、ちょうど少女は背から炎の両翼を羽ばたかせて始めていた。

 

「グロリア、どこへ行く気だ!?」

「その子の妹が建物の中に取り残されているらしいの……助けにいかなきゃ!」

 

 グロリアは離れたところに潜んでいた幼い子供を一瞥し、すぐに上へと飛んでいってしまった。建物やそれらを繋ぐ通路、それに辺りに立ち込める煙のせいで、オリジナルもグロリアの姿を見失ってしまったようだ。

 

 グロリアの飛び先を尋ねるためだろう、オリジナルはすぐに道端にいる幼子の方へと移動した。対する女の子は近づいてきたオリジナルを見て、小さく「ひっ」と悲鳴を上げた。先ほど目の前で戦いを繰り広げていた片割れの、とくに見た目が怖い方が近づいてきたのだから、小さな子が怖がるのも無理はないだろう――それをオリジナルも分かっているのか、膝をついて少女に目線をあわせて、穏かな声で語りかけ始める。

 

「すまん、怖いよな……だけど、俺もあの子を追って、君の妹を助けに行こうと思ってるんだ……さっきのお姉ちゃんには何て言ったんだ?」

「は、八〇五号室って……」

「ありがとう、それだけ分かれば十分だ」

 

 アラン・スミスは立ち上がって、改めて煙の立ち込める上空を見上げた。

 

「ちょっと、待ちなさい!」

「文句は後で聞く。アンタはこの場でその子を保護しててくれ!」

 

 近づいてくるリーゼロッテにオリジナルがそれだけ言い残すと、また巨大な破裂音が聞こえ――ADAMsを使って無理やり壁をよじ登っていったのだろう、カメラは煙の立ち込めるベランダを映し出した。そこには、部屋の中で瓦礫の下敷きになっている少女と、その前で立往生しているグロリアの姿があった。

 

「けほっ……アラン!?」

 

 恐らく、窓を燃やして入ったまでは良かったが、瓦礫をどかすことが出来ずに困っていたのだろう。同時に、グロリアは煙を吸ったせいで咳き込んでしまっているようだった。

 

「君は下へ戻るんだ。これ以上煙を吸うと危ないからな。大丈夫、あの子は必ず俺が助け出すから」

 

 グロリアは涙目のまま頷き、オリジナルと入れ替わるように外へと出ていった。その後は、オリジナルは瓦礫を持ち上げてひっくり返し――高温の上にかなりの重量だろうが、この辺りはサイボーグ化しているおかげでものともしない――急いで少女を救出した。

 

 救い出した五歳くらいの女の子は、ぐったりしているが息はあるようだった。アラン・スミスはすぐにその子を抱きかかえ、先ほど入ってきた窓のフレームを乗り越え、燃えて不安定になっている足場を飛び乗りながら下へ下へと降りていった。

 

 そして地上まで降り立つと、グロリアとリーゼロッテが――女は少女を拘束はしておらず、二人とも各々足で――アラン・スミスの方へと走り寄ってきた。

 

「信じられない。まさか本当に救出してくるなんて……その子、無事なの?」

「あぁ。だが、大分煙を吸ってしまったみたいだ……後は頼む」

「ちょっと待ちなさい、なんで私が……」

「そうは言っても、俺は表に顔出しできないしな」

 

 そう言いながら、アラン・スミスは抱きかかえて居た少女を女の方へと差し出した。リーゼロッテはどうしようか困っていたようだが、涙目で見上げるグロリアに勝てなかったのか、ため息を一つ吐きながら、男の腕から気絶している少女の身体を抱き上げた。

 

「まぁ、この子に罪はない訳だしね……それで? 文句は後で聞くって言ってたわよね?」

「後は後、だが今じゃない……そのうちだな。どうせまた会うだろう?」

「えぇ、もちろん……一つだけ勘違いしないで欲しいのだけれど、私は仮にDAPAの目的が何であれ、アナタと決着をつけるまでは手を引くつもりはないわよ」

「初めての時に見逃されたのがそんなにショックだったのか?」

「えぇ、それもある……アナタが音速を超えるということを知らなかった時なら、完全に対処も出来なかったわけだしね。でも一番は……」

 

 女はそこで言葉を切った。火災や周りの騒音に負けない音が――偵察のためのヘリが上空から近づいて来ているのを察したからだろう。あまり喋っているところを見られては、彼女としても体裁が悪いはず――その予想の通り、女は頭上に向けていた視線を下へ戻すと同時に、虎に向けて背を向けた。

 

「アナタのような坊やが、組織の犬になってその手を血に染めていることが納得いかないから……アナタを止めるのは私よ。だから、私以外の奴に負けないで頂戴」

「……同じ言葉、そっくり返すぜ」

「私は子供じゃない……少なくとも、自分のことを差し置いて誰かを助けようとする、青臭いアナタ達よりはね」

 

 リーゼロッテは抱きかかえている少女の姉の方へと歩いていき、一緒に大通りの方へと行くようにと促した。姉の方も納得したようで、去っていく女の後を着いて行き――女の子は一度だけ振り返り、恐る恐るといった感じでお辞儀をして、そしてすぐさまリーゼロッテの後を着いて行った。

 

 さて、こちらも――画面内のことではあるが――急いで撤収しなければならない。アラン・スミスは去っていった少女たちを見守るグロリアの方へと向き直った。

 

「偉かったな、グロリア」

「何度も言っているでしょう。子ども扱いしないでって」

「おぉっと、そうだったな……言いたいことが色々とあるのも分かるし、俺のことは許せないままでもいいから……今日は俺と一緒に帰ろう」

 

 虎が手を差し出すと、少女はやっとこちらを向いてくれ――差し出された手を取る代わりに、大粒の涙を瞳に浮かべだした。

 

「わ、私……私……!」

「……悪い、勝手に連れてくぞ!」

 

 アラン・スミスはグロリアの小さな身体を抱きかかえて走り出した。狭い路地を抜け、監視カメラを掻い潜り、偵察用のドローンを右京にコントロールしてもらいながら、べスターとの合流地点へと引き返していった。時おりカメラに抱っこされたままになっているグロリアが映し出されるが――少女は抵抗することなく、ただ嗚咽を漏らして泣いているようであった。

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