B&T~記憶喪失の転生者、伝説級の暗殺術で異世界ディストピアをぶっ壊す~   作:五島七夫

257 / 419
廃墟にて

 ブラウン管に映る映像を横目に、べスターによるDAPAのテロ活動についての補足が行われた。曰く、元々DAPAによる事故に見せかけたテロ活動は数か月に一度程度だったらしい。

 

 その頻度が上昇してきたのは、オリジナルが暗殺者として活動を始める時期と重なる。それが偶発的なものなのか、筋書きがあったのかの真偽は不明であるらしいが――べスターは恐らくはその両方であると推測していた。

 

 原初の虎の出現は、デイビット・クラークにとっても予想外だったはずだ。その点は偶発的でありつつも、ACO内のスパイを活用して――こちらがチェン・ジュンダーを送り込んでいるのと同様に、向こうも諜報員を送りつけていた――暗殺のターゲットをある程度コントロールしてDAPA内の人員の整理を進めつつ、世界最大の組織の要人を暗殺する者の出現という、テロ活動をなすりつけるのに絶好の相手が現れたことによってその頻度を増大させたのだろうとべスターは予想していたようだ。

 

 事実、リーゼロッテは頻発しているテロ行為をACOの仕業と考えていた訳であり、クラークの偽装は上手くいっていたと言ってもいいだろう。DAPAが制御する機械が事故を起こしているとなれば信用問題に関わる訳だし、自演しているなどとは考えもつかないはずなので、気付いていなかったリーゼロッテに落ち度は無いのだが。

 

「……ちなみに、ACO内の諜報員はこの時期に露見した。これは鳥かご攻略に関する情報が誤っていた点から内部調査が始まり、突き止められて処断された。同時に、暗殺ターゲットの選出に関してはより慎重に行われるようになり……暗殺の頻度が減った代わりに、アラン・スミスの対テロ活動が増え始めたのもこの時期だ」

 

 男は煙を吐き出しながらこう続ける。テロ活動が増えたもう一つの背景に、DAPAが世論のコントロールをある程度完成させたのも要因だろうと。

 

 そもそも、勝利国のない終戦やそれに付随する政府への不信感と、アンドロイドやAIによって単純労働の需要が減ったことによる失業率の上昇が――慎重に社会進出したと言ってもやはり人の雇用減には繋がる――上乗せされて世間には既に停滞感が漂っていた。

 

 本来なら、雇用を奪っているDAPAにやり玉が上がりそうなものだが――そこは実際に上がっていたらしい。ただし、木を隠すなら森というだけであり、より大きな犯罪を隠すためのガス抜きとして、DAPA批判は利用されていたとのこと。

 

 要するに、デイビット・クラークは世間からの批判をある程度は許容する代わりに、テロのマッチポンプをしている事実を隠ぺいしたのだ。彼の目的はDAPAの収益を上げることでもなければ、信用を勝ち取ることでもない。高次元存在を降ろすことを目的としていただけなのだから、多少の批判など問題ではなかったのだ。

 

 つまり、世間を騒がせている一連の事故が、DAPAが起こしているものであるという情報が、確かな信憑性を持って世間に流れさえしなければ――敢えてマッチポンプをしているという情報を多少は流したこともあるようだが、これも周到に用意され、数ある言説の中に埋もれた――問題なかったのだ。ここに関しては、本来なら私企業の横暴を暴くはずの公的な機関が戦争によって信用を失っていたこともクラークに追い風だったと言えるだろう。

 

 それにどの道、如何に世間がDAPAを批判したところで、社会構造は変わりようがない。一度起こったパラダイムシフトは原則としては不可逆なものであり、より便利になった社会的なインフラを自ら捨てる者はいない。もしDAPAの提供する技術が世界から無くなるとするならば、それは大災害や大戦争に見舞われた時くらいのものだっただろう。

 

 更に、DAPAの息のかかったインフルエンサーが社会不安を煽り、世間の停滞感を加速させる。インフルエンサー達は、DAPAとの関係性は秘匿にしつつ――その関係性を暴露しようとすれば情報統制によって秘密裏に消される――社会に対する不平を並べて対立構造を煽る者、面白おかしく陰謀論を語る者、真剣に旧世界の神話や預言と掛け合わせた終末思想や人類の救済を語る者など様々だったようだ。

