B&T~記憶喪失の転生者、伝説級の暗殺術で異世界ディストピアをぶっ壊す~   作:五島七夫

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歴代のアンドロイドについて

「それからというもの、コンテナハウスの家事はグロリアが積極的に行うようになってくれた。オレ達は家事用のアンドロイドを活用できなかったから、生活に関することは自分たちでやらなくちゃならなかったし、グロリアはよくやってくれたよ」

 

 画面外のべスターは、ブラウン管の中であくせくと動き回るグロリアを見ながら煙を吐いた。働いているグロリアを見て申し訳なかったのか、それとも煙草の臭いを注意されるのが身に染みているせいなのか、煙をブラウン管の方でなく脇の方に吐き出しているのが少々面白かった。

 

「なるほど、しかしグロリアもなかなか苦戦しているようだな」

「いや、あぁ見えて掃除と洗濯は最初から問題なくできていた……あの子は鳥かごで家政婦アンドロイド無しで生活していたから、最低限のことはできたんだ。苦手だったのは料理関係くらいだが、それもすぐに上達した。

 とはいえ、最新の家電なんかはDAPA製だからな、一昔前の道具を使わざるを得なかった分は苦労していたし、何せ文字通り箱入りのお嬢様だったわけだから、最初の内は体力もなく、すぐにへばっていた……ベティの苦労が身に染みるとごちていたよ」

「ベティって言うのは? 確か、出会った時にも言っていたよな」

「あぁ、グロリアの世話をしてくれていた第二世代型アンドロイドらしい。彼女が生まれた頃には第四世代が出来上がっていたはずだが、グロリアは旧型の方を好んだようだ」

 

 ちなみに、第四世代までのアンドロイドに関しては自分も知識がある。第一世代に関しては、暗所や高高度など有人での作業の難しい、または危険の伴う労働力として生産されていた。第一のアンドロイドであるといってもバージョンアップを繰り返しており、また繊細な任務を遂行するだけの強度と複雑なAIを搭載しているため、主に企業向けで高価であったのが特徴である。

 

 第二世代は第一世代よりは安価な家政婦ロボットと言うべき存在で、主に家事や子守、介護など人の生活を手助けする目的で作られていた。とくに家事に関しては自動の家電が発達しており、アンドロイドが出回るだけの市場は少子高齢化している国が多かったので、第二世代の仕事は専ら介護だった。また、第二世代は個人でも購入できるよう安価なセラミックボディタイプの流通が多かったものの、機械に世話をされたくないという人の生理的な欲求に応えるため、一部高価なシリコンボディの人に近い個体も販売されていた。ちなみに、べディは古き良きセラミックボディタイプであったようだ。

 

 第三世代は陸での戦闘活動をメインに行った戦闘用のアンドロイドだ。第三世代により大戦前期がマネーゲームになったという負の側面があり、また「高度なAIを搭載する彼らに戦争を代行してもらうことはアンドロイドの人権を侵害している」という厭戦的な世論を高める切っ掛けになった機種でもある。そう言った世論は持たざる国の情報戦略の一環でもあったのだろが、第二世代から広く社会に浸透していたアンドロイドを戦わせることに抵抗感のある人が多かったのも事実であり、こういった世論が戦争終結に一役買った側面もあるのは間違いない。

 

 終戦に伴い、アンドロイドを生産する企業は――主にアシモフ・ロボテクスカンパニーの寡占状態にあった訳だが――戦闘機能を持つアンドロイドの生産を中止し、第一と第二の機能を兼ね揃えた第四世代型が生産されるようになった。とくに技術革新により――危険な現場での作業をする機体を除き――人と瓜二つな外見を持つシリコンボディタイプが安価で広く流通したのだ。

 

 ところで、古典的なSF作品に見られるような人とアンドロイドとの恋というものは、第二世代型ならびに第四世代型との間で起こったとも言えるし、起こらなかったとも言える。もし恋というものが双方の同意と感情の共有が必要になると定義するのであるならば、起こらなかったと断言するほうが近いのかもしれない。

 

 アンドロイドは献身的であり、ある意味では人類に対してある種無限の愛情を持っていたとも言えなくはない。とはいえ、それは三原則を前提とした――強制されていると言ってもいい――愛情であり、アンドロイドの自発性から人に対して親愛を抱いていたいたかと言われれば、そこには疑問が残る。

 

 対する人間の側は、古くから人形を愛するのと同じように――時にはそれ以上の感覚で――アンドロイドに対して自発的に親愛の情を注ぐ者も一部には存在したようだ。とはいえ、そのケースにおいても一時的な感情内に収まることが多かったはずである。というのも、アンドロイドは金で買える製品である以上、この新たな人類の隣人は行動をプログラムによって制御されており、同時に自動学習によって行動を最適化していき、最終的には意外性のないルーティンに落ち着いていくため、人の側の愛情も冷めていくのが一般的だった。もちろん、時に偏狂的にアンドロイドに一方的な愛を注ぐ者が存在したのも間違いないのだが。

 

 こんなことを言い出すと、そもそも人の感情が高等であるというようなことが錯覚なのであり、結局は生理学的な欲求に基づく脳の働きであるとか、またアンドロイドにも人権があり、パートナーを選べないことが不遇である云々という論争が巻き起こったこともあるのだが――ともかく、規格の違う人とアンドロイドの間には、やはり見えない境界線が引かれていたのは間違いのないことだった。

 

