B&T~記憶喪失の転生者、伝説級の暗殺術で異世界ディストピアをぶっ壊す~   作:五島七夫

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真夜中の襲撃

「おい、皆起きろ! 敵襲だ!!」

 

 隣の部屋のドアを乱暴に叩くと、すぐに扉はエルにあけ放たれた。いつもと違いブレストプレートは脱いでおり軽装だが、すでに長剣を右手に構えている。

 

「……数は?」

「分からんが、小物がかなりの数……だが、一斉にこちらに向かってきている」

 

 部屋の中を見ると、クラウとソフィアが目を擦りながら上半身を上げている、とそんな感じだった。

 

 そして、すぐに襲撃者の影が窓に映る――黒く羽ばたく無数の塊、アレは虫――ではなく、蝙蝠の群れだろう。

 

 直感だが、アレの第一の狙いはあの子だ。奥歯を噛みしめ――間に合え――すぐにソフィアのベッドのほうへ駆け寄り、彼女を抱きかかえたまま床に転がる。直後、窓が割れる音がして、上部を猛烈な羽音が行きかう。

 

「……このぉ!」

 

 蝙蝠の群れの中を、長剣の一閃が煌めく。悲しいかな、それは浮遊する羽の中を手ごたえ無く切り抜けるだけであったが、仕切りなおさせるだけの効果はあったらしい。床下からソフィアと二人で這い出るころには、蝙蝠の群れはベランダのほうへと集結していた。

 

「ほぉ……奇襲は失敗。まさか、私の気配を勘づける奴がいるとは……」

 

 蠢く影の中から声がすると、それは次第に人の形を取り始める。月の明かりに照らされたそのシルエットは、黒いマントに貴族風の服、そして銀の髪に赤い瞳、優男という風貌の妖しい男――そして、口元に除く鋭い牙。まさしく、吸血鬼のそれだった。

 

「お初にお目にかかる。私は吸血鬼の盟主【ヴァンパイアロード】・アルカード……」

「……ライトニングスピア!!」

 

 相手が自己紹介している傍で、自分の体の横を電撃が走り抜ける。それは驚愕の表情を浮かべている吸血鬼に直撃したものの、相手の外套を少し焼いた程度で霧散してしまった。

 

「ふ、ふふ、さすがは至高の魔術姫と言ったところか……こちらの口上すらも許してくれないとは」

「……四階層程度ではディスペルされる……」

 

 相手は会話のキャッチボールを望んでいるのに、後ろに立つソフィア・オーウェルはまったくそれに応じない。そのせいか、アルカードなんちゃらさんは、白い顔に青筋を立てて激昂しているようだった。

 

「き、貴様、失礼なのではないか!?」

「魔族と交わす言葉は持っていない!」

 

 背後で魔法杖を操作する音が聞こえる――第四階層でダメだったのなら、より上位の魔術を打つ気だろう、射線上にいるとまずいと思い、横に飛びながらそで下から取り出したナイフを放つ。向こうもそれに気を取られたのか、当たる前に翻したマントに弾かれたものの、こちらの回避運動と次弾の装填は完了した。

 

「構成――帯電、放電、磁力、加速、複製――裁きの雷、集いて我に仇なす敵を討て、蒼電の一閃【ジャッジメントジャベリン】ッ!!」

 

 振り返ると、ソフィアの杖の先端に三つの陣が生成されており、その一つ一つから稲妻が発射された。それらは収束し――もちろん、着弾したところで理解したのだが――高速で駆け抜ける蒼い雷光は、如何に人外の力を持つ相手ともしても避けるすべもなく直撃する。

 

「ぐ、ぬぅ、この、聞かん坊がぁあッ!!」

 

 吸血鬼は再び稲妻を外套で受ける。今度は胸のあたり一帯を抉るほどにはなったが、やはりダメージにはなっていない。以前、上位の魔族に対しては魔術でなくアタッカーの必要がある、と言っていたのはこのせいか、魔獣を簡単に消し飛ばすソフィアの術が効いていないのだから。

 

「くっ……」

「く、くく……これ以上の術は撃てまい? 街中ではなぁ!」

 

 名も知らぬ吸血鬼が大きく息を吐いた瞬間、凄まじい気迫がこちらに叩きつけられる。それに威圧され、一瞬すくんでいるうちに、黒衣のマントが一気に接近してきた。

 

「……させるか!!」

 

 吸血鬼の突進を止めたのはエルだった。剣をかざし、ソフィアの前で振り下ろされた腕を受け止めている。

 

「人間風情がぁ……このアルカード・シスを止められると思うなッ!!」

 

 ソフィアにさんざコケにされたせいか、吸血鬼はかなりお怒りのようだ。というか、最初のやり取りのせいで少し、いや大分甘く見てしまっていた――エルの技量でもって、その一撃を耐えるのにギリギリといった表情をしているのだから、相手の力はかなり強いことが推察される。

 

「エルさん!」

 

 そう叫んだのはクラウだった。直後、エルの体を緑色の淡い光が覆う。補助魔法が掛かって相応に力が入ったのか、今度はエルが吸血鬼の腕を弾き返した。

 

「ふぅん、補助魔法……だが……!!」

 

 余裕綽々という表情の吸血鬼は、弾かれた右腕はそのまま、左腕を脇腹の高さから伸ばしてくる。

 

「……甘い!」

「そっちがねッ!!」

 

 伸びる左腕を止めるために、エルはすぐに剣を翻す。だが、それくらい出来るのは相手も想定の内だったのだろう――相手の手は、最初から剣を掴むために伸ばされていたのだ。

 

「鋼を魔法で鍛えることは……出来んよなぁ!」

 

 刃をものともせず、吸血鬼はエルの長剣を握る。ひびの入るような鈍い金属音が響いたかと思うと、その直後、剣は粉々に握りつぶされてしまった。

 

「しまっ……」

「遅い!」

 

 エルが柄を離して逃げるよりも早く、吸血鬼の膝が彼女の腹にめり込む。防具も無い状態、もろに入ったせいか――内臓をやられたのだろう、エルは口から血を吐きながら、そのままクラウの居る壁のほうに叩きつけられた。

 

(……まずいッ!!)