 

 これに関しては、半分成功で半分失敗だったとされている。情報が統制されていても自分の意見を持ち、陰謀論や終末思想になびかない者も多い。しかし同時に、社会不安が増大して未来に希望が持てなくなってくると、人は荒唐無稽な言論にも意識を向けてしまう――普段は理性的な人物であっても例外ではない。

 

 特定のクラスターの言説に流されない場合でも、それはある意味では反対派に所属しているのに近い。結局人は様々な言説の中で感性に合う誰かの意見を解釈して、自分の物としているだけなのだ。とくに情報が溢れかえっていた旧世界においては、誰の意見も見ずに考え事をするのは不可能に近いことも、それに拍車をかけていた。

 

 そういう意味では、自分の意志というものすら虚構なのかもしれない。仮に誰かが完全無欠の自己を持っていたとしても、それはクラークにとって重大な問題にならなかった。そんな者は居たとしてもかなりの少数派であり、またコミュニティに所属していなければ影響力を持てないことから、社会不安を増大させることに対して障壁にならないからである――。

 

 そんな討論を画面外で重ねつつ、画面内で単身テロ活動に立ち向かうオリジナルの映像を眺め続けた。とくに今回の騒動は大きな物だったらしく、第五世代型との戦闘や気絶者の救助、瓦礫の撤去などを行っている間にオリジナルは負傷をしてしまい、市街地からの離脱が難しくなってしまったようだった。

 

 とくに、襲撃が朝に起こったのが良くなかった。夜間ならオリジナルも人目を避けて移動できるが、昼間では人も多く、入り組んだ場所ではトラックでの迎えは厳しい。そのため、右京のナビゲーションで廃ビルに案内され、そこで夜まで身を潜めておき、人がはけてきたら近場までトラックを近づけて撤収する、という流れに決まったようだった。

 

「ところで、右京や晴子は……」

 

 過去にあったこと、旧世界における原初の虎の軌跡も気になるし、べスターやグロリアのことも知りたかったのは間違いないが、そろそろ全宇宙を巻き込んだ夫婦喧嘩をした二人のことも深掘りしていきたい――右京とは表面上の付き合いという雰囲気で本心は見えていないし、晴子に関しては名前しか出てきてない。

 

「大丈夫、この辺りからだ」

 

 短い言葉でも伝わったのだろう、画面内外のべスターの紫煙が重なり――空が茜色に染まる中、画面内のべスターは車内でモニターを眺めている。そこには右京と初めて会った時と同じような廃ビルの屋内が映し出されていた。

 

 ◆

 

 わずかな物音にオリジナルが反応すると、廃ビルの扉が静かに開かれる。そこにはいつもの笑顔で佇む星右京の姿があった。

 

「先輩、大丈夫かい?」

「あぁ、問題ない……と言いたいところだが。こりゃ帰ったらグロリアに怒られるな」

「はは、無茶しないでって約束したものね」

 

 右京はオリジナルから離れた場所の瓦礫の埃を払って、そこに腰かけてノートパソコンを開いて作業を始めた。そしてややあってから、少年はキーボードを打ち込みながらオリジナルに声を掛けてきた。

 

「先輩、一つ質問があるんだけれど……アナタはなんで、DAPAのテロ活動に抵抗しているんだい?」

「あぁ? そりゃ、アイツらの好き勝手にさせてるのが癪だから、かな」

「でも、それはアナタの仕事じゃない……タイガーマスクに課せられた使命は、要人の暗殺だ。それに、癪って言うのも嘘じゃないだろうけれど、理由の全部じゃないだろう?」

「そうだな……」

 

 アラン・スミスがぶっきらぼうな調子で返答すると、しばし二人の間に静寂が訪れた。恐らくだが、オリジナルは右京の質問に対してどう答えるべきか悩んでいるのだろう――少しして、少年の方が沈黙を破った。

 