 極論から語ったものの、人と第四世代型アンドロイドとが――それはDAPAという企業の思惑を考慮しない場合に限るが――互いにある程度の信頼関係を持っていたというのもまた事実である。とくにアンドロイドは高度なAIを持ちながら、人の雇用を不用意に奪うことが無いように慎重に社会進出したため――もちろん代替されるケースも多く、失業率は上昇傾向にあった――過激なオーガニック思想の持ち主を除いては、第四世代型は社会に広く受け入れられたと言っていい成功をおさめたのだった。

 

 グロリアの件に話を戻すと、彼女は第四世代型よりも第二世代型を好んでいたらしい。より複雑な処理が出来るようになった第四世代型よりも、比較的単純が故に献身性がより強調されている第二世代の方が、幼少時にはより好ましく映ったのではないかとべスターは推論していた。自分としては――なんとなくだが――もっと単純で、同時に複雑な感情があっただけではと推測した。

 

 そもそも、何かが好ましい理由を言語化することは、一見それらしくなる一方で、本来は複雑な要素から成り立つ感情を一つの方向性に帰結させてしまうリスクを孕んでいる。自分は人の感情が高等なものであるとは思わないのと同時に、完全に言語化することは不可能だと思っている――べスターの仮説も事実の側面を捉えてはいるのだろうが、たとえば当てがわれた第四世代型がたまたまグロリアと相性が良くなかっただとか、逆にベティと相性が抜群に良かったのだとか、または様々な要因が複合されていた可能性だってありうる。

 

 そのベティに関してだが、グロリアが本国から鳥かごに移動させられる六歳の時には引き離されてしまったらしい。その後の生活においては、ファラ・アシモフは第四世代型に少女の世話をさせようとしていたらしいのだが、グロリアはベティ以外のアンドロイドを受け付けなかったため、最終的に母は子に家政婦をあてがうことを諦めたらしい。こう言ったところも母子の確執の要因の一つではあるのだろう――もちろん、娘の世話をアンドロイドに押し付け、自身は娘から逃げていた母の方に問題があったとは思うが。

 

 もしかすると、グロリアがベティにこだわったのもそこに要因があるのかもしれない。一つ、恐らく物心がつく前から自身の世話をしてくれていたベティに対して深い信頼があったこと。そしてもう一つ、自身に愛情を注いでくれない母親に対し、我儘を言うことで関心を引こうとしていたのかもしれない。

 

 しかし結局、自分の子の推測も邪推か。ともかく、鳥かごの中においてアンドロイドの世話を頼れない少女は、掃除や洗濯など基本的な家電の使い方はある程度理解していたようだ。そのため、コンテナハウスで家事をすることに関しては、割とそつなくこなしていたようだ。洗濯に関しては、べスターの衣服が煙草臭いと非難囂々だった様だが、吸わないと集中できないということで、男の喫煙が改まることは無かったらしいが。

 

 炊事においても、そもそもグロリアは頭もよく要領も良いのですぐに上達したらしい。もちろん、基地での暮らしにおいては食料の支給もあるので、基本的には温めるだけで簡単に食べられるものが多いのではあるが、盛り付けや味付けに工夫を凝らすので、男性陣からの家事に関する評価は高かったようだ。

 

 次第にグロリアは研究室の掃除も任されるようになり――様々に機密もあるのだが、デリケートな機材も多く、自動掃除機に任せられない所でもあるので、長く埃と油にまみれた空間は彼女によって綺麗に磨き上げられた。さすがに机や棚を拭くだけでなく、配線に気を使いながら人力で床まで掃除するのは大変だったらしく、「ベティはこんなに大変なことをしてくれていたのね」と疲れ顔で感心していたようだった。

 

 そんな彼女の努力も認められて、グロリアはすぐにべスターの助手見習いとして機械工学を学び始めた。鳥かごでの暗殺失敗からしばらくの間はACOではより慎重に次のターゲットを協議していたらしく――同時に恐らく、DAPA内でも虎の扱いに対して変化が見られたが故――次のミッションはしばらくの間は発生しなかったようだ。DAPAによるテロ活動も同様であり、この間はオリジナルは特に負傷することもなかったため、グロリアはしばらくの間は機械いじりよりもプログラムの方を学んでいたようだった。

 

 幼少のころから幽閉されており、パソコン関係に触れていなかった割には、グロリアの吸収はすばらしかったらしい。むしろ、下手な便利な既製品に触れていなかったことで、小難しいプログラムに対しても抵抗が無かったことと――こちらは本人には言わなかったらしいが――やはり優れたエンジニアである母の素養を継承していたおかげであろうとべスターは付け加えた。

 

 こうなってくると、むしろオリジナルが肩身の狭い思いをしていたらしい。というのも、現場が無ければとくに仕事もない訳で、虎は二課内の権力ヒエラルキーの最底辺に位置していたらしい。ちなみに右京も特に仕事をしていなかったわけだが、持ち前の要領の良さでのらりくらりと立ちまわっていたようだ。

 

 もちろん、べスターもグロリアも右京も、有事の際にアラン・スミスをサポートするのが本業であり、ヒエラルキーの逆転に関してもオリジナル本人が自虐的に言っているだけで、本当に誰かが彼を疎んじたりした訳でもないのだが。とはいえ、訓練以外にやることがないのも申し訳なく、一部の家事を代わろうとグロリアに提案しても、「私の仕事を奪う気か」と頑として譲ってもらえることもなかったらしい。

 

 今画面に映されているのもそんな一幕だ――まだ日の浅いうちに外に洗濯ものを干そうとしているグロリアを手伝おうとして断られているオリジナルの姿が、コンテナハウスの開け放たれた窓越しに映し出されていた。

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