 

 その後に起こることがすぐに脳裏に浮かび、体はすぐに動いていた。何か有効打になるも物はないか――。

 

「エルさん! くっ……!」

「させん!」

 

 飛ばされたエルに一瞬気を取られたものの、すぐに杖を構えなおすソフィア、それに対しもう魔術は撃たせまいと、その爪を槍のようにして突き出す吸血鬼。そして自分は、その間に青色の瓶を携えて割って入った。

 

 貫かれる覚悟で乱入したのだが、龍と違って敵の反射神経がいいのが幸いした。吸血鬼は目を見開いて差し手を開き、こちらの首を締める形になる。

 

「二度も邪魔をして……このままへし折って……」

「ぐっ……!」

 

 よくよく見れば、コイツかなり背が高い――持ち上げられ、そして息も出来ぬまま、首が凄い力で圧迫されて意識が遠のきそうになる。だが、このままやられるわけにはいかない――最後の力をふり絞って、俺は相手の側頭部に持っていた瓶を叩きつけた。

 

「何を……!?」

 

 異変は、すぐに現れた。瓶の中身で濡れた吸血鬼の頭が、白い煙を出して溶け出している。

 

「せ、聖水ぃぃいいいいいいい!?」

 

 吸血鬼は叫ぶと、こちらの首から手を離した。こちらは咳込み、なんとか見上げると、アルカードはもがき苦しみ、よろめいている。

 

「くっ……今日の所はこの辺りで容赦してやる!」

 

 負け惜しみにしか聞こえない捨て台詞を吐いたのち、吸血鬼はその体の結合を解き、再び蝙蝠の群れへと還った。そして、ベランダから一斉に飛び去り、夜の闇に消えて――行く前に、少女がその影の群れを追う。

 

「……容赦など、しない!」

 

 すぐさまソフィアがベランダを出て、杖を蝙蝠の群れに向けて構えた。街中で大型の魔術は撃てないと言っても、相手が空中なら――そういう判断か。

 

「帯電、放電、磁力、拡散、追跡! 薙げ、飛蝗《ひこう》を堕とす雷! 百裂雷光弾【ファランクスボルト】!」

 

 杖の先に大型の魔法陣、そしてそこからは無数に細い稲妻が伸び――それらは追跡型のミサイルのように空中で屈折し、街の空に光のパレードを描く。そしてそれらは遠景に浮かんでいた蝙蝠の一匹一匹を、容赦なく撃ち落としているようだった。

 

 杖から蒸気が噴き出し、少女は杖を一振りして、敵がまだ空に残っていないか確認しているようだった。そして敵影が完全に消えたのを確認してから振り向くと、そこには勇ましい顔はなく、ソフィアは泣きそうな顔になってエルの方に駆けつけた。

 

「え、エルさん、ごめんなさい!」

 

 エルは壁を背もたれにして座っており、その横でクラウが回復魔法を掛けているようだった。

 

「いえ、いいのよ……クラウの補助魔法で防御も上がっていたし、それに切り傷もないから、すぐに治るわ」

「でも……私、護られてばっかりで……」

「ふぅ……やれやれ」

 

 エルは右腕を伸ばして、ソフィアの髪の上にその手を置いた。そして、ゆっくりと撫で始める。

 

「ほら、もうこんなに動かせるんだから……心配しないで」

「は、はい……ありがとうございます……」

 

 こちらも咳込みながら、なんとかエルたちのほうへと近づいていく。

 

「ごほっ……エル、大丈夫か?」

「龍と戦った時のアナタほどじゃないわ。それにしてもアラン、良い機転だったわね」

「あぁ、クラウの純度百パーセント、不審者にはよく効いたな」

 

 そう言いながら、エルの傍らで治療をしているクラウのほうを見る。

 

「あの、その言い方は、なんか癪に触るような……?」

「いやいや、流石銭ゲバの聖水。ご利益たっぷりだった」

「言い方ぁっ!!」

 

 しかし、今更ながらにエルの方をよく見ると――へそ出しのタンクトップに太ももまでが顕わになっているパンツルックで、普段の露出のなさと正反対なほど肌を露出している。だが、これが普段の露出のなさの理由でもあるのだろうが――戦士としての勲章と言うべきか、やはり肌のあちこちに、うっすらと傷の痕は見える。

 

 しかし、普段はブレストプレートで気付かなかったが、中々のモノをお持ちで――そう思っていると、エルは両腕で自身の体を抱えた。

 

「……視線がイヤらしい」

 

 そうズバ、と言われてジト、とした目で見られてしまうと、こちらとしては焦るというか、けが人に対して申し訳ないというか、ともかく恥ずかしくて逃げ出したい気持ちになる。

 

「そうですねーアラン君、私のもよく見てますよね?」

 

 やばい、クラウにもバレていた。しかし、クラウなど面白半分といった感じでこちらを見ている。内心冷や汗ダラダラになりながら、どう言い訳しようかと考えている間に、階段を何者かが駆けのぼってくる音が聞こえる。

 

「お、お客様……!? これは、一体……!?」

 

 俺にとっての救世主は、宿の主のようだった。しかしこれ、出禁にならないだろうか――嵐でも過ぎ去ったかのような部屋の惨状を眺めながら、俺はそんなことを考えていた。

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