「……アナタが誰かの命を守っていることを、知っている人はあまりにも少ない。そこに、怒りを覚えたりしないのかい?」

「別に……誰かに褒めて欲しくてやってるわけじゃない。気が付けば、身体が動いてるんだ。理不尽な暴力に、為すすべなく消えてしまう人を救えるんじゃないかって……だから、気にしては無いな」

「そうかい……でも、僕は怒りを覚えるよ。人々の無知に対してね」

 

 その声色には、確かに静かな怒りが込められているように聞こえた。少年は演技も下手ではないが、とりわけ上手とも思わない。なるべく表に出さないようにしているだけで、感情や本心を完全に隠せるほどの名優という訳ではないのだ。

 

 だからこそ、彼は人前に立つのを恐れるのだろう。心を見透かされるのが恐ろしいから――逆に、虎に代わって人々に怒りを覚えているのを伝えたというのは、珍しく彼なりに本心を伝えようとしているようにも見えた。

 

「こんなことを言ったら怒られるかもしれないけどさ……僕はクラークの意見、少しわかるんだよ」

「ふぅん……」

「怒らないのかい?」

「ま、人の意見や感情はそれぞれだからな……俺はクラークを危険な男だと認識しているが、それなりに共感を得られる部分もあるから、組織のトップでいられることも否定はしないさ……着いて行くに値すると思われているからこそ、アイツはDAPAの会長なわけだろう?」

「そうだね」

「しかし、実際の所は、お前がクラークのどんなところに共感しているのか分からないから、怒りようもないんだ」

「施しを待つ弱者は淘汰されれば良いって部分さ」

「……なんでだ?」

 

 アラン・スミスの対応は淡々としたものであり、その声と視線は廃墟を映し出す解放感もない窓ガラスの方へと向けられている。別に本心は右京に対して怒っているとか、呆れているわけではない――きっとあの場にいるのが自分でも、同じような対応を取るだろう。

 

 右京が求めているのは、叱咤でも激励でもない。ただ、自分の心を整理したいだけ――誰かとのコミュニケーションを取る中で、混沌とした自らの思想を言語化しようとしているだけなのだろうから。

 

 あるいは、少年は自分の感情を誰かに受け入れて欲しいだけで話を始めたとも取れる。肯定も否定もして欲しい訳ではない――単純に自身の考え方はあれこれこうであるという事実を話して、自分という人間を理解してもらうことが目的に違いない。

 

 どちらにしても、星右京が求めているのは共感でも拒絶でもない。それをオリジナルも感じているから、右京が話しやすいような態度を取っているのだろう。

 

 オリジナルの質問を上手く言語化できないのだろうか、右京は押し黙ってしまったようだ。虎は一度だけガラスに映る少年の困ったような顔を見て、代わりに「あくまでも」と切り出した。

 

「俺から見てだが……お前はクラークの言い分に共感しつつ、否定もしているように見えるぜ」

「……なんでだい?」

「状況証拠が半分……もしお前がクラークの完全なシンパなら、恐らくここに居ないってことさ。多少なりとも反対意見を持っていたり、共感できない部分があったりするから、お前は俺たちに協力してくれているんだろう?」

「はは、そうだね……残り半分は?」

「勝手な勘だが、お前は人間が嫌いじゃないんだよ……好きでもないし、苦手でもあるだろうがな」

「なんでそんな風に思うんだい?」

「言っただろう、勘だって。でもそうだな、強いてを言うなら……気持ちは分からないでもないから、かな」

「先輩も人間嫌い……とは違うか。苦手なのかい? そうは見えないけれど」

「俺からしてみたら、お前だってそうは見えないさ。というか、人類大好きなんて奴はこの世に存在しないってのが正解だろうな。万人と分かり合うなんて不可能だし、どうしたって合わないやつはいる。

 そこで苦手意識を持つかどうかは、要はその合わないやつの数と、そういう奴に対してどれだけ心を砕いているか次第だ。反りの合わない奴の数が多くて、逐一そいつらに気を使っている程、他人に対して苦手意識を持つんだと思うぜ」

「成程、そんな風に思ったことは無かったな……でも、先輩の言う通りかもしれない」

 

 ガラスに映る右京は、割と感心した様子で頷いている。そして、しばらく言葉を反芻しているのだろう、視線を落とし――ややあってから再び口を開いた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。